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中国経済「ハードランディング」は本当か〜現状は80年代前半の日本にそっくり
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/48021
2016年02月25日(木) 安達 誠司「講座:ビジネスに役立つ世界経済」 現代ビジネス
■人民元切り上げの影響
今年も昨年に続き、世界経済の最大の波乱要因の一つは、中国経済の「ハードランディング」懸念のようだ。
今年1月に開かれたダボス会議の席上、著名投資家のジョージ・ソロス氏も、中国経済のハードランディングの可能性を語り、かつ、周辺の新興国経済もその影響を大きく受ける懸念を指摘した。
ソロス氏の中国経済に対する悲観的な見通しは、世界の投資家に衝撃を与えた。だが、中国当局は、その見方を明確に否定するとともに、春節明けの2月15日に、事実上の人民元レート引き上げ措置を実施した。
中国経済は、金融緩和が必要な局面にあるが、人民元の切り上げはそれとは真逆の政策である。
これは普通に考えれば、中国の実体経済にとってはネガティブに効くおそれがあるが、中国当局は、中国経済に深刻な問題がないこと、及び、中国経済をソフトランディングさせていくという強い決意を明確に示すことで、資本流出の拡大防止と人民元安懸念の払拭を試みたと推測される。
例えば、中国株が上昇に転じるようであれば、今回の措置は、最近の経済政策の議論で重要な意味を持つ「期待の誘導」という観点からは、ある程度成功したと解釈することも可能である。
実際、春節明けの15日から17日終了時点までで、中国株は+6.6%の上昇となっており、短期的に中国当局はマーケットの「期待の誘導」に成功しているようだ。
だが、このまますんなりと中国経済の不安が終息するとも思えない。今後は、じわじわと効いてくると思われる人民元切り上げのマイナスの影響を、マーケットがどう解釈するかであろう。
■中国の実体経済をどう見るか
そこで、現在の中国の実体経済の状況だが、識者の間では様々な見方が交錯している。その理由は、言うまでもなく、中国の経済指標の信頼性が著しく低いためである。
それでも、名目輸入金額(2015年の中国の名目輸入金額は前年比-14%と大幅減を記録した)や電力消費量(同-0.2%の減少)、及び鉄道貨物輸送量(同-11.9%の減少)といった、比較的、信頼性の高い経済指標(これらの指標がいわゆる「李克強指数」を構成する)が大幅に悪化していることから、中国経済の実態は、政府の公表数値よりかなり悪く、下手をすると、マイナス成長であるという指摘もある(ちなみに中国国家統計局が発表した2015年暦年の実質GDP成長率は前年比+6.9%であった)。
ただ、これらの統計は、鉱工業の業況のみを示す指標であり、しかも、輸入金額の減少の大部分が、石油や鉄鋼といった資源価格の大幅下落で説明可能であることから、「数量」ベースでみた中国経済の実態はそこまで悪くないとの指摘もある。
2〜3ヵ月前までは、「中国マイナス成長論」が優勢であったが、最近では、この「中国の実質成長率は5%程度ではないか」という見方が有力になりつつあるようだ。
「中国経済が実質5%程度の成長を続けている」と考える理由は、「中国経済の成長を牽引しているのは、今や個人消費やサービスセクターであり、従来の輸出主導型の成長からは脱しつつある」との見方がベースとなっている。
そこで、消費関連指標を見てみると、例えば、自動車販売台数は、2015年暦年では前年比+4.7%と伸び率は低かったが、昨年10月以降は急激に回復し、昨年11月は前年比+20.0%増、12月は+15.4%増となっている。
このような実体経済面の見方に加え、中国経済については、「不動産バブルの崩壊」が指摘されることが多い。こちらも統計の信頼性が不明だが、一応、公式統計をみると、全国70都市の住宅価格指数は、昨年半ばまでが下落のピークで、それ以降は下げ幅を縮小させ、12月には、遂に前年比でプラスに転じている(+0.4%の上昇)。
また、昨年12月の時点で、調査対象である70都市のうち、住宅価格が下げ止まった都市は39と、半分以上の都市で住宅価格が下げ止まったという結果になった。
もっとも、「サンプルバイアス」の問題(例えば、ニュースなどでよくみかける「ゴーストタウン」のような都市の住宅価格がきちんと反映されているか)や、本当に現時点の取引価格で計算されているかなどの疑問は残る。
ただ、住宅価格の下げ止まり傾向は、銀行融資残高の回復とほぼ同時に始まったが、中国の場合、政府の「要請(もしくは指導)」によって、銀行の融資姿勢がコントロールされるので、かつて日本で経験した「追い貸し」が「住宅バブルの崩壊」をかろうじて食い止めている可能性も否定できない。
中国駐在経験があり、その経験を活かして、中国関連ビジネスに携わっている「中国通」の人たちは、中国の消費者の旺盛な購買意欲を強調し、中国の家計部門の経済活動をみると、中国経済はミクロの構造調整を行いながらも、マクロでは堅調な成長が続いていると主張している。
もっとも、これもかつて、評論家の故小室直樹氏が指摘したように、中国での体験や現地調査のほとんどが、社会標本の収集という観点から定量的なリサーチの基礎とはなりえず、所詮は自分の身の回りの偏った「小話」に過ぎない可能性もある。
■中国経済は「ルイスの転換点」を終えたのか
筆者は、中国での滞在経験がないので、そのような「中国通」の体験談を聞くのは非常に興味深いのだが、これと中国経済の定量的な分析結果とはまったく様相が異なるのではないかと考えている。
結局、体系的に整備されている経済理論を元に類推するしか手がないのだが、ベーシックな「経済成長論」を援用しつつ、中長期的な視点で中国経済をみると、現状は、「ルイスの転換点」をほぼ終えた状態、といえるのではないか。
すなわち、農村が供給する安価な労働力によって、安価な工業製品を大量に輸出することで高成長を続けるという局面は既に終わった、ということである。
この「ルイスの転換点」の議論は、農村から都市部への人口移動が何らかの要因(その多くは人口要因だが)から制約されることによって生じる現象である。中国でも人口移動の制約が大きくなり、これまでの「大量生産・大量輸出」の成長モデルが機能しなくなっていると考えられる。そして、これは、都市部の労働者の賃金の上昇にあらわれる。
例えば、2014年12月時点での一般工職の月額基本給を1996年12月時点と比較してみると、北京が(72米ドル→564米ドル)、上海が(82ドル→472ドル)、大連が(100ドル→392ドル)、深センが(70ドル→413ドル)と、いずれも4〜8倍程度に上昇している。
ここまで賃金が上昇すれば、製造業の生産拠点がヴェトナム等の東南アジア諸国に移転するのも無理はない(ちなみにヴェトナムのホーチミンの2014年12月における一般工職の月額基本給は185米ドルである)。
これは、かつての日本経済も経験したことである。
1950年代から60年代にかけての日本でも、「出稼ぎ」や「集団就職」等によって、農村から都市部へ安価な労働力の大量供給が実現した。そして、1ドル=360円の固定為替相場制によって、購買力平価より円安に設定された有利な為替制度をフル活用して、輸出を拡大させ、空前の高度経済成長を実現させた。
だが、これは1960年代後半に限界を迎え、70年代には「安定成長」への構造調整期を迎えた。
■名目経済成長率は「4〜5%程度」になる
そこで、日本と中国の1人当たり名目GDPの金額(ドルベース)を比較してみると(図表1)、現在(2014年時点)の中国の1人当たりGDPは、1977〜78年頃の日本とほぼ同額であることがわかる。これは、「ルイスの転換点」の議論とも整合的である。
次に、高度経済成長から安定成長への移行期の日本の名目GDP成長率と、2004年以降の中国の名目GDP成長率を比較してみると、その動きが極めてよく似ていることがわかる(図表2)。調整局面の名目GDP成長率の数字を比較してみると、むしろ当時の日本の方が高い程である。
通常、経済成長率の国際比較では「実質」が用いられることが多い。「実質成長率」は、名目GDPを物価指数(GDPデフレーター)で割り引いた経済の「実質」価値の成長率であり、文字通り、「実質」的な成長率であるという認識が一般的であるからだ。
だが、実質GDPを割り引くGDPデフレーターには、「基準年」というものがある。GDPデフレーターはその基準年を100とした指数(いま発表されているGDPは概ね2005年が基準年となっている)だが、名目GDPをGDPデフレーターで割り引くということは、「価格が2005年から変わらないと仮定した場合に名目GDPはどの程度の水準であったか」を意味する。
一般的に、実質GDPは、「数量」を意味するように思うが、必ずしも数量を意味しない。基準年は度々変更されており、日本では、2005年基準の前は、1993年基準、その前は1968年基準がよく用いられた。そして、基準年が変わると実質GDPの数値やその成長率は大きく変わる。
このように、実質GDPには様々なテクニカルな問題があり、経済の実態を必ずしもうまく表現できていないのではないかと思われる。そのため、名目GDPを比較した方がより経済の実態を示しているかもしれないと思い、ここではあえて名目GDPの成長率で比較した。
そして、この両者の動きを単純に比較した場合、次の成長ステージでの中国の名目経済成長率は「4〜5%程度」ではないかと推測される。
■80年代前半の日本経済と同じ状況
もっとも、旧ソ連のように、政治体制が変わった後に、過去の経済統計が軒並み大幅下方修正されて遡及される場合もありうるため、これだけをもって、現在の中国経済の実態も統計数字以上に悪いという議論を否定することはできない(ソ連のGDP成長率は5%以上下方修正された)。
だが、現行統計の名目GDP成長率の比較で考えると、1人当たりGDPでみた経済の発展段階と整合的であるため、現時点では、割と客観的な議論ができるのではないかと思われる。
そして、日本の80年代前半の名目GDP成長率の水準との比較でいけば、高度経済成長局面を終え、安定成長局面に移行し、それが定着した後の中国の名目GDP成長率は、「5%程度」ではないかと推測できる(それ以下の可能性もある)。
80年代の日本経済は、安定成長というより、どちらかといえば、「冴えない」経済状況であったように思える(ただし、その後、プラザ合意による円高不況を経て、80年代後半は「バブル景気」を迎えることになる)。
つまり、中国が今後も資本主義的な経済の発展パターンを続けるとすれば、それは、80年代前半の日本の経済状況をそのままトレースすることになるというのが、最もわかりやすいシナリオであろう。
それは、「ハードランディング」というより、むしろ、「長期停滞」に近いのではないかと考える。
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