闇株新聞[2016年] 2016年2月19日 闇株新聞編集部 「バフェット指標」では昨年夏から日本株は割高 世界経済の「最悪のシナリオ」も想定すべし! 闇株新聞が予測する世界の株式市場の行方 リーマンショックから昨年までの株式市場は急落があっても値動きが落ち着くと、いつの間にか株価が回復し上昇基調に戻るパターンが繰り返されてきました。しかし、今年に入ってからの下落はいつまで経っても反転する気配を見せず「これまでとちょっと違うのでは」と感じている方も多いのではないでしょうか。経済の闇に光を当てる刺激的な金融メルマガ「闇株新聞プレミアム」は、最新号でその違和感の正体について解説しています。この相場「とうとう来るべきものが来た」と考えるべきかもしれません。?最近の世界的な株価急落、長期金利低下、資源価格下落を理解し、さらに先行きを読む場合には、少なくともリーマンショック以降に世界経済や金融市場を取り巻いていた「常識」について、検証してみることが必要です。 ?検証を重ねることによって、近い将来に現れる可能性のある「最悪のシナリオ」もおぼろげながら読めてきました。あまり目先のことではなく、やや中期的(3か月程度)を見据えた「概況」のようなものと考えてください。 リーマンショック以降の株式市場の値動きは 実体経済とはかけ離れたものになっていた ?リーマンショック後の日経平均の安値は7054円(2009年3月10日)、同じくNY株式の安値は6547ドル(2009年3月9日)です。このところの株式市場が急落しているとは言っても、先週末(2月12日)の日経平均は14952円でしたので安値から2.1倍、NY株式も15973ドルで安値から2.4倍の水準にあります。 ?これに対し、日本の名目GDPはリーマンショック翌年(2009年)が471兆円だったのが499兆円(2015年/推定)と1.06倍にしかなっていません。米国の名目GDPは14兆4200億ドル(2009年)から17兆9700億ドル(2015年)まで1.24倍になっていますが、日米とも株価の上昇率が名目GDP成長率を大きく上回っています。 ?ウォーレン・バフェットは、株式時価総額増加率と名目GDP成長率は長期的には収斂すると主張しており、両者を比較した「バフェット指標」で見ると日本株は昨年夏時点で割高であると警告していました。 ?これは日経平均が中国ショックで急落する前のことですが、今から考えると日本株は(NYを含む世界の株式も多かれ少なかれ)割高だったため、中国ショックの影響もより大きく出てしまったことになります。 ?もっと大雑把に「世界の株式時価総額」で見てみましょう。リーマンショック直後の35兆ドルが直近では56兆ドルと、やはり1.6倍になっています。ちなみにリーマンショック後のピークは71兆ドル(2015年5月)でしたので、その時点では2倍をこえていたことになります。 ?世界のGDP総額については中国の数字が信用できないため掲載しませんが、リーマンショック直後から今日まで株式の時価総額並みに1.6倍になっているということは普通に考えてあり得ません。 ?経済の実体をより正確に表すのは商品市場です(少なくとも本紙はそう考えます)。商品市場全般の値動きを示すCRB指数は、リーマンショック後の安値が200ポイント(2009年3月)、高値が368ポイント(2011年5月)です。先週末は160ポイントでリーマンショック直後の8割の水準でしかありません。 ?原油価格は政治的要因の影響も大きいので単純な比較はできませんが、原油先物(WTI)はリーマンショック直後の1バレル=32.40(2008年12月)だったのが114ドル(2011年5月)まで上昇し、2014年7月から急落を繰り返して先週末は29ドルとリーマンショック後の安値を下回ったままです。 ? ?確かに株式市場はそれぞれの国の代表的な企業の集合体であるため、その時価総額はその国の付加価値を示すGDPよりも増加率が大きくて当然です。何より もリーマンショック以降は世界的に金融緩和・量的緩和が行われ投資資金が溢れ返っていたので株価や時価総額が増加するのも当然でした。しかし… ?いくらなんでもリーマンショック以降の株式市場と、実体の経済(GDP、CRB指数、原油価格.etc)のギャップが大きくなりすぎたのではないでしょうか!? 経済が回復しなければ株価も上がらない 当面株価が上昇しても一時的と見るべき ?もっと正確に言うと、リ−マンショック直後からの世界的な金融緩和・量的緩和(中国だけは最初は4兆元の財政出動)の経済回復効果を、世界的に過大評価していたことになります。商品市場も2011年夏頃までは株式市場と同様に上昇し、その後もしばらくは高値圏にありました。 ?ところが商品市場では2013年4月に金価格が1オンス=1600ドルの高値から急落、そこから他の商品価格・資源価格も急落をはじめ、最後に原油(WTI)が2014年7月に1バレル=107ドルから急落し、全ての資源を含む商品価格が急落に次ぐ急落となり現在に至ります。 商品市場でも「最初に動く」傾向のある金価格は昨年末から17%も上昇しており、原油価格を含む商品・資源価格全般も当面のボトムをつけたような気もします。しかし、世界経済が明らかに回復しない限り(もちろん回復しません)、商品価格・資源価格全般が本格的上昇に転じることは考えられません。 ?株式市場も商品市場も大局的には実体経済を基準に考えますから、株式市場だけが商品市場と全く別にギャップを拡大させながら、上昇を続けるのは不可能です。世界の株式市場はいずれ行き詰まるはずでした。 ?しかし「その時期」までを予測することは不可能でした。これまでも「いつ行き詰まってもおかしくない状況」が続いていましたが、実際の株式市場は少々の急落があっても小康状態になるといつのまにか回復し、根本的にギャップが是正されることはなかったのです。 ?それが本年に入ってから、いよいよ本格的に下落していると「認識」されたのだと考えます。したがって、世界の株価もここから本格的な上昇に転じるには大変な時間がかかるものと思われます。世界経済が本格的に回復し始めたとはっきりと認識されない限りは、ここから株価上昇があってもすべて一時的なものと考えたほうが良さそうです。 ?ここまでが、闇株新聞の考える日経平均を含む世界の株価全体の「総論」ですが、これは「闇株新聞プレミアム」で論じられていることのほんの一部でしかありません。今週の「闇株新聞プレミアム」では、さらに突っ込んで日銀の金融政策と日本の株式市場の行方について、あるいは今まで金融緩和・量的緩和を背景に世界中で安直に積み上げられていた信用リスクが、世界経済と株式市場の低迷によって一気に噴き出す恐れがあること(特に主に欧州銀行が自己資金を嵩上げするために考え出されたCoCo債の危険性)について、そして米国の累積財政赤字問題が深刻化し「誰も夢にも考えていない危機」が起きてしまう可能性について、深く掘り下げて考えています。 ?大荒れの相場では上へ下へと値動きが激しくなり、ともすれば投資家は荒れ狂う海に浮かぶ木っ端のごとく翻弄され、方向感覚を失いがちです。こんなときだからこそ、大局から潮流を知ることが大事ではないでしょうか。 http://diamond.jp/articles/-/86472
2016年2月19日 ザイ編集部 2016年の日経平均株価の見通しをプロ5人が予想! 中原圭介さんなど人気のアナリスト、エコノミストが 予想する、日経平均株価の底値とその理由とは? 2016年年初から日経平均は急落し、一時1万5000円を割り込んだ。下落幅が大きい日本株だが、誰が、なぜ売るのか? 昨年から急落を予測していたプロに徹底取材した。 再度の日経平均の1万6000円割れで 日銀の対策なしなら1万4500円も! 日銀のマイナス金利導入で、一時は円安が進み、株価も急騰した。しかし、その効果は長期的には期待できないと海外機関投資家の動向にも詳しい豊島逸夫事務所の豊島逸夫さんは見ている。 「マイナス金利導入で、海外の短期筋は円売り、日本株買いに動いた。しかし、アベノミクスへの期待で日本株を買っていた欧米の年金運用機関などの海外の長期投資家が日本株を持とうという意識は薄れている。なぜなら、TPPの立役者だった甘利明元経済再生相の辞任で、アベノミクスの司令塔を失ったと海外の長期投資家は見ているからだ」 豊島さんは、参院選が終わる7月頃には、株価を押し上げるような材料は出尽くし、10月頃には1万4500円までの下落を予測する。 一方で、日本経済自体の弱さを指摘するのが、外資系金融機関などで米国の年金基金への助言経験もあるグッチーポストの山口正洋さんだ。 「日本の景気の先行きを測る経済指標もかなり良くない状況です。さらに、日本のGDPの6割を占める個人消費も、2014年4月の消費増税以降は落ち込んでいます。2017年4月には、消費税10%が控えている点を考えると、日本経済は悪化し、かなり厳しい状況が続くでしょう。いずれ、買われ過ぎている日本株は、調整局面を迎えて、1万3000円まで下落の可能性も」 また、ニッセイ基礎研究所の矢嶋康次さん日本株は海外の要因を受けやすいが、今後も多くのリスクがあると忠告する。 「米国の利上げ観測や中東をはじめとした地政学リスクなど、リスク要因は数えればキリがないほどある。日銀がマイナス金利を決めなければ、その時点で1万5000円を割っていた可能性があります。株式市場は、米国の雇用状況の良さから、なんとか持っているようなもの。米国経済が好調を維持することができれば、1万5000円付近が底になりますが、その砦が崩れるようなことがあれば、さらなる株価下落の可能性があります」 ドル・円が120円までの円安になるのか 100〜105円までの円高になるのかが重要 一方で、UBS証券の大川智宏さんはヘッジファンドなどの短期投資筋の影響で、値動きが激しい相場を予測しているが、現状では、日本経済そのものが問題というより、外部要因による日本株売りが続いていると見ている。 「ここ数年間、買われ過ぎた反動が昨年6月以降に出ていると思われます。株などのリスク資産からの逃避傾向は世界的なトレンド。日本独自のリスクで売られているわけではないが、今後はドル・円が継続的に120円を超えないと厳しい。マイナス金利導入と米国利上げ期待で、日米金利差が広がり、円安トレンドとなるかどうかに注目です」 しかし、米国経済の先行きには注意が必要で、今後は100〜105円まで円高が進むと予測するのはアセットベストパートナーズの中原圭介さんだ。中原さんは昨年夏以降に欧州などの長期投資家が日本株を売ってきていると言う。 「昨年12月の米国の利上げは、米国の消費をじわじわと減退させるでしょう。経済への波及効果が大きい住宅や自動車などの耐久消費財はローンで買われます。昨年、米国で個人消費が悪くなかったのは、利上げ前の駆け込み需要のおかげという面があります。今後は米国の個人消費が落ち込む可能性があり、年に3〜4回と見られている利上げも、1回に止まるでしょう。その結果として、今後は円高トレンドになる可能性があります」 中原さんは、16年内はかなり値動きが激しい荒れた相場になると見ており、投資資金の30%に限定し、その30%も日経平均が1万5000円、1万4000円、1万3000円と下落するタイミングでの10%ずつの資金投入を勧めている。 ところで、2月20日発売のダイヤモンド・ザイ4月号には、「高配当&好業績の10万円株を底値買い」の大特集が載っている。昨年末と比べて約3000円も日経平均が下落している今、底値で株を買うための方法から10万円株のメリットまで、オススメ株とともに大公開。配当利回り4%以上や5万円以下で買える株も満載だ。このほか、「緊急レポート!誰が日本株を売っているのか」「9割が赤字に!毎月分配型投資信託の本当の利回り」「桐谷さんのNISA!過去2年の全成績&今年の勝負株」「新連載!AKB48 in NISA株&投資信託真剣勝負」に加え、分厚い別冊付録「1億層下流社会のワナ!下流人生&老後破綻の防ぎ方」もついている。ダイヤモンド・ザイ4月号も、ぜひ読んでみて欲しい(アマゾン、楽天ブックスなら送料無料)。 http://diamond.jp/articles/-/86545 金融市場異論百出 2016年2月19日 加藤 出 [東短リサーチ代表取締役社長] 市場関係者に聞くマイナス金利 浮かび上がる二つの懐疑的視点 金融政策だけでなく、安倍政権が約束した「大胆な規制・制度改革」による、日本経済の構造改革が必要だ?Photo:AP/アフロ ?日本銀行がマイナス金利政策の導入を決定した1月29日以降、それに関する見解をたくさんの金融市場関係者から聞いた。その多くが、日銀の今の姿勢に懐疑的だった。 ?第一に、今回の決定はサプライズ重視故に、金融機関や機関投資家の実務面の問題を軽視し過ぎているように思われる。急に言われても、制度上やシステム上の問題でマイナス金利への対応ができないという声は多数聞かれる。 ?欧州中央銀行(ECB)は2014年6月にマイナス金利政策を導入した。マリオ・ドラギ総裁は前年からたびたびその可能性を示唆し、14年2月にはブノワ・クーレ専務理事が「真剣に検討している」と発言。それらは事実上の予告であり、市場参加者がマイナス金利に対応できるように準備期間を設けていたと考えられる。 ?一方、ECBに比べると今回の日銀はあまりに乱暴である。2月16日から日銀当座預金の一部にマイナス金利が適用されるが、システムに入力できないと嘆く金融機関は多い。短期金融市場の取引は当面激減しそうだ。 ?コマーシャルペーパー(短期社債)を登録する証券保管振替機構(ほふり)のシステムもマイナス金利の発行は取り扱えない。日銀自身のシステムも実はマイナス金利に対応できていないようなのだ。 ?決定後2週間強で導入するのではなく、せめて「4月の準備預金積立期間からマイナス金利政策を開始する」といった発表の仕方もあったのではないかと思われる。 ?金融市場関係者から最近よく聞かれる第二の点は、これほど異常な金融政策まで実施してインフレ率2%を早期に達成しようとすることは、本当に正しいのだろうか、という疑問である。 ?量的質的金融緩和策(QQE)の下で、日銀は膨大な国債や上場投資信託(ETF)を購入して、市中にマネタリーベースを供給してきた。名目GDPに対するマネタリーベース残高の比率は、QQE開始前には20%台だったが、昨年12月には70%近くに達した。 ?米連邦準備制度理事会(FRB)は20%台前半、ECBは10%台後半と、世界のどの中央銀行もやっていない猛烈な資金供給だ。 ?それでも思うように日本経済が活性化しないため、今度はマイナス金利政策を導入することになった。しかし、そもそも日本経済の実力である潜在成長率を高める構造改革、および企業のイノベーションがなければ、金融政策によるカンフル剤をいくら投入しても効果は限定的と思われる。 ?富士通総研経済研究所の早川英男エグゼクティブ・フェロー(元日銀理事)が指摘しているが、安倍政権下の平均実質成長率(13年第1四半期〜14年第3四半期)は年率プラス0.9%だ。これは民主党政権期(09年第3四半期〜12年第4四半期)のプラス1.7%の約半分でしかない。 ?当時よりインフレ率は上昇したが、デフレが終われば成長が加速するという傾向は観測できていない。労働年齢人口の減少やハイテク部門を中心とする日本企業の相対的な国際競争力低下を背景に、日本経済の実力はじわじわと弱まっている恐れがある。 ?13年1月に安倍政権と日銀はインフレ率2%を早期に目指す共同声明を発表した。そこで政府は、「大胆な規制・制度改革」により「思い切った政策を総動員し、経済構造の改革を図る」と約束した。潜在成長率を高めるためのそうした政策が欠けている中、日銀は着地点を見つけられなくなっている。 (東短リサーチ代表取締役社長?加藤 出) http://diamond.jp/articles/-/86232 今週もナナメに考えた 鈴木貴博 【第2回】 2016年2月19日 鈴木貴博 [百年コンサルティング代表] 高齢者ビジネスの成長性が危ぶまれる残念な理由 ?株価が下がってくると「アベノミクスは失敗だ」「日本経済はやっぱり成長できていない」という声がすぐに強くなってくる。
?円安で輸出産業が息を吹き返して、工場など国内への投資が増えたのは間違いないが、それだけでは若者減少で市場が縮小する我が国全体の経済成長への貢献度は十分とはいえない。だからちょっと円高が始まっただけですぐに将来の不安が高まってくる。 ?そんな日本経済の先行きだが、世界の識者はどう見ているのだろう。興味深いレポートがある。アメリカの国家情報会議(NIC)が4年に1度、新しいアメリカ大統領に提出しその後世界に向けて公開されるグローバルトレンドというレポートの主筆だったマシュー・バロウズが書いた『シフト?2035年、米国最高情報機関が予測する驚愕の未来』(ダイヤモンド社刊)という本である。 米国人が予測する日本の未来 希望は「高齢者向け住宅産業」? 日本の高齢者ビジネスの未来は本当に明るい? ?この本は来年、新しいアメリカ大統領が誕生したときに作成されるグローバルトレンドを先取りした内容で、アメリカ、EU、中国、ロシア、イスラム各国など世界の勢力を横軸に、技術革新、資源開発、民主化、経済成長などこれから起きる変化を縦軸にして世界の未来を予言している。
?その中に“日本は「過去」の国になる”という項目がある。 ?バロウズ氏によれば“日本は中国との差が拡大しているが、「中の上」程度のパワーを維持するだろう”という。ただしそれは日本がかなり頑張って構造改革をなし得たらという条件つきの話だ。その条件はいろいろな面で克服は難しいだろう。そうなると日本は本当に過去の国になってしまう可能性の方が高く見える。 ?しかしそのような悲観的な予測の文章を詳しく読みとくと、ひとつだけ希望にあふれた一文を見つけることができる。そこには日本の未来について、“高齢者が増えて、医療業界と住宅業界は成長に拍車がかかるだろう”と書かれている。 ?これを読んで私はアメリカ人の物の見方は面白いと思った。アベノミクスの成長戦略では医療業界の革新が日本成長の原動力になるとは書かれているが、住宅業界が成長のカギだとは書かれていない。しかしこの着眼点はおもしろい。住宅産業は産業のすそ野が広くてGDPを押し上げる原動力としては一番効いてくるアイテムだからだ。 ?わかりやすくいえば団塊の世代がすべて後期高齢者になって、彼らが一斉にバリアフリー住宅にリフォームしたとすれば、その需要だけでもGDPは目に見える規模で押し上がるはずだ。 ?しかしそこにはものすごく難しい壁がある。 業者から“食い物”にされる高齢者たち ?以前、高齢者ビジネスについてのコンサルティングを行っていた際に、その業界で誠意をもって事業を行っているある役員の人がこんなホンネを語ってくれたことがある。 「この業界の一番難しいところは、社員がもっと儲けたいと思う欲をどう押さえ込めるかにあるんですよ」 ?真剣に高齢者を相手にしたビジネスの拡大に取り組んでいる経営者がホンネで悩んでいるのがどういうことかというと、それは介護事業でも福祉関連の製品販売でもなんでもいいのだが、会社経営が苦しいときにふと魔がさすらしい。「その気になれば弱者からたくさんのお金をむしりとることができる」と。 ?だから営業目標のようなものを普通の会社と同じに設定してしまうと、組織の末端で何が行われるか、わかったものではなくなるのだ。 ?このことをわかりやすく説明するために、私自身の体験を紹介しよう。遠くで暮らす両親が60代後半のころ、老後を見据えてバリアフリー住宅に建て替えたことがある。誰が聞いても一流の住宅メーカーが建ててくれた強固な注文住宅だ。 ?それから10年たって母から相談の電話がかかってきた。かなりの出費だけど170万円かけて家をまるごと診断してもらうというのだ。 ?話を詳しく聞いてみるとこういうことだった。その住宅メーカーの子会社の営業マンがいわゆる10年点検で母のところに訊ねてきた。その営業マンが言うには、通常はうちの建てる住宅なら全然問題がないのだが、住宅というものはその建てられた環境次第で希に中の柱が腐ったりすることがある。見た目はしっかりしていてもそういう住宅は将来、地震のときにぽーんと潰れてしまうこともあると母に言うのである。 ?母は以前、震災の時に倒壊した住宅の下で多くの人が焼け死んだことを「とても酷い死に方で、ああはなりたくないんだ」と言っていた。10年前の建て替えはその震災の影響があってのことで、ローンを組んでまでボロ屋を新築の住宅に建て替えたのだった。 ?新築のときは「この工法なら50年はぜんぜん大丈夫」と言っていた会社が、10年たったら子会社の別の営業マンが「倒れちゃうこともあるんですよ。気をつけたほうがいいですよ」というのである。 ?それで中の柱が腐っていないかをチェックするための診断費用を見積もってもらったところ、家の周囲に足場を立てて専門家に検査をしてもらうための費用合計が電話口で母が私に相談してきた170万円ということだったのだ。 ?結局その話は、私が母を説得して断ることにした。それから間もなく母を東京に呼び寄せて一緒に暮らすようになるので、その意味ではその時点での170万円の出費は母にとっても老後の蓄えの中の無駄な出費になっていたはずだ。 ?私が防衛策として決めたのは、それ以降、母が必要とする商品やサービスの営業マンの矢面に母を出さないことだった。尊敬される一流メーカーの営業マンの中にも、組織の末端には営業成績をあげるためにそんなことをする人がいるのだ。ましてや聞いたこともない健康食品メーカーや、リフォーム業者に母を紹介する勇気は私にはまったくない。 ?社会全体の問題点がここにある。高齢化する日本社会では、フェアなビジネス慣行が確立されていれば“住宅業界は成長に拍車がかかるだろう”という予言通りのことが起きるのだが、現実の日本では高齢者は業者に食い物にされてしまうのだ。 このままではリフォームしたくても 怖くてできない高齢者が増えるだけ ?一度リフォームを注文したらどうなるか?その顧客リストを生活のために横流しする営業マンがいるかもしれない。流通する違法な顧客リストを見てどんどん営業マンが来るかもしれない。実際にいつの間にか床下がシロアリ防止装置だらけになっていた老人宅がある。それも氷山の一角だ。 ?そういうことがないように法律を整備したらどうだろう。認知症の老人がそのような業者に騙されないように後見人をしっかり立てたら?実際そうやって弁護士が後見人になったおかげで、弁護士にすっかり財産を奪われてしまった老人が出てくる。 ?そして名簿の流出にしても後見人のトラブルにしても、刑事事件になるのはごく一部というのが日本のお寒い現状だ。 ?全体が性善説でまわる経済であれば日本経済は成長するだろう。しかし高齢者マーケットは性悪説に立ったうえで、それでもまわる経済を設計しなければ成長できない。それができなければ我が家のようにリフォームしたくても怖くてリフォーム会社を探せない高齢者世帯がどんどん増えていくだけだ。 ?このように一番成長ポテンシャルが大きい業界は、一番大きな社会問題を抱えているのである。 http://diamond.jp/articles/-/86595
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