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マイナス金利政策で先行した欧州。効果と副作用の現状は
欧州で見た、マイナス金利の効果と副作用の実態
http://diamond.jp/articles/-/86593
2016年2月19日 岸田英樹 [野村證券 シニアエコノミスト] ダイヤモンド・オンライン
● マイナス金利導入で先行した欧州 当初は経済にプラスの効果があった
筆者は毎年1〜3月期に取材をしているが、2016年においては、日本銀行がいわゆるマイナス金利政策を発表した1月29日にドイツでちょうどECB(欧州中央銀行)の関係者と話していた。
彼らは、日本銀行のマイナス金利政策をソフトな内容と判断している。なぜなら現在、市中銀行がECBに積み上げている資金のほとんどにマイナス金利を課されるのに対して、日本銀行は、市中銀行が日本銀行に積む資金のごく一部にマイナス金利を適用するに過ぎないからだ。ドイツの銀行を中心にユーロ圏の銀行は全体として、ECBに利息を払って資金を預けているが、日本の市中銀行は引き続き日銀から利息を受け取ることが可能である。ECB高官の眼には、日本銀行の対応は市中銀行にとって比較的穏当と映る。
ユーロ圏、スウェーデン、スイスなどの欧州諸国では、2014年以降、政策金利の一部がマイナスとなっている。これらの国・地域がマイナス金利政策を導入した主な狙いとして、通貨安があることは確かだ。
ECBは原油価格の下落、中国経済の減速などに伴い、2年程度先のインフレ率が目標の2%弱に達しない可能性が高いと判断。ユーロの下落を通じて輸出増とインフレ率の押上げを図るべく、14年6月以降、政策金利の一部をマイナスとした。
このECBの金融緩和のあおりを受けたのが非ユーロ圏のスウェーデン、スイスである。ユーロの下落で自国通貨の上昇に見舞われた両国の中銀は、景気やインフレ率の下振れ懸念を後退させるべく、それぞれ14年7月、12月以降、政策金利の一部をマイナスとしている。
マイナス金利政策は当初、自国通貨安をもたらした。ユーロ圏では、通貨安が15年前半の輸出増加に寄与。原油価格の下落に伴う実質可処分所得の増加、難民流入に伴うドイツ政府の仮設住宅建設などとともに、経済にプラスの影響をもたらした。2015年ユーロ圏実質GDP成長率は+1.5%と、2011年の+1.6%以来の高い成長率となった。
● 薄れつつある欧州のマイナス金利効果 一方で副作用は限定的との認識
だが、最近ではマイナス金利政策の効果は薄れつつある。15年夏以降、中国人民元が下落基調に転じたからだ。現在、欧州各国の名目実効為替レートは上昇しつつある。人民元が下落すれば、それ以外の通貨は対人民元で上昇、名目実効為替レートの上昇要因となる。
人民元の下落は欧州の中銀に追加金融緩和を迫った。筆者の取材では、ECBが15年12月に利下げ(マイナス金利幅の拡大)に踏み切った背景には、ユーロの上昇に伴う域内経済の悪化リスクを緩和する必要があるとの判断がある。16年に入ってからも人民元は下落、ECBは1月に、3月の追加金融緩和を示唆し、人民元の下落には追加緩和で対処する考えを示した。スウェーデンの中銀も2月には利下げに踏み切った。
もっとも、欧州の各国中銀がマイナスの政策金利をさらに引き下げる際には、副作用にも留意している。なぜなら、マイナス金利政策は銀行の貸出金利の上昇、各種手数料の引き上げのリスクを孕むからだ。
市中銀行は、金利が多少のマイナスでも、余剰資金を、中央銀行への預入を含めある程度運用せざるを得ない。銀行が大量の銀行券を金庫に滞留させる場合、金庫代、警備費用などが嵩むことに加え、盗難リスクも抱えるため、多少コストを払ってでも運用することを考えるからだ。
しかし、利息を払って資金を運用するとなれば、その分利益は減少してしまう。それ故に市中銀行は、利益を確保するべく、貸出金利、ないしは、預金口座の口座管理手数料を引き上げる可能性がある。実際、デンマークでは12年7月に政策金利の一部がマイナスとなった後、一部の貸出金利が上昇した。
今のところ、欧州各国の中銀は、マイナス金利政策に伴う副作用は限定的だとしている。欧州の投資家からは、ドイツでは銀行数があまりにも多く、競争が激しいため、銀行が貸出金利、各種手数料を引き上げることは困難との冷ややかな指摘もある。それでも中央銀行は、景気改善により貸出量が増加しているため、マイナス金利分が相殺され、銀行の利益はそれほど圧迫されていないとする。
むしろ、ECBは、マイナス金利政策の下でもユーロ圏には特に副作用がないと判断したからこそ、16年1月に利下げ余地を示したとのことである。最近、スイスにおいて銀行が住宅ローン金利を引き上げた例が副作用として指摘されることがあるが、欧州の各国中央銀行は、スイスの銀行業界への規制強化も影響したとしており、マイナス金利の副作用とは必ずしも捉えていない。
また、マイナス金利政策は、MMF(マネー・マネジメント・ファンド)などで極度の運用難も引き起こすため、特にMMF市場の規模が大きいフランスでは自国の金融業、景気へのダメージが懸念されていた。
しかし、ユーロ圏ではマイナス金利政策導入後もMMFの残高は増えている。欧州の場合、銀行預金に際し口座維持手数料が徴収されることが多く、預金者が銀行にコストを払って預金をしている可能性がある中、MMFの一部が利回りが比較的高い債券を購入することで、プラス運用利回りを確保していることも背景にあろう。人々は、銀行預金に比べ運用妙味があるとして、MMFに資金を滞留させている模様だ。
筆者の取材によれば、欧州の当局には、政策金利をマイナス1.5%程度まで引き下げることは技術的に可能との認識が存在する。16年後半も自国通貨が上昇すれば、欧州の各国中銀はマイナス金利を強化することになろう
● 急浮上した欧州銀行部門への不安 危機的状況に陥るとは考え難いが…
一方、2月に入り、ECBは新たな問題に直面している。市場が抱く欧州銀行部門への懸念である。
事の発端は、2月上旬に一部のアナリストが、欧州大手銀行の偶発転換社債(CoCo債)の利払い能力に懸念を示したことがある。これを契機に2月上旬には他の欧州諸国の銀行も同様の懸念があるとの見方が浮上し、欧州の銀行株が軒並み急落した。
現実には、欧州の大手銀行はCoCo債の利払いに窮することのないよう自力で十分に対応可能と見られる。特に、ドイツなどユーロ圏の主要国の銀行はマイナス金利を課されてもECBに余剰資金を滞留させているほど、豊富に流動性を有している。それだけに、流動性危機に見舞われるとは考え難い。
ただし、今後も欧州の一部銀行に対する懸念はくすぶり続けることになろう。イタリアなど南欧諸国では、景気低迷により不良債権比率が上昇の一途を辿っているからだ。
● 個人投資家の反発で抜本的対策できず 不良債権への懸念はくすぶり続ける
ユーロ圏の銀行の経営不安を払拭するには、各国の政府が公的資本注入、ないしは銀行から不良債権を購入することが必要である。
しかし、南欧諸国では、ベイルイン(債権者による銀行救済)制度がかえって銀行部門のバランスシート健全化の妨げとなっていると筆者は考えている。
ベイルインとは、政府が銀行を救済する前提として、株主が減資、債券保有者が元本削減などを通じ、銀行の経営改善に強制的に関与させられる制度である。EU各国では、リーマンショック以降、欧州各国政府が銀行に多額の公的資本注入を実施、政府債務が積み上がったことに基づく反省として、ベイルイン制度が導入された。
ところが、南欧諸国では、政府が銀行に公的資本注入するのと引き換えに、個人投資家が保有する劣後債の元本を削減すれば、政治家は有権者から批判を浴びやすい。なぜなら、リーマンショック以降、銀行が発行した劣後債を、年金生活者など個人投資家が銀行預金と同様の感覚で購入したからだ。
特にイタリアでは、16年10月に議会制度改革のための国民投票が実施され、否決となれば、市場の信認の厚いレンツィ首相は辞任に追い込まれる可能性がある。それだけに、16年秋までにイタリア政府が劣後債の元本を削減した上で銀行から不良債権を購入するといった、大胆な不良債権処理は困難であろう。16年1月にイタリア政府が不良債権処理策を発表したが、劣後債保有者が毀損しない代わりに、銀行から不良債権の切り離しが進むことをほとんど期待できない妥協策となった。背景には、有権者でもある個人投資家の反発をこれ以上招きたくないという国内の政治事情も見え隠れする。
そうなると、域内銀行部門への懸念を一時的に後退させるべく、ECBが量的緩和政策の下で、銀行から貸出債権を購入することを検討する可能性もあろう。仮にそうなれば、市場では、銀行の自己資本比率を算出する際の分母であるリスクウェイトアセットが減少、自己資本比率が改善との期待が高まり、銀行部門への信頼感がいったん上向くと考えられる。
もっとも、現実には、ECBが銀行から貸出債権を購入するとしても優良債権にとどまろう。そのため、南欧の銀行部門から不良債権が大規模に切り離され、バランスシートが健全化するわけではない。ECBが市場を一時的に安定させることができても、政府が大胆な不良債権処理に踏み切れない中では、再度、銀行部門への懸念が高まる恐れはある。
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