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http://gendai.ismedia.jp/articles/-/47873
2014年、神奈川県川崎市の有料老人ホームに入居していた高齢者3名が相次いでベランダから転落死するという衝撃の事件が報道された。そして昨日(2016年2月16日)、同施設で働いていた23歳の男性介護職員が逮捕され、殺害の容疑を認めた。
ほかにも、介護施設内で起こる殺傷事件や虐待のニュースは後を絶たない。来たる高齢化社会に向け、国がテコ入れしたはずの福祉事業の現場で、なぜこんなにも痛ましい事件が頻発しているのだろうか?
ノンフィクションライターの中村淳彦氏は、以前に自身が運営していた介護施設内で起きたトラブルを経験し、その「崩壊」の様子を目の当たりにした。「介護施設」という閉じた空間の中でいま起きているのか? 現場からの渾身のレポート。
* * *
(文/中村淳彦)
常軌を逸した介護職員の態度
「このやろう、おとなしく座ってやがれ!」
午後のレクリエーションの最中、40代の男性介護職員Aがフロアを徘徊する70代の認知症男性高齢者に怒鳴った。怒りで目を血走らせて高齢者男性を突き飛ばし、さらに羽交い絞めにして暴行を加えようとしている。完全な虐待だ。
Aはいくら言っても徘徊を繰り返す認知症男性高齢者の行動にキレて、理性が効かなくなり突発的に手を上げたのだ。ちなみに “徘徊” は、認知症高齢者にとってごく一般的な行動である。
私と他の職員が慌てて止めに入った。Aは、一応ヘルパー2級の資格を持つ介護職なので、さすがに“虐待はまずい”ことはすぐに理解した。
もともとAは、自制の効かないキレやすいタイプだった。高校を中退後、職を転々とし、41歳の時にハローワークの職業訓練でヘルパー講座を受講して介護職になった。のちに知ったのだが、前職の広告代理店では社内でトラブルを起こし解雇されていた。
その後もAは、食事介助で認知症高齢者の口に食べ物を詰め込んだり、高齢者を威圧するような高圧的な言葉を使うなど、虐待紛いの問題行動を繰り返した。私や他の職員が注意をしても、一貫して聞く耳を持たなかった。
2000年に介護保険制度が施行されて以降、介護は延々とした深刻な人手不足が続き、このような問題ある人物にも頼らざるを得なくなった。Aがいなくなれば現場は平穏になるが、人手が足りなくなり業務がまわらなくなる。Aもその実情を知っているので、どんなに横暴な態度をとっても解雇されることはないと分かっているのだ。
介護は人と人とが密になる仕事だ。人に対する態度は知識や経験以前に、人格の問題である。若者ならともかく、中年から人格を矯正できるワケがない。私や他の職員がAに注意や意見をすれば、「おい、俺を怒らせたらどうなるかわかっているのか!」と逆にキレて脅してくる。
事業者にとって最悪なケースは、職員が虐待事件を起こすことだ。このまま放置すれば大きな事件に発展するのは時間の問題だった。だいぶ悩んだが、人員不足で現場が混乱することを覚悟で、私はAを解雇した。
クビを告げられたAは「てめえ、このままで終わると思うなよ」と恫喝して施設から出て行き、なんとその日から、私と私の家族のストーカーになった。
次ページ Aの標的は子どもにまで及んだ
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その結果、妻の精神は壊れて、普通の日常生活が送れなくなった。妻は精神病院、私は警察と弁護士事務所に通うはめになり、子どももAの脅迫のターゲットにされたので、小学校の担任と校長に事情を説明した。
もはや仕事どころではない。最終的には私がAを提訴して、ようやくストーキングはおさまった。この騒動で1ヵ月以上の膨大な時間と、150万円ほどの費用がかかっている。
施設開設前からトラブルまみれの毎日
これは、私の身に起きた最も大きな騒動だが、介護にかかわる7年間、介護職員たちが起こすトラブルにふりまわされ続けた。
私が介護にかかわったのは2008年。フリーライターとして働いていたが、相次いで雑誌が廃刊し、このまま仕事を継続するのは無理だろうと判断した。超高齢化社会が目前に迫るのは誰もが知ること。 “介護” ならなんとかなるかもと、最も参入障壁の低かったデイサービスを立ち上げた。
介護保険法施行で「施設運営は誰でもOK」という強烈な規制緩和が繰り広げられ、街のラーメン屋から大企業まで介護の“か”の字も知らない異業種参入が現在進行形で続いている。
デイサービスを始めて間もなく、介護という産業の異常さに気づいた。
最初から普通ではなかった。開設前の職員の求人面接に遅れずに来た人は半数程度。来たとしても「できるだけ楽な仕事をしたい」「すぐに有給休暇を全部欲しい」「朝、起きれるかわからない」など、常識を逸脱したことを平気で言う人がたくさんいた。
さらに開設後の現場では、職員たちによるイジメやパワハラ、セクハラが日常茶飯事だった。心身ともに疲弊し尽くした私は、2015年3月、運営する介護保険施設(小規模デイサービス)の「廃止届」を行政に提出した。書類は受理されて、念願だった介護という地獄からようやく解放された。
施設の閉鎖と会社の解散を決めた後も、女性の介護福祉士が売春と横領の騒動を近隣で起こしたり、非常勤で働く介護職員の不倫問題でトラブルになったりなど、最後の最後までめちゃめちゃな状態で幕を閉じている。
どうして「豊かさ」や「幸せ」を提供するはずの福祉施設で、このようなことが起こるのか? 私は自分の身にふりかかったトラブルや惨状の原因を深く考えるようになった。大きな原因の一つは、限度を超える人手不足といえる。
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全国的に介護人材の劣化が進んでいる
介護職の人材不足は、本当に深刻だ。
2025年には1947年〜49年生まれの団塊の世代が75歳を迎え、人口に対する高齢化の率が現在の12%から30.5%までに膨れ上がるという超高齢化社会となる。現在240万人が従事する介護関係職を、350万人まで増やさないと破綻すると言われており、国をあげて介護職を増やすことに取り組んでいる。
しかし、この「介護2025年問題」は解決する気配すらない。
介護関係職の有効求人倍率は全国平均で2倍を超え、東京都で4.34倍、愛知県で3.96倍、大阪府で2.77倍と目を覆うような状態だ。これから急速な高齢化が進む大都市圏で、特に人材不足が顕著となっている。
私が介護にかかわった時間は呪われたような悪夢だったが、私自身が介護の素人であり、超高齢化社会という需要だけに群がった能力が低い経営者だったことを差し引いても、介護は人手不足、低賃金、重労働、ブラック労働まみれ、人材の異常劣化、子が親を捨てる姥捨て山化など、負の要素が複雑に絡まりすぎた異常な世界だった。
「人材の確保にはずっと苦戦しましたが、2011年の震災以降が特にひどい。求人広告を出しても誰も来ないのが普通、たまに応募があったとしても精神疾患を抱えていたり、読み書きができなかったり、著しく常識がなかったり。普通の人だと思って採用しても窃盗するなど、健康な普通の人を採用するのは非常に困難です。
3年間、我慢に我慢を続けましたが、介護給付金の報酬が大幅引き下げられ求人費用を捻出することも難しくなった。施設の運営は諦めることにしました」
中部地方でデイサービスを経営する鈴木氏(仮名)は、こう嘆く。
ノンフィクションライターとして介護に関する記事を書いているので、全国から情報が集まるが、介護職員の著しい人材劣化によってトラブルの絶えない状況に追い込まれた経営者は、なにも私だけではない。これが全国的な傾向なのだ。
人手不足のおそろしさは、「現場がまわらない」という目先のことだけではない。今日、明日を乗り切るために介護職の敷居を低くしたことで、質の劣化が起こる。さらに国の雇用政策が介護に絡んだことで悪夢に拍車をかけた。
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そして介護は破壊された
世界金融危機のあった2009年に、厚生労働省は失業者を対象とした「重点分野雇用創造事業」を行い、失業者や果てはホームレスまで介護職に送り込むプロジェクトを大々的に繰り広げた。
希望者の全入職だけではとどまらず、人材不足の介護が雇用政策に利用されたことで、介護という職業は生活保護の代替となり、介護現場は完全に破壊された。
さらに、離職率の高さも問題となっている。3年で半数以上、5年でほぼすべての職員が辞める。しかも介護から逃げるのは、問題を抱える人物ではなく、介護を辞めても他に転職先があるまともな人々たちだ。
長く介護福祉を支えてきたベテランや、高齢化社会に対して意識がある人たちが、荒廃する介護現場の現実に絶望し、嫌気がさして辞めてしまう。人材と介護の質の劣化は止まることがなく負のスパイラルに陥っている。
「介護報酬の引き下げがトドメです。我慢するか辞めるか、ずっと迷っていたけど、もう、どうにもならない」
現在、多くの介護事業所の零細経営者や、施設責任者の管理者が苦悶の表情でこう口を揃える。
介護職の低賃金は社会問題とされているので、知っている人も多いだろう。介護保険が施行されてから現在まで “安い・低い” と叫ばれ続ける中、2015年4月に介護報酬が大幅に引き下げられた。これは審議会で議論が繰り返され、国会にも取り上げられて、社会全体で問題が共有された状況で出された結論である。
これまで介護職は、普通に働いても生活ができない貧困状態だったが、これからはさらなる困窮に陥る。これまでの「生かさず殺さず」から「最低限生存できる程度まで下げよう」というメッセージが国から送られてしまったのだ。
介護職に対しては、まだまだ善良で優しい人材をイメージする人が大半だろう。しかし現実はその逆だ。彼らは「経済的貧困」と「関係性の貧困」をダブルで抱える社会的弱者だ。止まらない人材の質の低下が重なって、現在の介護現場は温かさどころか、常に根深い不満が渦巻く。
自分が貧しい弱者なのに、他人である高齢者に笑顔で「豊かな老後」を提供できるはずがない。現在の介護現場は、心に余裕のない貧しい者たちがいがみ合い、罵り合い、奪い合い、弱者イジメが蔓延する絶望的な風景が日常となっている。
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「Sアミーユ」の事件は起こるべくして起こった
2014年、神奈川県川崎市の有料老人ホーム「Sアミーユ川崎幸町」(株式会社積和サポートシステムズ)で、86歳〜96歳の入居者3名が相次いでベランダから転落死した衝撃の事件が報道され、昨日(2016年2月16日)3人が転落したすべての日に夜勤を担当した23歳の男性職員が殺害を認めた。
この男性職員は他の入居者女性から財布を盗んだとして逮捕され、懲戒解雇されていた人物だ。施設ではこの事件の他にも、複数の介護職員の暴力や暴言、日常的な虐待が表面化しており、川崎市から3ヵ月間の行政処分を受けている。
負の連鎖が吹き荒れる中で、介護報酬減が実行され、介護職たちは生涯貧困に近い貧しい生活を余儀なくされる。介護は現場で働く「人」がすべてである。限度を超えた人材の質の低下で、今、介護という社会保障は、本当に危険な状態になっている。
将来日本の高齢者の9割が生活保護水準の生活となる“下流老人”、非正規雇用の蔓延で実家から離れられない現役世代(35歳〜44歳)が305万人に膨れあがり、親子共々で経済的貧困に陥る“老後破産”など、これからの老後と社会保障が大きな話題だが、今、本当にヤバイのは「介護崩壊」なのだ。
要介護高齢者たちが「いつ殺されるかわからない」という危険な最終段階に突入する前に、いい加減に「崩壊する介護現場」の現実を見つめることが必要なのだ。
(つづく)
中村淳彦(なかむら・あつひこ)東京都生まれ。アダルト業界の実態を描いた『名前のない女たち』『職業としてのAV女優』『日本の風俗嬢』『女子大生風俗嬢』『ルポ中年童貞』など著書多数。フリーライターとして執筆を続けるかたわら介護事業に進出し、デイサービス事業所の代表を務めた経験をもとにした『崩壊する介護現場』が話題に。最新刊は2月25日『熟年売春〜アラフォー女子の貧困の現実』(ミリオン出版)。
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