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※日経新聞連載
[時事解析]データでみる企業行動
(1)円安効果で最高益 先行きになお慎重
安倍政権が異次元金融緩和などを柱とする経済政策、アベノミクスを打ち出してから約3年。この間に日本企業の行動はどう変化してきたのか。統計データや経済理論を基に分析する。
財務省によると、2014年度の金融・保険業を除く日本企業の経常利益は前年度に比べ8.3%増の約64兆6千億円となり、過去最高を更新した。
企業の利益率も上昇している。民間調査会社、帝国データバンクの調査では、14年度の全国企業の売上高経常利益率は全産業平均で2.6%。前年度に比べ0.62ポイント上昇し、全業種で前年度を上回った。
足元では世界経済に不安材料が増しているものの、年間でみれば15年度も利益水準、利益率ともに高水準となりそうだ。
大規模な金融緩和を背景に円安が進行・定着し、輸出採算が改善。海外投資による収益の円建て受取額が増え、企業収益を押し上げている。原油などの国際商品相場の下落も追い風だ。「企業に前向きな支出を拡大させる余地、機運が出てきたことは間違いない」(三菱東京UFJ銀行経済調査室)。
もっとも、売上高の回復は緩慢で、事業の先行きに慎重な企業は依然多い。世界経済の先行きが不透明なうえ、政府の成長戦略が力不足だとの認識も、企業にブレーキをかけている。
伊藤元重・東大教授は「企業はなおデフレマインドを払拭できていない。自社だけが投資や賃上げをするのをためらう、経済学で『協調の失敗』と呼ばれる現象が起きている」と解説する。
(編集委員 前田裕之)
[日経新聞2月8日朝刊P.17]
(2)低下する労働分配率 賃上げ不十分の声
安倍政権は企業に賃上げを要請している。高水準の利益を上げた企業は稼いだ資金を労働者の賃金に十分配分してきたのだろうか。
財務省の統計で金融・保険業を除く企業の総人件費の推移をみると、直近のピークは2006年度の約201兆円。その後、4年連続で減少し、10年度は約194兆円。増減を繰り返した後、14年度は約195兆円に。第2次安倍政権の誕生後も、大きな変化はない。
企業が生み出した付加価値(営業利益や人件費などの合計額)のうち、どれだけを人件費に回しているかを示す労働分配率は08〜09年度の74.7%が直近のピーク。13年度は69.5%、14年度は68.8%と下がっている。
利益の変動に比べると人件費の変化は緩やかなため、不況で利益が落ち込むと労働分配率が上昇する傾向がある。08年のリーマン危機後に企業の利益が減って労働分配率が上がり、企業の利益が急増した13年度以降は分配率が下がっている。
脇田成・首都大学東京教授は「2〜3%の賃上げは企業にとって総額で5兆〜10兆円の負担増にすぎない。高い利益水準に比べ、昨年までの賃上げ幅は小さかった」と企業の対応を批判する。
脇田氏の実証研究によると、日本では家計の収入に比例して消費が増える「ケインズ型消費関数」が成り立っている。賃上げで消費が増えると非製造業の設備投資が活発になる好循環も期待できるという。総賃金の9割弱を占める正規社員の賃上げ、1割強にとどまる非正規社員の待遇改善が引き続き焦点となる。
(編集委員 前田裕之)
[日経新聞2月9日朝刊P.24]
(3)伸び悩む国内投資 将来の需要減予想
国内の設備投資を2016年度からの3年間で10兆円増やせる――。政府との対話の中で経団連が示した目標には、疑問の声が上がっている。
民間設備投資は1980年代後半から急増し、バブル期の90、91年度は90兆円を上回って過去最高を記録した。ところが、建造物を中心とした過剰投資はその後、長く経営の足かせとなり、業績回復が遅れる原因となった。バブル期の反省から国内投資に慎重な姿勢を示す企業は多い。
第2次安倍政権の誕生後、業績が回復した企業の投資マインドは少しずつ好転してはいる。09年度に約60兆円まで減った設備投資は、13年度に約67兆円、14年度に約68兆円、15年度に約71兆円の見込みと増えてきたが、08年のリーマン危機前の水準にはなお及ばない。現在の統計データではとらえ切れないソフトウエアや研究開発などの「無形資産投資」も伸び悩んでいるもようだ。
民間投資が伸び悩むのはなぜか。デール・ジョルゲンソン米ハーバード大教授の投資理論によると、名目金利から物価変動の影響を除いた実質金利と、将来の需要予想の組み合わせで設備投資の水準は決まる。宮川努・学習院大教授は「低金利でも、人口が減少する日本では将来の需要減少が見込まれ、設備投資が増えない」と分析する。
株価上昇は企業に設備投資を促すとの実証研究もある。しかし「日本企業の資本ストックはすでに十分な水準にある。企業価値の上昇分は更新投資に吸収され、投資拡大の効果は薄れている」と宮川氏はみている。
(編集委員 前田裕之)
[日経新聞2月10日朝刊P.30]
(4)内部留保が急増 海外投資など充当
日本企業の資金の使い道をみると賃金、国内投資に加え、株主への配当も伸び悩んでいる。企業は稼ぎ出した資金をどこに振り向けているのか。
2014年度末の金融・保険業を除く企業のバランスシートを、アベノミクスがスタートした12年度末と比べると、最も増えたのが内部留保(利益剰余金)だ。財務省の調べでは、14年度末に約354兆円となり、2年で約49兆円増えた。内部留保は資金を調達する手段の一つと位置づけられ、借入金などと同様に負債の部に計上される。
企業は内部留保をすべて手元に残しているわけではない。14年度末の資産の部をみると、現預金は2年間で約17兆円増えて約185兆円。貯蓄に回している資金は一部にとどまっている。
資産の部で最も増加幅が大きいのは「投資有価証券」。2年間で約33兆円増えて約269兆円となった。投資有価証券は海外の現地法人への出資や、海外企業の買収で取得した株式などで、15年度も増える見通しだ。
日本リサーチ総合研究所の藤原裕之主任研究員は「日本企業が国内投資を抑えて海外投資を増やしている結果が表れている。成長を見込める海外市場に注力するのは合理的な行動」と指摘する。
深尾京司・一橋大教授の実証研究によると、日本企業の中で生産性が高い大手製造業の国内工場が閉鎖されている。一方、生産性が低い中小企業の工場は存続しがちで、日本全体の生産性が上昇しない原因になっていると分析する。日本企業が国内に目を向ける環境づくりが急務といえる。
(編集委員 前田裕之)
[日経新聞2月11日朝刊P.29]
(5) 非製造業の投資が鍵 新サービス開拓を
海外投資に積極的な日本の製造業は国内投資には総じて慎重で、「国内回帰」の動きはあまり広がっていない。
日本政策投資銀行は海外生産の国内への移管、海外への生産移管の先送りを「狭義の国内回帰」、国内の能力増強を含めて「広義の国内回帰」と定義。同行が製造業約400社を対象に2015年6月に実施した調査によると、15年度に狭義の国内回帰に踏み切る企業は7%弱にとどまった。
国内回帰をしない理由を聞くと、「今後も海外での需要が見込まれる」「海外生産にコストメリットがある」「海外生産拠点の稼働率を維持する必要がある」などの回答が多かった。乾友彦・学習院大教授は「人口減少で市場が縮小する日本に製造業が回帰する可能性は低い」と予想する。
国内投資の鍵を握るのは非製造業。14年度の金融・保険業を除く設備投資額の約7割は小売業、不動産・建設業などの非製造業で、前年比伸び率は製造業を上回った。内部留保(利益剰余金)や現預金の伸びが大きいのも非製造業。12〜14年度の内部留保の増加額の約8割、現預金の増加額の約7割を非製造業が占めている。
日本政策投資銀行の田中賢治・経済調査室長は「低い期待成長率と盛り上がりを欠く設備投資の悪循環を断ち切るには、企業側の一歩踏み込んだリスクテークと内需の掘り起こしが欠かせない」と強調する。非製造業と製造業が連携し、高齢者に優しい街づくり、介護・医療、家事などの分野で新サービスを開拓するよう求めている。
(編集委員 前田裕之)
=この項おわり
[日経新聞2月12日朝刊P.11]
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