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11日海外市場で円が急騰し一時110円台も(写真:共同)
ドル円は購買力平価の100〜105円めざす 「期待」でなく「不安」を煽ったマイナス金利
http://toyokeizai.net/articles/-/104761
2016年02月12日 唐鎌 大輔 :みずほ銀行 チーフマーケット・エコノミスト 東洋経済
日本銀行のマイナス金利導入決定から約2週間が過ぎようとしている。ここまでのところの政策効果に関し整理しておきたい。
最も期待された為替・株への影響は文字通り惨憺たる結果。ドル円相場、日経平均株価ともに年初来安値を大きく更新してしまった。混乱の根幹はあくまで「中国経済減速と原油価格急落」であって、当事国ではない日本の中央銀行が策を弄したところで無力だということが改めて浮き彫りになった。
患部と処方箋がずれている以上、症状の改善につながらないのは当然だ。これと似た構図は2009〜2011年、欧州債務危機を巡る混乱の最中で円高が進んだ時にも見られた。当時の白川日銀の断続的な追加緩和にもかかわらず、円高相場は容赦なく続いた。歴史が繰り返された格好である。
そのほかマイナス金利導入後に表れた効果ないしは副作用としては、金融機関の預金金利の引き下げ、MMF(マネーマーケット・ファンド)を筆頭とする一部金融商品の販売停止、日本の国債金利が劇的に低下して、G7国では初めて長期金利がマイナスに沈んだことなどの現象が広がった。
■「期待に働きかける」どころか不安を感じさせた
法人のみならず個人にとってもあまりよくない話ばかりが聞こえてくる。1月30〜31日に日本テレビと読売新聞が実施した緊急世論調査によれば、日銀が決定したマイナス金利政策について「景気回復につながると思うか」との問いに対し、「思う」との回答が24%、「思わない」との回答が47%に達していた。マイナス金利が適用開始になる2月16日以前に効果を断言することは控えるが、少なくとも今のところは、同政策による「期待への働きかけ」はうまくいっているようには見えない。
個人的な体験談だが、筆者が美容院に行った際、経営者である店長から「今後は銀行に預金すると手数料がかかるようになるというのは本当か」と尋ねられた。同種の質問は金融市場の外にいる知人からも多く受けた。
今回の日銀によるマイナス金利政策は、銀行収益に配慮したこともあって、一足飛びに個人預金にチャージが掛かるような事態にはならない。だが、そのように受け止めている人が少なくないのだとしたら、「期待」を重要な操作変数としている黒田日銀にしては、大きな失策と言わざるを得ない。
1月29日の追加緩和決定は、同日に発表された『展望レポート』によれば、「企業コンフィデンスの改善や人々のデフレマインドの転換が遅延し、物価の基調に悪影響が及ぶリスクが増大」していることに対する措置とされており、要するに心理面の下支えを狙ったものである。ちなみに、2014年10月31日のハロウィン緩和も同様のロジックだった。
しかし、少なくとも今の世の中の受け止め方は「マイナス金利は恐ろしいもの」というイメージが先行しているようで、むしろ不安を煽ってしまっている可能性すら感じられる。
そもそも、今回のマイナス金利政策によって「一足飛びに個人預金にチャージが掛かるような事態にはならない」ことを解説するためには、三層化された当座預金の構造や限界費用と平均費用の違い、今後の残高推移に対する見込みなどについて理解してもらう必要がある。
しかし、専門家ですら直観的な理解に時間がかかる今回の枠組みについて、国民一般の理解を得るには絶望的な難しさがある。「本当の意味のマイナス金利ではないのだからメディアは不安を煽り過ぎ」との論評も一部で見かけるが、世論の理解度や受け止め方も斟酌した上での「期待に働きかける」政策だったはずである。
「マネーの量を2倍にして2年で物価を2%にする」という「量的・質的金融緩和」(QQE)導入当初の圧倒的な分かりやすさと比べれば(その政策が正しいかどうかは別として)、今回の「マイナス金利付き質的・量的緩和」(QQEN:QQE with a Negative Interest Rate)は複雑すぎて、「期待」への訴求力が弱い。どういった経済主体へ向けて前向きな効果を発揮すると想定したのか、今一つ見えてこない。「期待への働きかけ」によって消費・投資意欲を刺激するという本来的の政策波及ルートはもはや忘却の彼方になっていないだろうか。
■インフレ期待不発で、購買力平価がよみがえる
「期待への働きかけ」が機能不全に陥っていることは為替相場を予測するうえでも重要である。絶対的なフェアバリューの存在しない為替相場において、数少ない信頼に足る理論が購買力平価である。そもそも1990年以降のドル円相場は歴史的に企業物価(PPI)ベースの購買力平価(PPP)を上限に推移してきた。しかし、QQEを中心としてアベノミクスが本格的に取り沙汰された2013年以降のドル円相場は、この上限を突き破り、歴史的にはほとんど経験したことが無いようなドル高円安水準で高止まりしてきた。
この現象について、リフレ志向の強い向きからは「急激な円安はインフレ期待を先回りして織り込んでいるため、過去の経験則は通用しない」との解説が聞かれた。これは要するに「これから物価が上がり、購買力平価のほうが円安になってくるから問題ない」という理屈である。
だが、2016年4月でQQE導入から丸3年を迎える。消費者物価指数(CPI、総合)は昨年12月時点で前年比プラス0.2%であり、食料・エネルギーを除くコアコアベースで見てもプラス0.8%にとどまるなど、いっこうに「2%」の兆しは見えない。
だからこそ追加緩和によって名目金利を押し下げ、インフレ期待を煽るのだ、というのが日銀の主張だろう。そうやって実質金利(名目金利-インフレ率)を低下させることで消費・投資意欲を刺激する、その結果として需給ギャップは縮小して現実の物価を押し上げるという理屈だ。
しかし、そのための「切り札」と思われたマイナス金利への世論の反応は芳しくなく、インフレ期待が煽られているような様子も確認できず、個人預金にチャージがかかるわけではないので、預金から消費・投資へシフトする動きが加速する動きもない。本当に物価の押し上げが進むのかは、にわかには信じられない。
■購買力平価への回帰めざす?
そこで、「物価が上がらない」という前提に立つのであれば、「これから物価が上がってくるから問題ない」との理屈で、購買力平価を大きく外れて進んできた円安相場の持続性にも疑念が持たれる。今、企業物価ベースの購買力平価は1ドル=約100円、OECDや世界銀行の算出する購買力平価は約105円といった水準にある。
なお、1ドル=110〜115円のレンジは2014年10月31日のハロウィン緩和後、一瞬にして突破し、10月31日から約2週間しか取引されていない。しかも、各種物価を用いた購買力平価を算出しても、110〜115円のレンジには目ぼしい節目が存在しない。1ドル=110〜115円のレンジでは、さしたる攻防もなく、市場が思っているよりも早くに1ドル=110円割れの展開になるかもしれない。
事実、今週の相場つきを見ると、115円を割れてから113円に至るまでは非常に速かった。この勢いをもって110円を割り込み、購買力平価めがけて調整する展開は十分考えられる。
筆者は折に触れて購買力平価からの乖離が行き過ぎていることに懸念を示してきたが、市場の中には「購買力平価などは市場予測の世界では役に立たない」と切って捨てる向きもある。しかし、こうして急落が始まると、今までさして購買力平価に注目してこなかった向きがこれを取り沙汰し始める。本当に役に立たないかどうかはこれから分かるだろう。
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