日銀、ECBなど主要中銀、市場への「衝撃」あれど「畏怖」喪失か 2016/02/10 13:22 JST (ブルームバーグ):主要国の中央銀行は量的緩和(QE)を通じ、金融危機が世界恐慌に転じる事態を回避した。しかし、追加の金融緩和策を講じるたびにその効果が薄れていく状況に直面している。 日本銀行が予想外のマイナス金利導入を決め、欧州中央銀行(ECB)は3月に新たな刺激策を打ち出す方針を示唆し、米金融当局は利上げペースを落とすとの観測が広がっている。だが、世界の金融市場を見渡すと、新たな現実が広がっている。 米S&P500種株価指数は9日に1年10カ月ぶりの安値を付け、日本のTOPIXも急落。日本国債10年物利回りは初めてゼロ%を割り込んだ。欧州株も下落。ポルトガル国債利回りが上昇し、ギリシャの銀行株が大幅安となって、欧州債務危機の記憶を呼び覚ました。 日銀とECBによる追加緩和にもかかわらず円やユーロが上昇しているのは、政策の有効性の欠如を裏付ける形となっている。 シドニーに拠点を置くAMPキャピタル・インベスターズの投資戦略責任者、シェーン・オリバー氏は、「過去6、7年にもわたる非伝統的金融政策の実験でも、世界の成長を持続的な形で押し上げるには至らず、最新の措置はどうなるか市場は戸惑っている」と指摘。「過去数週間の出来事を振り返れば、そうした疑問が生じるのももっともだ」と語った。 このような事態の推移の下では、インフレ期待の押し上げやリスク選好の喚起、経済成長促進のためには「何でもする」という中銀の姿勢に対し、反対論が高まる可能性がある。 経済協力開発機構(OECD)経済開発検討委員会のウィリアム・ホワイト議長は9日、ブルームバーグとのテレビインタビューで、「市場が再び機能するようにするため、中銀が取った行動が完全に妥当だったことは最初から全く疑問がなかった」とコメント。その上で、「もっと最近になって、そうした政策の目的は完全に変化し、総需要を刺激しようと努めている。持続可能な方法でそうすることはできないというのが実情だと考える」と話した。 主要国による政策協調を求める声も上がる中、26、27両日に上海で開催される20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議が共同の政策意図伝達の機会となる。ECBのクーレ理事は8日、同会議で「世界的な協調」を協議することになるとの見通しを示した。 元国際通貨基金(IMF)エコノミストでロンドンのSLJマクロ・パートナーズの共同創業者であるスティーブン・ジェン氏は、「中銀による『衝撃と畏怖』という操作の時代は終わった公算が大きい」と発言。「『重力』が中銀の政策を圧倒する年となりそうだ」として、上昇局面での株売りを勧めた。 原題:Markets Signal Central Banks Losing ‘Awe’ Even If They Shock (1)(抜粋) 記事に関する記者への問い合わせ先:東京 藤岡徹 tfujioka1@bloomberg.net; Davos Simon Kennedy skennedy4@bloomberg.net 記事についてのエディターへの問い合わせ先: Christopher Anstey canstey@bloomberg.net Michael Heath 更新日時: 2016/02/10 13:22 JST http://www.bloomberg.co.jp/news/123-O2BCI16JTSEQ01.html
Business | 2016年 02月 10日 15:57 JST 関連トピックス: トップニュース, ビジネス 東京市場は大荒れ続く、日経2日で一時1500円安 長期金利プラスに
[東京 10日 ロイター] - 10日の東京市場は、連日の大荒れとなった。日経平均.N225は一時650円安と2日間の下げ幅は1500円超まで広がった。一方、10年長期金利JP10YTN=JBTCはプラス圏に浮上。ドル/円JPY=EBSは前日安値を下回らなかったものの、世界的なリスク回避が強まる中で、上値の重い展開が続いている。 <日本株、「バズーカ2」後の上昇分失う> 日本の祝日とイエレン米連邦準備理事会(FRB)議長の議会証言を控えているにもかかわらず、様子見商状だったのは朝方だけで、すぐに波乱の展開に戻ってしまった。 日経平均は終値では372円安まで下げ幅を縮めたが、一時は655円安となり、1万5500円を割り込んだ。2014年10月29日以来の水準に落ち込んだことで、日銀追加緩和(同10月31日)後の上昇分をすべて失った格好だ。前日も918円安と大幅安だったが、自律反発には至らず、下値を模索している。 この日も下げの中心となったのは銀行株。メガバンク株は約3年ぶりの安値水準に落ち込んでいる。日欧のマイナス金利政策の副作用が意識される中、市場全体のムードを悪化させており、「海外勢の売りに加え、個人の信用の売りや追証発生に伴う処分売り、さらに機関投資家の投げ売りが出ているようだ。さらに裁定解消売りが拍車をかけている」(国内投信)という。 <長期金利は反転、1日でプラス圏に> 一方、10年長期金利はプラス圏に浮上した。前日は初のマイナスに低下。10日の市場でも、前引けにかけ前日に付けた過去最低のマイナス0.035%を付けたが、後場に入り、金利が急上昇。一時プラス0.015%まで切り返し、引けはプラス0.010%。 市場では「急ピッチで利回りが低下してきた警戒感からポジションを調整する動きがみられる。日銀の国債買入オペで残存期間5年超10年以下がやや甘い結果になったことも影響しているようだ」(国内証券)との声が出ていた。 長期国債先物中心限月3月限の大引けは、前営業日比36銭安の151円89銭と反落。ボラティリティが高くなっており、安値と高値の値幅は76銭となった。 <イエレン発言に注目> ドル/円は上値が重いものの、前日の安値114.20円は下回らなかった。前日、海外市場で日銀によるレートチェックのうわさが広がったこともあり、ドル売り警戒感が下値を支えた。 「一部の海外ファンドが、当局のけん制に対する東京市場の警戒感の高まりを逆手に取って、ドル/円を買い仕掛けた可能性が高い」(国内金融機関)という。 市場の焦点は、10・11日のイエレンFRB議長の議会証言だが、市場がリスク回避に大きく傾いているなかで、センチメントを安定させるような発言をするのは容易ではない。 上田ハーロー外貨保証金事業部長の山内俊哉氏は「3月の追加利上げに前向きな姿勢を示せば米株式市場が崩れるだろうし、慎重な姿勢を示せば米経済の減速懸念につながりやすい」と指摘。いずれにせよドル売りの材料になると予想している。 (伊賀大記) http://jp.reuters.com/article/tokyo-stock-idJPKCN0VJ0EY 日本の通貨当局:「口先介入」で不十分なら次は「レートチェック」か 2016/02/10 15:45 JST (ブルームバーグ):このところの円高進行を受けて、日本の通貨当局がどのような反応を示すかに関心が集まっている。通貨当局は過去何十年にもわたって積み上げてきた経験を基に、広範な選択肢から対応を決めるものと考えられる。 最初に想定されるのはいわゆる「口先介入」で、今年に入り円相場がそのような出来事に反応したケースは少なくとも1回ある。匿名の政府当局者が外国為替市場を注視しているとコメントした後、円安となった1月20日がその例だ。 市場のボラティリティ(変動性)が高まって、口先介入でも不十分と考えられる場合には、日本銀行が為替トレーダーに電話し、対ドルでの現在の円レートの提示を求める「レートチェック」を行うことがある。これは実際の円売り介入の一歩手前の段階で、一方的な取引を避けるよう、トレーダーに一種の警告を発することになる。 日銀が「買い」もしくは「売り」を望むなら、トレーダーからのレート提示に「マイン」または「ユアーズ」と応じて市場に介入する。日銀が単にレートの照会を行っているだけなら「ネバーマインド」か「ナッシング」と応じて、やり取りは終了する。 日本の財務省当局者が既に円相場を取り上げている場合に、レートチェックの臆測が広がるケースが多く、トレーダーに対する日銀からのレートの問い合わせは口先介入を一段と強化したものと受け止めることができる。 日銀は常時トレーダーと接触しており、市場の流れやレートに関する普通の会話はレートチェックとは見なされない。 今週の急激な円高について、麻生太郎財務相は動きが「荒い」と表現。浅川雅嗣財務官は投機的な動きがないか注視していると語った。 米モルガン・スタンレーは、9日の外為市場で1年3カ月ぶりの円高・ドル安となったことを受け、日本の当局が「何らかの口先介入を実施する公算が高まっている」と指摘した。 一方で当局者は、レートチェックを行ったかどうかについては沈黙を保ちたい意向であるため、その有無の検証は困難だ。 原題:When Yen Jawboning Isn’t Enough, BOJ Rate Checks Loom: Primer(抜粋) 記事に関する記者への問い合わせ先:東京 Lily Nonomiya lnonomiya@bloomberg.net 記事についてのエディターへの問い合わせ先:リーディー・ガロウド greidy1@bloomberg.net Daisuke Sakai 更新日時: 2016/02/10 15:45 JST http://www.bloomberg.co.jp/news/123-O2BIFA6JTSE801.html
Business | 2016年 02月 10日 15:38 JST 関連トピックス: トップニュース, ビジネス ドル方向感出ず、イエレン証言控え様子見も
[東京 10日 ロイター] - 午後3時のドル/円は、前日ニューヨーク市場午後5時点に比べドル安/円高の114.52/54円だった。日経平均株価が大幅続落となる中でドル/円の上値も重かった。海外時間にイエレン米連邦準備理事会(FRB)議長の議会証言を控えており、様子見ムードも出たもようで方向感は出なかった。 朝方の取引でドル/円は115円付近を推移していたが、株価が寄り付きから下げを拡大する中、ジリジリと値を下げ、仲値公示を経て前日の安値に迫る114.25円まで下落した。 正午前にはドル/円が114.45円付近から一気に115.15円まで急上昇する場面があった。市場では「一部の海外ファンドが、当局のけん制に対する東京市場の警戒感の高まりを逆手に取って、ドル/円を買い仕掛けた可能性が高い」(国内金融機関)との見方が出ていた。 この局面でのドル上昇は間もなく息切れし、114.60円付近まで押し戻され午前の取引を終えた。実際のドル買いフローはそれほど大きくなかったもようだが、アルゴリズムの影響で値幅が拡大しやすくなっているという。 正午前後からドル/円は114.70円を軸にした小動きとなったが、後場の株価が一時600円超安に下げを拡大すると、ドル/円もいったん114円前半まで下押しした。「株価の下落ペースが速く、ドル/円でも投げが出た」(国内金融機関)という。 株価が大引けにかけ400円安付近に下げを縮めたことで、ドル/円も114円半ばに戻したが、方向感は出なかった。 きょうは海外時間にイエレンFRB議長の議会証言が予定されており、午後には様子見ムードも出たもよう。 米追加利上げ期待が高まり株価が崩れれば、リスク回避が強まってドル/円は上値が重くなりやすい。一方、米追加利上げ期待が後退して株価が崩れない場合でも、米金利が上昇しなければドル/円はやはり頭が押さえられやすいという。「株価が崩れず金利が上がるという展開でなければドル/円の上昇は想定しにくい」(国内金融機関)という。 ドル/円JPY= ユーロ/ドルEUR= ユーロ/円EURJPY= 午後3時現在 114.52/54 1.1296/00 129.37/41 午前9時現在 115.18/20 1.1286/90 130.00/04 NY午後5時 115.13/15 1.1292/97 129.96/00 (為替マーケットチーム) http://jp.reuters.com/article/tokyo-fx-afternoon-idJPKCN0VJ0DJ Business | 2016年 02月 10日 15:13 JST 関連トピックス: トップニュース, ビジネス ユーロと円のベア戦略誤算、対豪ドルで金利差影響せず [シドニー 10日 ロイター] - 日銀がマイナス金利を導入し、欧州の利回りも一段のマイナスとなるなか、円やユーロを売って、高利回りの豪ドルを買うのは理にかなった行動のように見える。しかし、最近の為替相場はこれとは真逆の動きを示しており、金利差だけが相場の決定要因ではないことが鮮明になった。 豪ドル/円AUDJPY=Rはこの6営業日で6円近く下落し、今や2012年安値が視野に入っている。ユーロは1ユーロ=1.6100豪ドルEURAUD=R付近で推移し、この2週間で10豪セント上昇している。 背景にあるのは経常収支だ。経常収支は外為市場では軽視されがちだが、リスク警戒感が高まっている時期は影響力が強まることが多い。 コモンウェルス銀行(CBA)のチーフ外為・金利ストラテジスト、リチャード・グレース氏は「経常収支は金利差よりも、為替相場の重要かつ長期的な決定材料だ」と指摘。「金利変動や、金利差と比べると、地味ではあるが、陰で影響していることがある」などとしている。 直近データによると、ユーロ圏の経常収支は年3600億ユーロ(約4070億ドル)前後の黒字、日本は17兆円(約1480億ドル)の黒字だ。対照的に、オーストラリアと米国は赤字となっている。 <豪ドルに下落余地> アナリストらは、経常収支効果は当面は続く可能性がある、との見方を示している。豪ドルは、市場の緊張感が高く世界経済をめぐる警戒感が強い局面に売られがちなコモディティ通貨であり、先行きは暗い。 ウエストパック銀行のシニア通貨ストラテジスト、ショーン・キャロー氏は「世界のリスク許容度全般について弱気であるならば、豪ドルにはさらなる下落余地がある、ということになる」となどと指摘した。 *見出しを修正します。 http://jp.reuters.com/article/australia-fx-deficit-idJPKCN0VJ0BJ 円全面高、世界景気懸念で対ドル114円台−イエレン議長の証言見極め 2016/02/10 15:48 JST (ブルームバーグ):10日の東京外国為替市場では円が全面高の展開となり、対ドルでは再び1ドル=114円台に水準を切り上げて推移した。世界経済の悪化懸念を背景に、リスク回避に伴う円買い圧力が強まった。 午後3時47分現在のドル・円相場は114円71銭付近。円は南アフリカランドを除く主要通貨に対して前日の終値から上昇しており、対ドルでは朝方に付けた115円26銭から一時114円26銭まで水準を切り上げた後、115円台に戻す場面も見られたが、円の下値は限定的だった。前日の取引では一時114円21銭と、2014年11月以来の水準までドル安・円高が進んだ。円は対ユーロでも買われ、前日に一時1ユーロ=128円28銭と1月27日以来の高値を付けた。同時刻現在は129円55銭付近で取引されている。 ロイヤル・バンク・オブ・スコットランド(RBS)の平野淳外国為替営業部長は、「マイナス金利も銀行セクターへの負の影響がクローズアップされ、株や債券、為替とクロスマーケットでボラティリティが上がってしまって、落ち着きどころが見えない状況になっている」と指摘。「 株安と円高が負のスパイラルに入り、ドル・円はテクニカル面からも下値リスクが高まっている」とし、「ひとまずは112から113円までの下落リスクを意識しておきたい」と言う。 午前の取引でドル・円相場が114円台前半から115円台まで値を戻した局面では、日本銀行が民間銀行に為替水準を聞き取りするレートチェックが入ったとの観測も出たが、市場では否定的な見方が優勢だった。SMBC信託銀行金融商品開発部のシニアマネジャー、シモン・ピアンフェティ氏は、「聞いた限りでは、レートチェックはなかったようだ」とし、「中国の春節休暇中で、市場はかなり薄い」と話す。 また、クレディ・アグリコル銀行の斎藤裕司外国為替部長は、「ウェブサイトにレートチェックに関する記事が出たもようで、アルゴリズム取引がそれに反応した可能性はある」と分析。「ちょうどドル・円が上がり始めた時だったこともあり、市場は非常に神経質になっている」と言う。 9日の米国株式相場は、主要3株価指数がそろって下落。米国債相場は上昇し、10年債利回りは一時1.68%と、15年2月以来の低水準を付けた。この日の東京株式相場は日経平均株価が反発して取引を開始したものの、下げに転じ、午後の取引で前日終値からの下げ幅が一時600円を超えた。結局、372円05銭安の1万5713円39銭と終値としては14年10月30日以来の安値で引けた。 大和証券投資戦略部の今泉光雄チーフ為替ストラテジストは、「世界的な景気悪化懸念オペレーション」になっていると指摘。「リスクオフに伴う円高を期待した投機的な円買いの動きに傾いている」と話す。 FRB議長証言を見極め この日の米国時間には、連邦準備制度理事会(FRB)のイエレン議長が下院金融サービス委員会で証言する。 みずほ証券の金岡直一FXストラテジストは、外部環境のリスク要因はこれまで中国経済と原油相場だったが、足元では欧米の信用不安が不確実要素として増えてしまっていると説明。イエレン議長が新たなリスクを加味した発言をした場合は、「3月利上げのハードルが上がる」とし、市場に対してハト派的なメッセージとなって、ボラティリティの沈静化につながる可能性もあるとみる。 http://www.bloomberg.co.jp/news/123-O2AYHF6K50Y201.html 2016年2月7日: Vol.351
テーマ:政府・日銀のリフレ政策の経過と方向 〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・ HP: http://www.cool-knowledge.com/ 無料版の登録/解除: http://www.mag2.com/m/0000048497.html 有料版の登録/解除: http://www.mag2.com/m/P0000018.html 感想/連絡:yoshida@cool-knowledge.com Systems Research Ltd. 吉田繁治 42551部 こんにちは、吉田繁治です。前回の<『2020年 世界経済の勝者と 敗者』を読む>に書いたことについて、普段より多い質問とご意見 をいただいています。関心に強いテーマだからでしょう。 共通の質問も多いので、質問と回答の特集号を送ることにします。 それぞれに、本格的な回答が必要なので、全部の質問には答え切れ ていません。追々、書きます。 『2020年 世界経済の勝者と敗者』は、ノベール賞経済学者クルー グマンと内閣官房参与の浜田宏一氏の対論をまとめたものです。両 氏は、日本政府と日銀に、インフレ目標と異次元緩和を提唱してい ます。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ <Vol.351:『2020年 世界経済の勝者と敗者』を読む ・・・質問と回答の特集号> 【目次】 1.日本の世帯貯蓄率について 2.国債は、次世代に残す金融資産ではないかという説について ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ■1.日本の世帯貯蓄率について 浜田宏一氏は、同書の中で、「日本では物価が下がるというデフレ 予想から、お金にしがみつき、経済の成長を阻害している。政府が インフレにもって行けば、お金を使うように変わる」と言っていま す。 クルーグマンと浜田氏を含む「リフレ派」に共通する主張です。先 行きの物価が下がるという予想が行き渡っていると、人々は、消費 を先延ばしにして(=所得から貯蓄し)、経済は不況になるという のが、リレフ派のいうマネー増発策の理論的な根拠になっています。 【リフレ派の主張】 「インフレ目標」が効果を生んで、物価が上がるという予想に変わ ると(インフレ期待)、貯蓄(=消費の将来への先延ばし)を減ら して、所得から多くを使うようになる。 そうなると需要が増えて、経済は活性化する。消費は企業の売上だ から、売上が増える企業の利益は、増える。企業利益が上がると雇 用が増え、賃金も上がるという好循環になって行く、というもので す。 【異なる事実】 これに対して、当方は、家計が消費をしないで貯める貯蓄率が 2010年からは、可処分所得に対し0%からマイナスになっている (国民経済計算の世帯の貯蓄)。2000年代から平均所得が減ってき た日本の世帯は、すでに、貯蓄以上に消費している。 「お金にしがみついている」という立論は、誤りである。誤った前 提から導いたリフレ策は、掛け違ったボタンのように、結論でも間 違えることを示しました。 【質問の骨子】 読者の方からの共通の質問は、貯蓄率は、経済の当年度のフロー (商品とマネーの流れ)であり、過去から貯めてきたストック(貯 蓄額)ではない。高齢者を中心に、わが国の貯蓄額は多いので、そ れを「お金にしがみつく」と表現したのだろう。高齢者世帯が、貯 蓄を崩して使えば、需要は増えるという主旨のものでした。 この質問に答えるには、若干長い論証が必要です。世界中で、まだ、 この議論は登場していないからです。本稿で試みます。 ▼論理的な回答 【高齢世帯の収入と支出】 まず高齢者(世帯主が65歳以上を言います)の世帯の、家計の収入 と支出から見ます。(総務省統計局:高齢者の家計)。多くが定年 退職し、年金世帯になっているのが65歳以上です。 〔高齢の世帯の家計収支(65歳以上で無職)〕 2005年 2007年 2009年 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 収入 23.1万円 22.9万円 22.7万円 支出 26.8万円 27.6万円 27.1万円 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 不足 -3.7万円 -4.7万円 -4.4万円 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 http://www.stat.go.jp/data/topics/topi482.htm 平均で23万円くらいの収入のうち90%(20.7万円:夫婦)は年金で す。平均消費支出はほぼ27万円で、毎月4万円くらい不足します (注)別の統計では、5万円不足です。各統計には誤差があります。 2009年までのデータですが、2016年現在も、ほぼ同じです。この高 齢世帯の収入のうち、87.6%(19.9万円)が2人の合計年金です。 【年金収入が90%】 年金がほぼ90%を占める収入である高齢世帯でも、1カ月に30万円 くらいの消費支出が必要であり、不足する約5万円が預金の取り崩 しであると記憶しておいていいでしょう。 総世帯数の1/3に増えた年金世帯は、収入以上に消費をし、預金を 崩しています。これは世界で普通のことであり、特殊ではない。 経済学では「ライフサイクル仮説」と言っています。(注)年金制 度がなかった時代は、3世代同居が生活方法でした。 2010年代は、この年金世帯の増加により、総世帯の合計貯蓄率も、 ゼロかマイナスになっています。 【貯蓄率ゼロは日本だけ】 先進国で世帯の貯蓄率ゼロは、高齢化が先頭の日本だけです。所得 以上にローンで消費するとされていた米国も、08年のリーマン危機 以降は、可処分所得に対する貯蓄は5%に増えています(2014年)。 社会福祉が充実しているスウェーデンの世帯貯蓄率は、15%と高い。 社会保障が十分なら、現役世帯は安心して使うので、貯蓄率が下が るという通説は、北欧については違っています。 【高齢世帯の貯直額】 高齢世帯(2人以上)の貯蓄額は、以下の推移です。平均値と中央 値を示します。平均値は、少数の人が1億円以上の貯蓄額だと、底 上げされます。 金融資産は、所得より格差があるため、中央値が必要です。これも 2009年までですが、2016年もほぼ同じです。退職後に金融資産が増 えるは、退職金によります。 2005年 2007年 2009年 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 平均値 2484万円 2481万円 2305万円 中央値 1615万円 1626万円 1502万円 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 2005年に比べて平均貯蓄が179万円減っていますが、預金の取り崩 しと、2009年はリーマン危機の波及で株価が下落していたからです。 株価は、現在は当時の2.1倍に上がって回復しているので、世帯預 金は増えていませんが、高齢世帯の金融資産では、前年比で100万 円は増えたようになっています 平均で2305万円(09年)である高齢者の金融資産は、以下です。 預貯金1461万円、生命保険433万円、有価証券(株式)401万円。 生命保険は基金であり、死亡か傷病のときの給付です。生活費とし て使えるものとは性格が違います。使える金融資産は、預貯金の 1461万円、有価証券の401万円、合計で1862万円でしょう。 問題は、この1862万円は多い金融資産か、少ないかです。 基準はどこに求めるべきか。いつまで使えるか、でしょう。 上記のように、平均世帯では1ヵ月に5万円くらいの不足があり、現 役時代に貯めてきた預金が、崩されています。 65歳後の平均余命は、男性が19年、女性が24年です。奥さんだけに なっても先行き24年間は、預金を崩す必要があるでしょう。夫が亡 くなると、その後は遺族年金になって、ほぼ3/4に減額されるから です。 〔1ヵ月5万円×12か月×25年=必要額1500万円〕です。 平均で言えば、〔使える金融資産1862万円─1500万円=362万円〕 です。362万円が、子孫に残す金融資産の遺産になるでしょう。 ただし金融資産額の中央値(もっとも世帯数が多い)で言えば、生 命保険(約400万円)を引くと、使える金融資産は1100万円です。 65歳以上の人がいるのは、2012年で2093万世帯(4817万世帯のうち 43.4%)です。65歳以上の人口は、2014年で2383万人、総人口に占 める割合は25.9%です。人口の4人に1人が65歳以上です。2035年に は65歳以上が3741万人(総人口の33%)に増えます。 http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa10/1-2.html http://www.stat.go.jp/data/topics/pdf/topics84.pdf 【預金取り崩しで、いつまでもつか】 金融資産が中央値の場合、毎月平均5万円の取り崩しは、〔1100÷ 5万円=220ヵ月(18年)で枯渇します。男性年齢が83歳のときです。 以上が「豊富だ」と言われる、わが国の高齢者貯蓄の実態です。 改めて計算してみれば、余裕がある金融資産とまでは言えせん。 余裕があるのは、金融資産で退職金が多い上位15%(6世帯に1世 帯)でしょう。6世帯のうち5世帯では、先行きの預金が不足します。 【年2%のインフレの継続を考慮に入れると】 ここで、インフレを考慮に入れてみます。リフレ派は、将来にわた って2%のインフレが必要と主張するからです。 平均余命を、女性の24年とします。中央値は12年です。〔1.02の 12乗=1.27〕です。リフレ派の主張をたどれば、12年後の物価は、 今の1.27倍です。 【1世帯あたりの年金支給額は、増やせないだろう】 高齢者世帯の年金が、政府の財政赤字の圧力から、インフレで増え るとは想定できません。インフレ調整があっても、おそらく、ごく、 わずかです。 世帯の平均支出の27.1万円は、上がる前と同じ品質と量の商品を買 う場合、34.4万円に増えざるを得ません。ところが、平均の年金支 給額が増えない場合、世帯収入は22.7万円のままでしょう。 このため預金の取り崩し額は12年後に、〔インフレで増えた支出 34.4万円─世帯収入22.7万円=11.7万円〕に拡大するでしょう。消 費数量の増加によってではない。物価の上昇によって、です。 平均余命は、その先も12年あります。2%のインフレが恒常的にな れば、現在に比べた24年後の物価は、1.02の24乗=1.6倍です。 高齢世帯が現在と同じ商品量を買えば、〔27.1万円×1.6倍=43.4 万円〕に必要な支出が膨らむことを示します。預金の取り崩し額は、 1か月で20万円、12年で1728万円相当になります。 ◎以上から、わが国では、2%のインフレが恒常的になった場合、 現在の高齢者の金融資産は、上位の世帯でも不足することになりま す。 ▼2.リフレ派の理論は、日本では適用できない 以上から論理的に言って、「インフレなれば、世帯はより多く支出 する」というリフレ派の前提(理論)は、年金世帯が1/3を占める ようになっているわが国では、当てはまらないと見ています。 【物価が上がると、逆に、消費が縮小する可能性が高い】 物価が上がるようになると、年金が収入の90%を占める高齢世帯は 「今のまま使えば、生きているうちに預金がなくなる」という将来 の不安から、今買っているものより、安いものを探して買い、消費 支出を抑制するようになることが想定できるからです。 (注)事実、高齢世帯では、男性の84%、女性の88%が、将来の生 活に不安があると答えています。意識の上で十分な金融資産がある と考える世帯は、15%(6世帯に1世帯)くらいと想定できます。 (2013年度 生活保障に関するアンケート) 年金額を増やすことは、総世帯数の2/3の現役世帯の、税負担と社 会保険料の負担を増やすことになるので、それは政治的にも経済的 にも無理です。 クルーグマンと浜田氏を旗手とするリフレ派の基本主張は「物価が 上がれば、世帯は消費支出を増やし、企業の売上は増える」という ものです。 このリフレ理論は、金額が増えない年金で生活する世帯が3世帯に 1世帯になった日本では、当てはまらないものに思えます。 過去の経済現象から組み上げるしかない経済理論は、世界で先頭を 走る日本の社会を想定していません。あらゆる理論は、過去の現象 から導かれたものです。人間には、この方法しかない。未来は事実 ではないからです。 リフレ派の主張の誤りは、世帯消費の減少として明らかになりつつ あります。誤った主張は修正すべきでしょう。政府と日銀は、以上 に対して、どう回答するでしょうか。 【2人以上の世帯の家計収支】 下に示すのは、2013年4月からの異次元緩和以降の、総世帯の名目 収入、名目消費額、実質消費(買われた商品数量)の前年比です。 2%のインフレ目標を設定した異次元緩和の後の消費は、実は、減 っています。 政府は、少し先になり脱デフレがはっきりし、インフ予想になると 消費額は増えると言っていますが、疑問です。 所得が増えていないという理由で、消費が増えていないからです。 消費税が上がった分(消費者物価では、非課税があるので2%分)、 消費額が減っています。 2013年 2014年 2015年10月 15年11月 15年12月 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 名目収入 1.0% -0.7% -0.6% -1.4% -2.7% 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 名目消費 1.5% 0.3% -2.1% -2.5% -4.2% 物価上昇 0.5% 3.4% 0.3% 0.4% 0.2% 実質消費 1.0% -2.9% -2.4% -2.9% -4.4% 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 (注)名目は物価上昇を含む金額です。これが、企業の消費財の合 計売上に相当します。実質は、買われた商品の物価上昇を引いたも のです。世帯が購入した商品数量と理解してください。消費者物価 上昇(CPI)の全体とは、若干の差異があります。以下のサイトか ら集計しました。 http://www.stat.go.jp/data/kakei/sokuhou/tsuki/index.htm 政府は、政府自身が集計した以上のデータを、取り上げて論じよう とはしません。安倍内閣になって、なぜか政府寄りが増えたメディ アも、反政府になるのでこのデータを取り上げません。(注)家計 簿を細かく記録する家計消費のデータには、高齢世帯のものが多い という言い訳がされることが多いのです。 ■2.国債は、次世代に残す金融資産ではないかという説について 【質問】 国債は、政府の負債証券であるが、それは持ち手(95%が金融機 関)にとって金融資産である。国民は、銀行へ預金や生命保険の基 金を通じて、間接的に国債を保有している。国債は、次世代に残す ことができる金融資産でもあるので、問題にはならないのではない か。 【回答】 これは、リチャード・クー氏も言っていたことです。国債は、確か に持ち手にとっては、貸付証券という金融資産です。子孫に遺す相 続もできます。 政府の借金も将来に残るものですが、同額が金融資産になるので、 問題ではないというものです。 ◎しかし国債は、政府が将来も利払いができ、償還できるという信 用がある限りにおいて、有効な金融資産です。 国債の金額が、国民経済(GDP)に対して利払いができ償還ができ る範囲のものであるとき、有効な資産ということです。 利払いと償還が困難になるくらい政府負債の累計が大きくなると、 その国の国債は、 (1)まず「値下がり(国債金利の上昇)」になり、 (2)次に、下がる国債の買い手がなくなって、「暴落」します。 ◎国債を含む証券は、「額面金額やそれに近い価格で買い手があ る」という価値です。株券の価値も同じであり、「株価は、その価 格での買い手があるからその価値」という性格をもちます。 以下のように言えます。 【結論】 (1)国債は、政府に、償還できるという信用があるとき、価値を もつ金融資産である。 (2)政府の、将来の利払いと返済が困難と見られるくらい国債の 額が大きくなると、発行額面での買い手が消えるため、金融資産と しての価値は、下がって行く。 以上から、国民経済(GDP)に対して大きすぎる国債は、その価値 が問題になって行きます。現在、わが国の政府負債は、GDPに対し て2.4倍(1200兆円)です。このうち、国債は1000兆円くらいです。 あとは借入金です。 政府財政が赤字なので、毎年、30〜40兆円の国債が増えて行きます (年率増加3〜4%)。これが、いつ、「もうこれ以上になると、政 府は返せないだろう」と、買い手から認識されるかどうか、です。 国債の価値はそこまで、です。 名目GDPの増え方が2%未満と小さいか、マイナスの場合、早晩、問 題になって行きます。 【後記:新刊書】 『膨張する金融資産のバラドックス』:吉田繁治著:¥1944 http://www.amazon.co.jp/gp/product/482841858X/ref=s9_simh_gw_p14_d1_i1?pf_rd_m=AN1VRQENFRJN5&pf_rd_s=desktop-1&pf_rd_r=0BRPYVFC8KRB6YEPXCD9&pf_rd_t=36701&pf_rd_p=263612849&pf_rd_i=deskt
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