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2月5日に行なわれた国家戦略特別区域諮問会議(「首相官邸 HP」より)
政府、国民の目を欺き「税をかすめ取る」憲法違反行為…人々のお金が目減り、国は利益
http://biz-journal.jp/2016/02/post_13717.html
2016.02.10 文=筈井利人/経済ジャーナリスト Business Journal
1000兆円を超す日本政府の膨大な借金(大部分は国債)がニュースで報じられるたびに、一部のエコノミストや経済学者は「危機感を煽りすぎ」「増税をもくろむ財務省の意図を感じる」などと批判する。
彼らによれば、政府の借金の負担は、増税以外のある方法によって軽くすることが可能だという。それは「インフレ税」である。
仕組みはこうだ。政府はお金を発行する特権を持っているから、お金を大量に発行して国債の利子や元本の返済に充てればよい。
ただし、お金を大量に発行すれば、他の条件が同じなら物価は上昇する。これは国民が保有するお金の価値が、実質目減りすることを意味する。同じ額のお金で買える物が少なくなってしまうからだ。
国民からみれば、インフレ(物価上昇)によって、税金を取られたのと実質同じことになる。だからインフレ税と呼ぶのである。
実はこのインフレ税、すでに始まっている。中央銀行である日本銀行が金融緩和政策の一環として、民間金融機関を通して年間80兆円規模の国債を買い入れているからである。
日銀は自分でお金を発行でき、お金に利子を払う必要はないから、資金調達のコストはゼロだ。一方、国債には利子がつくから、それがまるまる利益になる。日銀はこの利益を「国庫納付金」として政府に納めている。
日銀は政府と別組織になってはいるが、結局は政府の一部である。だから全体でみれば、政府はお金を発行することにより、濡れ手で粟で国債利子分の利益を手に入れたことになる。この利益がインフレ税であり、通貨発行益(シニョリッジ)とも呼ばれる。
インフレ税で国債の利払いは相殺されて実質ゼロになるから、少なくとも短期では一部エコノミストの言うとおり、普通の増税に頼らず借金の負担を軽くできる。
たとえば元財務官僚でエコノミストの橋洋一氏は「短期間での猛烈なインフレは困るが、それを生活に支障がないマイルドインフレに直せば、財政再建ができる」とインフレ税を推奨する。お金を刷るだけで済むのだから、やらない手はないと賛同する人も少なくない。
■租税法律主義をないがしろ
しかし、インフレ税は重大な問題をはらんでいる。
国民から税金を取る場合は、議会の制定した法律に基づかなければならない。これを「租税法律主義」という。税金は国民に対して直接負担を求めるものだから、必ず国民の同意を得なければならないという原則である。古くは13世紀英国のマグナ・カルタ(大憲章)に遡る、近代国家の根幹をなす憲法原理である。
いうまでもなく租税法律主義は、日本国憲法にも定められている。「あらたに租税を課し、又は現行の租税を変更するには、法律又は法律の定める条件によることを必要とする」と述べた第84条がそれだ。
具体的に法律で決めなければならない事項は、納税義務者、課税物件(何に課税するか)、課税標準(所得金額など税額算定の基礎)、税率、賦課・徴収の手続きなどである。
さて、インフレ税はこれらの要件を定めた法律が、国会で制定されているだろうか。もちろん、ない。
日本の場合、上述のようにインフレ税は日銀の国債買い入れによって実現している。しかし少なくとも建前上、日銀はインフレ税を稼ぐために国債を買っているわけではない。あくまでも金融政策の手段にすぎないとしている。だからインフレ税を定めた法律に基づいてやっているわけではないし、そのような法律もない。
それ以前にインフレ税は、法律で要件を定めようとしても、ほとんど不可能である。納税義務者はお金を保有する人、課税物件はお金だとしても、税率を定めるのは無理である。
物価はすべての商品が同じ率で上がるわけではないから、人によって影響が異なる。つまり、人によって税率が異なることになる。しかもそれが何%かはっきりしない。
賦課・徴収の手続きに至っては、そもそも手続きが存在しない。国民は手持ちのお金の価値が、インフレでいつの間にか減っているのに気づくだけである。適正な徴税手続きの観点から、とうてい許容されないだろう。
ようするに、インフレ税は憲法で定める租税法律主義を満たしていないし、満たすこともできない。近代国家の原則に反する、憲法違反の「税」なのである。
したがって、日銀の国債買い入れによる事実上のインフレ税は、一部エコノミストのように推奨するどころか、厳しくいえば違憲行為としてすみやかに中止しなければならない。
■普通の税よりもたちが悪い
こうした意見に対しては、インフレ税を支持する人々から「お前は普通の増税を支持するのか」という非難が予想される。しかし、それは矛盾でしかない。普通の税もインフレ税も、税であることに変わりはないからだ。
むしろ税率や手続きが不透明で、国会で審議もされないインフレ税は、普通の税よりもたちが悪い。有権者の反発を受けにくいため、政治家に増税の抜け穴として利用される恐れがあるし、事実利用されている。
また、「インフレ税が脱デフレに役立ち経済にプラスになるのなら、禁止するべきでない」という意見があるかもしれない。そもそも脱デフレが経済にプラスになるのかという疑問があるが、かりにプラスだとしても、インフレ税を正当化する理由にはならない。普通の税は、どんなに望ましい目的であっても、国会の承認を受けている。
現実には日本に限らず、近年先進国の多くは中央銀行を通じた同様の国債買い入れなどでインフレ税を稼いでいる。批判はあるものの、残念ながら少数意見にとどまる。しかしだからといって、国民の目を欺いて見えない税をかすめ取る政府の行動が正しいということにはならない。
(文=筈井利人/経済ジャーナリスト)
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