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中国「爆買い禁止令」の衝撃 〜習近平「日本が潤うのをやめさせろ!」 日本旅行が理由で失脚することも
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/47736
2016年02月08日(月) 週刊現代
中国経済の急減速が、ついに日本経済にも影響を及ぼし始めた。春節に起こる「異変」を、東京・北京発で二元レポートする。
■習近平政権が突然の制度変更
1月27日、東京・銀座の「三越銀座店」8階に、売り場面積約3300m2という巨大な免税店『Japan Duty Free GINZA』がオープンした。
三越が改装工事を急いだのは、一にも二にも、2月8日の春節(旧正月)に間に合わせるためだった。春節の大型連休中に、中国から押し寄せる「爆買いツアー」を当て込んでいるのである。三越伊勢丹ホールディングスの広報担当者が語る。
「中国人旅行者の買い物客が多い銀座店と新宿店では、外国人売り上げ比率がそれぞれ2割強、約1割と伸びています。一昨年10月に、日本で化粧品が免税対象品になったことも大きく、銀座店では売り上げが3・3倍に伸びました。春節の中国人旅行者のリピーターには大いに期待しています」
3月には、銀座の数寄屋橋交差点に面した「東急プラザ銀座」もオープンするが、こちらの目玉も、8階と9階をブチ抜いた巨大な免税店だ。
思えば、昨年(2015)の春節には、中国人旅行者が銀座通りを「占拠」した。本誌記者も、1000万円を超す宝玉や、666万円の福袋などを、次々に「爆買い」していく中国人たちを目撃し、圧倒されたものだ。
昨年、海外旅行に出かけた中国人は延べ1億3500万人と、日本の総人口を上回った。うち日本へは、前年比207%の499万人も訪れている。これは日本を訪れた外国人旅行者の25%にあたる。日本での消費額で見ると、全外国人の5割近くを占めたという推計もある。
ところが今年に入って、中国国内を取材すると、「異変」が起こっている。習近平政権が「爆買い」を阻止する措置に着手し始めたというのだ。在北京ジャーナリストの李大音氏が解説する。
「中国の出入国管理法は、一般国民にパスポートを支給するようになった'90年代半ばに制定されました。それによると、一人5000米ドル以上の海外への持ち出しを禁じていますが、そんな20年も前の法律は、これまで有名無実化していた。それをこの1月から、空港で厳格に検査するようになったのです。
海外での『爆買い』に関しても、帰国時の空港で厳格にチェックし、どんどん課税していく。つまり、いくら海外で免税品を買っても、中国に持ち込む際に高額の課税をされる可能性があるわけです。
習近平政権としては、経済が急速に悪化していく中、もう1元たりとも海外に持ち出してほしくない、海外で消費してほしくないということです」
■日本を誉めるのも許さない
元安が急激に進み、資本の流出が止まらない。そんな中、新たな法律も準備中だという。
「それは、年間10万元(約180万円)以上の買い物を海外でしてはいけないという法律で、いわば『爆買い禁止令』です。早ければ3月の全国人民代表大会に提出されて成立する見込みです」(同・李氏)
習近平政権が突如として「爆買い禁止令」に踏み切った理由は、他にもあるという。中国共産党関係者が解説する。
「安倍晋三内閣は暮れの12月24日、'16年度予算案を閣議決定したが、防衛予算は前年度比1・5%増の5兆541億円と、初めて5兆円の大台を突破した。しかも一番手厚く増やすのが、中国の脅威に対応する島嶼防衛予算だという。
つまり、中国人が日本で『爆買い』したカネが、わが国への銃砲に使われるということではないか。日本軍国主義の復活を、わが国民が手助けしているようなものだ。習近平主席は、そのことに怒り心頭で、『中国人なら中国の物を買って使えばいいだろう』と述べている」
「爆買い」イコール「尖閣防衛費」とは、何とも短絡的な発想だが、これが「中南海」(中国共産党最高幹部の職住地)の空気というものかもしれない。
北京のある旅行代理店の海外旅行担当者も証言する。
「当初は、中国で蔓延しているPM2・5の公害が日本にないことから、『洗肺遊、日本藍』(肺を洗う旅、ジャパンブルー)というキャッチフレーズで日本旅行を宣伝していました。ところが内部で『敵国を誉めるとは何事か』という批判が出て、『避寒遊、説走就走』(避寒の旅、思い立ったらすぐ行こう)という東南アジア向けの宣伝に変えたのです。
バリ島があるインドネシアはビザ免除、シンガポールは10年ビザ、タイとベトナムも昨年11月に、ビザの大幅緩和に踏み切った。つまりビザ取得が面倒くさくて寒い日本よりも、温かくてすぐに行ける東南アジアに行こうというわけです。
実際、日本円のレートが1年前に較べて1割近く悪化していることや、日本のホテル代高騰で、日本ツアーが1万元(約18万円)を超えるようになったことも関係し、春節の書き入れ時に、日本旅行はそれほど伸びていません」
中国国際航空の関係者も続ける。
「習近平主席が主催した昨年9月の抗日戦争勝利70周年の軍事パレード以降、テレビの抗日ドラマが全盛で、『日本旅行は素晴らしかった』などと自慢しにくい雰囲気があります。中国人は海外の現地から『微信』(WeChat)で友人たちに自慢するのが大好きなので、そうした雰囲気に呑まれて、日本に行く気がしなくなるわけです」
確かに中国でテレビのチャンネルを捻ると、『殺寇決』(倭寇を殺す決戦)『我的鉄血金戈夢』(我が鉄血の金の戈の夢)……と、ものものしいタイトルの抗日ドラマのオンパレードである。
そしてそれらのストーリーはと言えば、残忍な日本兵が無辜の中国人たちを惨殺し、最後は中国共産党が悪の日本軍を駆逐するという、ワンパターンの勧善懲悪ドラマだ。
北京テレビのディレクターが証言する。
「これまでは『穿越劇』(タイムスリップ・ドラマ)と呼ばれる、主人公が過去と現在とをタイムスリップする冒険ドラマが大人気でしたが、習近平政権の意向で、今年からこの手のドラマが放映禁止となりました。
その他にも、(習近平政権のキャッチフレーズである)『中国の夢』をドラマのテーマにしろとか、服や小道具は国産品を使えといった制約が多いのですが、抗日ドラマだけは事実上、検閲がない。そのため、検閲でお蔵入りになるよりはマシということで、抗日ドラマばかりになってしまうのです。
わが局では、抗日ドラマ以外のドラマもやろうということで、習近平主席がファンだという女優・孫儷(スンリー)を主役に抜擢した秦朝のドラマ『月伝』を昨年暮れから放映し、大ヒットしました。中国人も正直、抗日ドラマを見飽きているということでしょう。
それでも孫儷(スンリー)は、資生堂のキャンペーンガールをやっていることを気にしてか、ギャラの約1割を、恵まれない人のための施設に寄付したと聞きました」
■もう「並買い」しかしない
中国では昨年末、習近平主席の命令で、8800万人の共産党員全員が、各支部の党の集会で、一年間の『自己批判』と『他人批判』を行うことを強要された。
習近平主席は12月28日と29日に党中央政治局会議を招集し、共産党の「トップ25」も批判を展開。習近平主席と李克強首相を除く23人が自己批判する様子が、中国中央テレビのニュースで放映された。まるで1960年代の文化大革命を髣髴させるような嵐が吹き荒れているのである。
中国のある大手国有企業の幹部が、昨年末に社内で起こった「内部事情」を吐露する。
「わが社の共産党の集会では、『私は贅沢な日本旅行を楽しんでしまいました』『○○さんは日本旅行で買ってきた高価な物を自慢していました』などと、日本に関する批判が相次ぎました。
そして、今後の反省として、『これからは日本ではなく、中国共産党の革命の聖地を旅行します』『日本へ行って高価なショッピングを楽しむという人が周囲にいたら注意します』などと決意表明したのです。
かくいう私も、実は2月に、家族でさっぽろ雪まつりツアーを予約していましたが、キャンセルして、実家に戻ることにしました。子供には怒られましたが、日本旅行が理由で失脚するのは嫌なので、仕方ありません」
習近平主席は'12年暮れに、「八項規定」という贅沢禁止令を発令。「トラもハエも同時に叩く」として、大々的な腐敗防止キャンペーンを始めた。今年1月12日には6回目の党中央紀律検査委員会全体会議を開き、「鉄を打つには自らも硬くないといけない」として、腐敗防止キャンペーンの継続を宣言した。
1月19日に、世界が注視した「'15年の中国の経済成長」を発表したばかりの王保安国家統計局長も26日、「重大な汚職の嫌疑」で摘発されてしまった。
こうした厳しい引き締め策も、やはり経済の悪化と無関係ではない。
「今年は、破綻した国有企業や民営企業を淘汰する『1000万人リストラの年』になるでしょう。これまで国民は株で収入を補?してきましたが、いまや上海総合指数は、危険ラインの3000ポイントを大きく下回って2700台に突入。生活が逼迫して、海外旅行を楽しんでいる場合ではなくなってきているのです」(前出・李氏)
昨年、中国人の「爆買い」で最も儲けたと言われた総合免税店「ラオックス」本社経営企画部のIR広報担当者も語る。
「今年の春節には、昨年のような高額の福袋は置きません。中国人のお客様が高価なものより、安価な日用品を好む傾向が強まっているからです」
「爆買い」から「並買い」へ。それでも日本に来てくれるだけありがたい。ショッピングに加えて、「一度訪日した中国人は親日派になる」と言われるからだ。
だが習近平政権の強烈な引き締めによって、そんな中国人は減り、日本に落ちる「爆買いマネー」も激減することが予想される。習近平の「爆買い禁止令」が日本経済に与える影響の大きさについては、回を改めて述べよう。
つづきは明日公開
「週刊現代」2016年2月13日号より
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