FX Forum | 2016年 02月 8日 16:42 JST 関連トピックス: トップニュース コラム:マイナス金利でも円安進行は期待薄=山田修輔氏バンクオブアメリカ・メリルリンチ チーフ日本FXストラテジスト [東京 8日] - 日銀の「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」導入を受けて、円相場は乱高下している。今年は「円安派」と「円高派」に割れているが、日銀のサプライズ演出後も、二派のバランスは大きく崩れてはいないようだ。 ちなみに、筆者は「円高派」であり、今回のマイナス金利導入決定直後には、ひとまず円高の方向性を維持との見通しを示した。 もちろん、利下げという政策は通常であれば通貨安につながる公算が大きく、マイナス金利で何も変わらないと言い張るつもりはない。だが、以下に示すように、2016年という時間軸では「円高シナリオ」は大きく崩れないと考えている。 <リスクオフの円買いを抑制する効果はあり> 市場で起こった「とりあえず円安」の反応は、金利差拡大のインプリケーションで説明できる。日銀のマイナス金利導入により、短期金利の低下が予想される。また、投資家がイールドを追求する中、長期金利にも低下圧力がかかる。 歴史的に見ると、日米短期金利差とドル円の関係は0.1%ポイントの金利差に対して最大1―2%の変動となっている。日銀の利下げを受けて、金利差が最大20ベーシスポイント(bp)拡大すると推測すれば、1ドル=118円台から121円台という短期的な反応は妥当だ。 「量的・質的金融緩和」の限界が意識され始めている日銀政策が「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」へ移行したことで、確かに緩和余地を与えたし、円はユーロをはじめとするマイナス金利通貨と同じ土俵に立った。リスクオフの局面で、質への逃避フローが円に集中する流れを限界的に抑制する効果はあろう。 ただし、欧州を前例として、「日銀もあと数回利下げを遂行する余地があり、日銀限界説を打ち消す」と、断じるは時期尚早だろう。日本のマイナス金利の費用対効果を見極めるまでは、日銀の現実的な追加利下げの余地は見えてこない。少なくとも、スウェーデンのような欧州小国の金利水準(マイナス1.1%)を、指標と見ることは難しい。 <内需喚起なければ通貨安競争につながる恐れ> 今回の追加緩和の理由について、日銀は原油価格の一段の下落と、金融市場の不安定な動きによりデフレマインドの払拭(ふっしょく)が遅延するリスクを挙げている。為替レートへの直接的な言及はないものの、「金融市場の不安定な動き」とは、特に円高進行を指していると推測される。 マイナス金利が付されるのは、これから積まれる当座預金の一部であるため、実体経済への影響は不確かだが、市場にとっては限界的なコストが重要なので、金利水準には影響する。筆者は黒田プットの水準が1ドル=115円前後であるとこれまで推測してきたが、今回の緩和はそれを再確認させるものである。 しかし、それでも中期的な円安トレンドは再開しないと考える。論拠は以下の通りだ。 まず、今回の利下げが実体経済に大きな影響を与える可能性については、筆者は懐疑的だ。日本の銀行貸出は預金の8割弱にとどまっている。その大きな原因がローン需要の不足にあるとすれば、貸出金利の低下に対してどの程度信用創造が生まれるのだろうか。円高阻止によるインフレ期待低下の抑制効果は見込めるものの、インフレ期待を底上げできるか疑問である。 現に、債券市場で観測される期待インフレ率は上昇していない。為替レートが中期的に下落するには往々にして実質金利差の拡大が必要なため、今回の利下げが継続的な円安トレンドにつながる公算は小さい。 確かに、円金利が低下することで、運用収益には圧力がかかるので、円債から外債をはじめとする他資産へのポートフォリオリバランスのインセンティブは高まるだろう。ただ、昨年後半から収益性より安全性が重要な投資テーマとなっており、円高圧力をかけてきた。積極的なリスクテイクが加速する環境ではないため、「株より債券」「高金利より米債」「ヘッジ無しよりヘッジ付き」と、安全性が優先されるだろう。 また、円安に伴って日本株がいったん上昇しても、今回の緩和により日本の貸出や総需要が底上げされなければ、日本発のリスクセンチメント改善持続は期待しにくい。むしろ、円安が進行することで、アジア通貨に下押し圧力がかかり、通貨安競争に拍車をかけるリスクもある。 昨年後半からの「アジア通貨安、コモディティー安、株安」というネガティブな環境が再現すれば(ドル高に苦戦する米国経済の体力を考慮すれば)、日米金利差にはむしろ縮小圧力がかかることが予想される。 むろん、利下げが通貨安競争につながるか否かは、利下げにより対外的不均衡が調整されるか、拡大するかによるだろう。ただ、相対的に日本経済が安定しており、円が過小評価されている中、日本の需要喚起の効果が薄い利下げは、やはり通貨安競争につながる可能性を秘めているのではないか。 <極端な円高発生時には日銀緊急会合の可能性も> さて、2014年10月の追加緩和に続き、今回も「完全なサプライズ緩和」となったことで、いったん後退していた「黒田日銀はサプライズ狙い」説が改めて確認された。為替レートへの感応度の高さも再確認されており、今後ドル円が115円台に突入、もしくは実効レートがさらに上昇した場合、市場は自然と追加の利下げを織り込んでいくだろう。 サプライズオプションを切ったことで、今後数カ月はサプライズ演出で緩和効果を増幅させるのは難しくなった。「中央銀行に逆らわない」は、14年までの投機筋の掛け声だったが、15年後半から明らかに潮目が変わってきている。その中でのサプライズが果たして短期戦術としても効果的であるかは、議論が分かれるところだろう。 また、付利を引き下げたことで、金融機関が日銀の国債買い入れオペに応じるインセンティブは低下し、日銀の量的ターゲット達成能力が疑われる危険性がある。中銀バランスシートの拡大は金融政策かい離の1つの指標となってきた。国債買い入れが札割れし始めると、日銀の政策フレームワークの不確実性が増加し、リスクセンチメントを冷やす公算が大きい。 加えて、歴史的低水準にある金利をさらに押し下げることで、ボラティリティー急上昇のリスクが高まっている。短期的に金利市場がドル円にとっても大きなリスク要因となろう。 マイナス領域への利下げは今後、日銀が円高に対抗する政策オプションを与えた。しかし、根本的な実体経済やリスクセンチメントへの影響は軽微であると考えられ、持続的な円安トレンドにはつながらないだろう。 また、金利ボラティリティー上昇、金融緩和の持続性、通貨安競争という、ドル円にとってのリスクを強めた側面がある。人民元下落を起点とした「新興国・コモディティー通貨安、原油安」という次元の高い調整圧力に、日本の金融政策で本質的に抗うことは困難だ。円高圧力がかかりやすい構図を転換することは難しい。極論を言えば、「円高派vs円安派」の違いは、日銀うんぬんではなく、外部環境の見方の違いではないか。 プラザ合意のような大規模な政策協調合意がなされなければ、ドル円については当面、引き続き円高リスクが高いし、金利ボラティリティー上昇につられて、ドル円のボラティリティーにも上昇圧力がかかろう。極度な円高が発生する状況では、緊急の日銀金融政策決定会合が開催されるリスクも念頭におきたい。 *山田修輔氏はバンクオブアメリカ・メリルリンチのチーフ日本FXストラテジスト。PIMCOをはじめとして米国の金融機関でマクロ経済、市場分析に従事し、2013年より現職。2005年マサチューセッツ工科大学(MIT)学士課程卒、2008年スタンフォード大学修士課程卒。CFA協会認定証券アナリスト。石川県小松市出身。 *本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(こちら) http://jp.reuters.com/article/column-forexforum-shusuke-yamada-idJPKCN0VH0E4?sp=true Business | 2016年 02月 8日 19:21 JST 関連トピックス: トップニュース, ビジネス アングル:インバウンド需要は「コト消費」へ、地方に恩恵も
[東京 8日 ロイター] - 日本の消費を支える規模にまで急拡大してきた訪日外国人による「インバウンド」消費。2015年は日本への旅行に使った総額が3兆円を突破するという熱狂ぶりのなかで、観光客の消費パターンにも変化が出始めている。 繰り返し来日するリピーターが増加し、モノを買うだけでなく、サービスを体験する「コト消費」への支出が増加。さらに地方にも恩恵が広がりつつある。 訪日観光客でにぎわう三越伊勢丹ホールディングス(3099.T)の新宿店や銀座店では、ちょっとした「異変」が起きている。1月の免税売上高をみると、顧客一人当たりの買い物額(客単価)が前年に比べて10%程度、額にして1万円程度下がっているという。 中国経済の減速や株価下落の影響を疑いたくなる現象だが、業界関係者は「観光客の支出先が多様化していることが背景にある」(大手百貨店関係者)とみる。 新しい消費トレンドの一つは、日本の「おもてなし」が体感できる美容室やネイルサロン、エステなど。リクルートホールディングス6098.tは「2016年のトレンド予測」の中で、日本の美容サービスに訪日外国人の熱い視線が集まっていると指摘、「インバウンド」ならぬ「美(ビ)ンバウンド」という言葉で流行の兆しを予想した。 14年10月に免税対象が化粧品や食料品などの「消耗品」に拡大されて以降、免税売上高に占める消耗品の比率は徐々に上がっている。花王(4452.T)でも、15年の化粧品の免税売上高が160億円と前年の70億円から倍増した。 ただ、沢田道隆社長は「人民元の動向に加え、モノからコトに消費が移ってきたりしており、このまま伸びるかと言うと、それほど上手くいくものではない」と慎重な姿勢。化粧品などの品質の高さと相まって、「日本は美容で憧れる国の第一位」(リクルート)になっているが、美容に関するインバウンド需要は化粧品だけでなく、さらに大きな広がりを見せている。 「コト消費」が伸びている背景には、訪日リピーターの増加がある。観光庁によると、昨年10―12月期の訪日客のうち、初めて訪れたのは約4割、6割が2回目以上。10回目以上も14%に上った。また、団体ツアーは23%で、個人旅行パッケージや航空券と宿泊などを個人手配する旅行が増えている。 日本への旅に習熟したリピーターや個人旅行者は、地方にも足を延ばしている。JTBによると、訪日旅行者向け宿泊・ツアー予約サイト「JAPANiCAN.com」において、春節時期に前年同期で3倍以上の予約となっている都道府県は沖縄や福岡など12県あるが、いずれも東京・大阪を結ぶ「ゴールデンルート」以外の地域になっている。また「今年の春節は47都道府県全てで宿泊予約が入った。これまでにはなかったこと」(広報室)という。 今年の春節は、5日から開催されている雪まつりの時期と重なったこともあり、北海道が人気化しているという。 昨年、外国人が日本への旅行に使った3兆円という金額は、全国の百貨店売上高の約半分の規模に匹敵する。海外経済の減速が懸念される中、「インバウンド」消費の変化をどう取り込むかが流通・サービス業界の大きな課題になりつつある。 (清水律子 編集:北松克朗) http://jp.reuters.com/article/angle-inbound-idJPKCN0VH0RF?sp=true Business | 2016年 02月 8日 18:55 JST 関連トピックス: トップニュース, ビジネス アングル:ドル安一服でも、中長期的に消えない大幅な円高リスク [東京 8日 ロイター] - 1月の米雇用統計で賃金の上昇が確認され、米インフレ率が上向くとの観測から米金利低下とドル安は一服した。ただ、中国景気の減速が人民元の大幅切り下げを誘発する余地や、年後半から米景気が中期的に後退局面に入る可能性もあり、市場では大幅な円高が発生するリスクには引き続き警戒が必要との声が根強く残っている。 <再浮上した米利上げ観測> 「6月の米利上げの可能性が見直されている」とFXプライムbyGMO・常務取締役の上田眞理人氏は話す。2016年初から、今年中の米利上げはないとの見方が広がりドルが急落していたが、1月の米雇用統計で見方が変わり始めたという。 さらに今週は中国市場が春節(旧正月)の休みで「不安材料が一つ減っている」ため、ドル売りの買い戻しを主力にドルは117円台を軸とする値動きになる、と同氏は予想する。 米連邦準備理事会(FRB)のイエレン議長は、10日、11日に米議会で証言するが、市場では「行き過ぎた市場の思惑を軌道修正し、利上げができないことはないとのメッセージを送るだろう」(外銀)との見方が優勢。こうした観測もドルの下値を支えそうだ。 <悪い賃金上昇> 米国では労働需給が引き締まる中、賃金の上昇率が徐々に高まっている。1月米雇用統計での時間当たり賃金は前月比0.5%上昇し、金融市場はこれを好感した。 ただ、市場の受け止めとは異なる指摘も出ている。 「米国では、高齢化やサービス化による労働の質の低下が原因で、労働生産性のすう勢的な低下がみられる。一方、労働需給のタイト化で労働者の売り手市場となり、生産性に見合わない『悪い賃金上昇』が始まっている可能性がある」と、クレディ・スイス証券チーフ・エコノミストの白川浩道氏は指摘する。 白川氏は「FRBは悪い賃金インフレへの警戒を強めざるを得なくなっており、市場の利上げ期待の後退をけん制する必要に迫られつつある」とし、当面はドル安、米金利低下の流れがいったん止まり、短期的には117―118円のドル/円相場が保たれるとみている。 <人民元切り下げと円高のリスク> しかし、中期的なドル/円相場には、依然として大幅な円高が発生するリスクが付きまとう。 最大のリスク要因は、中国の大幅な人民元切り下げと、米景気が年後半以降に循環的な後退局面に入ることだ。 1月の中国消費者物価指数(CPI)は18日に公表されるが、CPIが大きく低下した場合、中国はより思い切った金融緩和策(人民元切り下げ策)を打ち出す可能性があるとの見方が市場で広がっている。 中国人民銀行(中央銀行)は7日、1月末時点の外貨準備高が3兆2309億ドル(約379兆円)と、前月末比995億ドル減少したと発表した。前月は過去最大の1079億ドルの落ち込みを記録しており、減少は3カ月連続。 今回の結果は、中国内からの資本流出に伴う人民元売り圧力が根強いことを裏付けた。 クレディ・スイス証券の白川氏は「中国が為替相場の思いきった切り下げ実施し、その結果、グローバルなディスインフレ圧力が高まれば、米国の金融政策運営にも影響をもたらす」と予想。 そのうえで、グローバルなディスインフレが顕在化すれば「日銀のマイナス金利も年内マイナス1%程度まで拡大する可能性があり、その時点の米2年国債利回りを0.3―0.4%と仮定すれば、ドルは110円を辛うじて維持できるかどうか」になるとみている。 マイナス金利の円相場への影響について、JPモルガン・チェース銀行・チーフFX/EMストラテジストの棚瀬順哉氏は「他国の金利が既にかなり低く、日本との金利差が円を大きく押し下げるのに十分なほど拡大する可能性が低いこと、過去の事例ではマイナス金利の導入は必ずしも通貨の持続的な下落につながっていないこと、足元では金利差と円相場の相関が強くないこと」を挙げ、影響は限定的だとした。JPモルガンは、2016年末のドル/円予想を110円としている。 (森佳子 編集:田巻一彦) http://jp.reuters.com/article/angle-dollar-yen-idJPKCN0VH0P5?sp=true
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