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銀行がマイナス金利で融資リスク拡大に走る危うさ
http://diamond.jp/articles/-/85642
2016年2月4日 山田厚史の「世界かわら版」 山田厚史 [デモクラTV代表・元朝日新聞編集委員] ダイヤモンド・オンライン
金融政策が、更なる異次元に踏み込んだ。とうとうマイナス金利。金融政策決定会合の評決は6対5だった。提案した黒田総裁ら正副総裁の3票を除くと審議委員の投票は3対5で反対が多かった。日銀捨て身の強硬策である。議事録はまだ公開されていないが、反対理由は想像できる。「効かない」「危ない」という疑念が示されたのだろう。
なぜ金利をマイナスにするのか。日銀の狙いは「ブタ積み崩し」である。
業界用語で恐縮だが「ブタ積み」とは、銀行が日銀に設けている当座預金に積まれた200兆円を超える「日銀マネー」のことだ。異次元緩和が効かないのは「ブタ積み」が障害になっている。
マイナス金利と聞くと、難しい専門的な政策に思われるが、やっていることは簡単だ。
「ブタ積み」が増えるのは当座預金に金利が付いているからだ。金利をマイナスすれば預金への「罰金」だ。「罰金」を払うぐらいなら銀行は預金を取り崩す、という政策である。日銀は、なぜ「ブタ積み」を減らしたいのか、説明しよう。
■異次元緩和で市中には11兆円 残る201兆円が「ブタ積み」に
アベノミクス第一の矢は、「異次元の金融緩和」だった。異次元とは、やったことのないモーレツな金融緩和という意味だ。2013年4月に就任した黒田総裁は「ベースマネーの供給量を通常の倍にする」と発表し、世間を驚かせた。
ベースマネーは日銀が発行する通貨のことだ。経済の血液が二倍になったら、なにが起こるのか。大変なことが始まるぞ、というのが大方の反応で、円安が始まった。流通する通貨が倍になれば通貨価値は半分になる、というのが経済学の教えるところだ。円安で大企業の儲けは膨らみ、株価が上がった。
ベースマネーを増やすのは、インフレを起こすためだった。これからはインフレだ、と人々が考えれ、手持ちのカネを早く使おうと消費や設備投資が増えるはずだった。ところがインフレは起こらず、消費も投資も盛り上がっていない。
黒田総裁は2年後(2015年4月)には消費者物価を2%上昇させる、と宣言したがインフレ率はほぼ0%。「アベノミクスは失敗」とされる根拠が「インフレは起きなかった」ことだ。
通貨を倍にしたのになぜインフレが起きなかったのか。実は、世の中にマネーは出回っていない。
「アベノミクスでカネはじゃぶじゃぶになると聞いたが、オレのところには、ちっとも来ていない」
そんなふうによく言われるが、これは当たっている。世の中に出回るカネは、この3年ほとんど増えていない。
日本銀行の統計によると、2013年4月、国内に出回っている日銀券(通貨)は83兆円だった。それが現在(2月2日)は94兆円。11兆円増えた。その間、日銀が発行したベースマネーは212兆円もある。これはどういうことか。
「212兆円の通貨供給を行った結果、市中に出回った通貨は11兆円だった」と日銀では説明する。
残る201兆円はどこに消えた?
「ブタ積み」である。日銀に設けた金融機関の当座預金に積みあがっているのだ。
日銀の営業報告によると黒田緩和が始まる直前2012年4月は58兆円だった当座預金の残高は、現在259兆円に膨れ上がっていう。201兆円も増えている。
銀行の当座預金とは、庶民に置き換えれば、我々が銀行に設け入出金を管理する決済口座のようなものだ。日銀は銀行の銀行だから、銀行間の決済は日銀口座で行われる。
黒田緩和の開始で、日銀は銀行から国債を買い上げるようになった。支払いには日銀券(ベースマネー)が使われる。毎月、兆円単位のカネが銀行に注がれる。銀行にとって日銀マネーは飯のタネのはずだった。貸出に回して利ザヤを稼ぐのが銀行の商売だ。
銀行の当座預金に日銀がカネを流せば、市場に出回る通貨が増えビジネスは活気づく、というのが金融論のイロハである。
ところがこの循環が働いていない。当座預金に目詰まりが起き、日銀からカネが出て行かない。
給与が振り込まれても浪費せず銀行に預けたまま、という恵まれた人がたまにいる。この場合は銀行が、貯蓄を貸し出しや資金運用に回すので、「死蔵」にはならない。
ところが銀行の場合は違う。日銀の当座預金に預けるカネは、日銀が何かに使う、ということはなく、ただ空しく眠っている。だから「ブタ積み」といわれる。
■銀行が「ブタ積み」に マネーを眠らせる二つの理由
飯のタネであるマネーを銀行はどうして「ブタ積み」にするのか。理由は二つある。
融資する先がない。金利を載せて貸したい。しかし借り手が見つからない。景気が悪い。資金需要がない。
安倍首相は「もはやデフレではない」「史上最高益を実現する企業は増えている」「税収が上がった」「有効求人倍率はリーマンショックの前の水準に戻った」と言う。しかし、銀行は融資先が見当たらない。
「業績が好調な大企業は内部留保が厚く、融資はもうけっこうという。貸してくれという中小企業は少なくないが、財務を見ると貸せない。商売は広げたいのだが、国内の資金需要は力強さに欠ける」
メガバンクのトップはそう嘆く。日銀からしこたま注がれた「飯のタネ」は冷蔵庫に入ったままだ。
当座預金が積みあがるのは、もう一つの理由がある。金利である。当座預金には年率0.1%ほどの金利が付く。日銀は利息を付けてブタ積みを置かせている。
日銀に預けておけば、わずかだが金利が付く。0.1%でも「ゼロ金利時代」の現状では、悪い金利ではない。1兆円のブタ積みは年間10億円の利息を生む。
「ブタ積み」がある限り、カネは日銀の外に出て行かない。ならばマイナス金利をつけて利息を徴収すれば、さっさと出てゆくだろう、というのが今回の政策だ。
マイナス金利は0.1%だが、すべての当座預金に課せられるものではない。細々した専門的な規定はここでは触れないが、プラスとマイナスの逆転で、銀行にとっては当座預金が「コスト要因」へと変化する。
では銀行はどうする。引き出して現金にすればゼロ金利だが、保管に経費がかかり、現金の扱いは事故も生きやすい。貸出に回せば問題ないが、貸し先がないから困っている。
「出すに出せず、日銀に置いたまま銀行の収益を圧迫することになりかねない」。金融界からそんな見方が出ている。
■アメリカの肩代わりで日欧が演出する「金融相場」の怖さ
証券界は歓迎だ。日経平均はマイナス金利に反応して急騰した。証券市場にカネが回ってくると見たからだ。
東京市場に限らず、世界の株式市場は「金融相場」といわれる。日本だけでない。マイナス金利は欧州中央銀行(ECB)が昨秋から実施している。アメリカもリーマンショックを機に大胆な金融緩和を続けている。マネーを市場に潤沢に供給し景気を煽る、というのが先進国に共通する政策だ。あふれ出た資金が証券市場に流れ株価を押し上げる、という「不況下の株高」を演出してきた。
市場は、企業業績より中央銀行の政策に神経を注ぐ。アメリカではFRBによる量的緩和の打ち切り、ゼロ金利解除などの観測が株価を乱高下させている。流入するカネが膨らむか細るかで市場は一喜一憂する。
博打場のような証券市場に企業や投資ファンドがすがり、政府までも株価を意識した政策に明け暮れる。金融資本主義の病は深まるばかりだ。
黒田総裁が踏み切ったマイナス金利は、安倍政権への応援でもある。年初から下落している証券市場にカンフル剤を射った。だが、アベノミクスの失敗を上塗りする「毒食わば皿まで」にならないか。劇薬にはリスクが伴う。
金利を少しばかり下げても景気はよくならないのはこの3年間で実証積みだ。
円安で輸出企業を儲けさせても、国内での投資は拡大しないこともわかった。
大企業を儲けさせれば下々に恩恵が行き渡る、という「トリクルダウン」は起きなかった。
アベノミクスが津々浦々に恩恵をもたらさないのは、時間がかかるから、ではなく、構造に問題があるからだ。
「黒田頼り」を諦めた安倍政権は力点が変わった。市場原理に見切りをつけたのか、賃上げや設備投資を財界に命ずる「圧力政治」へと舵を切った。黙っていては好循環は起きないと考えたようだ。「600兆円GDP」「希望出生率1.8」などとカネやタイコを囃したて、古典的なバラマキで政策の失敗を糊塗しようとしている。
最後の頼りが株価だ。中国を始めとする新興国経済の失速は今年の波乱要因だ。アメリカが金融引き締めに向かえば、過剰流動性といわれる世界のマネーが変調する恐れがある。
アメリカが引いた後、収縮するマネーをECBと日銀で補い、混乱を緩和する、というのが今年の流れだ。「ブタ積み崩し」はその流れで始まった。
■あまりに長く続く低金利は必ずいびつな金融を引き起こす
市場は敏感に反応した。株価だけでなく、債券市場も動いた。マイナス金利は、日銀と銀行という内輪の金利だが、市場で決まる長期金利にも波及した。0.05%だった10年の金利が0.045%に下がった。
史上最低を更新し「もう限界」と見られていた長期金利の低下が、また一段と下がった。影響を受けて年1.25%だった10年物固定の住宅ローンが1.15%に下がった。
1000万円の受託ローンの利息が年1万円安くなる、ということだ。住宅建設に追い風になるというが、3000万円借りれば年3万円、月に3000円弱の恩恵をもたらす利下げが、どれほど新規購入を増やすのだろうか。
もう金利は十分に緩和されている。更なる利下げがもたらすインパクトは知れている。
マイナス金利で銀行に融資圧力が高まるだろう。「融資先を探して来い」という指示が支店に飛び交うだろう。だが、わずかばかりの利下げで開ける市場がどこにあるか。
資金を必要とするベンチャー企業や中小企業は少なくない。問題は企業の財務力だけではないだろう。現状は厳しくても将来性のある企業を見つける眼力が銀行にないことが問題なのだ。
バブル崩壊後、銀行は不良債権の処理に明け暮れた。これはダメ、あれは不適格とマイナスの烙印を押すことに審査能力が注がれた。経営者がリストラに励むのと同様、切ることに重きを置いた銀行の審査が、小さくても明日につながる「商売のタネ」を育てる力を消耗させた、といわれる。
マイナス金利の到来で、貸出拡大を迫られる銀行では「リスクを取れ」といわれるようになるだろう。慣れないリスクを銀行員がとった時、何が起きたのか。30年前起きたのバブル経済は「銀行のリスクテイク」から起きた。
「ブタ積み崩し」は、何をもたらすのか。銀行経営者が動かなければ、収益悪化が進むだけだろう。耐えきれず融資拡大を無理に進めば、資金は投機に流れるだろう。資金需要があるのは株や債権などの博打場だからだ。見かけは颯爽とた金融マンが売り歩く危ない商品、高度な金融技術を駆使し外見から分からない化け物のような金融商品が生み出されている。低金利が長く続くと、必ずいびつな金融が起こる、というのがこれまでの経験だ。
世界の金融はいよいよ危険水域に入った。
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