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フォード・モーター本社ビル(「Wikipedia」より/M 93)
販売不振を日本のせいにして日米紛争…フォード、長すぎた凋落脱せずやっと日本撤退http://biz-journal.jp/2016/02/post_13622.html
2016.02.04 文=河村靖史/ジャーナリスト Business Journal
米国フォード・モーターが日本市場から撤退することが決まった。1920年代に進出してから、第2次世界大戦前後の一時期を除いて長年にわたり日本市場で存在感を打ち出そうと、日米政府をも巻き込んでもがいてきたが、あっさりと断念した。日本市場をよく知るトップ、そしてマツダとの関係がほぼ終焉を迎え、日本に拠点を置く意味が薄れたことが背景にある。
「(フォード)本社からは何も聞かされていない」――。撤退報道後にフォード販売店を運営する会社は、日本法人であるフォード・ジャパン・リミテッドに問い合わせたが、何もわからない状態だったという。その後、フォードは2016年末までに日本とインドネシア市場から撤退すると正式に発表した。上級ブランドである「リンカーン」を含めて全事業から手を引き、日本国内にあるフォード販売店は直営店を含めて閉鎖する。
フォードが日本市場からの撤退を決めたのは、少子高齢化で新車市場が長期的には縮小することが確実視されているのに加え、フォードの販売が低水準で推移しており、今後も巻き返しは難しいと判断したためだ。
一時は日本法人社長にホンダ出身者が就任し、当時輸入車の代名詞となっていたフォルクスワーゲン(VW)との比較広告を掲出して話題を集めるなど、市場で存在感を打ち出すことに躍起となっていた。さらに、日米貿易摩擦の際には「フォードが日本で売れないのは日本市場が閉鎖的だからだ」と声高に叫び、日米両政府をも巻き込んで日本市場で販売を増やすことに注力してきた。
日本市場に適したサイズの小型車のラインナップを拡充するとともに、右ハンドル車の品揃えを増やすなどして、1990年代のピーク時には年間2万台以上を販売していた。
しかし、提携相手のマツダが国内販売体制を立て直すため、フォード車販売チャネル「オートラマ」を含む5チャネル体制を見直したこともあってフォードの日本での販売は凋落の一途をたどった。日本法人が独自の販売ネットワークを構築し、ラインナップのてこ入れも図ってきたものの、販売はジリ貧状態。国内には現在、直営店を含めて52店舗を展開しているが、ここ数年の販売台数はピーク時の4分の1の約5000台前後にとどまる。
しかもメルセデス・ベンツやBMWなど欧州系輸入車の販売は順調に推移しており、輸入車だから売れないというわけではない。フォードの輸入車市場全体に占めるシェアが1.5%でしかないことをみても、いつ撤退しても不思議ではない状態だった。
■新たな火種?
ここにきてフォードが日本市場からの撤退を決定したのは、マツダとの関係が変化してきたことも大きい。フォードの現在のトップであるマーク・フィールズ最高経営責任者(CEO)は、マツダで国内マーケティングの責任者を務めた後、マツダの社長に就任した。フィールズCEOは「日本市場のことを熟知しており、フォードが日本で成功することの難しさを理解していた」(マツダ役員)。これまでフォードが日本に踏みとどまってきたのは、日本にマツダがあったことが大きい。
フォードは以前、フォード車の日本での販売を担当するフォード・ジャパン・リミテッドとは別に、マツダとの調整や渉外的な機能を持つフォード本社の事務所も置いていた。この事務所ではフォード・ジャパン・リミテッドの従業員も入れないほどセキュリティを厳重にしており、フォード本社からの指示を直接受けてマツダのほか、日本国内に本社を置く自動車メーカーとの交渉を行ったり、関連情報を収集する前線部隊の役割を担っていたという。
しかし、フォードはリーマンショック後の経営不振で33.4%保有していたマツダ株式の一部を売却、10年には中国事業をめぐってマツダの筆頭株主から降りざるを得なくなり、出資比率を3.5%にまで引き下げた。その後、マツダが独自経営によって販売が上向き業績も順調に推移すると、北米での合弁工場でのマツダ車の生産を終了するなど、フォードとマツダは関係解消に向かう。
そして、15年にフォードは保有していたマツダの全株式を売却し、マツダとの関係を解消したことから、フォードが日本国内に拠点を置く意味も薄れてきた。こうしたことから、日本を熟知するフィールズCEOが日本からの全面撤退を決めるまでに時間はかからなかった。
日本と米国はTPP(環太平洋パートナーシップ協定)で大筋同意し、今後各国が批准して発効することになる。ただ、米議会の承認を得ることが難航するのは必至だ。こうしたなかで、フォードの日本市場撤退は「日本市場は閉鎖的」(フォード)なことを象徴するものとして、TPPに反対する議員にとって格好の材料となる可能性もある。日米両政府が自動車貿易摩擦の新たな火種を抱え込むことになりかねないと懸念する声もある。
(文=河村靖史/ジャーナリスト)
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