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よくやった! 日銀「マイナス金利導入」は歓迎すべき大きな一手だ
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/47698
206年02月01日(月) 高橋 洋一「ニュースの深層」 現代ビジネス
■筆者は事前に予想していた
先週の1月29日(金)、日銀のマイナス金利導入と雇用保険料の引下げが行われた。前日28日(木)の甘利大臣の辞任後で、ともに大きな政策変更だった。
実は、この二つが実施されることについては本コラムでも予想済みだった。1月4日に公開した『2016年、日本の景気が悪くなる要素が見当たらない〜「国債不足」に「追加緩和」そして「埋蔵金バズーカ―」まで飛び出す!?』(http://gendai.ismedia.jp/articles/-/47244)で、2016年は、国債市場の品不足になることを示した。
その上で、日銀当座預金のかなりの部分に0.1%の金利がついているが、それをゼロまたはマイナス金利にする、という手段が日銀に残されていることを書いた。それを行えば、設備投資の後押しになるはずとも書いた。
また、労働保険特会7兆円の「埋蔵金」があるので、雇用保険料を引き下げすべきとも指摘している。
そして29日、日銀はマイナス金利を導入した。報道では、かなりのサプライズだといわれ、その効果には消極的かあるいは否定的なものが多く見られる。そもそも、こうした政策を予想できない段階で、プロとしてはいかがなものか。
予想できないものは理解もできない。その結果、理解できないから効果に否定的になる。というわけで、新聞、テレビにはくだらないコメントばかりが載ることになる。
筆者は、前日28日に収録されたインターネット配信番組(マイナス金利の件は45分あたりから。https://www.youtube.com/watch?v=5SAlKu0KD6U)で、マイナス金利の導入を事前にほぼ予想している。
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■異常に大きい403兆円
こうした予想は、銀行などのポートフォリオ状況や今の国債市場などを鑑みれば、合理的に推測できる。
ちなみに、銀行などのポートフォリオ状況は以下の通りになっている。
金融機関は、預金取扱機関、保険・年金基金、その他に分けられるが、重要な役割を担う預金取扱機関と保険・年金基金のそれぞれについて、資産項目を現預金、貸出、国債、その他有価証券等、対外投資等、その他に分けてみよう。
預金取扱機関では、現預金403兆円、貸出718兆円、国債256兆円、その他有価証券等265兆円、対外投資等163兆円、その他21兆円の計1826兆円。保険・年金基金では、現預金23兆円、貸出54兆円、国債234兆円、その他有価証券等141兆円、対外投資等112兆円、その他30兆円の計594兆円となっている。
ここで、異常に大きいのが現預金の403兆円である。この部分が貸出に回っていないわけだ。もちろん、景気の回復がいまいちであるので、「貸出需要がない」という銀行などのいいわけもある。それも一理あるが、403兆円のうち、銀行などの日銀当座預金250兆円が含まれている。
このほとんどに、日銀は0.1%の利息をつけている。当座預金といいつつ、利息をつけるのは異例である。その経緯は、2008年10月にさかのぼり、当時の白川日銀が導入したものだ。いろいろな説明が行われているが、筆者には、日銀が銀行などに2200億円程度の「お小遣い」を与えているようにしか見えない。
今回の日銀のマイナス金利は、基本的には、250兆円を超える部分に▲0.1%の金利をつけるということ。つまりその分の手数料を日銀が銀行などから取ることになる。要するに、これまでの「お小遣い」にはメスが入っていない。おそらく、金融機関からの文句を日銀が配慮したのだろう。
■効果は確実に、ある
今年、日銀は80兆円の国債買いオペをする。となると、銀行などの日銀当座預金は80兆円ほど増えることになる。もし、銀行などがこれまでのように、買い取りされた国債のかわりに、日銀への当座預金を積み増しするなら(いわゆるブタ積み)、800億円ほどの手数料を日銀に払うことになる。
それをきらって、銀行などが、日銀当座預金するのではなく貸出などに回せば、その分経済活動が活発になる。それが、日銀の狙いでもある。
もともと、量的緩和についてマネタリーベース(日銀券と日銀当座預金残高)を増やすだけと誤解している識者はかなり多い。というか、日本の識者のなかで、量的緩和を理解していない人がほとんどである。
本コラムなどで何度も書いているが、マネタリーベースが増えて、そのシニョレッジ(通貨発行益)がインフレ予想を高める側面はあるが、日銀が買いオペして銀行などから国債を奪って、その代わりに貸出に向かわせるという側面も同時にある。
シニョレッジは簡単にいえば日銀から政府への納付金であり、それが財政支出になって、インフレ予想を高め、実質金利を低下させる。同時に、その実質金利の低下から資金需要が高まって、それを設備投資等として実現化させるのが、貸出である。
こうした経済全体に及ぶ作用がわからないと、量的緩和の正確な理解はできない。それを正確に理解していると、今回のマイナス金利は、量的緩和に買いオペと同等の効果があることがわかるだろう。アバウトにいえば、ともに、実質金利を下げ有効需要を作ると同時に、銀行等に貸出を促すものだ。
マイナス金利自体は、スイス、スウェーデン、デンマーク、欧州中央銀行で行われている。欧州中央銀行では、当座預金全体に、マイナス金利が付されている。この点、今回の日銀のマイナス金利は、当座預金の一部と、これからの追加分だけに限定されており、銀行などにとっては「やさしい」仕組みである。日銀は相変わらず銀行に「お小遣い」を出しているともいえる。
それでも一歩前進であるが、欧州中央銀行のように当座預金全体にマイナス金利とすれば、より大きな効果になるだろう。
■プロなら読めた。読めなければプロではない
このタイミングで、日銀がマイナス金利の導入に踏み切ったのは、今の国債市場が品不足状態にあるからだ。買いオペ(市場からの国債購入)の増額はテクニカルではあるがやりにくい。国債市場で取引される国債は新規発行されたものが多く、過去に発行されて金融機関のポートフォリオに沈んだ国債はあまり取引されない傾向がある。
政策に半可通の人は、新たな国債を発行すればいいという。ところが、「国費を支出し、又は国が債務を負担するには、国会の議決に基くことを必要とする」(憲法第85条)と定められている。来2016年度予算は、1月22日に国会に提出されている。今、新規の国債発行となれば、野党から、政府予算案の作り直しを要求されることとなる。このため、国会開催中は、なかなか新たな政策を打ち出せないわけだ。
今回の日銀のマイナス金利を読めなかった言い訳として、後で言われるのが、「黒田総裁は国会でマイナス金利は検討していないと言っていた」というのがある。
そうしたことを言う人は、プロではないと筆者は思う。昔から「解散と公定歩合はウソを言ってもいい」と言われてきた。黒田総裁は元財務官僚なので、それを十分知っている。それを読めない段階で分析終わりである。
それに加えて、28日に甘利大臣が辞任した影響もないとはいえない。実際に政策を考える人は、いろいろな状況を考えてタイミングを計るものだ。
その意味では、29日に閣議決定された雇用保険料の引下げも良いタイミングだ。その効果は、年間数千円〜1万円程度、雇用保険料が安くなるというもの。新聞では小さな扱いだったので、翌30日、大阪朝日放送の番組『正義のミカタ』で紹介した。これは、来年度予算案がすでに22日に国会に提出されているので、その1週間後のぎりぎりのタイミングだろう。
甘利大臣の疑惑について、週刊文春の報道があったのが1月21日。その続報は28日発売号に掲載されるので、甘利大臣の記者会見が行われるタイミングは28日しかありえない。黒田日銀総裁は、こうした政治日程をすべて頭に入れて、もっとも効果的な日取りを選択したはずだ。それが29日となったわけで、そこに至るまで用意周到な準備があったことが目に浮かぶのだ。
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