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劇薬に頼るしかなくなったアベノミクス
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/47677
2016年01月31日(日) 真壁 昭夫「通貨とファイナンスで読む世界経済」 現代ビジネス
■裏をかいたが…
29日、日銀は予想外の一手として「マイナス金利の導入」を決定した。マイナス金利は、日銀内部でも見方の割れる一種の劇薬だ。今回の措置は、黒田総裁が任期中に「劇薬を用いてでも物価目標を達成する」という強い意図を表しているといえる。
しかし足元の経済・金融の状況を考えると、物価が日銀の想定通りに上昇するとは考えにくい。 “マイナス金利付き量的・質的金融緩和”をもってしても、物価目標の達成は容易ではない。結局のところ、金融政策に依存してデフレ脱却を目指してきたアベノミクスが正念場を迎えていることを意味している。
年初来、世界の金融市場が不安定に推移する中、21日にはECBのドラギ総裁が追加緩和の可能性を示唆し、市場は若干の持ち直しの兆しを見せた。そして、国内では7月の参議院選への対策という意味でも追加緩和期待が高まってきた。選挙前の景気対策の重要性を加味して、エコノミストらは4月の追加緩和を予想していたようだ。
しかし、市場の大方の予想を裏切って、日銀は1月の追加緩和に踏み切った。この背景には、3月の追加緩和を示唆したECBとの関係があったのかもしれない。ECBが日銀よりも先に追加緩和を実施すれば、ユーロが円に対して下落する可能性がある。
市場が日銀の対応は後手に回っていると見れば、より踏み込んだ金融政策への期待は高まる。一方、既に量的緩和の拡大などが進められてきた中、市場を満足させるだけの政策には限りがある。そのため、黒田総裁は1月の追加緩和に踏み切り、物価目標達成への強い姿勢を示すことで、投資家の心理状況の改善を狙ったのだろう。
また、原油価格の下落を受けて世界的に物価の上昇期待は低下している。それを放置することは、物価目標の達成に日銀が及び腰との懸念を高めやすい。そこで、日銀は早めに、従来の量的・質的金融緩和に加えマイナス金利を打ち出し、物価目標の達成を目指す強い意思を市場に示したといえる。
■窮地に追い込まれつつあるアベノミクス
2013年4月の量的・質的金融緩和以降、日銀は2年程度で2%の物価目標の達成を最優先してきた。それが円安、株高の流れを生み出し、企業業績の改善や賃上げを支えた点は大きいメリットだった。アベノミクスにとって、日銀の積極的な金融緩和は最も重要な柱といえる。
しかし、現実には物価は期待したほど上昇していない。これは、金融政策では期待を高めることはできても、実体経済の改善に繋がりにくい根本的な問題を明示している。その意味では、金融政策に過度に依存するアベノミクスは、徐々に窮地に追い込まれつつあるといえる。
それでも、日銀は、総裁自らが否定的な考えだった劇薬=マイナス金利を敢えて導入し、より強力に市場や期待の好転を狙っている。果たして、今回の劇薬は、日銀が期待した成果を上げることができるだろうか。
重要なポイントは、思い切った金融政策で資産価格を上昇させ時間を稼いでいる間に、政府が規制緩和や構造改革などを断行することだ。それが、初期のアベノミクスが掲げた成長戦略の本来の姿だろう。
金融機関の収益への影響や、不動産市場の急速な資金流入など、マイナス金利の拡大等の追加緩和は、金融市場の不安定化や先行きへの懸念につながる恐れがある。政府は、わが国経済にとって最も必要なことは、金利の低下ではなく、有効な投資機会であることを理解すべきだ。
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