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米国政府はWHを中国には買わせない
2017/04/19
山本隆三 (常葉大学経営学部教授)
日本のメディアでは、東芝の決算と半導体部門売却に関する報道が主だが、欧米メディアでは、中国企業によるウエスティングハウス(WH)買収を米国政府が懸念しているとの報道が目立つ。WHが中国企業に売却されないように米国政府は働きかけるが、もし、中国企業による買収が提案されれば、米国財務省管轄の外国投資審査委員会で審査し買収を阻止するとされている。中国企業が陰で参加するコンソーシアムによる買収も防ぐため友好国企業による買収も画策しているとも報道されている。
(AP/AFLO)
中国企業による海外投資・企業買収の動きが活発になるにつれ、国の重要インフラ、あるいは技術を社会体制が異なる国に握られることを懸念する声は、多くの国において高くなっている。その筆頭は豪州だ。2016年に公共インフラの買収については全て外資審査局が審査することを決め、同年8月中国のコンソーシアムによる電力網運営者の買収を、安全保障上問題ありとして阻止した。電力網に中国企業の参加を許したポルトガル、イタリアとは大きな違いだ(『欧州のエネルギーインフラを買い漁る中国』)。
米国政府が中国企業によるWH買収を懸念する理由は、軍事転用が可能な高度な技術を社会体制が異なる国が保有する安全保障問題にあるが、それだけではなさそうだ。最先端技術を巡る争いにおいて中国企業が米国企業と対立する懸念も当然ある。例えば、米国が開発したIT技術は世界標準になるが、中国だけは例外だ。中国では標準にならない。独自路線を訴求する中国が世界の主流になっているWHの原子力技術を握ると他国が困惑することも起こるだろう。
警戒される中国資本
中国企業は、欧州では港湾設備、送配電網などのインフラ、不動産、ハイテク企業の買収に関心を示しているが、中国企業の多くが政府系あるいは政府の資金援助を受け相対的に有利な買収条件を提示可能なこともあり、欧州でも中国企業による買収を懸念する声が高まっている(『欧州では爆買いを阻止される中国』)。
米国では、2012年から2014年に外資審査委員会の対象になった案件368件のうち、中国企業の関与する案件は68件(シェア18%)と国別では一位を占めている。中国企業が関心を示している対象企業は、鉱業・建設・公共事業が19件(シェア28%)、製造業33件(シェア22%)が多い。関心がないのは卸・小売り・輸送の3件(シェア9%)だ。
いま、中国企業が買収を試みている米国企業で、外資審査委員会による審査が注目を浴びているのはモンタナ州でプラチナ、パナジウムなどの採掘を行っているスティルウォータ・マイニング社だ。南アフリカで金などの採掘を行っている鉱山会社シバニェ・ゴールド社が、昨年12月に当時のスティルウォータの株価に23%のプレミアを付け、総額22億ドル(2400億円)で以て買収することを提案した。
外資審査委員会は米国の安全保障に影響を及ぼす案件を審査する。対象となる企業を買収する場合には、買収企業は委員会に届け出、審査を受けることが必要になる。2013年2月にオバマ大統領により署名された「重要産業基盤の安全保障と強靭さ」大統領令に16の分野が記載されているが、これらの分野の企業は明らかに対象になると考えられる。その分野には、化学、通信、IT、エネルギー、防衛産業、公共設備、原子炉、輸送システムなどが含まれている。
スティルウォータの採掘する金属は防衛産業でも使用されるものであり、一方シバニェ・ゴールドの最大株主は中国政府と関係があるコンソーシアムとされている。この買収提案は当然審査対象となった。当初の審査は4月14日までに終了するとされていたが、14日時点での発表は行われておらず、期間が延長されているものと思われる。
米国に対抗し独自の標準を築く中国企業
欧州、米国が中国企業による買収を警戒するのは、買収により中国に欧米企業が保有する高度技術が流出することだ。既に中国は特許申請数では、図‐1の通り米国を抜き去り世界一になっている。米国第一のトランプ政権は、中国が技術力で米国と肩を並べ、やがて抜去ることを懸念していると想像され、技術流出につながる企業買収には反対する立場だ。
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外資審査委員会の審査結果を受け、大統領が阻止した中国企業による買収は、オバマ大統領が昨年不許可にしたハイテク企業買収を含め過去3件しかないが、今後は増える可能性が高い。中国企業によるWH買収が申請されれば当然阻止対象となる。
米国政府が中国への技術流出を懸念するのは、中国企業が米国とは異なる標準を作り出すことも影響しているのだろう。ニーアル・ファーガソン・ハーバード大学教授は米国が作り出したIT革命に中国が対抗した例を挙げている。
ネット販売のアマゾンがシアトルで設立されたのは1994年、グーグルがカリフォルニア州のガレージで始まったのが1996年、フェイスブックは2004年にハーバード大学で始まった。ユーチューブは2005年、ツイッターは2006年、iphoneが2007年、配車サービスのウーバーが2009年。マイクロソフトもアップルもアメリカ企業だ。
米国企業が作り出したネット革命に対し、他国は従ったため、他の国でも米国企業が標準になった。日本も例外ではない。しかし、中国は米国企業に対抗する道を選んだ。アリババ、テンセント、百度が作られ、中国の情報は米国企業には渡らなかった。仮に原子力技術が中国に渡り、ITと同様に独自の道を進み情報が開示されなければ、他国にとっては大きな損失になる。
中国も韓国も依存するWHの技術
米国政府が、中国企業によるWH買収を阻止する大きな理由の一つは、WHが世界の原発の約4分の1を建設していることに加え、WHの技術が中国、韓国の原発の基盤を作っていることもある。世界の既存原発の約半分はWHの技術を基にしていると言われほど世界の原発技術の主流だ。さらに、WHの加圧水型原子炉は、今後建設が予定されている世界の原発の多くを支えると見られている。技術に加え、もう一つの大きな理由は、WHが米国の原子力発電所の維持補修を行っており、自国の発電量の約20%を担う原子力発電所の大半の維持を中国企業に任せることに米国政府が大きな懸念を抱いているからだ。
中国の発電量は世界一であり日本の約6倍の電力供給を行っている。電力の約4分の3は石炭火力発電所から供給され原子力が占める比率は3%に過ぎないが、大気汚染に加え地球温暖化の問題もあることから、中国政府は石炭火力を抑制し、低炭素電源の原発と再生可能エネルギーの開発に力を入れている。
表-1の通り中国は現在36基の原発を保有し、その設備量は3300万kWに達するが、現在建設中の設備が21基、2300万kWあり、2020年時点では日本の設備量を抜く。さらに、計画中が41基、4700万kW、構想中が174基、約2億kWある。2026年には現在99基、設備量9900万kWを持つ世界一の米国を抜き、中国が世界一の原発保有国になると予想されている。
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中国は原発技術を、ロシア、カナダ、フランス、米国から導入し建設を行っていたが、2006年にWHの第3世代炉AP1000を4基導入することを決め、その上でWHから技術移転を受け、AP1000の改良型CAP1400を国産炉として開発した。さらに、フランス・アレバの技術を基に華龍一号を国産炉として開発した。現在建設中の21基の内AP1000は4基、華龍一号4基だが、今年から来年にかけ建設が開始される予定の41基の内24基をAP1000が、8基を華龍一号が占めると見られている。WHの技術が今後中国の原発の中心を担うことになる。
韓国最初の商業運転を行った原発はWHのターンキー設備だった。その後WH、アレバの加圧水型を中心に導入を行い、1987年からWHと技術導入契約を締結し、APR1400を開発している。2016年には韓国電力公社の原子力部門を引き継いだ韓国水力原子力発電がWHと部品供給契約と技術協力契約を締結している。韓国の原発技術を支えているのもWHだ。
中国には買わせないが有力な買い手は韓国
中国はWHの原子力技術を導入したものの、全ての技術を入手した訳ではない。昨年米国の原子力技術に関し、エネルギー省の許可なく中国広核集団を援助していたとして逮捕された中国系米国人は、今年1月法廷で有罪を認めている。中国軍関係者による原子力関係技術のハッキング事件なども報告されている。中国は依然として米国の技術を必要としており、WHは中国が買いたい企業だ。
WHが不調になったのは、米国の原発の建設を請け負っていた企業を、その工事のリスクと共に引き受けてしまったことだが、米国内の市場の先行きもあまり明るくはない。シェール革命により米国内で天然ガス価格が大きく下落し、原子力発電所と天然ガス火力発電所間の競争力が不透明になってきた。原発の投資額は天然ガス火力の5、6倍以上するが、長期間に亘る天然ガス火力との競争が不透明になっており、巨額な投資を行っても回収できないリスクが出てきた。電力会社は原発の着工に躊躇している。図-2は米国の工事中と建設許可を持っている原発を示しているが、許可取得済みの原発が建設を開始するか不透明になってきた。
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東芝がWHを買収した2006年にはシェール革命はまだ起こっていなかった。また、原発ルネッサンスの減速も予想されていなかった。一旦は減速した原発の計画は、北欧、東欧、英国、中国、インドなどで、地球温暖化問題への対処もあり、再度動き出している。そんななかで、中国がWHを買うのはなんとしても阻止する米国政府の意向であり、報道では日米間で協議も行われているとされる。
いま、最も有力な買い手は、WHより技術導入を行った韓国電力とされている。米国から英国に渡り、日本が保有することになった原発技術が韓国に渡るとすれば、日本企業の凋落を見るようであり残念だが。
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/9406
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