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米原発作業員も呆れ顔、東芝がハマったWHの泥沼
「2か月間、ただ座っているだけで給料がもらえた」
ニュースを斬る
2017年4月4日(火)
篠原 匡、長野 光
3月29日、東芝の米原子力子会社ウエスチングハウス(WH)が米連邦破産法11条(チャプター11)の適用を申請した。債務保証の履行などによって、2017年3月の東芝の連結最終赤字は1兆100億円に拡大する見通しだ。2009年3月期に7873億円の最終赤字を出した日立製作所を上回る、製造業で史上最大の赤字額である。名門、東芝を債務超過にまで追い込んだ米原発建設の底なし沼。建設にかかわった作業員はどう見ているのか。現場の声を聞いた。
(ニューヨーク支局 篠原匡、長野光)=敬称略
WHが建設を手がけるボーグル原発(ジョージア州)の全景
ジョージア州ウェインズボロにあるボーグル原発。右側の2機が建設中の3号機と4号機。チャプター11(米連邦破産法11条)の適用を申請した直後の3月29日に訪ねたが、建設工事はちゃんと続いていた。もともとの完成時期は3号機が2016年、4号機が2017年だが、着工から4年が経過した現在も3割程度しか完成していない。発注者は米電力会社サザン・カンパニー。(写真:篠原匡)
「間違った会社が工事を始めた」
ウエスチングハウスは「航空機の衝突などに備えた設計変更や許認可の遅れが、工事が遅れている原因」(※参考 2017年3月13日配信記事「東芝存続には、WHの“破産”以外に道はない」)と日経ビジネスの記者に述べているが、現場に出入りしている作業員は、それだけではないと語る。
例えば、2011〜14年の3年間ボーグル原発で働いていたジョーンズ(本人の希望で仮名)は「間違った会社が工事を始めた」と語り、工事を請け負っていた原発のエンジニアリング会社、米CB&Iストーン・アンド・ウェブスター(S&W、2015年12月にWHが、米CB&Iから買収した企業。底なし沼となった原発建設の元凶。※参考 2016年12月28日配信記事「東芝、原発事業で陥った新たな泥沼」)を批判した。
東芝の綱川智社長は3月29日の会見で、米子会社ウエスチングハウス(WH)の米連邦破産法11条(チャプター11)の適用申請について説明した。同時に、東芝の2017年3月期の連結最終損益が1兆100億円の赤字となる可能性も発表した。ウエスチングハウスがチャプター11の適用を申請したことで足元の出血は止まるが、工事の進捗次第ではさらなる損失もあり得る(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)
「なにせ、原発建設は34年ぶりだったから」
ジョーンズ(ボーグル原発の元作業員):「普通は一定の金額を提示して、その中で工事を終わらせるという契約を取るものだが、今回は作業した分だけ報酬を請求するという形になっていた。これだと、工事が伸びた分だけ請求されるよね。あくまでも私見だけど、最初にお金を出す人が工事の費用をちゃんと見積もれなかったということなんじゃないかな。なにせ、原発建設は34年ぶりだったから」
「原発工事の歴史を振り返ると、最初の1機を作るときは赤字になるけど、同じものをいくつも作っていくと、より効率的に黒字になっていく。今回も作り続ければWHも利益がどんどん出たと思うよ。ただ、最後に原発を造ったときの感覚で新しい原発を造ろうと思うのは非現実的だ」
WHが建設を手掛けるVCサマー原発(サウスカロライナ州)全景
サウスカロライナ州ジェンキンズビルにあるVCサマー原発。2号機と3号機が建設中だが、こちらも進捗率は3割程度。政府の税制優遇を得るためには2020年末までの運転開始が必須だが、2020年までに運転開始が可能と考えている人間は、取材した限りでは誰一人としていなかった。発注者はスキャナ電力。(写真:篠原匡、以下同)
「3000人で3000人を見ているような状況」
一方、とび職として現場で足場を組んでいるというグラン・テストンは、WHのてこ入れ策が逆に現場の混乱を招いていると主張する。WHはS&Wの買収を決めるのと同時に、プラント・エンジニアリング大手のFluorが、ボーグル原発とVCサマー原発の現場管理で主導的な役割を担うと発表した。プロジェクト管理に定評のあるFluorを加えることで工事のスピードアップを図ろうとしたが、結果的に上手くいっていないようだ。
ボーグル原発で建設現場の足場を組む、とび職のグラン・テストン
ボーグル原発のそばのコンビニでスロットに興じていたグラン・テストン。「(WHの新型原子炉)AP1000は安価にエネルギーを作るという触れ込みだったけど、いまだに安くなっていないね。ハハハ」
テストン(ボーグル原発のとび職):「ラーニングカーブ(学習と能力の伸び曲線)っていう言葉があるだろ。経験を積むうちに作業効率が上がっていくというアレだ。CB&Iはだいぶカネを消費したが、だいぶ仕事ができるようになってきていた。ところが、Fluorが後を引き継いで仕事の仕方を変えたため、逆に工事がスローダウンしている」
「この現場で働き始めた4年前、2500人のワーカーを2500人で見ているような状況だった。Fluorになってからは3000人で3000人を見ているような状況だ。管理する人間が多すぎるんだよ。オレがどこの社員かって? 初めはCB&Iに雇われていたが、今はFluorだ」
VCサマー原発の鉄柵
ボーグル原発と異なり、VCサマー原発は森の中にあるため、外観の見られるところが限られている。サイトにつながる林道もこの通り
「10分の仕事をするのに丸1日かかる感じ」
今回、ボーグル原発とVCサマー原発では10人近くのワーカーを取材したが、マネジメントの混乱や、NRC(米原子力規制委員会)の規制強化を背景にした安全基準の変更も工事が遅れている理由だと声を揃えた。この点については、2012年11月から2016年11月までVCサマー原発で溶接工をしていたフィリップ(本人の希望で仮名)の証言が生々しい。
フィリップ(VCサマー原発の元溶接工):「兄が現場で働いている縁で、オレもVCサマー原発で働くようになったんだ。でもCB&Iが外れてFluorが入った後にレイオフされた。戻りたいという気持ちもあるんだけど、実際のところ、あまり仕事がないんだよ。例えば、最初の2カ月はただ座っているだけで何も仕事がなかった。給料はちゃんともらった。残業代も含めて。でも何もすることがない。ビックリしたよ」
「どこの現場に行っても同じだけど、“Work package”という大きなバインダーをもらうんだ。そこに仕事の内容が細かく書いてあり、プロジェクトマネージャやエンジニアとミーティングをして働き出す。最初、オレは3号機の現場で働き出したんだけど、そのWork packegeが全然届かなかった。つまり、やることが決まっていないのに人だけ雇っていたんだよ」
原発労働者が生活をするトレーラーハウス
ボーグル原発やVCサマー原発の周辺には作業員が寝泊まりするキャンプ場が数多くある。現場での作業は長期に及ぶため、作業員の多くは自身のキャンピングカーで現場を渡り歩くのだ。
クレーンオペレーターのラリー・ダンキン
ボーグル原発そばのキャンプサイトにいたラリー・ダンキンも、自身のキャンピングカーで現場を渡り歩いている一人。クレーンオペレーターのダンキンは1年半前にオハイオ州から来たという。「このクルマは10年くらい使っているよ。3万4000ドルだった。駐車代は月350ドル。そこの穴にパイプをつなげば排水できるんだよ。今の状況? 別に不安はないな。どうして不安になる必要がある。ウエスチングハウスが破綻しても、どこかが引き継ぐだろう。ここの現場が終わればオハイオに帰るよ」
フィリップ:「その後も、安全に関わるルールが変わるたびに作業が止まるので仕事にならなかった。毎週のように安全ルールが加わるんだ」
「例えば、何か作業をしているときに今の安全基準に則った場合、どうすればいいのかと疑問に思うことがあるよね。上長に報告するんだけど、上長の意見が割れる。会議になる。ある人はOKと言っても、別の人がこれじゃあダメだよ、という。それで1日が過ぎる。仕事の中身はほかの現場と比べてもそう難しくないけど、ちょっと溶接するにも散々話し合う。10分の仕事をするのに丸1日かかる感じだった」
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/110879/040200649/P3310036.JPG
クレーンオペレーターのスティーブ・クラフト
VCサマー原発の対岸に住むスティーブ・クラフト。彼自身、クレーンのオペレーターとしてVCサマー原発で働いている。「(WHのチャプター11の適用申請で)オレの4万ドルの401Kがどうなるかが不安だよ。他の連中は、“何で電子レンジが動かねえんだ”とかそんな話しかしていないが(笑)」
フィリップ:「また、工程が終わるごとに(作業が適切にされたかを確認する)インスペクションもあって、インスペクターが来るのを待っている間は何もできない(2週間も来ないこともあったと語る作業員もいた)。ボスはむしろ早く仕事を終わらせたいんだけど、そういうわけで終わらない」
「おかげで現場自体はかなり安全だよ。ただ安全なのはいいんだけど、ほとんど何もできないんだ。4年間いたけど、実際に仕事をしていたのは半年くらいのような気がする。毎日がそんな調子で続くんだよ。待っている間は何をしていたかって? 映画を見たり、寝たり、メールを打ったり。みんな寝てたね」
林業の風景
今でこそボーグル原発が最大の雇用先だが、同原発のあるジョージア州ウェインズボロ周辺は農業や酪農、林業などが主要産業だった。現に周囲には植林された林や丸太の貯蔵スペース、ベニヤ工場などがある
フィリップ:「給料は悪くなかった。税引き後で月に8000ドル(約90万円)。兄貴は階級が上なので月に2万ドル(220万円)くらいもらっているはずだ。だからみんな文句を言わないんだよ。戻りたくないかって? 確かにそうなんだけど、今の現場では1日12時間、結構ハードに働いている。どちらが疲れるかと言えば、サマー原発でヒマしている方が疲れるんだよ」
「面白いのは、CB&I、Fluorと現場管理の会社が変わるたびに作業員をレイオフするんだけど、また同じ人間を雇うんだ。現場もマネジメントの顔ぶれも同じ。彼らはこの仕事が終わってほしくないから急ごうとしない。できるだけ長くいて、少しでも多くのお金を稼ぎたい。稼ぎはいいからね」
ボーグル原発のすぐそばにあるコンビニ、C&J Convenienceで働くメリンダ・ウィリス。彼女もボーグル原発の建設現場で働いていたが、昨年11月にレイオフされた。今はこのお店の料理人。「工事が始まってウェインズボロの物価がすごく上がった。バブルね。最初に入ったアパートは3ベッドルームで月500ドルだったけど、出て行くときは850ドルになっていた。キャンピングカーも借りると月1500ドル! この辺の土地も急に値上がりしているわよ。じゃあ工事が終わったらどうなるかって。ゴーストタウンに決まっているじゃない!」
「デッドラインに終わる原発工事なんてないんだよ」
原発の発注元である電力会社のサザン・カンパニーやスキャナが税制優遇を受けるためには、2020年末までに運転を始めなければならない。ボーグル原発、VCサマー原発ともに2020年末までの稼働を目指しているが、作業員の話を聞いていると、今のままでは難しいのではないかと思わざるを得ない。冒頭のジョーンズは以下のように語る。
ジョーンズ:「工事が始まった当初、尋常じゃない雨が降って工事の邪魔をしたという事情はあった。また、福島(第一原発)の事故の後にあった規制の変更も大きい。デザインをし直さなければならなかったから。ただ、福島の事故がなくても予定の期間には終わらなかったと思うよ」
「経験のある作業員はリタイアしたか、コストが高いので声がかからなかった。学校を出たばかりの若者が工事に携わっても、思うようにはできないものだよ。中断なく工事が進めば2021年か2022年に終わるかもしれない。デッドラインに終わった原発の工事なんてないんだよ」
ボーグル原発の全景
曇天の下のボーグル原発。雷や降雨で作業が中断することもしばしばだったとジョーンズは語る。この後、実際に雷雨になった。
このコラムについて
ニュースを斬る
日々、生み出される膨大なニュース。その本質と意味するところは何か。そこから何を学び取るべきなのか――。本コラムでは、日経ビジネス編集部が選んだ注目のニュースを、その道のプロフェッショナルである執筆陣が独自の視点で鋭く解説。ニュースの裏側に潜む意外な事実、一歩踏み込んだ読み筋を引き出します。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/110879/040200649
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