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原発イジメ・差別・風評被害に苦しむフクシマの実態(depositphotos.com)
原発イジメ・差別・風評被害に苦しむフクシマの実態! 被災避難者や作業員もストレス反応
http://healthpress.jp/2017/03/post-2854.html
2017.03.10 ヘルスプレス
東日本大震災から6年――。地震・津波・原発事故のトリプル後遺症が、今なお被災者や支援者を過酷に揺さぶっている。差別や偏見の矛先は、福島原発所員や除染作業員にも向けられている。
順天堂大学大学院医学研究科・公衆衛生学講座の野田愛准教授、谷川武教授らの研究グループは、福島原子力発電所員の「メンタルヘルスに関する追跡調査」を実施。災害関連体験と心的外傷後ストレス反応(PTSR)や精神的苦悩(GPD)との因果関係を究明した。この研究成果は、医学雑誌『Psychological Medicine』Vol47.2017(http://journals.cambridge.org/psm )に発表される。
■差別・中傷による心的外傷後ストレス反応(PTSR)に悩む福島原発所員
研究グループは、震災直後の2011年5〜6月に福島原発所員1417名(第一原発=1053名、第二原発=707名)を対象に「自己記入式アンケート調査」を実施した。
この調査では、自分の生命に危険が迫る体験や発電所の爆発などの「惨事ストレス」、同僚を失った「悲嘆体験」、財産喪失や自宅からの避難などの「被災者体験」、「差別・中傷」などの社会批判の災害関連体験を経験した所員と、経験しなかった所員に分け、「出来事インパクト尺度(IES-R)」を用いて、2011年から2014年までの災害関連体験とPTSRやGPDの長期的変化との関連性について分析した。
「出来事インパクト尺度」は、PTSRの重症度を評価する自記式質問紙だ。最近1週間の22項目の症状の強度を0〜4点として加点(最大88点)し、出来事インパクトを評価する。この調査では IES-R25点以上を「心的外傷後ストレス反応あり」と判断している。
分析の結果、「惨事ストレス」「悲嘆体験」「被災者体験」「差別・中傷」などの災害関連体験を経験した所員のPTSRリスクは、時間とともに徐々に低減するものの、経験していない所員に比べると、3年経過後もPTSRリスクが持続していた。
特に「差別・中傷」などの社会批判を受けた所員のPTSRリスクは、受けていない所員に比べて2011年時点で約6倍、2014年時点で約3倍も高かった。また、同僚を失った「悲嘆体験」がある所員のPTSRリスクは、経験のない所員に比べて2011年時点でも2014年時点でも約2倍も高かった。
この調査によって「惨事ストレス」「悲嘆体験」「被災者体験」「差別・中傷」などの災害関連体験は、長期間にわたって続くため、PTSRやGPDに強い影響を及ぼす事実が判明している。
■PTSRは、自然災害が及ぼす強いストレスやトラウマへの正常な心理的反応!
自然災害は、「個人的なトラウマ」と「集団的なトラウマ」をもたらす。
災害による強いストレスやトラウマを受けると、自己が著しく脅かされたと感じるため、安心感や安全感が保てなくなるが、このすべての人が多かれ少なかれ経験する正常な心理的反応、それがPTSRだ。
PTSRは、繰り返し思い出す再体験(侵入)、現実を避けたり、感情が麻痺する回避・麻痺、神経過敏になる過覚醒などの症状を示すものの、時間とともに軽快し、回復に向う。
だが、時間が経過しても軽快しなければ、トラウマ体験をフラッシュバックするASD(急性ストレス障害)や、ASDの症状が1カ月以上続き、トラウマ反応が終息しないPTSD(外傷後ストレス障害)につながる。
PTSRからASD、PTSDへ変化するか否かは、トラウマの強さ、ストレス受容力、メンタルヘルスのサポート体制、生活習慣などの要因が深く関わるので、個人差が大きい。
今回の調査によると、精神科医や臨床心理士がメンタルヘルスの不調を訴える所員に対して、災害後、4〜12カ月間にわたり継続的な治療や心理カウンセリングを提供しつつ、トラウマに対する精神的な支援を行ってきたという。
今後は、原発事故だけでなく、自然災害の被災者・支援者に対する組織的な介入や長期的な支援を継続しつつ、メンタルヘルスを良好に保つ取り組みがますます求められるだろう。
■福島デマ、放射能ヘイト、放射能イジメが蔓延するのはなぜ?
このような悲惨な震災関連体験にさらされているのは、福島原発所員だけではない――。「福島県産の食品は危ない」などの根も葉もない福島デマ、「放射能がうつる」などのいわれのない放射能へイトや放射能イジメが蔓延している。
復興庁によると、2017年2月28日現在、県外避難者は約12万3000人。このうち18歳未満の子どもは9252人にのぼる。これまでの報道で周知の通り、150万円の現金を恐喝された横浜の中学生や、名前に「菌」をつけ呼ばれた新潟の小学生など、子どもへの放射能イジメは、依然として減る兆しはない。
NHKと早稲田大学人間科学学術院の辻内琢也教授は、福島県から避難した被災者を対象に「原発避難イジメに関するアンケート調査」を実施している(「NHK NEWS WEB」2017年3月9日)。
調査によれば、回答した741人のうち、子どもが学校などでイジメられたと答えた人は54人(7.3%)。避難先などで嫌がらせや精神的苦痛を感じたことがあると答えた人は334人(45%)に上った。
その内訳(複数回答)は、賠償金に関するイジメ274件(37%)、避難者であることを理由としたイジメ197件(27%)、放射能を理由としたイジメ127件(17%)だ。
具体的には、避難者であることを理由に団地の行事に参加できなかった、自動車を傷つけられた、賠償金をもらっているという理由のため転職先で資格や給与をもらえなかったなど、避難者への冷酷な嫌がらせやイジメが、子どもだけでなく大人にも日常的に広がっている。
辻内教授は、賠償金が生活環境やふるさとを奪われた人たちに対する償いであるということが忘れ去られている、多くの人たちが原発事故の被害が今でも続いていることを知ることが大切と指摘する。
■「避難者は被害者である」という認識が社会に欠けている
さらに、朝日新聞社と福島大学の今井照教授が実施した「避難者への共同調査」でも、突然、故郷から引き離され、慣れない土地で生きる避難者が、心ない言葉や態度にさらされて胸を痛めている実態が浮き彫りになった(朝日新聞:2017年2月26日)。
たとえば、「なんで福島に帰らないの?」「いくら賠償金をもらえるの?」「福島から種を持ってきたんなら、この畑は放射能に汚染されているんだろう」などの心ない言動が避難者の胸を逆撫でている現実がある。
今井教授によれば、この調査によって避難者イジメに遭う人が多い事実、福島県の避難者であることを明かせない人が少なくない実態、「避難者は被害者である」という認識が社会に欠けている状況が確かめられたと強調する。
その背景には、原発事故の責任者が明確でない、国も国有化された東京電力も刑事責任を問われていない、除染費用が国民の負担に転化されているなど、原発事故の加害構造が見えにくくなっている実状がある。
その結果、避難せざるをえない状況に追い込まれた「避難者は被害者である」という社会の認識が弱まっている。打開への道筋は見えるだろうか?
南相馬市立総合病院の澤野豊明医師は、放射線災害の差別をなくすためには、放射線に関する正しい知識が国民の間で共有されなければならないと強く指摘する(「MRIC医療ガバナンス学会」2017年2月13日)。
http://medg.jp
リスクマネジメントを研究する企業コンサルタントの西澤真理子氏によれば、人間は自分の仮説や信念に都合のいい情報を集めるバイアス(偏り)が働きやすいため、論理よりも感情が優先するという(「Buzz Feed」2017年3月5日)。(http://www.buzzfeed.com/satoruishido/3-11-com munication)
たとえば、インターネット上に福島県産の食品は危ない、子どもに食べさせてはいけないなどのデマに惑わされやすい。だが、福島県産食品のデータを調べれば、簡単に否定できる情報であることを知ってほしいと、西澤氏は主張している。
原発トラウマも福島デマも、放射能ヘイトも放射能イジメも、その根は同根に見える。知りたくない、見たくない、近づきたくない、触れたくない。そこに潜む差別心理は、汚染や異物を忌み嫌う集団恐怖心かもしれない。
さらには、原発事故でどれほど多くの人々が傷つき、トラウマを抱えて生きているということに想像力が及ばず、いじめや差別発言をするやからの無感覚、共感能力の欠如、精神的な病理もやはりきちん研究対象にして欲しい。明らかに病んでいると思うのだが。
(文=編集部)
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