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東電の原発再稼働だけは認めるな! 〜第三者委員会「報告書」を深読みして分かった変わらぬ「無責任体質」
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/48960
2016年06月21日(火) 町田 徹「ニュースの深層」 現代ビジネス
■「炉心溶融」と言うなとの指示
未曽有の原子力事故となった福島第一原発事故から5年余りが経過しても、東京電力は相変わらず非常識で、依然として自浄能力を醸成できていない。そのことを浮き彫りにする調査報告が先週木曜日(6月16日)に公表された。
皮肉にも、その事実を裏付けたのは、事故当時、原子炉内の核燃料が溶け落ちる「炉心溶融(メルトダウン)」の公表が2ヵ月以上遅れた問題について、東電が調査を委託した「第三者検証委員会」と称する組織の報告である。
同報告は、問題の原因を「(官邸から「炉心溶融」の言葉を使わないように言われた)清水正孝社長の直接の指示」「(社長の指示が)東電社内で広く共有されていた」としながら、その結果生じたメルトダウン隠しを「故意ないし意図的と認めがたい」などと、我田引水の結論に導く内容だった。
この報告に、柏崎刈羽原発の再稼働問題を抱える、新潟県の泉田裕彦知事は「(これまで同県の)技術委員会に虚偽の説明をしていた。極めて遺憾」とコメント。
メルトダウン隠しの張本人と名指しされた首相官邸側(当時)は、菅直人元首相や枝野幸男元幹事長が「(参議院議員選挙の)選挙妨害の疑いもある」などと反論する騒ぎになった。
折しも、高浜原発の運転差し止めを命じた仮処分に対する関西電力の執行停止申し立てを大津地裁が却下したり、先の熊本地震の知見を原発の安全基準に加える要求が原子力規制委員会の前委員から出されたり、原発再稼働を巡る議論がここへきて再びヒートアップする様相を呈している。
来月に投票が迫った参議院議員選挙の争点としても、クローズアップされそうな雲行きになってきた。
不祥事を起こした企業が、事実関係の調査と称して時間を稼ぎ、客観性を装って自らの主張を盛り込むために設置する「第三者委員会」。もっともらしい「第三者」というネーミングとは裏腹に、その組織には常に胡散臭さが付きまとう。
■客観的な「第三者」のはずがない
先週、辞任に追い込まれた舛添要一前東京都知事のケースでも、前知事が繰り返した「第三者の厳しい目」という言葉とはかけ離れた生温い報告に呆れた読者は多かったはずである。
だが、ちょっと見方を変えれば、胡散臭いのは当たり前なのだ。
不祥事を起こした主体が、調べてほしい内容や期間を設定し、報酬を支払うことで雇える弁護士らを使って調査の体裁を整えるのだから、そもそも、客観的な「第三者」のはずがない。
それでも、1990年代の規制緩和によって人数ばかり増えてしまった弁護士のセンセイ方にとっては、貴重なビジネスチャンスなのだろう。少しでも体裁を整えて登場機会を増やそうと考える向きが多いらしい。
日本弁護士連合会では、2010年に「企業等不祥事における第三者委員会ガイドライン」なるものを設けて、これをベストプラクティス(最善の実践)とし、権威づけを図る動きはある。だが、それもなかなか浸透していないのが実情だ。
設置時(3月9日)の発表によると、今回の「福島第一原子力発電所事故に係る通報・報告に関する第三者検証委員会」は、福島第一原発事故を巡る通報や報告について検証する目的で、東電が設けたものだ。
メンバーは、委員長が判事出身の弁護士田中康久氏、委員は検察官出身の弁護士佐々木善三氏、弁護士の長ア俊樹氏の3人である。
特に、「事故当時の社内マニュアルに則って、炉心溶融を判定・公表できなかった経緯や原因」「新潟県技術委員会に事故当時の経緯をご説明する中で誤った説明をした経緯や原因」を解明することを使命としていた。
背後に、柏崎刈羽原発の再稼働問題を抱え、早くから「ウソをつく会社」と東電への不信を表明してきた泉田裕彦新潟県知事の真相解明要求があったからだ。
■「この言葉は使わないように」と耳打ち
しかし、今回の東電・第三者検証委員会が、前述の日弁連のガイドラインに合致していないことは明らかだ。
なぜならば、日弁連のガイドラインが第三者委員会の調査手法として「委員及び調査担当弁護士は、関係者に対するヒアリングが基本的かつ必要不可欠な調査手法であることを認識し、十分なヒアリングを実施すべきである」と規定しているにもかかわらず、東電の第三者委員会は「権限がない」(東電・第三者委員会の田中康久委員長)という理由で、“メルトダウン隠しの張本人”と名指しした当時の「首相官邸」関係者にまったくヒアリングしなかったからだ。
東電・第三者委員会の報告は表紙や目次を含めてA4用紙75枚に及ぶ。それによると、事故の発生から3日が経った2011年3月14日、清水社長は、記者会見に臨んでいた武藤栄副社長に、広報担当者を通じて「炉心溶融」と記したメモを渡させて、「首相官邸からの指示により、この言葉は使わないように」と耳打ちさせたという。
この記述が事実ならば、炉心溶融(メルトダウン)隠しの核心として徹底的に追及すべきポイントである。
当時、事故の深刻さを裏付ける炉心溶融に至っているかどうかは、世間やメディアの大きな関心事の一つだった。後に広報担当を外れる原子力安全・保安院(当時)の広報官が事故翌日の3月12日の会見で炉心溶融を半ば既定事実として認めていたし、今回の報告でも小森東電常務(当時)が可能性を否定しなかったことを認めているとしている。
実は、筆者も本コラム(2011年3月15日付『「巨大津波対策不足」から続く誤算が招いた原子力発電「安全神話の危機」』)で「(福島第一原子力)発電所では、1号機と3号機が、観測史上最悪の東日本巨大地震に伴う「想定外の津波」の直撃を受けて、冷却機能を失い、原子炉の心臓部が損なわれる炉心溶融(メルトダウン)を起こした」と記した。他のメディアと同様に、独自の取材を踏まえて、事故の大きさの象徴として、炉心溶融の事実を迅速に伝える義務があると判断したのである。
■「事故」と呼ばずに「事象」と言い換える
その障害になったのが東電だ。原子力安全・保安院(当時)の広報官の交代の頃から、1号機については、その年の5月15日まで、2、3号機については同24日まで、「数値的な裏付けがない」「確認ができない」と強弁して、「炉心溶融」を「炉心損傷」と言い換える「事実の矮小化」を同社が展開したのである。つまり、「炉心溶融」と書くのは誤報だと言わんばかりの広報対応に、途中で切り替わったのである。
今回の報告で、第三者委員会は、「耳打ちした担当者が清水社長から指示を直接受けた」としており、それを理由に、根拠が薄弱なまま、「清水社長が官邸側から要請を受けたと理解していたと推認される」と断じている。
しかし、ここに論理の飛躍があることは明らかだろう。当の清水社長は「記憶が薄れている様子」で、「官邸の誰から、どのように指示を受けたか解明するには至らなかった」というからである。
この事実関係は決していい加減に済ませてよい問題ではない。当たり前だが、事実を追及する者として、弁護士ならば日弁連のガイドラインにも則って、官邸関係者からのヒアリングを行って事実確認をすべきところである。
ところが、東電・第三者委員会は「権限がない」(田中委員長)という言い訳を持ち出した。なんと、一切、官邸関係者のヒアリングをしなかったというのだ。それにもかかわらず、「清水社長が官邸側から要請を受けたと理解していたと推認される」と、責任を官邸に転嫁する結論を導いたのである。
3人の委員がこのレベルの仕事ぶりで「弁護士」の肩書を使ったことを、他の弁護士諸兄が問題にしないとすれば、驚きだ。いずれにせよ、東電・第三者委員会は、「第三者委員会」の体を成していない。
他の部分を見ても、調査に3ヵ月余りの時間をかけた割には、この「検証結果報告書」は、お粗末だ。ほとんどの部分がすでに明らかになっている事実を踏襲し、中途半端な議論に終始している。
例えば、東電は福島第一原発事故を「事故」と呼ばずに、かねて「事象」と呼び変えてきた。その言い換えは、今回の報告でも随所に踏襲されている。筆者を含むメディア関係者の間では、この呼び替えこそ、事態の深刻さを覆い隠す東電の隠ぺい体質を端的に示すものとの認識がほぼ定着している。他にも、あの当時、事故を巡る東電の不親切で、過少で、遅過ぎる通報や公表は、枚挙に暇がなかった。
■再発防止策のない不思議な調査報告書
ところが、今回の検証結果報告には、そうした事実の然るべき検証も無ければ、責任の所在の追及、根深い体質問題の解明もみられない。これでは、「第三者委員会報告」と称するならば盛り込むべきとされる、まともな再発防止策が導き出せる道理がない。
実際、最後の「第9 提言等」では、当時、福島第一原発で高い放射線が確認されたにもかかわらず、東電が通報しなかった問題を取り上げながら、「(正確な通報をする)姿勢を徹底する必要がある」としただけだ。なぜ、それが行われず、会社がどう改めるべきか、どうすれば改められるかといった点について、触れない報告にとどまった。
新潟県への虚偽報告についても、「社内の情報共有が不十分だった」としただけで、唐突に「故意ないし意図的と認めがたい」と結論付けた。しかし、同報告には、「対外的に『炉心溶融』を肯定する発言を差し控えるべきとの認識が、東電社内で広く共有されていた可能性が濃厚である」と記している。
それならば、「故意ないし意図的」でも、「組織的」でもないという根拠を示すべきだが、そういった記述はなく「故意ないし意図的と認めがたい」と結論付ける実に不思議な調査報告なのである。
さらに、各種の通報問題については「過酷事故を想定した訓練を実施していれば、適切な通報がなされた可能性もある」と結論付けただけなのである。
繰り返すが、不適切な通報が多発した原因や風土、責任の追及は存在しない。なんとも無責任な調査報告の印象を免れない。これでは、言い訳に終始した当時の会社の情報開示姿勢とほとんど変わりがない。
こんな委員会を設置する会社が、再び柏崎刈羽で原発を再稼働しようと試みるのは、論外ではないだろうか。他の電力会社を東電と同視して一般的な原発再稼働問題に絡めるのは理不尽かもしれないが、東電の原発再稼働だけは決して認めるべきではない。それが、東電・第三者検証委員会報告を読んでみての率直な感想である。
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