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熊本地震で原発リスクが改めてクローズアップされたが…… (c)朝日新聞社
高速増殖炉「もんじゅ」 熊本地震後も再稼働前提に議論が進んでいた〈週刊朝日〉
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20160511-00000106-sasahi-soci
週刊朝日 2016年5月20日号
トラブル続きで昨年11月に原子力規制委員会から運営主体の変更を迫られた高速増殖原型炉「もんじゅ」。その期限まであと1カ月を切った。1兆円を超える血税をつぎ込みながら6年前から運転停止に、廃炉を迫る声も強い。だが、熊本で大地震があったにもかかわらず、存続が濃厚だという。
原子力規制委員会は昨年11月、ついに三行半を突き付けた。機構の主務官庁のトップに当たる馳浩文科相に対し、トラブルが相次いだもんじゅを運営する日本原子力研究開発機構(旧動燃。以下、機構)に代わる運営主体を探すか、それが困難なら「発電用原子炉施設もんじゅ」の在り方を抜本的に見直し、概ね半年以内に回答するよう迫ったのだ。
だが、もんじゅの受け入れ先は簡単には見つからない。冷却材のナトリウムを制御する技術的ハードルの高さに加え、運転しなくても維持費に年200億円かかる。原子力関係者からは「本来なら高速炉が必要といっている電力会社が引き受けるのが筋」との声も出るが、電気事業連合会の八木誠会長は文科相に勧告のあった昨年11月、「我々電力が引き受けるのは大変難しい」と予防線を張った。
人的交流もある日本原子力発電(原電)が引き受けるのではないかとの観測も出たが、原電関係者は「いまの原電にそんな力はない」と否定し、夢どころか、“お荷物”となっている。
そもそも高速増殖炉は、ウラン燃料が枯渇しても原発を動かすために計画された。その後、ウランの可採埋蔵量が増え、海中ウランも無尽蔵にあることがわかるなど状況が変わり、電力会社もやる気を失った。
それに加えて機構以外に高速増殖炉を動かした経験を持つ人材は限られ、うかつに手を出せないのだ。
それなら廃炉にすれば済む話だが、もんじゅは国策である核燃料サイクルの象徴的存在。文科省も簡単にやめると言えない。そのせいもあり、「『もんじゅ』の在り方に関する検討会」では廃炉も含めて広くもんじゅの「在り方」を検討するはずだったが、次第に「運営主体の在り方」を検討する会に矮小化してしまった。
こうしたもんじゅを巡る混乱は、おひざ元の福井県敦賀市にも波及している。
市内にある原電の敦賀原発1号機は廃炉が決まり、再稼働を目指す2号機直下には活断層があると報告されるなど原発産業はじり貧だ。歓楽街の本町にある居酒屋の店主はこうこぼした。
「以前はもんじゅ、敦賀、美浜の原発関係者がよく飲みに来ていたが、原発が止まってから客足が遠のいた。潰れる店も相次いでいます。先日は近所で山口組の抗争による発砲事件まで起きてダブルパンチです」
もんじゅの目と鼻の先にある白木漁港の漁師は「ナトリウム漏れ事故のときには影響が大きかった」としながら、すでに漁業補償をもらっているため、万一の事故で漁獲が減っても文句は言えないと複雑な表情で話した。地元市議が、もんじゅがなくなった場合の打撃をこう心配する。
「敦賀市は原発の町。市の一般会計約250億円のうち約5分の1は、電源三法交付金、固定資産税、核燃料税から入ります。とくに固定資産税は33億円ほどある。仮にもんじゅが廃炉になれば市の税収が減る上、雇用にも大きな影響を与えます」
一方、地元福井の住民らの間では、もんじゅの設置許可取り消しを求める裁判も起きている。原告団の一人、明通寺の住職・中嶌哲演さんらは85年に第1次訴訟を起こしたが敗訴。現在2度目の住民訴訟が東京地裁で進む。その中嶌さんが怒りを込めて言う。
「地元にカネをばらまき、住民の反対を押し切ってもんじゅは造られた。ナトリウム漏れの大事故を見てもわかるよう、超危険、浪費、反平和がもんじゅの本質なのです。このまま続ければまた事故が起きます」
こうした地元の心配をよそに、文科省ではもんじゅ存続を前提とした議論が進む。だが、機構に代わる運営主体が見つからない以上、落としどころはどこか。
10年から4年間、内閣府原子力委員会の委員長代理を務めた鈴木達治郎氏はこう予測する。
「発電プラントとするなら、機構を分割して国が別法人を作ることもあり得る。いまでももんじゅの発電部門は研究開発と別組織になっているから、そこだけ切り離すのです。あるいは経産省が火中の栗を拾う形で引き取るシナリオもゼロではない。それらができなければ、発電をやめて研究炉にしてしまうかもしれません」
規制委の勧告には、「発電プラントとして機構には運転する資格がない」とある。それなら、文科省としては研究開発専門に変えると言いだすことも考えられるという意味だ。そのうえで鈴木氏は、いまの議論はもんじゅを動かすことありきで、根本的なことが抜け落ちていると指摘する。
「いままでの紆余曲折で研究用なのか事業用なのかわからなくなり、それが混乱につながっています。何のためにもんじゅを動かすのかをもう一度考えたほうがいい。廃炉が最適ということもあるのです」
国はすでにもんじゅに1兆3千億円を費やしているが、実用化のメドは立っていない。今後、馳文科相は検討会が5月中にまとめる報告書を参考にしてこの夏にも決断する。気になるのは参院選とのタイミングだが、存続した場合に自民へ悪影響を与えないよう選挙後になるとの見通しがもっぱらだ。(ジャーナリスト 桐島 瞬)
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