風力発電は環境を破壊するだけでなく低周波音で風車病・睡眠障害を引き起こす 2007年末、東伊豆の別荘地では1500`h×10基の風力発電が運転を始めた直後から、住民のなかで健康被害が続出した。
この因果関係を調べるため、事故で風車が停止しているとき、団地自治会が独自に疫学調査を実施した【表1】。不眠、血圧、胸・腹・歯・鼻・耳痛などの症状が、風車が停止することで大きく改善したことがわかる。 https://www.chosyu-journal.jp/shakai/6965 クリーンエネルギーと称しての風力発電がありますが、あれを間近で見たことがある人がどれ程居られますでしょうか? あの、圧倒的な威圧感、不快な風切り音、そして、小さなことではありますが、渡り鳥の事故死なんてのもあります。 一番クリーンな様な気はしますが、あの巨大風車はあるべき姿だとは思え無いのですけどね・・・。 風力を利用するにしても、もっと他のやり方があるのではないかと。 http://ssoubakan.com/blog-entry-2586.html 風車騒音の健康影響 北海道大学大学院 工学研究院教授 松井利仁 2017年7月28日 https://www.chosyu-journal.jp/shakai/3979 北海道石狩市では、石狩湾周辺に3000`h以上の風車四六基(総出力16・7万`h)が建設されようとしていることに、市民が粘り強い反対運動を起こしている。先日、本紙に石狩湾岸の風力発電を考える石狩市民の会のメンバーから大量の資料が送られてきた。そのなかで5月13日に開催したシンポジウムでの、北海道大学大学院工学研究院教授・松井利仁氏(工学博士)の講演「風車騒音による健康影響と石狩湾新港周辺三事業の影響評価」が地元で大きな反響を呼んでいることも記されていた。講演内容は専門家の見地から低周波音の人体への影響をとらえたもので、同じように風力発電と向き合っている下関市民にとって、もっとも知りたい内容を含んでいることから、松井氏に直接連絡をとり講演要旨を紹介することに快諾を得た。松井氏は北海道や札幌市の環境影響評価審議会委員も務めた。なお、最近下関市の安岡沖洋上風力発電を計画する前田建設工業が松井氏を訪ねて意見を求めており、「周辺人口が多すぎるので、この計画では健康影響が出る」と伝えたことを本人が明らかにしている。以下、その講演要旨を紹介する。 騒音で人が死んでいる 風力発電がもたらす環境影響は、一つは自然破壊、漁業環境破壊、それと今からお話する人への影響、健康への影響、この二つが大きなものだ。 まず札幌市を対象にした騒音、交通騒音の健康影響について見てみたい。札幌市で環境要因でもっとも人が死んでいるのは騒音だ。騒音で人が死ぬというメカニズムは風車騒音も共通している。この交通騒音の健康影響というのは世界的に、とくにヨーロッパでは常識になっている。6年前の2011年、フィンランドの研究所がおこなった研究で、フィンランド、ドイツ、ベルギーなど欧州六カ国で粒子状物質、交通騒音、ベンゼン、ダイオキシン、ホルムアルデヒドなどでどのぐらい健康損失が生じているかの推定値を明らかにした。100万人当たり1年間でどのぐらい損失しているかという数値で、ある人が1年早く死んだら1年損失である。明らかにトップは粒子状物質(6,000〜10,000)だ。これは日本でも全体的に見ればトップで、健康損失は年間3万人といわれている。ただし北海道はそれほど汚染されていない。 二番目が実は交通騒音(500〜1,000)だ。粒子状物質とはひと桁違う。一方、最近豊洲で話が出てきたベンゼンは2〜4で、さらに桁がちがう。ホルムアルデヒドは0〜2。交通騒音は粒子状物質に次いで二番目に高いのだが、よくマスコミをにぎわすのはベンゼンとかダイオキシン、ホルムアルデヒド。実際には交通騒音はそれより三桁ぐらいリスクが高い環境要因である。 従来、騒音は不快感を及ぼしたり生活妨害を起こす環境要因にすぎないと主張する人が多い。しかし現在WHOをはじめ騒音の健康影響を研究している者の常識は、「聴取妨害は不快感を及ぼすけれども、睡眠妨害はさまざまな身体的健康影響を及ぼしている」というものだ。 WHOの資料だが、複数の地域で住民を対象に道路交通騒音と心筋梗塞の発症リスクとの関係を調査した。騒音が80デシベルで1・5倍になっている。つまりその地域に住んでいると、他の地域よりも1・5倍、心筋梗塞の患者が多い。増えた分の50%は騒音が心筋梗塞の発症につながっている。日本の騒音の環境基準は、三大死因の一つである心筋梗塞の患者が15%増加するところに設定されており、けっして住民の健康を保護していない。これが騒音の環境基準の現状だ。 札幌市でこのWHOの計算方法をそのまま用いて試算した。毎年45,000人(札幌市の50人に1人)が道路交通騒音で軽度の睡眠障害を起こし、毎年150人が道路騒音で心疾患を発症し、そして毎年20人が道路騒音による心疾患で死亡することになる。これを札幌市の主要道路周辺に限って見てみると、道路交通騒音による生涯死亡リスク(死因)は100人に1人。これはとんでもなく高い数値で、たとえばベンゼンの環境基準は100,000人に1人の生涯死亡リスクを採用している。 他の死因と比べてみた。札幌市の各種年間死亡率で見ると、道路騒音による心疾患で100,000人当たり毎年30人が亡くなっている(高い数値の場所)。もちろん一番多いのはがんで、100,000人当たり年間278人、脳血管疾患で71人だ。しかし不慮の事故23人、自殺22人、腎不全21人よりも騒音で亡くなっている人の方が多い。低周波音も同様に危ない。このことが余り知られていない。 低周波音とその発生源 低周波音とはどういうものか? 環境省は100ヘルツ以下の音を低周波音と呼んでいる。超低周波音は20ヘルツ以下で、これは国際的に決められている。国によっては200ヘルツ以下を低周波音としているところもある。私もその方がいいと思う。苦情を見ているとその範囲の苦情がけっこうあるからだ。ところが国はどうしたかというと、これすら関係のないものにしてしまった。今年5月、環境省は「風力発電については、耳に聞こえない超低周波音(20ヘルツ以下)には健康影響との関連は見られないので、低周波音に注目して評価するのでなく、聞こえる騒音レベル(A特性)で評価せよ」という実に非科学的な内容の通達を出した。 低周波音の発生源は、高架道路(橋が揺れると一種の大きなスピーカーになり、揺れる振動数によって低周波音が出る)、風力発電、室外機(ヒートポンプ、エコキュート)などさまざまなものがある。日本で最初に低周波音事件が起こったのは西名阪自動車道路という高架道路だった。 西名阪自動車道路の問題がマスコミで話題になったのは昭和50年頃。「朝起きてみたら位牌の位置が動いていた」ということで話題になった。次に平成9年頃から家庭用ヒートポンプ(エコキュート)が普及しはじめた。寝室のすぐ横でエコキュートがずーっと回っていて寝られない。電気で回るエコキュートはまだましで、ガスで回る場合、50ヘルツの原付エンジンが寝ている部屋のすぐ横で夜中にずーっと回っているのと同じだ。 低周波音の物理的特徴 低周波音は普通の騒音と違う特徴がある。 まず、低周波音は遠くまで届く。4,000ヘルツの騒音は2`離れると音の大きさにして200分の1以下にボーンと下がる。これと比べ63ヘルツとか125ヘルツなどの音は、2`離れてもほとんど減衰しない。1`、2`離れたら影響は減るだろうというのは甘い考えで、人間の耳では差がわからないぐらいだ。遠くまで届いてしまうのが低周波音だ。 低周波音がやっかいなのは建物に入ってきやすいことだ。高い音は窓を閉めれば音の大きさは落ちる。デンマークでの実測例だが、100ヘルツをこえるとある程度減衰するが、50ヘルツあたりだと窓を閉めても変わらないか、窓を閉めると室内のレベルが上がった。どうしてそうなるかというと、一番の理由は共鳴だ。日本の家屋の場合に起こっているのは、天井と床の間での共鳴だ。天井と床の間が2・5bぐらいで、床面と天井面でレベルが上がる。床に布団を敷いて寝るとレベルの高いところで寝ているということになる。床ではとても寝られないので、簡易ベッドをつくって枕を上げたら寝られるということも起こっている。 低周波音でどんな影響が出るか。40年前の1977年、西名阪自動車道の周辺で低周波音の健康影響が出る事件があった。周辺住民が「頭痛・頭重」「不眠(睡眠障害)」「イライラ」「肩こり」「めまい」(多い順)という症状を訴えた。注目すべきはパーセンテージで、周辺20bまでのところに77人が住んでいたが、そのうち2人に1人が「頭痛・頭重」「眠れない」という症状を訴えた。また4人に1人が「めまい」を訴えた。これは健康影響以外のなにものでもない。「頭痛・頭重」「肩こり」「めまい」というのは音で生じる影響とは考えられない。そうではなくて内耳の前庭という所で空気の振動を検知することによる障害だ。これはいわゆる風車病と同じ症状だ。 低周波音で風車病の症状が起こるというのは、日本では40年前に知られていた。海外よりも早かった。それなのにいまだに低周波音を否定する人がいるのが私にはわからない。とくに騒音専門家といわれている人たちがこれを知らない。 健康被害が起る仕組み 人間の耳は、鼓膜があって中耳があって、蝸牛というところで音を分析して脳に伝える(図1)。そこには前庭という機関があって、頭の傾き、頭の振動を検知して体の平衡機能を保っている。音は鼓膜から入ってきて、まず前庭窓を刺激し、中のリンパ液を振動させて、一部は蝸牛に伝わって音として感じる。前庭窓から蝸牛の間に卵形嚢(のう)、球形嚢という二つの器官があり、ここが振動を感じる感覚器官だ(図2)。入ってきた振動はまずこの二つを振動させてから蝸牛に入る。卵形嚢・球形嚢は低周波音でしか反応しない。 低周波音による「公害病」はいくつかに分類できる。一つは低周波音が聞こえることによって「小さい音」でも気になって眠れない環境性睡眠障害。中・高周波音では小さい音は気にならない。「小さな音」が気になるかどうかは個人差があり、騒音計で評価することは困難だ。もう一つは今紹介した前庭への刺激で、耳に聞こえる音としてではなく圧迫感・振動感を感じることによって眠れなくなるのと、振動によってめまい、頭痛、肩こりを起こしていわゆる風車病となる。「音が気になる」かどうかより、物理刺激との関係が強い。さらにもう一つ、上半規管裂隙症候群(SCDS)という障害を持っている方がいる。1998年に発見されたもので、有病率は1〜5%。その方は低周波音、とくに超低周波音の感受性が極めて高い。この三つが発症機序である。 風車騒音と風車病・睡眠障害との因果関係について。風車病(風車症候群)と名前をつけたのはヨーロッパの研究者ニーナ・ピアポントだが、彼女が風車の近くに住んでいる人を調査して「転居したら治る」ということを調べた。それはきわめて強い因果関係を証明している。関連の可逆性という。2000年代のことだが、この時点で疫学関係者は風車病というのは低周波音で起こると確信していたはずだ。ところがいまだにそう思わない人がいる。耳鼻科ではもっと前から、音が前庭を刺激して「めまい」が起こるというのはチュリオ現象として教科書に書いてある。実はチュリオ現象は前庭器官の診断に使われている。 もう一つ、低周波音による「環境性睡眠障害」については、すでに複数の疫学調査結果(環境省を含む)で風車騒音と「睡眠障害」との関係は明らかにされている。にもかかわらず環境省は「睡眠障害」という言葉を使わない。家庭用ヒートポンプ(エコキュート)による「睡眠障害」に関しては、2年前の2015年に、参照値以下のレベルでも睡眠障害が起こるということを消費者庁が認めている。低周波音で睡眠障害が起こることは明らかで、これを否定する人は科学者ではない。 環境省の対応と問題点 環境省は実に非科学的なことをやっている。WHOは1999年に低周波音についての知見を出した。「A特性騒音レベルによる評価は不適切である」「低周波音が多く含まれる騒音に対しては、より低いガイドライン値が推奨される」「低周波音は低い音圧レベルでも休息や睡眠を妨害する可能性がある」ということをいっていた。 低周波音について環境省は、寄せられた苦情に対して2004年に参照値という目安をつくった。参照値というのは、10人に1人が寝室で「気になるレベル」を調べたものだ。そして環境省は参照値を目標値にしないよう通達した。住民の1割に影響が出るような値では住民を保護できないからだ。また、参照値は室外機など定常的な低周波音を対象としており、風車の風切り音のような規則的な変動がある場合はもっと「気になる」からだ。ところが事業者は通達を意図的にねじ曲げて、「環境省は参照値を使うなといった」といって、もっと緩い「環境基準値」や「気になる―気にならない曲線」、5割の人に影響が出るような数値を目標値にした。これは倫理観のある人間の行為ではない。利益追求しか考えない事業者やコンサルタント会社による公害犯罪だと思う。 先にのべたように環境省は今年5月、「風力発電から発生する騒音に関する指針」を出した。環境省が選んだ専門家は「風車騒音の影響は“聞こえる音”による生活妨害や不快感である」「“聞こえる音”なら騒音レベルで評価できる」「“聞こえる音”なら風車以外の騒音のある地域では基準値を緩めるべき」というものだ。なぜこういう論理を環境省が採用したのか、信じられない。これに対して選ばれなかった専門家、私だが、「環境省の研究でもすでに睡眠障害との因果関係が示されている。それを生活妨害とか不快感という言葉で矮小化するな」「WHOは20年前に騒音レベルでの評価を否定している」「前庭への影響は低周波音だけであり、人間は低周波音を聞き分けて“気になる”のだ」と反論している。 石狩の住民はどうなる 石狩湾新港周辺に計画されている風力発電事業について、人体への健康影響を評価してみた。影響の評価方法は「圧迫感・振動感」に注目したもので、事業者が提出している準備書をもとに、H特性音圧レベルから圧迫感・振動感を優先的に感じる住民の症状発生率を算出した。「圧迫感・振動感」の優先知覚率は「気になる曲線」より控えめである。 まず、石狩コミュニティウインドファーム(3,200`h×7基)だが、発症率1%以上のところに住宅地、住宅街がある。300人以上の周辺住民に健康リスクが生じる可能性がある。さらに風車は工業団地の真ん中にあるが、工業団地内では発症率は20%、30%、つまり3人に1人、場所によっては2人に1人が圧迫感・振動感を優先的に感じ、睡眠障害などの健康リスクが生じる可能性がある。仮に工業団地に1,000人働いていたとすると、30人ぐらいは圧迫感・振動感を感じ、その半数以上は就労困難になる可能性がある。 次に銭函風力発電(3,400`h×10基)だが、工業地帯からは少し離れている。石狩市樽川地区、札幌市手稲区山口団地のあたりで0・5〜1%ぐらいの人に健康リスクが生じる可能性がある。計算すると300人以上に健康リスクが生じる可能性がある。全員が発症するとはいわないが、ゼロになることはありえない。 そして一番問題の石狩湾新港洋上風力(4,000`h×26基、図3参照)だが、石狩市のほとんんどの住宅地と札幌市北区屯田、手稲区の大部分、小樽市銭函市街地で0・5〜1%をこえる住民に影響が出る(図3のだ円で囲った部分)。個人のリスクは小さくても人口が多いので、トータルとして約2,000人に健康被害の発症リスクがある。これだけ人口密集地の近くに大規模洋上風力発電がつくられるところは他にない。 低周波での科学の限界 さて、水俣病の場合を考えてみたい。「経済成長にブレーキがかかるから」「原因は厳密に特定できない」という理由で水俣病は約10年間放置され、企業は有機水銀の垂れ流しを続けた。それをサポートしたのが科学者だ。彼らは「原因はまだはっきりわかっていない」ということをいい続けた。のちにそれは「非科学的」と裁判で否定されたが、残念ながら彼らはその後も何の痛みもない。それにマスコミも協力した。「中央の権威がこういっている」という報道をして国民を納得させた。熊本大が解明した「有機水銀説」は闇に葬られた。御用学者には鹿児島大学長というポストと研究費が与えられた。 風車騒音被害の場合はどうなるか? 「パリ協定の目標を達成しようと思ったら再生可能エネルギーを増やさなければならない」といって、住民が睡眠障害や風車病を訴えているのに聞き入れない。そして水俣病の場合は個人の科学者が住民の健康被害を否定したが、低周波音の場合は日本騒音制御工学会という学会自体が否定している。原子力学会が原発の推進をやっているようなものだが、実際には原子力学会に加入している研究者で反対している学者もいる。ところが騒音制御工学会は低周波音について非科学的な発表を続けている。それはこの学会が環境省からの委託研究がないとやっていけないからだ。現状は半分以上が委託研究だ。なので私は去年、騒音制御工学会をやめた。 世界的には騒音・低周波音の健康影響についてかなりわかってきている。欧州では2002年にEUが環境騒音指令を出し、2009年にはWHOが夜間騒音ガイドラインを定め、騒音対策が進められている。六月に国際会議があるが、心疾患だけでなく、脳血管疾患、糖尿病、がん、精神疾患など、睡眠障害に起因するさまざまな疾患との関係が医学的に明らかにされつつある。低周波音は欧州WHOが風車騒音のガイドラインを策定中である。 しかし日本ではどうなっているか。国の法律は40年前の知識にもとづいたもので、国民の健康は保護されない。さらに地域差がある。騒音は地域指定されているところしか法律が適用されない環境基準だ。もし大気汚染で「ここの地域に住んでいる人には基準を適用しない」というようなことをいったら大騒ぎになるが、それをやっている。 1999年と2009年のWHOガイドラインにある健康影響を無視している。 また司法も、国の法律が定める基準値にもとづいて判断をおこなっている。私も裁判の証言にかかわってきたが、健康影響、睡眠障害をとり上げてくれる裁判官はいるが、最高裁までいくとWHOガイドラインすら科学的根拠なく否定している。裁判所はここまでできるのかと思う。 騒音・低周波音の健康影響が無視され続ける理由は、地球環境問題と同じ構図だと思うが、資本主義の下で利益追求を目的としているからだ。騒音・低周波音で人が死ぬと思っていないので、健康保護より利益追求を第一にしている。被害者が訴えても他人事だ。また、騒音・低周波音はほとんどの事業に関連し、どんなアセスメントでも騒音が出てくるため、利益追求には厄介な環境要因になり、何とかなきものにしたいと考えている。そのために騒音専門家を起用する。一番の責任者は東京大学名誉教授の橘秀樹氏で、環境省の環境審議会騒音振動部会などで約20年間、環境行政を歪めてきた。 最後に石狩湾岸の風力発電事業に対してだが、国はそもそも睡眠障害・風車病を認めておらず、そうしたなかで住民が因果関係を立証するのは困難だ。騒音・低周波音については法律で住民は保護されていない。そして事業者は「不特定多数の住民への加害」という、自分の家族にもいえない恥ずかしいことをやっている。私は、事業者はこの恥を理解できないが、その家族、出資者といわれる住民、マスコミは理解できるかもしれないと思っている。もう一つは騒音規制法による停止命令を自治体の長に出させることだ。風力発電は国が国策として進め、科学者がそれをサポートしているもので、水俣病と同じ構図なのだということを知ってもらいたい。 https://www.chosyu-journal.jp/shakai/3979 石狩風車の低周波音測定結果と健康被害 元札幌医科大学講師・山田大邦氏の論文より 2018年2月8日 https://www.chosyu-journal.jp/shakai/6965 政府・経済産業省は、化石燃料を消費せず二酸化炭素を出さない風力発電や太陽光発電を「クリーン・エネルギー」といって建設を促進している。これに対して大型風車が建っている地域の住民から、健康被害の訴えがあいついでいる。ところが、原因となっている低周波音について厳格な測定がおこなわれたことはあまりなく、ずさんな測定で「問題なし」として住民の訴えが退けられている地域も少なくない。さらに環境省は平成28年、「風車騒音は聞こえない超低周波音ではなく聞こえる騒音の問題として扱う」という指針を提案した。元札幌医科大学講師の山田大邦氏(生物物理学)は、北海道石狩市で稼働している1500`h級風車の音を実際に測り、超低周波音領域が最大音圧レベルで、その原因が風車特有の風切り音とその倍音構造(後述)にあることを確認した。山田氏の承諾を得て、『日本の科学者』2017年12月号(日本科学者会議発行)に発表した論文「石狩既設風車の低周波・超低周波音測定と健康被害」を引用しながら、その内容を紹介したい。 ◇ーーーーーーーー◇ーーーーーーーー◇ーーーーーーーー◇ーーーーーーーー◇ 空気の振動が耳に伝わり、鼓膜を振動させることによって、人は音として感じる。1秒間に振動する回数を周波数といい、ヘルツという単位であらわす。振動の回数が多ければ高い音、少なければ低い音になる。また、高い音と大きい音は異なり、音の大きさ(強さ)はデシベルという単位であらわす。 人間の耳が聞こえる範囲は20ヘルツから2万ヘルツといわれる。低周波音とは人間の耳に聞こえにくい100ヘルツ以下の音のことで、ほぼ聞こえない20ヘルツ以下の音を超低周波音という。 風車が生む健康被害は、騒音被害とは区別される低周波音・超低周波音(風車の羽が空気を切り裂いて生まれる振動)を主な原因とするもので、それは頭痛、不眠、動悸や胸の圧迫感、息切れ、めまい、吐き気などの自律神経失調症に似た症状を生む。低周波音は騒音と違って反射・吸収が少なく、貫通や乗り越えが顕著なので、二重サッシの防音壁は効果がないどころか逆に被害を拡大するし、騒音が距離を離すと減衰するのに比べて低周波音は遠くまで届く。低周波音による健康被害を解決するには、風車の撤去か住民の転居しかないといわれている。 この健康被害については、東伊豆(静岡県)、青山高原(三重県)、由良町(和歌山県)などの住民や医師が訴えている。2000年以降は発電量増大のための風車の大型化・大規模化が進み、2010年の環境省報告では、風車から1`以内、1基1000`h以上、1施設10基以上、総出力5000`h以上の場所での苦情件数の増加・継続化が明らかになっている。 日本では、環境省が2004年に「聴感実験において約9割の人々が寝室で煩わしいけれど許容できるレベル」として「心身に係る苦情に関する参照値」を設定している。しかし、これに対して日本弁護士連合会は2013年、@医師等で調査研究機関を組織し、低周波音の長期暴露による被害実態の疫学調査をおこなうべきである、A「100ヘルツ以下の音は聞こえにくい、10ヘルツ以下の音は聞こえないから、いずれも生理的な影響は考えられない」という考えを前提にした「参照値」を撤回し、ポーランド等外国先進例の基準をもとに暫定基準を設けるべきである、B@にもとづいて健康被害防止可能な規制基準をつくり、風車立地やエコキュート(ヒートポンプ給湯器)の設置場所の基準を策定すべきである、との提言を発表した。 和歌山県の医師・汐見文隆氏は、「参照値」は耳から入ってくる音を聞き取る気導音の実験値をもとにしたもので、骨導音を無視しており、「低周波音被害者を切り捨てるための悪魔の目安でしかない」とのべている。 日本の「参照値」と外国の基準とを比較すると【図1】、オランダは50〜60歳代の被験者のうち、敏感な人から「10%目」の人を基準としている。これは健常者平均値の聴覚閾値(いきち、50%の人が聞こえる)より5デシベルずつ低い。また、ポーランドでの疫学調査・閾値実験などによって設定された被害者救済基準は、100ヘルツ以下の領域で日本より10デシベル以上低い。 さらにスウェーデン、デンマーク、オランダ、イギリス、ドイツ、オーストリアなどでは、恒常的な回転に連動しない純音、突発音があれば、ペナルティとして実測値に五デシベルを加えることが決まっている。諸外国の例から、日本では音に敏感な人を保護するさらなる規制強化が必要だということがわかる。 数値測定し被害を実証 低周波音による自律神経失調症的な症状は、低周波音を測定し外因を証明することによって客観性が裏付けされることになる。これまで風車による健康被害が起こっても、原因を究明し事業者に責任をとらせることができないまま、転居によってようやく被害を逃れている被害者も多い。したがって被害現場での低周波音の正確な測定は、問題の解決には不可欠のものである。 山田氏は、風力発電が生む問題を実証的につかむため、北海道石狩市で既に建設され、運転している風車の低周波音を、2014年6月から今年1月まで3年半にわたって測定し、所属する科学者会議北海道支部大規模風力発電問題研究会で議論を重ねてきた。 石狩新港周辺は工業団地である。工場従業員や住民への健康被害を懸念して建設場所の変更を求めた知事意見が環境省・経産省によって無視され、3事業者による20基(7万`h)の風車が既に環境アセスメントを終了し着工している。計画当初の発電量を変えずに設置基数を変えて一基あたりの出力を五割増としており、石狩市を中心に札幌市北区・手稲区、小樽市まで低周波音被害が心配されていたのである【図2】。 山田氏は測定を開始するにあたって、音の測定方法を次のように決めた。
国・環境省や事業者が騒音測定で用いるA特性は、聴覚の機能が低周波音を聞き難いという特性を表現したものである。だが、風車からどのような音がどのように出ているかは人への影響を考える基本になるので、はじめから低周波音は人への影響がないとして軽視することは科学的態度とはいえないことから、そうした補正をしない平坦特性を用いて測定をおこなった。 また、国・環境省が周波数分析に用いる3分の1オクターブバンド法では、10ヘルツ以下では1、1・25、1・6、2・0、2・5ヘルツ…など代表点の大きさだけをあらわし、これからずれた周波数は正しく表現されない。しかし健康被害を出しているのだから、どこがその発生源か、対策はどうするかと考えないと科学技術の進歩はない。そこで周波数成分を正確にとらえる高速フーリエ変換分析法(FFT法)も用いた。 山田氏は、2005年と2008年に建設された石狩市民風力の1500`h級風車3基を対象として、1基のみ回転している風車音を測定してきた。測定の条件は、@工場停止時、A定格回転時、B風車から100bの位置で測定する、とした。定格回転とは、風車が効率よく発電する、支柱の高さ位置で12〜25b/秒の風が吹いたときの状態である。 参照値超えた西端風車 まず、3基のうちの西端風車の場合である。西端風車はベスタス社製で出力は1650`h、定格回転は1分当たり14・3回転である。測定された原音は、1・4秒周期の恒常的な突発音であった。これは風車の3枚の羽の風切り音であり、「ヴォーン、ヴォーン、ヴォーン」という音圧変動のくり返しが風車音の特徴である。 これをFFT法で分析したのが図3である。縦軸は下端から始まる時間、横軸に周波数(ヘルツ)、濃淡で音圧レベル(デシベル)を示した。音圧が強い箇所が濃く表示されている。 これを見ると、20ヘルツ以下の超低周波音領域で、0・7ヘルツを基本にして、1・4、2・1、2・8、3・5、4・2、4・9ヘルツと続く倍音位置に大きな音圧の固有音があることがわかる(白抜き矢印)。また、低周波音領域の16・7、22前後、34、60、100ヘルツのところに、音圧レベルが一定の大きな純音がある(黒矢印)。この純音というのは、風車の羽による高い周波数の風切り音と、風車のギア系や風向きにあわせるモーターなど多様な機械音からなっていると考えられる。
図4は64秒時の周波数特性図(断面図)であり、FFT法と3分の1オクターブバンド法の二つの分析結果を同時に示したものである。FFT法の分析結果には、超低周波音領域に音圧レベルが大きいピークが並んだ倍音構造が示されている。また、3分の1オクターブバンド法でも、16・7、60ヘルツの大きなピークは共通している。3分の1オクターブバンド法では超低周波音領域のピークを確認できないが、その4倍の精度を持つ12分の1オクターブバンド法では10ヘルツ以下でもFFT法と同じ位置にピークを確認することができた。 環境省の「参照値」に照らしてみると、60ヘルツと100ヘルツの音が参照値を上回っており、アウトである。ポーランド基準に照らして見ると、16・7ヘルツ、34ヘルツも危険領域となり、それは純音であることからペナルティの5デシベルを測定値に加えると基準オーバーとなる。とくにFFT法では、以上の周波数で突出した音圧レベルを示していることがわかる。これらが頭痛やめまい、不眠を引き起こす原因である。 さらに上回る中央風車 次に、西端風車と同じ出力の中央風車でも同じ条件のもとで測定した。羽の直径が西端風車よりも小さい(西端82b、中央74b)ために、定格回転は1分当たり19・2回転、先端の速度は時速265`bと新幹線なみで、西端(時速216`b)より高速である。この先端速度の差は、羽が風を切るさいの突発音圧成分の3倍増となっており、超低周波音領域の成分の増大となる。 図5でこのことを示している。図4と比べると、超低周波音領域で音圧レベルが西端風車よりも約10デシベルずつ大きい。また、低周波音領域の30、60、90、100ヘルツ音が、ポーランド基準はもちろん「参照値」もオーバーする。さらに純音へのペナルティ5デシベルを加えると基準を大幅にこえることになり、国際的なレベルから見て中央風車は停止すべきだと指摘することができる。 なお、40デシベルの横線「日中暗騒音」は、日曜日夕方、風車が全基ストップし工場も止まっているときに測定した結果のうち、20ヘルツ以下の最大値である。中央風車では、この状態よりも30デシベルずつ音圧が大きい風切り音の倍音が見られる。恒常的にこうした音にさらされている住民は、慢性的な健康被害を起こす可能性がある。 では、実際に健康被害を発症している人と低周波音との関係はどうだろうか。 石狩の既設風車のそばに住むある住民は、2005年に風車が稼働し始めてから頭痛や耳鳴りで苦しみ、家を離れるとその症状が消えて眠れることから、全国の風車病の被害者の症状に似ていると訴えていた。そこでこの住民が頭痛や耳鳴りで目覚め、眠れなくなったときに、その場で音を測定した。 それが図6である。測定開始後30秒前後の、原音の音圧を示している。風車の3枚の羽が回転する1・54秒ごとに突発変動音があらわれている(折れ線グラフ上の矢印)。 図7は被害者宅内の音をFFT法で分析したものである。超低周波音領域で0・65ヘルツを基本とした風車特有の倍音構造があらわれている(白抜き矢印)。倍音構造とは、風車の風切り音がもっとも音圧の強い周波数を基本としつつ、さらに大きな周波数でも連動して強い音圧があらわれることをいう。 図8は測定開始後490秒の時点での周波数特性をあらわしたものである。3分の1オクターブバンド法では、40ヘルツのところに「参照値」に近い山があり、被害の原因になっている可能性がある。位置を正確に示すFFT法ではそれは36ヘルツの音として検出されており、音圧は周辺周波数よりも30デシベルも突出している。これは図7上端の黒矢印3個の中の左の矢印で示されている、風車特有の回転に連動しない純音の一つである。 3分の1オクターブバンド法で示されるポーランド基準と比較すると、この40ヘルツの純音がオーバーしている。100ヘルツの純音も危険領域となっており、ペナルティ5デシベルを加えると基準を超過するため、回転数の減少か停止が必要になる。 さらに超低周波音領域の一部では、静かな状態の「日中暗騒音」より10デシベルも高く、静まりかえった夜間では大きな刺激になっている可能性がある。調査では、石狩既設風車の音は深夜、2`離れた場所にも届いていることがわかっており、敏感な人は風車病を発症する可能性がある。 分析結果から、風車の低周波音が健康被害を発生させていることは明らかである。しかもこの測定結果は、定格回転(1分当たり14・3回転)よりも遅い13回転であり、工場や車などの環境騒音の少ないはずの深夜の測定値である。なお、住宅だけでなく、風車から650b離れた工場の従業員の中にも同じような健康被害で退職している人が複数おり、退職すると症状が消えたそうだ。 風車停止で被害が改善 2007年末、東伊豆の別荘地では1500`h×10基の風力発電が運転を始めた直後から、住民のなかで健康被害が続出した。この因果関係を調べるため、事故で風車が停止しているとき、団地自治会が独自に疫学調査を実施した【表1】。不眠、血圧、胸・腹・歯・鼻・耳痛などの症状が、風車が停止することで大きく改善したことがわかる。 この結果を受けて住民が動き、今後は夜間に住宅直近の風車3基を停止すること、次に近い風車2基の回転数を4割減らすこと−−という内容の協定を、自治会と事業者と東伊豆町の三者で結んだという。これによって睡眠障害は7割減った。ただし、それでも耐えられず転居した家族もいる。
石川島播磨(IHI)の技術者で元成蹊大非常勤講師の岡田健氏は、風車音に含まれる1〜10、10〜100、100〜1000ヘルツの3つの成分のうち、低速から中速、高速へと風車の回転数が増大するにつれて、主に1〜10、10〜100ヘルツ成分が増大することを示している。石狩の調査でも、風車の中速回転(西端風車)と高速回転(中央風車)を比較すると、FFT法でも3分の1オクターブバンド法でも、高速回転では50ヘルツ以下の成分が大きくなり、とくに10ヘルツ以下が大きくなっている。超低周波音が風車病の原因を究明するうえで無視できないものだということであり、東伊豆で症状が改善したのも風車の回転数を減らしたことがその一因になっているということである。 山田氏は論文の最後で、次のようにまとめている。 今回、平坦特性とFFT分析を使って測定し、風車の音は10ヘルツ以下の超低周波音領域に大きな音圧の風切り音とその倍音を持つことがわかった。この領域を過小評価するA特性で風車の音を扱ってはならないということである。また、国・環境省が用いる3分の1オクターブバンド法以上に周波数成分を分解できる12分の1オクターブバンド法によって風車の健康被害を解明すべきである。 大型風車で羽の先端速度が大きい場合には超低周波音領域の音圧がさらに大きくなり、また超低周波音は減衰し難いので、健康被害が遠方まで及ぶ可能性がある。風車を抱える自治体は健康調査を実施すべきである。東伊豆の住民運動が夜間出力規制を実現したことを力として、石狩でも住民サイドに立つ研究者と市民運動との共同で関係自治体を動かす必要がある。 https://www.chosyu-journal.jp/shakai/6965
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