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エネルギー自給100%目指すトランプの狙い
エコロジーフロント
環境・エネルギー分野の2017年を読む
2017年1月12日(木)
日経エコロジー取材班
米国新政権の誕生が迫り、フランス大統領選挙やドイツ連邦議会選挙なども控え、「転換の年」といわれる2017年。環境・エネルギー分野も例外ではない。
国内では、4月に敢行されるガス小売り事業の全面自由化が大きな節目となりそうだ。東日本大震災以降のエネルギーシステム改革でも重要な道程の1つに位置付けられる。最近、注目を集めているESG(環境・社会・ガバナンス)投資でも大きな動きが見込まれる。巨鯨とも称される世界最大の機関投資家GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が、ESG投資に本格的に乗り出す。
世界では、1月20日に誕生する米国のドナルド・トランプ政権の動きに注視したい。自国の経済成長を優先するトランプ氏の政策が、「パリ協定」の発効で勢いづく温暖化対策に冷や水をかけかねない。
2017年に見込まれる環境・エネルギー分野の動きから、ビジネスへの影響を探った。
ガス小売りもついに全面自由化
まず注目したいのが、4月1日に始まるガス小売りの全面自由化だ。新たにガス小売りの対象となる一般家庭や小規模事業者は約2500万件。市場規模は約2兆4000億円とみられる。
大手電力会社は、発電燃料のLNG(液化天然ガス)基地を所有し、ガス小売りへの参入障壁が低い。東京電力や関西電力、中部電力、九州電力などが参入を表明。同様にLNG基地を抱えるJXエネルギーなど石油元売り会社の参入も見込まれる。早ければこの1月にもガス・電力のセット販売価格の発表が相次ぎそうだ。電力会社や石油会社が加わったガス市場の顧客獲得競争は激化が予想される。
東京電力は、2016年に先行開始した電力小売りの全面自由化で離れた顧客を奪還すべく全力を挙げる。同社の小売り部門、東京電力エナジーパートナーは4月の販売解禁に先立ちガス販売情報サイトを公開した。同社の2015年度におけるLNG調達量は、ガス会社を差し置き国内最大の約2500万tに上り、既に自由化している大規模事業所に134万tを販売している。この実績をアピールする。
電力、ガス、石油などエネルギー事業者による連携や、合従連衡も活発化しそうだ。「総合エネルギー事業者」の生き残り競争が本格化する。
7月からの都市ガス販売開始を発表した東京電力エナジーパートナー・小早川智明社長(右)と、液化石油ガス(LPG)大手の日本瓦斯・和田眞治社長。東電は日ガスと提携し、家庭に都市ガスを供給する
2012年7月に始まった再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度(FIT)は、5年目の今年、転機を迎える。FITを定めている改正再エネ特措法が4月1日に施行されるからだ。改正の狙いは、需要家が電気料金に上乗せして支払う再エネ賦課金を抑えることだ。2015年度に1兆8400億円だった賦課金の総額は、2016年度に2兆3000億円となり、2030年度に4兆円に膨れ上がる見込みである。
事業者向け太陽光発電の1kWh当たりの買い取り価格は、FIT開始当初の税抜き40円からほぼ半額の同21円になる。2017年10月からは、入札で調達価格を決める制度を開始する。上限価格を同21円として、安く応札した事業者から認定を与える。
風力発電は、初めて買い取り価格を引き下げる。これまで同22円だった買い取り価格を2017年度は同21円にし、2019年度に同19円まで毎年1円ずつ引き下げる。バイオマスも大規模発電所を対象に買い取り価格を3円引き下げ同21円にする。
加えて4月にはネガワット取引市場が始まる他、2017年度内にFIT電源を対象にする非化石価値取引市場の運用も予定されている。電力・ガス小売りの自由化などによるエネルギー改革や、エネルギー需給調整の効率化を進展させるため、国による制度のテコ入れが続く。
加速するESG投資と情報開示
2017年はESG(環境・社会・ガバナンス)投資が本格化する。企業には投資家との対話や情報開示が迫られる。約130兆円を運用する世界最大の機関投資家GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)は、日本企業を構成銘柄とする新しいESGインデックス(株価指数)に連動した「パッシブ運用」に乗り出す。早ければ3月にも始める。GPIFにとって初の本格的なESG投資で、いずれ数兆円規模に拡大するとみられる。
夏には「日本版スチュワードシップコード」が改訂され、投資家が企業に実施した議決権行使の内容を公表することが盛り込まれる予定だ。投資家によるESG投資が、いわば査定されることになる。
「グリーンボンド」拡大の兆しもある。グリーンボンドは、環境配慮事業の資金を調達するために企業や組織が発行する債券のことだ。環境省は3月までにグリーンボンドの日本版ガイドラインを策定、東京都は2017年度中のグリーンボンド発行を表明している。債券の購入を通じて、都民による環境事業への関与を狙う。
企業に対する、気候変動に伴う財務リスクの開示要請も強まる。主要20カ国会合(G20)の要請により主要国政府・金融機関による「金融安定理事会(FSB)」の組織、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)が気候リスクに関する情報開示ルールを検討している。新ルールは7月のG20でお披露目の予定だ。
■2017年環境、CSR、エネルギー関連の動き(1)
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/230270/011000038/z1.png
2020年東京五輪を控え、持続性の配慮が進む
3月には東京五輪の環境や持続可能性への配慮に関する規定が新たにまとまる。持続可能な調達コードと農畜水産物の調達基準である。4月からは紙やパーム油の調達基準も議論される。持続可能な調達の手順を定めた国際標準化規格「ISO20400」が3月に発行する予定で、2020年東京大会はこれにのっとった初の五輪になりそうだ。
5月には合法伐採木材利用促進法が施行される。企業が木材の合法性確認方法について国の審査を受け、お墨付きを得る「登録制度」が始まる。違法材を国内市場から締め出せるか、実効性に注目が集まる。
名古屋議定書への締結も期待される。通常国会で締結の承認や国内措置を審議する可能性がある。同議定書は、企業が微生物などの遺伝資源を利用して製品化した際、得られる利益を資源国に配分することを定めた国際条約。議定書の非締結国には遺伝資源を提供しない途上国も現れ、締結しないデメリットも顕在化しつつある。締結は大詰めを迎えている。
一方、企業活動が水や大気、土地などの自然資本に与えるリスクを評価する動きも続く。企業イニシアティブ「自然資本連合」による「自然資本プロトコル」の日本語版が2月に発表される。自然資本への負荷を測定・評価する手順で、企業の活用が拡大するだろう。いずれは情報開示を促す方向に進みそうだ。
トランプ政権の温暖化対策は停滞の見通し
2017年の温暖化対策に関わる注目点は3つある。1つは「米国新政権の影響」、2つ目は日本の「長期戦略」、残る3つ目は「途上国への貢献」である。
かつてツイッターで、地球温暖化を「でっち上げ(hoax)」と斬り捨てたトランプ次期米大統領。既に締結済みのパリ協定に対しては、離脱の意向を示している。ただ、トランプ氏の任期に当たる4年の間は、パリ協定から離脱できない。パリ協定はひとたび発効すると、3年の間、締結国は脱退を国連に通告できず、通告後も1年脱退できない規定だからだ。パリ協定に組み込まれた、誰が次期米大統領になろうともすぐには脱退できない仕組みがうまく機能しそうだ。
ただし、パリ協定の親条約である「気候変動枠組み条約」もろとも離脱する策も残る。とはいえ、同条約からの離脱に時間を割くことが、トランプ氏にとってそれほどの重要イシューかどうかは未知数だ。トランプ氏は気候変動そのものを否定している訳ではないとみられる。むしろ、国内産業の競争力を強める上で足かせとなる米国内の規制や制度にどこまでメスを入れるかに注視する必要があるだろう。
例えばトランプ氏はエネルギー自給率100%を目指し、低コストの国産化石燃料の増産に注力する方針である。オバマ政権が進めた、石炭火力を狙い撃ちする既存火力発電所のCO2排出規制「クリーンパワープラン」とは真っ向から対立する。そうなれば、CO2の削減も危うくなり、オバマ政権が国際公約した2025年に温室効果ガス排出量を2005年比で26〜28%削減する目標は棚上げになるだろう。
■2017年環境、CSR、エネルギー関連の動き(2)
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日本国内に視点を戻し、注目点の2つ目である日本の長期戦略に触れたい。2016年、環境省と経済産業省は別個に2050年の長期戦略の検討に着手した。パリ協定が、2020年までに長期戦略の提出を求めているからだ。年初にも政府案が完成するとみられたが、一転して国の動きは鈍りそうである。米国の温暖化対策が停滞する可能性があるからだ。次の大統領選の2020年まで、米国は2015年末に発表した長期戦略を棚上げするかもしれない。そんな中、競争関係にある日本が早々と戦略を固める理屈がないとの指摘がある。
原子力発電所の再稼働が進まず、日本の将来のCO2排出量に影響を及ぼす電源構成の見通しが立たないことも長期戦略の策定に影響を及ぼしている。2017年は「エネルギー基本計画」を見直す年だが、「年内に着手するか、資源エネルギー庁が方針を明らかにしない」(政府関係者)。今年、長期戦略が固まるかは不透明だ。
途上国の温暖化対策への貢献、幅広く定量化
議論が進みそうなのが、3つ目の注目点である「途上国への貢献」である。日本は2国間クレジット制度(JCM)などの下で途上国における温室効果ガスの削減に協力してきた。ただ、JCMで見込める削減量は2030年までに累積5000万〜1億t。世界の排出増を抑えるにはさらなる削減の積み上げが必要だ。加えてパリ協定によって削減が求められるようになった途上国は、排出枠を日本と分け合うJCMを使わずに省エネ技術を導入する意欲を強めている。そこで経産省はJCMや排出枠の獲得にこだわらず、途上国向け技術の売り込みを強化し、削減量の拡大も見込む。
排出枠を獲得しない分、日本の技術が途上国でどれだけの排出量を削減したかを数値で示せるようにする。パリ協定の規定により、先進国間で途上国支援の成果を比較し合うことも想定される。
「適応」にも、スポットライトが当たる。適応は、気候変動の影響を受けやすい国土や産業、生活インフラを守り、強くすること。途上国における堤防建設や農業支援が適応の代表例である。国は企業による適応ビジネスの展開を支援する。
環境省や経産省は適応の事例集をまとめ、新たな取り組みを促す。例えば経産省は、パナソニックが世界の無電化地域で行うソーラーランタン寄贈事業も適応事例の1つに挙げる。同社は2018年までに世界の無電化地域にソーラーランタンを合計10万台寄贈する計画だ。国は適応の効果も定量化する仕組みを作る。
パリ協定への対応を進める仕組み作りが国内外で加速しそうだ。
このコラムについて
エコロジーフロント
企業の環境対応や持続的な成長のための方策、エネルギーの利用や活用についての専門誌「日経エコロジー」の編集部が最新情報を発信する。
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