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行き詰まった「イスラム国」の次なる拠点はどこか? 〜カオスと化す中東、"恐怖の連鎖"に終わりはこない
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/47364
2016年01月16日(土) 佐藤優直伝「インテリジェンスの教室」 現代ビジネス
昨年12月29日夜、ロシア南部のダゲスタン共和国で国境警備隊の1人が死亡、住民ら11人が負傷する銃撃事件が発生した。イスラム過激派の動向を調査するアメリカの機関「SITE」は、過激派組織IS(「イスラム国」)が犯行を認めたという。これが事実ならば、ISがロシア国内でテロを起こすのは初めてとのことだ。
ISはなぜロシアで銃撃事件を起こしたのか? 生存圏が縮小するISの次なる目的はなにか? さらに、宗派の違う周辺諸国とスレスレの連携を図る中東の状況を佐藤優氏が明かす。
※本記事は現代ビジネスが配信するメルマガ『佐藤優直伝「インテリジェンスの教室」』に収録している文化放送「くにまる・じゃぱん」の放送内容(2016年1月1日放送)を一部抜粋して掲載しています。
* * *
太田:昨年末に、イスラム国がシリアやイラク領内でだいぶ追いつめられ、かなりの拠点が政府側に奪還されたという報道がありましたが、この銃撃事件もIS側が危機感を持っているということの現れなのでしょうか。
佐藤:そうだと思います。この状況のなかで、ISの勢力がダゲスタンにまで伸びてきたのが深刻なんです。ダゲスタンはカスピ海に面していて、南側がアゼルバイジャン、さらに先の南がイランというところに位置しています。
ダゲスタンは小さい民族がたくさん集まっている地域で、日本アルプスのような山岳地帯なんですが、谷ひとつ、山ひとつ超えると、もう言葉が通じないまったく違う民族が住んでいる場所なんです。そこにダゲスタン・チェチェン人という人たちも住んでいます。
赤部分がタゲスタン、その南にはアゼルバイジャン、さらにイランが位置している[Google mapより]
太田:チェチェン人が住んでいるんですね。
佐藤:そうです。大昔のことなんですが、1860年、19世紀にロシアがチェチェンやダゲスタンを占領したときに、その支配を良しとせずに、オスマン帝国のトルコに逃げた人たちがいました。その末裔が今、シリアに住んでいます。
彼らはチェチェン語をしゃべり、見た目もそっくりです。この辺の人たちがテロリストとしてロシア内に潜入しても、なかなか見抜けない。かつてチェチェン紛争が深刻になったときも、シリアのチェチェン系の人たちが相当入ってきているんです。
太田:なるほど。
佐藤:ですから、この辺りの人たちがロシア国内で本格的に騒動を起こそうとしていることは、戦線を拡げる入り口だと思います。太田さんのおっしゃる通り、イスラム国は今、大変なんです。去年1年で12〜13%の支配領域を減らしていますから。
太田:失ってしまったということですね。
佐藤:はい。ということは、キツくなったときは戦線を拡げるんです。
太田:逆に。
佐藤:われわれに手を突っ込むと大変なことになるよと、パリやベイルートでテロを起こし、エジプトのシナイ半島でシャルムエルシェイク発のロシアの飛行機を爆破した。今度はダゲスタンに手を出したということです。今後はこういうことがどんどん起きてくると思います。
■逃げる場所は決まっている
太田:イスラム国の支配領域が狭まっても安心はできないということですね。
佐藤:そういうことです。逆に、徹底した空爆と地上戦でイスラム国が壊滅すると想定した場合、彼らは座して死を待つということはしません。どうするかというと、逃げる。
太田:逃げる!
佐藤:逃げる場所も決まっています。それは、キルギスかまたはタジキスタンです。すなわち、中央アジアに逃げる。そうすると、中国の新疆ウイグル自治区と連動して、中央アジアに「第二イスラム国」ができるんです。この危険性がものすごくある。実はイスラム国は潰せば拡散してしまう危険性があるんです。
太田:うーむ。
佐藤:今、どんなことが起きているのかというと、たとえばアサド政権側とイスラム国が捕虜、或いは支配地域の交換をしていますよね。事実としてアサド政権はイスラム国の存在を認め始めているんです。「イスラム国が縮小し、比較的おとなしくしていれば生存権は確保できるんだ」というシグナルをイスラム国に送り始めています。
太田:ははあ。ということはイスラム国の生存圏が縮小すれば、シリアが認めるだろうということを、シリアと友好関係にあるプーチンも把握しているので、それを牽制するためにISが銃撃事件を起こしたということですか。
佐藤:その要素もあります。それからもうひとつ、すごく複雑ですが、イスラム国のテロ行為は、サウジアラビアから見ても都合が悪い。ところが、このイスラム国を本気で壊滅できると思っているのはイランなんです。
もし、イスラム国が壊滅した場合の空白に入ってくるのはロシアやフランスではなく、イランなんですね。これもサウジアラビアにとってはものすごく都合が悪いんです。
太田:サウジアラビアのスンニ派とイランのシーア派で対立していますものね。
佐藤:おっしゃるとおりです。トルコのエルドアンも、シーア派が伸びるのは都合が悪いんです。
なぜイスラム国は国家としての運営が成り立っているのか。これに関しては、石油の密輸や拉致した人の身代金があるからなどと言われていますが、その程度では国家は運営できないんです。実際は、サウジアラビアとカタールから相当なカネが流れているんではないかということが情報の世界の人たちの間で言われています。
これには根拠がある思っています。去年、非常におもしろいことがあったんですよ。アラブ首長国連邦がイスラエルの代表部の設置を決めたんです。
今まで湾岸のなかで、イスラエルの代表部は一時期、オマーンとカタールに置かれていましたが、既に閉鎖していて、イスラエルの代表部を置く国は湾岸諸国にはないんです。アラブ首長国連邦が代表部を置くのは、イスラエルを味方にして、対イスラム国の盾にするという発想です。
サウジアラビアやカタールは何をやっているのかよくわからない。イスラム国と後ろで繋がっている勢力があるのは間違いない。イスラム国はアラブ首長国連邦の王様たちを壊滅させようと思っていて、アラブ首長国連邦から見ればこれは困る。だから、絶対に護ってくれそうな国と仲良くしなければいけないということで、イスラエルに目を付けている。
太田:うわあ、世界じゅうのいろいろな民族と宗教と勢力が複雑に入り乱れてやっているんだ。大変だ、これは。
■単純な見方ではひも解けない
佐藤:敵の敵は味方だということです。日本ではほとんど報道されていませんが、BBCやCNNでは報道しています。それに加え、去年からヨルダンの防空をイスラエルが行っているんですよ。
太田:ヨルダンの防空をイスラエルが!
佐藤:事実上、ヨルダンもイスラエルに国防をほとんど頼んでいるという状態です。これもやはり、ヨルダンがイスラム国の動きが自国に及んでくることを恐れているんです。それから、イスラエルはシリアと4回も戦争をしていますが、明らかにアサド政権を支持しています。
太田:えっ、そうなんですか?
佐藤:アサド政権は最大の敵なので動きはよくわかる。訳のわからないヤツが来るよりもいいというわけです。
太田:動きが読めるということですね。うわあ、複雑だなあ。
佐藤:単純な敵と味方という今までの図式で見ているとわからない。というのも、アメリカがパートナーを替えているわけですよ。サウジアラビアは信用できないから、イランをパートナーにすると。
太田:今までは核開発するかもしれないからといって、一番警戒していたイランと?
佐藤:そう。去年の7月14日の合意で、イランの核開発を事実上認めた理由は、パートナー替えということですよ。
太田:そんな意味合いだったんですか。
佐藤:そうしたら今度は、ロシアがサウジアラビアと仲良くなっているんですよ。サウジアラビアはロシアから原発を買いますから。ですから、あの辺の中東の情勢が複雑怪奇になっているんです。
佐藤優「インテリジェンスの教室」Vol.076(2016年1月13日配信)より
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