【対談】小沢一郎×小林節 こうすれば安倍政権は倒せる! 2016年1月1日 日刊ゲンダイ 全文 国民の怒りは間違いなく持続している(小林)
――まず、2015年をどう総括しますか。 小林 9月19日の暴挙まで国民の反対運動は大変盛り上がりました。やはり、安倍さんの異常性が際立ち、憲法が、9条が、議会制民主主義が、国民主権が危ないということで、国民の中にあった怒りと恐れが表に出てきたのだと思います。 小沢 国会議員のひとりとして、議会制民主主義がまったく機能しなかったことは残念です。選挙で明確に国民と約束していない「新」安保法制を、しかもほとんどの人が憲法違反だと言っている中身を強行した。国民に対する背信行為です。多数決は否定しませんが、数の暴力に対し、何もできなかった野党側の責任も非常に大きいと思っています。 ――新安保法成立後、国民の怒りが少し引いてしまったかのように見えます。野党が安倍政権への対抗軸をつくれていないことも大きいと思いますが。 小林 いま私の手帳、この先6月までほとんど講演で詰まっています。つまり、参院選に向け、怒りは持続している。反対運動では、これまで外へ出たことのない学者や元裁判官だった法律家まで立ち上がった。子連れのママや学生たちも。みんないろんな議論をしながら、知的に怒りを確認して、決意を固めたと思うんです。選挙でこの政権を生んでしまったのだから、選挙で取り返さなければ、と。 小沢 いままでほとんど政治活動の前面に出ていらっしゃらなかった各分野の人たちが危機感を持って顔を出し、名前を出し反対の主張をするという状況は、これまでの日本になかったことだと思います。その気持ちと主張をきちんと受け止めて、自公に代わる受け皿をつくり上げることが政治家、政党の当然の責任です。年内にきちっとした野党統一の形がつくれなかったことは残念で、ある意味、安倍さんと同じような国民に対する背信行為になってしまうのではないかと、深刻に思っています。 小林 私はそこまで深刻に考えていません。7月の選挙の1週間前までに野党はまとまればいいと思っています。理想は1つの政党ですが、各党それぞれいきさつがあるし、過去の軋轢の記憶もある。そう簡単ではありません。ですから我々が先陣を切る。野党の政治家を包囲するネットワークを1月にブチ上げる予定です。樋口陽一先生(東大名誉教授・憲法学者)らと一緒に、年齢、性別、分野もさまざまですが発言力がある200人くらいでまとまって、緩やかな応援団として野党を追い込んでいく。最後は「安倍政権を存続させるよりはいい」ということで、まとまると見ています。 ベターな選択をするのは「野合」ではない(小沢) 小沢 先生のおっしゃる通りで、僕は新党は現実的には難しいと思っています。統一名簿方式、俗にいうオリーブの木の方式しかない。それは選挙の直前でもいいんですが、問題は候補者調整です。これが意外に難しい。 小林 私は複数選挙区、つまり大選挙区と比例区は各党それぞれ我を出して戦って、1人区だけで協力すればいいぐらいに思っています。 小沢 最善の策が新党、次善の策が統一名簿とすれば、先生がおっしゃる候補者を1人に、というのは三善の策なんですが、そこまでだとしてもなかなかまとまらないと思います。候補者調整をするテーブルがないんですよ。個々にやりだすと、この人は民主系だ、維新系だとか揉める。候補者調整は時間がかかるので、統一会派でも何でもいいから調整のテーブルづくりを急がなければなりません。そこで共産党が方向転換して各党に声を掛けているんですが、みんな嫌がってねえ。 小林 あの反応はひどいですね。テレビニュースで見たのですが、民主党幹部が共産党について、「革命政党とは一緒になれません」と言っていました。しかし、「革命」といえば米国の独立戦争もそう。明治憲法から日本国憲法に変わったのだって革命です。仏の人権宣言も革命で出てきた。革命というのは単に不連続に体制が変わることです。過去の革命はみな、内容的にいい方向に変わっています。 小沢 しかも、共産党は現在の日本国憲法の体制を革命でぶっ壊そうと言っているんじゃないですよね。護憲政党ですし、安保や自衛隊も仕方ないというところまで踏み込んでいる。今度の通常国会、天皇陛下が臨席する開会式に志位さんが出席すると表明しましたが、僕もそれを勧めようと思っていたんです。 小林 志位さんの出席、大賛成です。護憲派だったら天皇制も認めなきゃ。 小沢 日本国憲法の第1章は「天皇」なんですから。これまで欠席していた開会式に出席すれば、共産党のイメージもガラリと変わる。僕と一緒に行こうと言って、無理やりでも志位さんを引っ張り出そうと思っていました。 小林 どうも、共産党が出てくると構えてしまう人が多いんですよね。先日出席した宇都宮でのシンポジウムのパネリストに共産党の県委員長がいたのですが、会場の年配の女性が立ち上がって、「共産党は信用できない。あなたたちは自衛隊違憲、日米安保違憲と言っている。あの中国を見たら、あなたたちに国を委ねるわけにはいかない」と怒るんです。それで僕が、「共産党は独自の政策は凍結と言っているし、護憲派だから自衛隊は使うと志位委員長もはっきり言っています。安倍首相こそが、この国を戦争に持っていこうとしているんです。共産党の方がいいに決まっているでしょう」と言うと、女性はストンと腹に落ちたようで、「ごめんなさい」と納得していました。 小沢 日本では野党が連携するとなると、すぐ「野合だ」「選挙目当ての数合わせだ」って批判しますよね。あれもおかしい。この間のフランスの地方選挙を思い出して下さい。極右の「国民戦線」を排斥するため、いままで喧嘩していた右派連合と左派連合が協力したんですよ。 小林 あれはすばらしい教訓でしたね。 小沢 民主主義で、よりベターな選択をするのが選挙です。それを、特に大きなメディアは、「野合だ」と野党ばかり責める。自公の方がよっぽど野合じゃないかと思います。 志位委員長は政治生命をかけている(小林) 小林 公明党の山口代表は「連立合意の中に憲法(改正)は入っていない。自民党と公明党は別の党だから政策が違うのは当たり前」って言っていました。政策が異なるのに連立を組むのは、権力をエンジョイするためなんですか。これこそ野合じゃないですか。我々が求めている野党連携は、安倍首相と公明党によって破壊された憲法を回復するという最低限の大義です。野合だなんて言うのは失礼です。 小沢 志位さんとは、そこまで深い付き合いではありませんが、純粋な人柄にびっくりしました。党首会談をした際、お互いの事務局が10人くらいいるところで、「共産党もこういう大転換をしたけれども、我々は政権というものについて全く知らない。教えてくれ」ってみんなの前で言うんです。 小林 私も志位さんのことは疑う必要ないと思います。もうルビコンの橋を渡った。政治生命をかけています。 ■民主党は若いのに頭が硬直(小沢) ――やはり連携のネックは最大野党の民主党ですね。 小林 選挙が近づけば、民主党も目を覚ますと思います。このまま安倍政治が続いていいのか、となれば、共産党の助けを借りてでも勝たなきゃいけない。共産党と協力するしか選択肢はないんです。民主党のずうずうしいところは、自ら協力を求めるのではなく、共産党が候補者を出さないでくれれば我々が勝てる、なんて言う人がいることです。 小沢 民主党は年代の若い議員が多いのに、ものすごく頭が硬直しているように思います。共産党だけじゃなく社民党に対しても、名前を聞いただけで毛嫌いする人がいる。政治を変えていこうという野党の政治家としては、旧来の感覚や発想ではダメだと思います。 ――その点、自民の方がはるかにしたたかです。 小沢 そりゃあ政権を取るために村山富市さんを首相に担ぎ、社会党内閣をつくったんですからね。党内には反対もあったけれど強行した。手段を選ばないということの善し悪しは別として、権力への執念が違う。だから長期政権なんです。野党はそこが全然ダメです。 学者や市民団体も入って「候補者調整委員会」(小林) 小林 でも野党が本気になれば、ドリームチームがつくれるんですよ。安倍さんに代わり得る首相候補が野党にいるのか、とよく聞かれますが、岡田内閣だったらどうでしょう。岡田さんは東大卒の元官僚で、自民党代議士の経験もある。そういう意味では敵の手の内を知っているし、頭もいい。財閥の御曹司だからお金で転ぶこともない。しかも当選9回。安倍さん(当選8回)より立派な首相候補です。そして、その内閣には、数々の修羅場をくぐってきて、いまは毒気が抜け、国会の生き字引みたいになった国会最長老(勤続年数)の小沢さんが付いている。維新の党の松野代表と社民党の吉田党首は良き調整役。共産党の志位委員長も頭の良さと人柄の良さで調整役になる。そして維新の江田憲司さん(前代表)。橋本龍太郎首相の秘書官を務めたのに自民党と一線を画している。この頑固さと頭の良さは別格です。それから、社民党の福島瑞穂さん(前党首)もチームの中に置けば、表現力と訴える力が出ます。このドリームチームをいまの安倍内閣と比べてみて下さいと言うと、みんな納得するんです。 小沢 いまの野党には、政権を取って自分たちの政策を実行するんだ、という強いエネルギーがないんですよね。結局、民主党政権のトラウマというか、役人に操られて何もできず失敗した、という諦めがあるんじゃないかと思う。 小林 議員にも有権者にも民主党政権失敗のトラウマがありますね。自民党と、そしてそれと50年以上つながった役人と業界の鉄の三角形に手玉に取られた。しかし、だからといって、自民党がいいという話にはならないはずです。政権復帰した自民党は、以前より悪い政党になってしまったわけですから。一方、失敗によって、民主党の議員も賢くなりました。だから、今、国民も頭を切り替えなきゃいけない。 小沢 神様仏様じゃないんだから、絶対的な正義や善はない。結局、選挙は相対的な選択。マシな政権に投票する以外にないんです。そういう意味で、国民は棄権しちゃいけない。14年の総選挙では09年に比べ、実に2000万人が棄権しています。この票がどの党であれ野党に入っていれば、自民党の圧勝はありませんでした。 小林 シールズとかママの会など、これまで棄権していた層が今度は選挙に行く環境ができている。やっぱり受け皿をつくらなきゃダメですね。 小沢 僕は、なんやかんや言っても、悲観はしていないんです。ただ、せかす人がいないと、候補者調整の実務は間に合わなくなる。衆参ダブル選挙になる可能性もあるわけですし。 小林 世論が民主党を追い込んでいくしかないですね。例えば、党首クラスで候補者調整委員会というのをつくったらどうでしょう。学識経験者枠で僕もそれに入れて欲しいな。 小沢 それはいい考えですね。ある程度の連携ができれば、そういうところに先生方や市民団体の人にも入ってもらって、候補者調整委員会をやる。そうすれば、政党同士がエゴを出して揉めることもなくなる。 小林 老若男女だから、シールズもママの会も入るといい。 選ぶときの条件は一点、勝てる候補(小沢) 小沢 そうですね。参議院はいま自公が135議席。今度、野党が80議席以上取れば、自公の多数をひっくり返せる。これは本当に可能なんです。野党がまとまれば1人区ほど強くなりますから、32選挙区を全部勝てる。残りの15の複数区は各党で頑張れば、最低でも野党は1人以上取れる。そうすると47議席は絶対取れるんですよ。野党がまとまって統一名簿にすれば、比例も20以上取れる。07年、僕が代表だった民主党は20議席獲得しています。今回はその時以上に安倍政権批判が強いから、20以上取れると思う。そうすると共産党以外の野党で70議席です。共産党も10以上取るでしょうから、それで80議席以上になるんです。自公が過半数を割ったら、安倍さんは退陣するしかない。そこを国民のみなさんも、国会議員も意識すれば、みんなが幸せになる。 小林 そういう数字を聞くと、望みが出てきます。 ――候補者調整の基準は一点、勝てる候補ですよね? 小沢 そう。絶対に情を挟んではダメ。僕は自民党の総務局長になって選挙を任された時、田中派(出身派閥)の会合には一切行かなかった。行って、仲間に頼まれでもすれば情に引かれてしまうから。みんなから恨まれるけれど、誰かが泥をかぶって決めなきゃならない。でも、独自の世論調査をして、その選挙区に入って、候補者の活動状況や周囲の評判を調べれば、どの候補者が強いかすぐ分かります。 小林 「泥をかぶる」という感覚。いまの政治家にないですよ。久しぶりにいい言葉を聞いた。 ――候補者調整が肝だということですね。小林先生の対談は、この後、共産、民主、維新、社民の4野党の党首とも行う予定です。小林先生に仕掛けていただいて何かきっかけになればいいですね。 小沢 野党がまとまらないのは、本当にくだらない理由なんです。目先の利害や、好き嫌い。もっと先に宝の山が待っているのに、と思うんですが。 小林 民主党などがためにする。だから、無知な連立反対の根拠をこれまで一つ一つ真面目につぶしてきました。これからもつぶしていきます。やはり、政治の力学とアカデミズムの力学と両方必要だと思います。“バカの壁”を取り払ってあげないといけませんので。 終わり
|