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森喜朗氏がB案を推したのは、A案に結論を導くための高等戦術だった?【PHOTO】gettyimages
新国立「A案採用」は出来レースだったのか!?〜腑に落ちない「8点差で決定」の裏側
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/47075
2015年12月24日(木) 伊藤 博敏「ニュースの深層」 現代ビジネス
■わずか8点差の裏事情
東京オリンピックのメーン会場となる新国立競技場は、建築家の隈研吾氏、設計事務所の梓設計、ゼネコンの大成建設で取り組むことになった。
こちらがA案で、伊東豊雄氏、日本設計、竹中工務店・清水建設・大林組JVがB案。納得がいかなかった伊東氏は記者会見を開き、「基本理念では負けていない。工期短縮で大差をつけられたことは、疑問に思っている」と、口にした。
確かに、実力は伯仲、A案が610点でB案が602点。工期短縮部分で27点の大差をつけられ、これが「敗因」の決め手となったが、A案の36ヵ月に対しB案は34ヵ月で劣っていない。なぜ「工期で差がつくのか」という疑問もわかる。
ただ、そうした建築家としての率直な意見より、今回は、「大成建設に取らせたい」という“空気”が、政界にも官界にも業界にも流れていたことを指摘しておきたい。
そういう意味で、談合によって「八百長相撲」が行われたのではなく、あえて片方を勝たせる「人情相撲」が行われたのではないか。以下に検証してみたい。
建設費高騰でザハ・ハディド案が白紙撤回されて以降、新国立競技場に最も熱心だったのは大成建設だった。
その理由は、@ザハ案の旧計画でスタンド部分を担う施工予定業者だったこと、A取り壊された旧国立競技場を1958年に完成させ、「ウチの事業」という思いがあること、B鉄骨などの材料や協力会社、職人等を旧計画の時点で確保、施工準備を終えていること――などである。
公募締め切りは、9月1日から開始されたが、その厳しさに、どの建築家もどの業者も驚いた。まず、設計と施工が一体の「デザインビルド方式」なので、建築家はゼネコンと組まねばならない。
しかも施工条件は、総工費上限1550億円で2020年4月竣工とタイトなスケジュール。こなせるのは、スーパーゼネコン(大成、鹿島、清水、大林、竹中)に限られた。結果として、11月16日の技術提案締切日に向けて作業を行ったのは、A案の大成グループとB案の竹中グループだけだった。
■「必ずやるから、他の仕事を入れるな」
ザハ案での迷走もあって、入札過程は秘匿が貫かれ、公式には、どのグループが公募締め切りに応じ、どんな過程を経ているかはオープンにされなかった。
プランが明らかになったのは、12月14日からであり、メディアが「どちらの案がいいと思うか」と、アンケートを実施するなど国民的関心事となった。
その選考を委ねられたのは、村上周三・東京大学名誉教授を委員長とする審査委員会。7人の委員が9項目を評価。一人当たりの持ち点は140点で980点満点だった。
A案とB案が8点差だったのは前述の通りだが、気になるのは19日の審査が、一発で行われたわけではないこと。
22日の記者会見の席上、村上委員長は、「これ、言ってもいいのかわからないけど」と、前振りして次のように述べた。
「仮採点をして、なんとなく審査員みんなの相場観を確かめてから本採点をした」
相場観というのは、審査員の意識の統一を図るという意味だろうが、それを行う必要があったのか。
「採点に偏りが出ないための策」という説明を加えているメディアもあったが、その「意思統一」は、「前向きに取り組み、事前準備が整っている」という大成グループに優位に働いただろう。
そう考えれば、「工期の短縮」で大成グループ案が27点差をつけ、これが竹中グループ案に勝利した理由であるのもわかる。
「大成が工事を取るのは間違いないと思ってました。大成の担当者から『必ずやるから他の仕事を入れないでくれ』と、言われてましたしね。それは他の下請けも同じで、竹中JVより準備は万端というのが、業界の常識でした」(下請け企業の社長)
そうした目に見えない準備と意欲も、「大成優位」に働いたのかもしれない。
■森氏は「憎まれ役」を買って出た?
大成グループを買っていたのは役所も同じ。国交省幹部がこう漏らした。
「公募締め切りの前の段階で、大成の村田(誉之)社長は、マスコミに対して『ウチでやりたい』と、明言していた。1社単独で社運をかける勢い。採算だけ見れば厳しいのは間違いないが、それを度外視して『レガシー(遺産)に関わりたい』と。大成にやらせたいという気持ちにもなる」
今回、「官製談合の疑いを招かないように」と、入札過程は厳重に管理され、価格や工法その他で“調整”があったとは思えない。
オリンピック組織委員会会長の森喜朗元首相が、「B案の方がいい」と、2案が出揃ったところで唐突に口にして物議を醸した。
この発言の狙いには諸説あるが、「憎まれ役の自分がB案といえばA案の流れになるという森流高等戦術」という説は、A案になったことを思えば、頷ける。
いずれにせよ、当初の「大成で決まり」というほど優位ではなかったが、流れを引き寄せた大成グループが、各界の同意を得て、なんとか勝利した印象なのである。
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