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日本はテロとの戦いでこの先どんな選択をすべきか? 内田氏(右)と中田氏(左)の見解は?
内田樹×イスラーム法学者・中田考がテロに揺れる世界を語る「一方が悪で一方が正義というような単純な話ではない」
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20151224-00058559-playboyz-pol
週プレNEWS 12月24日(木)6時0分配信
2015年11月13日にフランスのパリで起きた「同時多発テロ」以来、世界は激しく揺れ動いている。
イスラム国(IS)との戦いを宣言したフランスやイギリスがシリア領内への爆撃に踏み切る一方で憎しみの連鎖は続き、今まで以上にテロの恐怖が世界各国で高まっているのだ。
こうした中、数百万人に及ぶ難民が中東からヨーロッパへと押し寄せ、欧米ではイスラム教徒への差別が広がり、移民排斥を訴える極右勢力が勢いを増している。
中東で、そして世界で起きていることを僕らはどうとらえ、日本はテロとの戦いでこの先、どんな選択をすべきか? 日本で唯一のイスラーム法学者である中田考(こう)氏と、フランス現代思想が専門で中田氏との共著『一神教と国家』(集英社新書)もある思想家の内田樹(たつる)氏が語り尽くす!
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内田 共和党の大統領候補、ドナルド・トランプが「アメリカにはイスラム教徒を入国させるべきではない」と言ったら、共和党の支持者が「USA、USA」の大合唱で応じたそうです。アメリカ人、頭大丈夫でしょうか?
中田 確かにアメリカやフランスのテロに対する反応を見ていると、むしろ日本よりも全体主義的な感じがしますね。
今、起きていることがなんなのかというと、私はこれまで「普遍的」だと思われてきたヨーロッパ的な価値観、民主主義や啓蒙(けいもう)主義的な思想とナショナリズムの矛盾が、ここにきて一気に噴き出しているのだと考えています。
フランスに象徴される西欧諸国が「自由、平等、民主主義」を声高に訴え、自らの繁栄を謳歌(おうか)してきた一方で、非西欧に対しては「貧困、抑圧、不平等、独裁」を押しつけてきたというのが現代です。
つまり、西欧が「普遍的」だと言い続けてきた思想は、ただ彼らの国益を追求するローカルな文明でしかなかったことが明らかになってきた。
イスラム国や一連のテロの問題の背景には、そうした西欧社会の欺瞞(ぎまん)や偽善に対する告発があるということを日本人はまず理解する必要があると思いますね。
内田 僕も同意見です。今回のテロもフランス人にはそれほど意外ではなかったと思います。自分たちがテロの標的になる理由が「理解できない」と言えるフランス人はいないと思います。
フランスが19世紀以降、中東や北アフリカでの植民地支配を通じて、どのような収奪を行なってきたか、現在も移民たちを郊外のスラムに追い込んで社会的上昇の機会を奪っている事実を知らないはずがない。その罪責感は心のどこかにあるはずで、「無垢(むく)の被害者」のような顔をすることはできないという自覚はあると思います。
日本のメディアはパリのテロ事件を、邪悪なテロリストが無実の市民を虐殺したという報じ方をしていますが、歴史的文脈に即して見れば、一方が悪で一方が正義というような単純な話ではありません。ヨーロッパの価値観とイスラムの価値観の衝突としてとらえるべきだと思います。
中田 テロ直後にフランスのオランド大統領がイスラム国への空爆強化を宣言し、フェイスブックには三色旗のトリコロールがあふれる一方で、欧米各地ではイスラム教徒に対するヘイトクライムが急増しました。
こうした過剰ともいえる反応の背景には、西欧がこれまで自覚しながら見て見ぬフリをしてきた自らの欺瞞(ぎまん)や偽善をイスラムによって突きつけられ、その結果、自分たちの実像といや応なしに向き合わされることへの恐怖があるのだと思いますね。
内田 トランプ発言や、それを支持する共和党員たちは「アメリカは身内の価値観のうちに閉じこもる。もう普遍性を要求しない」と告白しているに等しいわけです。欧米が普遍性の立場を放棄して、ローカルで内向きであることを認め始めた。
19世紀末にフランスの反ユダヤ主義に対して「自由・平等・友愛」の原理を掲げて戦ったフランス知識人たちには疚(やま)しさはなかったと思います。自分たちの価値観の正しさと普遍性を素朴に信じていた。だから言うことが論理的で、明晰(めいせき)で、屈折がなかった。
でも、今のフランス知識人の言葉にはそういう透明性がもうありません。誰の話も論理がねじくれていて、意味が取りにくい。広く発信することよりも、言質(げんち)を取られないことに意識が取られている。自分たちが掲げている価値の普遍性をもう信じていないのに、それ以外に掲げる原理がないという出口のない状況に彼ら自身が疲れているからだと思います。
■この続きは『週刊プレイボーイ合併号(12月21日発売)』にてお読みいただけます! 「希代の思想家とイスラーム法学者がテロに揺れる緊迫の世界情勢を徹底トーク!!」より
●内田 樹(UCHIDA TATSURU)
1950年生まれ、東京都出身。東京大学文学部仏文科卒業。東京都立大学大学院博士課程中退。京都精華大学客員教授。専門はフランス現代思想、武道論、教育論、映画論など。近著に『日本戦後史論』(白井聡氏との共著、徳間書店)、2016年1月15日に武術家の光岡英稔氏との対談本『生存教室 ディストピアを生き抜くために』(集英社新書)が発売予定
●中田 考(NAKATA KO)
1960年生まれ、岡山県出身。東京大学文学部卒業後、カイロ大学大学院文学部哲学科博士課程修了。同志社大学神学部元教授。専門はイスラーム法学・神学。著書に『一神教と国家 イスラーム、キリスト教、ユダヤ教』(内田樹氏との共著)、『イスラーム生と死と聖戦』(ともに集英社新書)、『クルアーンを読むカリフとキリスト』(橋爪大三郎氏との共著、太田出版)
(構成/川喜田 研 撮影/岡倉禎志)
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