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衛星打ち上げビジネスで世界と競うには何が必要か 新型H3ロケット打ち上げを前に解説します/水野倫之・nhk
2023年02月07日 (火)
水野 倫之 解説委員
https://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/100/479354.html
日本の宇宙利用の柱となる新型のH3ロケットが完成、初号機の打ち上げが来週に迫ってきた。メインエンジンの開発が難航し当初より2年遅れとはなったが、これで世界の衛星打ち上げ市場参入をと、関係者の期待は高まっている。
ただこの間、急増する衛星打ち上げ需要を受けて世界のロケット打ち上げは過去最多を更新、ライバルとの激しい競争が控える。
きょうは打ち上げを前に、
▽難航したエンジン開発
▽激変する衛星打ち上げ市場
▽H3で世界と競うには
以上3点から新型ロケットへの期待と課題について水野倫之解説委員の解説。
H3の初号機は今は、来週15日を目指す打ち上げに向け、種子島宇宙センターの組み立て棟の中で整備が行われている。
H3は今後20年間、日本の宇宙輸送の主力となるロケットで、JAXAと三菱重工業が2000億円余りかけて共同開発。全長63m、直径5.2mと今の主力H2Aよりも一回り大きく、衛星搭載能力も3割アップ。
今H2Aがあるのに、なぜH3の開発が必要だったのか。
それはH2Aの打ち上げコストが高く、世界の衛星打ち上げ市場で苦戦を強いられたから。
H2Aはこの20年余りで46回打ち上げられ、宇宙利用の中核を担った。
失敗は1回のみで成功率98%と世界最高レベルの信頼性を誇る。
一方で打ち上げコストが100億円と世界のロケットより高く、政府衛星以外の商業打ち上げは5回にとどまり、ビジネスはうまくいかなかった。
これを教訓に衛星打ち上げビジネスで世界で競えるよう、高い信頼性を保ちながらも低コストのロケットとして開発されたのがH3。
目標はH2Aの半額の50億円に設定。
しかし開発は難航。
コスト削減のカギを握るロケットの心臓部、メインエンジンでトラブルが相次いだ。
これまでエンジンの部品は数10万点に上り、コストアップの要因となっていた。
そこでH3では、燃焼方式を大胆に見直して部品を3分の1に減らし、構造をシンプルにしてコスト削減を目指した。
右側がH3のエンジンで左側のH2Aと比べると配管などが減っているのがわかる。
部品が減ることで、部品の不具合によるトラブルも減るため信頼性も上がる。
しかし燃焼試験で35秒間燃焼させる予定だったのがわずか9秒で緊急停止。
燃料や酸素を送る2つのターボポンプが、高温高圧で特殊な振動を起こしていた。
ただうち一つは深刻なトラブルかはっきりしなかった。
打ち上げ延期となれば2年遅れとなり開発費が膨らむなど大きな影響も。それでも責任者の岡田匡史マネージャは延期してポンプを2つとも確実に仕上げる判断。
背景には、苦い経験があった。
24年前のH2Aの前身H2の打ち上げ失敗。ターボポンプの破損が原因だった。
開発当時からポンプの特殊な現象が把握されていたが、リスクは小さいとしてそのまま打ち上げられた。岡田マネージャは当時、若手エンジニアとして開発に携わっており、今回は当時の教訓を絶対にいかすと決めていた。
その後設計を変えて振動は解消され、今回の打ち上げにこぎつけた。
打ち上げ延期については当時関係者から、本来の性能を落としてでも早く打ち上げるべきとの指摘も。しかしこれまで5回の商業打ち上げが実現できたのも世界一の信頼性があったからで、今回トラブルの芽を摘んだことで高い信頼性を世界にアピールできたとも言え、延期は妥当な判断だったと思う。
ただ打ち上げが2年遅れた間に、世界の衛星打ち上げ市場は激変。アメリカの企業の一人勝ち状態になりつつある。
まず衛星打ち上げ需要が急増。特に多いのが数百キロ以下の小型衛星をまとめて打ち上げて通信したり、地上を観測するサービス。
イーロン・マスク氏のスペースX社はすでに3000機以上を打ち上げ、世界のほぼどこでも高速のネット利用を実現、日本でもサービスが始まった。
またインフラを点検したり、農作物の成育状況を見て収穫時期の見極めに使うなど小型衛星網の利用範囲は広がっている。
それに伴い小型衛星打ち上げは年間数10機だったのが、今や2000機に迫る勢いで、今後さらに拡大するとみられる。
需要拡大に伴い、世界のロケット打ち上げ回数も増え続け、去年は177回成功と、過去最多を更新。
最も多いのがアメリカ、中でもスペースX社が61回と最多。スペースXは主力のファルコン9ロケットを、去年は毎週のように運用、H2Aが20年かけて積み上げた打ち上げ数を1年とかからずに達成する、驚異的なペースで打ち上げを行っている。日本の多くの衛星事業者も打ち上げを依頼。
これに対して日本、去年は打ち上げ成功ゼロ。
H3開発に合わせて、H2Aの運用を減らしたところにH3の完成が遅れ、小型のイプシロンロケットの打ち上げ失敗も重なった。
成功ゼロは18年ぶりで、世界との差は大きく広がる。
ただそんな日本にもチャンスはあると思う。
ウクライナ危機でロシアがソユーズロケットの打ち上げサービスを拒否し、世界は今ロケット不足。三菱重工にも世界の衛星事業者からH3での打ち上げについての問い合わせが来ているということで、このビジネスチャンスをものにしていかなければ。
スペースX社が強いのは打ち上げ費用が65億円とこれまでより安いから。第1段を再利用することで価格破壊を実現。またアメリカ政府の協力も得て国内の複数の発射場を利用して打ち上げ回数を増やし、量産効果でさらに安くなっているとみられる。
その点H3も目標の50億円を早期に達成しなければ。
今回は初号機で慎重を期して、メインエンジンも人が作りこむなど安全に余裕を持たせていることから50億円は達成できていない。文部科学省では今後エンジンの一部を3Dプリンターで自動成形するなどして効率化を進め、10回目の打ち上げをめどに達成したいとしているが、初号機の打ち上げ結果の分析を急いで無駄を省き、達成時期を前倒しなければな。
また衛星事業者の打ち上げ希望時期に柔軟にこたえられることも必要で、打ち上げ回数を増やせるよう打ち上げに向けたインフラの整備も重要。
今、H3の発射場は1か所、機体の組み立て施設も一つ、機体の保管場所にも限りがあり、年間6回の打ち上げが限界という。これを少しでも増やせるよう、こうした施設を充実させる必要。ただ当然コストもかかるわけで、今のうちから、どこをどう整備すれば最も費用対効果が高いのか検討を始めておくことも必要。
ここまでH3で世界と競うための課題をみてきたが、ただ何と言っても、まずは初号機の打ち上げを成功させなければ話は先に進まない。
打ち上げ予定まで7日余り、機体点検を徹底的に行い、一点の曇りもない状態にして打ち上げに臨み、ぜひ成功させてもらいたい。
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