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[この一冊]外来種は本当に悪者か? フレッド・ピアス著 「もとに戻す」環境保全活動に疑問
本書は、侵入してくる外来種を「敵」とみなし、外来種を根絶して自然をもとに戻すことを大目標とする環境保全のあり方に警鐘を鳴らす。著者は、世界のさまざまな場所の自然の成り立ちを分析し、「手つかずの」自然などというものは存在しないことを示す。なぜなら、過去数千年をとれば、人間が何らかの手を加えなかったところはないし、もっと遠い過去までさかのぼれば、氷河期などの気候変動で自然は変化してきた。つねに変化しているのが自然なのだ。もとに戻すというときの「もと」とはどこ?
著者はまた、これまで実際に行われてきた保全活動の詳細をたどり、外来種の撲滅はほとんど不可能だということを示す。有名なガラパゴス諸島の外来種阻止管理も、そろそろお手上げらしい。また、外来種の侵入が原因で在来種が危機に陥ったと主張されている多くの例で、実は外来種の侵入以前から環境が極度に変化しており、外来種はそこに乗じて個体数を増やしただけなのだということも示している。それどころか、外来種侵入のおかげで環境が変わり、在来種が戻ってくる例もある。
昔の生態学は、生物の共同体が一体となって適応した環境を作り上げ、それが平衡状態を作っていると考えていた。しかし、本当はそんなことはなく、種はつねに移動し、侵入し、新たな集合を作り、変化し続けている。現在の生態学は、生態系を撹乱(かくらん)と再生の動態としてとらえている。それでは、環境保全は何をすればよいのか?
著者は、変化が起こることを受け入れ、自然が自ら好きなように生態系を作り直していくのにまかせたほうがよいと言う。それがニュー・ワイルドだと。絶滅危惧種を守ろうとするのは無理だし、過去への郷愁に過ぎないと。では、何でも勝手にしておけばいいのか? ごく一部の人々の欲望にしたがって、外来の狩猟動物を導入するのもかまわないのか? その点、著者は明快とは言えない。
生物間相互作用は複雑なので、なかなか予測がつかない。人間の活動は不可避的に自然に影響を及ぼす。これはもう、自然生態系と人間の作る社会システムとを分けて考えるのが無理ということだ。そうなると、地球全体を統括する人など存在しない。それぞれの地域で、この複雑な複合システムをどうするのが望ましいと思うのか、みんなで合意形成するしかない。動的な生態学の知識に基づいて外来種は気にするなというのも、そのときの一つの価値判断であろう。
原題=THE NEW WILD
(藤井留美訳、草思社・1800円)
▼著者は英国のジャーナリスト。環境問題や科学、開発をテーマに取材し、「ガーディアン」誌などで執筆。著書に『地球は復讐する』など。
《評》総合研究大学院大学教授 長谷川 眞理子
[日経新聞10月2日朝刊P.19]
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