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米大統領選の行方
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投稿者 あっしら 日時 2016 年 3 月 20 日 05:06:11: Mo7ApAlflbQ6s gqCCwYK1guc
 


※日経新聞連載

[ゼミナール]米大統領選の行方

(1) 本命苦戦、異例の展開

 2016年2月のアイオワ州党員集会を皮切りに、4年に1度の米国大統領選挙が始まった。8年間政権を握ったオバマ大統領に代わり、第45代米大統領として選ばれるのは誰か、世界中が固唾をのんで見守っている。

 米国の大統領は世界にとっても特別な存在だ。戦後の米国は、経済・科学技術など様々な分野で世界をリード。突出した経済力・軍事力を背景に、国際社会の秩序・ルール形成においても中心的な役割を担ってきた。

 近年は新興国が台頭する中、世界の多極化が進展し、米国一極の状況からは変化しつつある。しかし、世界最大の経済大国である米国の大統領選挙が、依然として世界の重要な関心事であることに変わりない。

 二大政党である民主党も共和党も、当初は本命視されていた候補者が苦戦。一方、非主流派(アウトサイダー)の候補者が躍進する異例の展開が続いてきた。

 これまでのところ民主党では、オバマ政権で国務長官の経験を持つクリントン氏が優位を維持するが、「民主社会主義者」と自称するサンダース氏も健闘している。共和党では、フロリダ州知事の経験を持つブッシュ氏が、支持率が低迷する中、2月下旬に撤退を表明。一方、不動産王トランプ氏が熱狂的なファンの支持を背景に多くの代議員数を獲得し、保守派草の根運動「茶会」(ティーパーティー)の支持を受けるクルーズ氏も2番手となっている。

 なぜこのような異例の展開になったのか。本稿では、米大統領選挙の基本を整理し、非主流派候補者の躍進の背景にある米国の現状を解説する。
(三菱総合研究所)

[日経新聞3月4日朝刊P.29]

(2) 最後は選挙人が投票

 現在、各州で行われているのが、二大政党の予備選挙と党員集会だ。支持者の投票で各党の代表候補を推す「代議員」が選ばれる。多くの州で代議員の議席は得票数に応じて候補者に配分される。ただし共和党は勝利した候補が全ての代議員を獲得する「総取り方式」が今後は中心となる。

 10以上の州・地域の予備選・党員集会が集中した3月1日の「スーパーチューズデー」ではクリントン氏とトランプ氏が頭一つ抜け出した。3月中に代表選びが決着する年も多い。だが、2008年のオバマ氏対クリントン氏の民主党代表争いは6月までずれ込んだ。

 7月後半に両党全国大会の代議員投票がある。ここで大統領・副大統領候補が正式に決まり、ようやく本選が始まる。秋の公開討論会のテレビ中継は本選の見どころだ。両党勢力が拮抗するフロリダ州など、どちらが優勢かはっきりしない「スイング・ステート」でのキャンペーンの成否も、選挙に大きく影響する。

 11月8日、一般有権者が投票する一般投票が行われる。ただ、大統領候補に直接票を投じるわけではなく、最終的に大統領を選ぶ「選挙人」538人が投票対象となる。州ごとの選挙人定員は各州議員数と同数とされ、一部の州を除き総取り方式だ。選挙人投票は12月だが、一般投票で大統領選は事実上決着する。

 08年のオバマ氏以降、ソーシャルメディアの活用も日常化した。民主党のクリントン氏も積極的にツイッターなどを活用。同党で対抗するサンダース氏もサイモン&ガーファンクルをCMで起用するなど、メディア戦略も重要となっている。

(三菱総合研究所)

[日経新聞3月7日朝刊P.25]

(3) 大きな政府か小さな政府か

 共和党は、もともと奴隷制反対や産業振興を掲げ、北部の白人知識層や企業家が主に支持していた。1930年前後の大恐慌を経て、基本思想として「市場重視」と政府の介入を最小限にする「小さな政府」を確立した。これが80年代のレーガン大統領の自由主義的経済政策「レーガノミクス」や2000年代のブッシュ減税につながる。

 一方、当初は南部の白人労働者や農場主らが主な支持基盤だった民主党は、大恐慌克服のためルーズベルト大統領が実施した公共事業中心のニューディール政策でリベラル色を強めていく。基本的には政府が介入を強める「大きな政府」で、福祉重視の政策や規制に積極的だ。公共投資や政府の産業協力を重視したクリントン大統領の「クリントノミクス」も、この流れに位置づけられる。

 ただし政策は経済社会環境に左右される。50年代の共和党のアイゼンハワー政権の政策は、州間高速道路の整備や社会保障の充実などリベラル色が強かった。70年代の民主党のカーター政権は、流通や運輸、金融、通信などの規制緩和で産業活性化を図り、自由主義的な政策を採用した。

 クリントン政権時は財政収支が黒字化したが、2000年代のブッシュ政権時は赤字が拡大。レーガン大統領は保護貿易を進め、クリントン大統領は対日貿易では保護主義だったが北米自由貿易協定を批准した。

 リベラル色の強い政策が極端に進むと財政悪化や経済停滞、産業競争力の低下をもたらす。一方、自由主義的政策の行き過ぎは金融危機や格差拡大につながる。現在の米国は変化を求めている。

(三菱総合研究所)

[日経新聞3月8日朝刊P.31]

(4) トランプ氏が支持拡大

 10以上の州で米大統領選の予備選・党員集会が行われた「スーパーチューズデー」を終えて、共和党ではトランプ氏が優位に立った。

 トランプ氏は、ニューハンプシャー州での勝利を端緒に快進撃を続けている。不動産王として知られ、歯にきぬ着せぬ発言で耳目を集めてきた。クルーズ氏は保守派草の根運動「茶会」(ティーパーティー)の支持を受ける保守強硬派。最年少候補者のルビオ氏は、キューバ移民2世で、貧しい生い立ちから上院議員まで上り詰めたアメリカンドリームの体現者だ。

 トランプ氏は過激な発言が着目されがちだが、共和党の伝統にとらわれず、政策課題ごとに柔軟な姿勢をとり、有権者の支持を集めた。ルビオ氏は3人の中では相対的に共和党の伝統的な姿勢だ。クルーズ氏は党主流派よりも強硬的な発言をする傾向が目立つ。

 税制や社会保障でも3者の主張は異なる。税制では、ルビオ氏は現在40%弱の所得税の限界税率を35%、クルーズ氏は一律10%へそれぞれ引き下げるべきだとする。一方、トランプ氏は高所得者対象の減税とともに低所得者の所得税免除を主張する。公的医療保険では、ルビオ氏とクルーズ氏は手厚い「オバマケア」撤回を訴えるが、トランプ氏は貧困層への医療充実に前向きだ。

 献金に頼らないトランプ氏の支持拡大は、既得権益層としがらみのある既存の共和党政治家への不信感が国民の根底にあるからだろう。ヒスパニック人口の増加による白人層の不安の高まりや経済格差の拡大など、変化する米国社会で共和党も変革を迫られている。

(三菱総合研究所)

[日経新聞3月9日朝刊P.32]

(5) 民主、現実主義と理想主義

 今回の米大統領選で、民主党の指名争いは、クリントン氏とサンダース氏の2人に絞られた。クリントン氏は元ファーストレディーで、オバマ政権では国務長官を務めるなど政治家としての経験・実績は申し分ない。米国初の女性大統領への期待もある。一方でサンダース氏は、バーリントン市長を務めた後、無所属の議員を経て、民主党から大統領選に立候補した非主流派だ。

 クリントン氏の主張は総じて現実主義的だ。一方、社会主義者を自称するサンダース氏は、大企業や富裕層の富の独占解消を訴えるなど、理想主義的とされる。

 公的医療保険では、クリントン氏は手厚い「オバマケア」の拡充を主張する。サンダース氏は国が一括して保険を提供する皆保険制度を主張。税制では、クリントン氏は富裕層の所得控除制限など緩やかな改革を提示。サンダース氏は富裕層の所得税率を大幅に引き上げるべきだとする。

 外交政策も2人の主張は違う。サンダース氏が軍事力の行使に慎重なのに対し、クリントン氏はイスラエルによるガザ空爆支持を表明し、中国へも強硬姿勢を崩さない。

 クリントン氏は、黒人やヒスパニック層の高い支持をもとに優勢を維持している。しかし、若い世代を中心に、理想主義的な政策を掲げるサンダース氏など他の候補者へ一定の支持が広がっていることは、格差拡大や教育費高騰など米国社会のゆがみの表れともいえる。ブッシュ家に続きクリントン家と、大統領職が特定の家族で占められることへの警戒心もある。政治を変えたいという米国民の思いは根強い。

(三菱総合研究所)

[日経新聞3月10日朝刊P.29]

(6) 政治不信で非主流派躍進

 2016年の大統領選で「非主流派」の候補が支持を集めている背景は、既存の議会や政治への不信が強まったことだ。2000年代のイラク戦争の泥沼化や08年のリーマン・ショックという逆境の中、オバマ政権は変革への党派を超えた期待を集め、09年に誕生した。その後、なぜ政治不信が強まったのか。

 最初の2年間は順調だった。上下院ともに民主党が多数派を占め、健康保険加入率を引き上げる「オバマケア」や、大規模金融機関への監督を強化する金融規制改革法などの法案を成立させた。

 こうした動きに対し、「小さな政府」を標榜する野党共和党の反発が先鋭化。10年末の中間選挙では保守強硬派とされる草の根運動「茶会」(ティーパーティー)が躍進し下院では共和党が多数派となった。12年の大統領選でオバマ大統領が再選されたものの、議会のねじれの構図は変わらず13年末には予算関連法案の審議が難航して政府機関が一時閉鎖された。

 14年の中間選挙では72年ぶりの低投票率が民主党に逆風となり、共和党が上下両院で多数を得た。だが共和党指導部と茶会派との内部対立を背景に、オバマ政権は米欧など6カ国とイランの核兵器保有防止にむけた合意、環太平洋経済連携協定(TPP)大筋合意など実績を上げた。内部対立が続く共和党主流派への不満が、トランプ氏の支持拡大につながった。

 リーマン・ショック後の不況から米国経済を立ち直らせたオバマ政権の功績は大きい。だが、景気が回復したことが国民の関心を経済格差へと移し、サンダース氏の支持につながった面もある。

(三菱総合研究所)

[日経新聞3月11日朝刊P.38]

(7) 格差拡大と固定化に不満

 今回の大統領選では、経済格差に関心が集まっている。過去数十年間、米国では高所得層の所得が明確な上昇傾向だった一方、低中所得層では伸びが鈍かった。1990年以降、所得上位10%の所得は約1.7倍に増加したが、その他は約1.1倍にとどまる。

 親の所得が高いと子の所得も高くなる格差の固定化傾向も指摘される。教育費高騰で、低所得世帯の子が教育により高所得を得ることが困難になっている可能性がある。

 2008年の金融危機後の景気回復では低中所得層の不満が高まった。金融システムの安定化をめざして大手金融機関に早期に公的資金を注入したこともあり、米国経済の回復は早かった。11年には実質国内総生産(GDP)が危機前の水準に回復。雇用回復には時間がかかったが、一時は10%前後まで悪化した失業率も4%台へ改善した。

 ただ回復の実感には偏りがあった。金融危機をもたらした金融機関が税金で救済されたことについて、所得が伸びない低中所得層の不満は11年の大規模抗議デモにつながった。所得が高所得層に比べ伸び悩んだことに加え、近年の株価上昇は多くの金融資産を保有する高所得層への恩恵が大きかったこともある。

 景気回復を実感できない低中所得層にとって、トランプ氏の変化を期待させる発言は魅力的に映る。公立大授業料の無償化などサンダース氏の格差是正の主張は、教育費高騰への不満を高めた若年層を引き付ける。高所得層から政治献金を受け取らず、個人資産や小口献金で選挙資金を賄っている点も、支持拡大を後押ししている。

(三菱総合研究所)

[日経新聞3月14日朝刊P.21]

(8) 中間層減少が急進思想に

 米国では、労働市場の構造変化とともに中間層が減少し続けた。主な就業先だった製造業で雇用が減少したからだ。

 経済の国際化が進む中、人件費の安いメキシコや中国などに工場を移転する傾向が強まった。米国内の雇用に占める製造業の割合は、1990年には約16%だったが、2015年には約9%に低下。米国に残った製造業でも、海外で生産した安価な製品との価格競争の激化によって、賃金の伸びが抑制されている。

 IT(情報技術)化も中間層の雇用減少を促した。ITは労働生産性を向上させた一方で省力・代替化を促し、定型的作業は雇用削減が進んだ。このため労働条件のよい仕事の多くが失われた。

 雇用の「質」の問題に対する中間層の不満も残る。労働市場では、雇用者数増加や失業率低下など「量」の面で改善が進んだ。だが08年の金融危機後に増大した非自発的なパート労働者の割合は、元に戻るのに時間がかかっている。

 かつてはフルタイムで働いていた労働者が、賃金や福利厚生で劣るパートタイムとして働かざるを得ないケースは依然として多い。こうして中間層から低所得層に転落した人が少なくない。

 中間層からの転落は、強い不満とともに急進的な思想に結びつきやすい。ヒスパニック系を中心とする移民と低賃金の雇用を奪い合うことになる労働者にとっては、トランプ氏の主張する不法移民の強制送還は都合がいい。同氏やサンダース氏の自由貿易に反対する姿勢も、海外に流出した中間的な雇用の国内復活を期待させ、彼らの支持拡大につながっている。

(三菱総合研究所)

[日経新聞3月15日朝刊P.28]

(9) 大国の役割に変化の兆し

 経済格差の拡大など国内情勢だけでなく、世界における米国の位置づけの変化や海外情勢も、今回の大統領選に影響を与えている。新興国の台頭や世界の安全保障への関与低下などにより、米国一極の状況は変化しつつある。大国として国際社会の秩序・ルール形成をけん引する役割を続けるべきかどうか、米国内の世論は揺れている。

 経済面をみると、かつて世界の名目国内総生産(GDP)の約30%を占めていた米国の割合は、2014年には約23%に下がった。依然として世界最大の経済大国であることに変わりはないが、以前ほど世界経済を引っ張る力はない。環太平洋経済連携協定(TPP)などの貿易協定についても、米国主導での世界経済のルール作りを評価する見方よりも、国内雇用を脅かすと考える保護主義的な見方が広がる。

 外交面でも、米国の世界への関与はオバマ政権下で変化してきた。ブッシュ政権時のイラク戦争で米国は疲弊。税金で戦費を賄うことへの反対も強く、オバマ政権は公約通りイラクから撤退を決定した。だが、その後米国が海外への関与を弱めている間に、中東では過激派組織「イスラム国」(IS)が台頭。ロシアや中国の領土拡張を目指す動きなども強まった。外交・安全保障面の不安が高まり、米国内では、オバマ政権の外交に対する不満もくすぶる。

 民意は自由貿易を避ける内向き志向と、世界の秩序維持に向け他国への介入を強める外向きの志向を併せ持つ。非主流派の主張は極端だが民意に沿い、支持につながっている。米国は大国の役割の果たし方を模索している。

(三菱総合研究所)

[日経新聞3月16日朝刊P.29]

(10) 保護主義、TPPに懸念も

 大統領選後の世界、また日米関係はどうなるだろうか。従来の延長ではない政策が展開される可能性もある。大統領選後を占うポイントとなる3つの政策を挙げよう。

 第1は、外交政策だ。まず、安全保障面では、世界の紛争への介入のあり方は候補者による温度差が大きい。ただ、アジアの安全保障政策では、中国の軍事力拡大が続く限り米国はアジア太平洋地域への関与を深めざるを得ない。このため日本など同盟国との連携強化が基本路線となろう。

 通商面では、保護主義色の強まりに注意が必要だ。2015年に大筋合意した環太平洋経済連携協定(TPP)は、米国の署名がなければ発効しない。年内に議会が批准する可能性もあるが、米国の雇用を脅かすなどの理由から、本来は自由貿易に賛成の立場のはずの共和党候補も反対または見直しを表明している。

 第2は、国内の経済政策だ。非主流派の経済政策が読みにくいほか、議会との対立により予算審議などが難航する可能性もある。政府機関の閉鎖などが頻発すれば、国際金融市場も混乱する。

 第3は、移民政策だ。中南米などからの移民の増加に対して雇用面・治安面での警戒感が高まっている。だが、移民が生み出す安い労働力と多様性が活力となって米国経済の成長を支えてきた面もある。バランスをどうとるかが焦点となる。

 日本にとって、米国は安全保障でも経済でも重要なパートナーだ。誰が大統領になるにせよ日米関係の維持・発展が大切なことに変わりはない。

 (この連載は三菱総合研究所政策・経済研究センターが担当した)

=この項おわり

[日経新聞3月17日朝刊P.29]


 

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コメント
 
1. 2016年3月20日 17:25:12 : ePkHnsquxc : t4k3@cPQsN0[3]

大手マスコミ記事はつまらん。



[32初期非表示理由]:担当:アラシ


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