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米イリノイ州ブルーミントンで行われた選挙集会で演説するドナルド・トランプ氏(2016年3月13日撮影)〔AFPBB News〕
トランプ圧勝は確実、しかし本選はヒラリーの理由 党内の結束力に大きな差、経済の安定も強い追い風に
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/46338
2016.3.16 堀田 佳男 JBpress
いまだに米大統領候補ドナルド・トランプの化けの皮は剥がれない。それどころか皮の厚さが増して、本物の皮膚に変化しつつあるほどだ。
国内外でトランプが大統領になった場合の憂慮が真剣に語られ始めている。本当にトランプは大統領になるチャンスがあるのだろうか。
筆者は昨年末から、活字・放送メディアを通して共和党ではトランプが代表候補になると述べてきた。大統領ではなく、あくまで共和党代表という立場である。
3月15日に行われるミニ・スーパーチューズデー(5州)では、トランプが共和党候補マルコ・ルビオの地元フロリダ州で勝利すると思われる。と言うのも14日現在、トランプは各種世論調査でルビオに約20ポイントのリードを保っているからだ。「敵地」で圧勝する流れなのだ。
■もはや勝ったも同然のトランプ
さらにジョン・ケーシックが知事を務めるオハイオ州でも勝つ可能性がある。そうなるとルビオ、ケーシックの2人は早晩、選挙戦から撤退していくことになる。
今後トランプが獲得する代議員数をシミュレーションすると、5月下旬からカリフォルニア州の予備選がある6月7日には、共和党の代表候補に決まるだろう。
ここまでの予備選結果を眺めると、トランプは38%の得票率を得ており、今後この数字が大幅に下降するようには見えない。逆に2位につけているテッド・クルーズの得票率は約22%で、様々な観点から分析しても、トランプを逆転するのは極めて難しい状勢である。
ましてや15日のミニ・スーパーチューズデーは、フロリダ州やイリノイ州、オハイオ州といった代議員の総取りとなる州が多く、「もう間に合わない」のだ。クルーズは15日の予備選では全州で、トランプの支持率に負けている。
ヒラリー・クリントンも15日の予備選では圧勝してくるだろう。となると、11月8日の本選挙はトランプ対ヒラリーという戦いが見えてくる。
ここからはトランプとクリントンが共和・民主両党の代表候補になったと仮定し、11月の本選挙でどちらが勝つ可能性がより高いかを記したい。
現時点での予想には多少の無理があるが、一言で述べると「クリントンに勝算あり」である。
理由はいくつもある。過去数十年間の大統領選で勝敗を大きく左右する要因は経済と党内のまとまり、資金力、選対の組織力などで、ほとんどの要因でクリントンが優勢だからだ。
今年は経済問題が大きな争点にならない珍しい選挙である。米国の失業率はいま5%を切り、インフレ率も1月に1%台に乗ったが依然として低率だ。
失業率とインフレ率を合わせた数値を痛苦指数(ミゼリー・インデックス)と言い、数値が10%を超えると現職大統領であれば再選できないと言われている。現在は6%台で、バラク・オバマの再選はもうないが、政権党である民主党の候補が再びホワイトハウスに入る可能性はある。
■党内が団結、経済も追い風
2008年のように、米国経済が恐慌の一歩手前という状況であれば、クリントンにほとんどチャンスはなかっただろう。今年の討論会では財政再建策や経済刺激策が話し合われず、不法移民や安全保障問題に関心が注がれている。
次の指標として、党内がどれほどまとまっているかも重要である。党が分裂状態にあると、11月の選挙で勝てる可能性は下がる。
特に共和党はトランプが代表候補になった場合、党の首脳部をはじめとしてトランプの言動を容認しない党員たちが少なからずいる。しかも党内の亀裂はいま深くなっている。首脳部がトランプに代わる候補を推してくることさえ考えられる。
実は1968年にそうした事態が起きた。民主党はリンドン・ジョンソン大統領が再選を求めず、上院議員のユージーン・マッカーシーとロバート・ケネディが代表争いをしていた。
だがケネディが暗殺されてマッカーシーが有力視されると、民主党首脳部は予備選を全く戦わなかった副大統領のヒューバート・ハンフリーを党大会で代表にしてしまう。
党大会は暴徒化した党員などで荒れに荒れる。結局、ハンフリーは本選挙で共和党ニクソンに敗れるのだ。
いまの共和党首脳部がトランプを阻止するためのウルトラCを考えているとしたら、1968年のシナリオが頭にあるかもしれない。そうなるとトランプは黙っていないだろうし、共和党は分裂してしまい、最終的には11月にクリントンに負けるという流れができてしまう。
さらに選挙に勝つために必要なのが選挙対策本部の組織力だ。いくら候補に人間的な魅力があっても、全米レベルで効率的なキャンペーンが運営できないと勝ち目はない。
この点で今年のトランプは例外中の例外だ。クリントンの選対には給料が支払われるスタッフだけで350人はいるが、トランプの選対はほぼ10分の1である。しかも専属の世論調査員やプロの献金担当者はおらず、政策立案者も最近まで採用していなかった。
にもかかわらず、トランプは共和党の代表候補になりつつある。これまでの大統領選の常識を破りながら快進撃を続けている点で、例外的な候補だ。
■トランプ30億にヒラリー211億円
選挙資金にしてもそうである。過去30年間の大統領選を眺めるだけでも、ほぼ例外なくより多くの選挙資金を集めた候補が勝利を収めてきた。多額の選挙資金を集めることで、テレビやラジオの政治CMに多額の資金をつぎ込めるからだ。
正比例ではないが、選挙資金と選挙結果には強い相関関係がある。クリントンは3月7日現在、約211億円(スーパーPAC*1を含む)を集金。バーニー・サンダース(約110億円)の集金額に100億円も差をつけている。
しかしトランプは約30億円しか集金しておらず、自己資金を約50億円使っていたとしても大変効率よく戦っている。
9月になると、勝者はかなり微細に見えてくる。考慮すべき指標はいくつもある。経済成長率、国民の実質所得、失業率、インフレ率、候補の支持率、選対の組織力、選挙資金額、党内の結束等を総合的に判断することで、勝者が浮かび上がる。
米政治学者の中には当選予想モデルを考案している人たちが何人もおり、過去ほとんどハズレがないほど高い確率で当選者を言い当てている人もいる。
しかし、今年の選挙はドナルド・トランプという「これまでの常識」が通用しない人物がいるため、本選挙でも波乱が起きる可能性がある。それでもトランプとクリントンであれば、現時点ではクリントン有利と記しておく。
*1=PACはpolitical action committee(政治行動委員会)の略。スーパーPACは特別行動委員会と呼ばれ、無制限に資金を集めることが許されている。
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