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トランプ大統領誕生は、日本経済にとって悪夢になる Photo:The New York Times/AFLO
たぶん誕生するトランプ大統領が日本経済を危機に陥れる
http://diamond.jp/articles/-/87742
2016年3月11日 鈴木貴博 [百年コンサルティング代表] ダイヤモンド・オンライン
今年の秋のアメリカ大統領選挙はどうなるだろう。共和党のドナルド・トランプ候補、民主党のヒラリー・クリントン候補とサンダース候補。ここまでの予備選の状況からすれば、候補者はほぼこの3名に絞られたといっていいのではないだろうか。
このうち日本経済にとって都合がいい大統領候補はサンダース候補だけだ。彼はオバマ大統領と似ていて、有権者に支持される発言はするが実行力はないだろう。
残るヒラリー候補とトランプ候補は、政策と人物を見る限りどちらが勝っても日本によいことはない。ただ有権者の人気という観点でみれば、日本では誰もそうなると考えていないようだが、トランプ大統領が誕生する確率が一番高いと私は考えている。
■トランプ候補とレーガン大統領のあまりにも良く似た状況
ここまで人気の高い泡沫大統領候補というと、実は歴史上よく似た事例がある。1980年に登場したロナルド・レーガン大統領だ。
当初はハリウッドの俳優出身のレーガン候補が本当に大統領になるなどとは誰も考えていなかった。ところが現職のカーター大統領のあまりの無能さに、新しい何かに期待したアメリカ国民の票によって、大統領選挙では地滑り的な大勝利を得てレーガン氏は大統領の座をつかむことになる。
レーガン大統領はタカ派で保守派で、アメリカ市民にとても愛された。そしてレーガン政権の8年間は、アメリカの国益を守るために日本への経済制裁や政治圧力が高まった8年間だった。この時期、日本はロンヤス関係を結んだ同盟国でありながら、経済については常に矢面で批判され続けた。
アメリカ大統領は実はかなり強力な権限を持っている。レーガン大統領はその権限を最大限に活用し、米国議会の決議に対しても何度も拒否権を発動した。
民主党で国際問題を解決する力がないと酷評されたカーター大統領とよく似た状況にあるのが現職のオバマ大統領であり、その対立候補として国民の人気が高いドナルド・トランプのようなタカ派のタレント候補が台頭してきているという点では、当時と状況はよく似ている。
共和党では他に敵となる候補が出てきそうにもない現状で言えば、大統領選挙本選はトランプ候補対民主党の代表候補という図式になる。政治の専門家はそこで「よりまともな民主党候補が大統領に選ばれる」と考えるのだが、私はそうはならないと見ている。今年の11月に選ばれるのは、より多くの国民が支持する大統領候補だろう。だから私はトランプ大統領が誕生する可能性が高いとみているのだ。
■支持率上昇の原動力になった3つの経済政策
さて大統領になったドナルド・トランプが何をしようとしているのか?この点は意外と日本では報道されておらず、ある意味知られていない。暴言が目立つトランプ氏だが、経済政策の面では考えがはっきりしている。それはアメリカ経済を復活させるという目標である。
そのためのトランプ氏の着眼点は3つある。1つはアメリカの雇用が中国とメキシコに搾取されているという視点。だから両国に高関税をかけてアメリカの雇用を守ろうと言っている。
2つめに米国の中産階級を実質的に増やすことが重要だという視点。具体的には年収2万5000ドル未満(約300万円未満)の低所得者層の税金をゼロにするという政策で、かつて中産階級だった人々の購買意欲を取り戻そうとしている。
3つめに税金の使い途を見直そうという視点だ。オバマケアなどのばらまき型政策は大失敗だと指摘して撤回する一方で、空港建設や道路工事などインフラ投資にはよりお金を投資していきたいと表明している。
そしてこの3つの視点にもとづく政策は、すべてアメリカの中産階級以下の雇用や所得を増やしそうだということで、トランプ氏の支持率上昇の原動力にもなっている。
これらをどこまで本気でやれるかがトランプ大統領誕生後には問われるだろう。
メキシコ国境に万里の長城を築いて不法移民をゼロにするというような政策は実際には実行されないだろうが、メキシコや中国に対してトランプ大統領は強硬な政治要求を示していくであろうことは間違いないだろう。
さらにトランプ氏が中国やメキシコと同じく敵と見定める対象はグローバル企業になるだろう。
世界中でお金を稼ぎながら、税制をうまく使ってアメリカに税金を落とさない企業、そしてアメリカから雇用を奪っているとみなされるグローバル企業に対して、トランプ大統領は厳しい立場をとるようになるだろう。
トランプ氏がこれまでの政治家と一番違う点は、自分の資産で大統領選挙を戦えるということだ。
オバマ大統領もブッシュ前大統領も、大統領になったとたんに公約をひるがえしてしまった。なぜあんなに豹変するのかと感じる方も多かっただろう。最大の理由は数百億円もの大量の選挙資金を得る過程で、さまざまな政治利権関係者にがんじがらめにされてしまい、大統領就任時点ですでに自分のやりたいことが何ひとつできない状態になっているからだ。
ところが自力で選挙戦を戦うトランプ大統領には、そのようなしがらみがない。これまでの大統領たちに資金を提供してきた石油業界、自動車業界、武器産業、製薬業界、農業業界など考えられるありとあらゆる既存の抵抗勢力に対して、トランプ氏は強気でいられるだろう。
■過去30年で最も行動力を発揮 それゆえ日本に噛みつく可能性大
おそらくトランプ大統領は、その点において過去30年間で最も行動力のある大統領として君臨することになる。「それがマクロ経済にとって正しい政策か間違った政策かは関係なく」である。ここが問題になる。
米国経済を守るという観点から考えるとトランプ大統領は保護主義で反自由貿易的な政策になることが想定される。つまり世界のマクロ経済にとってはマイナスな政策が打ち出される可能性が高いだろう。
ここが日本経済に対してもマイナスに影響するはずだ。
まずTPPは撤回されるだろう。日本との自由貿易など米国の雇用にとってはプラスにならない。農業の市場だけ日本に開放させて、自動車や部品市場はアメリカ市場を守ったほうがずっといいという考えにアメリカは揺り戻されるだろう。
為替も人民元高で不公正をなくそうという考えと同じで、ウォン高、円高が公正だとトランプ氏は考えるだろう。つまりあの悪夢のような円高時代に戻っていくリスクが高まると考えたほうがいい。
そうやってトランプ大統領はメキシコに噛みつき、中国に噛みつくだけでなく、日本にも噛みつくことになる。もちろんイスラムにも韓国にも北朝鮮にも噛みつくだろうが。
そう考えるとトランプ大統領誕生は日本経済にとっても悪夢である。一番無難なサンダース候補がなんとか勝ち残れないか、今のうちにわれわれは神に祈っておいたほうがいいかもしれないのだ。
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