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[FT]トランプ氏の擁護を試みる[日経新聞]
2016/3/9 6:30
彼は、にせもの、ペテン師、民主主義に対する脅威と呼ばれ続けてきた。しかも、所属政党のメンバーから言われただけだ。批判派の一部は、ドナルド・トランプをヒトラーやムッソリーニになぞらえた。筆者も多くの人とともにトランプ氏の台頭に戦慄を覚えてきたが、その一方で、頭の片隅の小さな声は時折、こう問いかけてきた。「彼は本当にそれほどひどいのか。このヒステリーはすべて、少々度を超しているのではないか」
週末のナンシー・レーガンさんの死は、夫のロナルド・レーガン氏の台頭がかつて招いた戦慄と非難を思い出すきっかけになった。トランプ氏と同様、レーガン氏もファシストのレッテルを貼られ、人種がらみの扇動のそしりを受け、能なしだと愚弄された。同氏が大統領に就任したとき学生だった筆者は、彼が世界大戦を引き起こすと広く予想されていたことを覚えている。にもかかわらず、レーガン氏は今、「偉大な大統領」の殿堂で揺るぎない地位を得ている。トランプ氏が憎悪から受容に至る同じ道のりを歩むこともあるのではないか。
トランプ氏を擁護する弁論は間違いなく組み立てられる。同氏のスタイルが下品であることを飛ばして、提案された政策を検証したら、彼が多くの国内・外交政策問題について、共和党の候補指名を争う「エスタブリッシュメント(支配階級)」のライバル候補数人より穏健なことは明白だ。トランプ氏は大型金融取引の税の抜け穴を塞ぐことを求め、国がすべての米国民に医療保険を保証すべきだと語っている。福音主義の右派に日ごろ激しく攻撃される、妊娠中絶を進める非営利の家族計画団体プランド・ペアレントフッドも擁護した。
外交政策の面で、トランプ氏の発言は攻撃的で国家主義的だ。しかし、具体的な問題への彼の立場は、海外における米国の軍事介入と民主主義の促進に対するオバマ的な慎重さがあることを示唆している。トランプ氏の対抗馬たちは、イランとの核合意を破棄するのは賢明ではないかもしれないと(正しい意見を)述べた(同氏の)厚かましさを中傷する広告を流している。また、前回のテレビ討論で、リビアに米軍を派遣するという無謀な選択肢を提唱したのは、トランプ氏ではなく、「主流派」の共和党候補、ジョン・ケーシック氏とマルコ・ルビオ氏だった。
■強烈で型破りな政治的知性
最も物議を醸すトランプ氏の立場は、メキシコ国境沿いの「壁」の建築、そしてイスラム教徒による米国入国の一時的な禁止を求めていることだ。どちらの政策もあえて挑発的な言い回しになっている。だが、米国の国境警備の執行と不法移民に対する不寛容を求める主張は、突き詰めると既存の米国法の執行を求める議論であり、本質的に理不尽な考えではないはずだ。
イスラム教徒の米国入国を禁止すべきだとの訴えも、そのすぐ後に「一体全体何が起きているのか把握するまで」という言葉が続いていた。これは、主張を取り消す余地をたっぷり残す程度に曖昧だ。
トランプ現象に覚える戦慄は、彼が米国人有権者の「意地の悪い」本能に訴えかけていることだ。しかし、有権者の懸念を特定し、対応を組み立てるのは、政治家の仕事だ。ポピュリズム(「正しい考えを持つ」人が皆、忌み嫌うもの)と民主主義(我々が皆、賛同するもの)との間には、一般に認められている以上に微妙な違いしかない。トランプ氏は明らかに、強烈で型破りな政治的知性を発揮しており、ライバルやメディアは何度も不意を突かれることになった。
■当選はとんでもないメッセージ
さて、これがトランプ氏を擁護する弁論だ。筆者がこの弁護を信じるかと言えば、残念ながら、あまり信じない。トランプ現象は、政策の問題であるのと同じくらい政治のスタイルの問題でもある。そしてトランプ氏のスタイルは忌まわしい。彼の粗野な態度は、レーガン氏の優雅なユーモアとは天地の違いだ。トランプ氏は繰り返し、考えつく限り最も扇動的な言葉を使い、メキシコからの移民をレイプと結びつけ、テロ容疑者に対して拷問の利用を是認した。白人優位を唱える秘密結社、クー・クラックス・クラン(KKK)の元幹部デビッド・デューク氏のような白人至上主義運動の指導者にトランプ氏が支持されたのは、偶然ではない。
2012年に共和党指名候補だったミット・ロムニー氏は「弱い者いじめ、貪欲、自己顕示、女性蔑視、ばかげた三流芝居」を非難し、トランプ氏の個人的なスタイルを見事に要約した。こうした資質に対して世界で最も強大な権限を持つ政治職が与えられたら、社会にとんでもないメッセージを送ることになる。
また、トランプ氏は虚栄心のせいで、ばからしいほど神経質になる。前回のテレビ討論で、彼のペニスの大きさに関する中傷に反応せずにいられなかったのは、そのためだ。これほどの自制心しか持たない人間が世界最大の核兵器貯蔵庫を任されるかもしれないと考えると、ぞっとする。
最後に、世界に対するトランプ氏のアプローチは、米国の対外介入に関する適切な警戒の域を大きく超えている。同氏は貿易保護主義を支持しており、海外の同盟関係へ米国が関与することに極めて懐疑的だ。こうした政策が精力的に遂行された場合、米国の世界的リーダーシップからの全面撤退を意味することになる。そうなれば、おそらく世界は今よりずっと危険な場所になるだろう。
もちろん、トランプ現象の魅力は、同氏の発言のうち、どれくらいが本心で、どれくらいが有権者とカメラを意識したポーズなのか知るのが非常に難しいことだ。トランプ氏の実業家としての実績と著作物は、彼が何をおいても、妥協策を見つける前に、初動として過激な要求を出すことを好む実際的なディールメーカーであることを物語る。
「トランプ大統領」が批判的な人々を驚かせ、責任を持って国を統治することは、間違いなくあり得るだろう。筆者はその結果を知らずに済むことを心から望んでいる。
By Gideon Rachman
(2016年3月8日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
(c) The Financial Times Limited 2016. All Rights Reserved. The Nikkei Inc. is solely responsible for providing this translated content and The Financial Times Limited does not accept any liability for the accuracy or quality of the translation.
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