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[真相深層]「東西和解」操ったロシア
ローマ法王とロシア正教会トップが会談 ウクライナ宗教界けん制
カトリック教会のローマ法王フランシスコと東方正教会の最大勢力であるロシア正教会のキリル総主教が12日、キューバで歴史的な会談を実現させた。キリスト教が1054年に東西に分裂して以来、両教会のトップが会談するのは初めて。「東西教会の和解」と世界がはやした会談を裏で仕掛けて操ったのはロシアのプーチン大統領だ。
「裏切られた」
今回の会談を苦々しい思いで見ていた国がある。親欧米に転じ、ロシアの軍事介入に苦しむウクライナだ。「バチカンに裏切られた」。政府幹部や教会関係者からはこんな恨み節も聞こえる。
ウクライナの教会関係者をとりわけ失望させたのは、両教会トップが会談後に発表した共同宣言の内容だ。ウクライナの「キエフ総主教庁」などがロシアの管轄からの独立を主張している問題について「既存の教会法に基づく解決を望む」と、否定的な見解を示した。
ロシア正教会はこれまでローマ法王の会談要請を拒否し続けてきた。一転してこれに応じた背景には、ウクライナでの教勢が透ける。
プーチン政権がクリミア半島を武力で自国に編入し、東部にも介入したことで、ウクライナではロシア正教会離れが加速する。危機感を抱いたロシア正教会はローマ法王と対等に渡り合う「盟主」であることを演出し、キエフ総主教庁などの独立の動きに歯止めをかけようとしたとみられる。
2015年の世論調査によると、ロシア正教会系の教会への支持は11年の26%から20%に低下。一方で世界の正教会から承認を受けていないキエフ総主教庁への支持は31%から44%に伸びた。キエフは、東方正教会の中でロシア正教会と勢力を争うコンスタンティノープル(現イスタンブール)総主教庁に何度も使者を派遣し、独立承認を働きかけている。
「ロシア正教会はプーチン政権の一機関だ」。ウクライナではこんな見方が定着する。ロシア正教会のトップであるキリル総主教は15年、ウクライナの親欧米政権について「邪悪だ」と発言し、聖職者に闘争を呼びかけた。親ロ派が実効支配するウクライナ東部では「ロシア正教会軍」と名乗る勢力が他宗派を弾圧しているとされる。総主教はロシアによるシリア空爆にも支持を表明した。
実際、プーチン大統領はロシアやウクライナなど旧ソ連諸国で欧米の価値観の浸透を防ぐため、ソ連時代のイデオロギーに代わる精神的な支柱としてロシア正教会を利用し、後押ししてきた。ロシア語や正教文化に基づく「ロシア世界」という概念を打ち出し、旧ソ連圏を勢力圏と位置づける。バチカン接近も正教会てこ入れの一環だ。
トルコに対抗か
15年末に起きた事件がロシアの危機感をあおった。トルコが同国の領空を侵犯したとされるロシア機を撃墜した事件で両国の関係は悪化した。
トルコを本拠とするコンスタンティノープル総主教はエルドアン政権の影響下にある。シリア情勢を巡ってもロシアと対立するトルコは、対ロ報復のためキエフ総主教庁などの承認を後押しするのではないか。こんな臆測も浮上する中で、ロシアはローマ法王との会談を急いだ可能性がある。
コンスタンティノープル総主教はすでに同年6月、司教2人をキエフに派遣し、キエフ総主教庁と別の独立系教会の統合交渉を仲介した。統合後にキエフ総主教庁などを傘下の教会として承認する可能性にも言及した。
キエフ総主教庁で対外関係を担当するヒラリオン大司教は「ローマ法王との会談はコンスタンティノープルのけん制が狙いだ」と断言する。
キエフ総主教庁の承認の可否はロシア正教会の趨勢を左右する。モスクワ総主教庁傘下の約3万の小教区のうち、ロシア国内は半分。ウクライナが3割強を占める。キエフ総主教が承認されれば、他の旧ソ連諸国にも波及し、ロシアは東方正教会の最大勢力の地位を失いかねない。
スラブ・正教文化の発祥の地であるウクライナを失えば、プーチン大統領の「ロシア世界」は根底から崩れる。政教一体となってロシアがウクライナ奪還に血眼になる理由はそこにある。
(モスクワ=古川英治)
[日経新聞2月26日朝刊P.2]
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