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中東地域安定への課題 若年・女性・農家の底上げを 中小企業の育成急務:不安定の最大の要因は↑だが...
http://www.asyura2.com/15/kokusai12/msg/578.html
投稿者 あっしら 日時 2016 年 2 月 15 日 04:59:12: Mo7ApAlflbQ6s gqCCwYK1guc
 

(回答先: 政変5年のアラブ諸国 安定への道は:「アラブの春」もIS騒動と同じく英米仏と内通権力者によって仕組まれた政治闘争 投稿者 あっしら 日時 2016 年 2 月 15 日 01:59:40)


中東地域安定への課題 若年・女性・農家の底上げを
中小企業の育成急務

ハフェズ・ガネム 世界銀行副総裁(中東・北アフリカ担当)/山中晋一 国際協力機構 中東・欧州部長

 教育の質向上、日本も協力         

 2011年の中東の民主化運動「アラブの春」以降、中東・北アフリカ地域では、紛争、テロ、暴力、国家の破綻といった未曽有の混乱がもたらされた。それは15年11月のパリ同時テロにみられるように世界各国に波及している。

 国際社会は、過激派組織「イスラム国」(IS)など過激派の掃討やテロとの戦い、難民問題など喫緊の課題への対応を迫られている。しかし同時に「アラブの春」の要因となった格差や貧困、排他性などの構造的な問題も未解決のままだ。この根本的解決なしに、同地域の平和と安定を達成することはできない。

 国際協力機構(JICA)と米ブルッキングス研究所は中東・北アフリカ地域の平和と安定に向けた課題と協力のあり方について共同研究してきた。エジプト、チュニジア、モロッコなど政治・経済的な移行期にあるアラブ諸国を対象に、経済的な側面に焦点を当てて分析した。アラブ諸国は共通の構造的問題を抱えており、研究成果はシリア、リビアなど紛争状態にある国々にも紛争解決後の復興プロセスで適用され得るものだ。

 今回の研究により、これまで疎外されてきた若年層、女性、小規模農家を含むあらゆる人々に恩恵をもたらす「インクルーシブ(包摂的)な成長」の達成が不可欠であることが確認された。このため以下に述べる4点が重要であり、国際協力機関にはこれらに配慮した協力が求められることが結論として得られた。

 第1に公共部門の制度・組織の改革である。エジプトでは、2012年時点で41もの計画が「計画」「ビジョン」「戦略」などの名称で林立していた。また国家基本計画である「5カ年計画」は旧ムバラク政権下において6次にわたり策定されたが、関係省庁や民間セクター、市民社会との調整は限定的だった。

 予算配分や公共投資は説明責任を欠き、国の開発ニーズが計画に反映されず、結果として大半の計画が実施に至らなかった。こうした状況はアラブ諸国で一般的にみられる傾向で、必要な公共投資が進まない一因になっている。

 実際、主なアラブ諸国の過去30年間の総固定資本形成の国内総生産(GDP)比率をみると、30年前には30%程度だったのが、現在は20%程度にとどまっている。これは過去30年間で中国やインドでは同比率が上昇し、現在それぞれ約50%、約30%となっているのとは対照的だ。特に公共部門でこの傾向が顕著だ。

 経済成長のためには資本形成が肝要であり、「包摂性」と「透明性」に配慮した中長期的な開発計画の策定や承認プロセスの確立、関係省庁の説明責任と能力強化、事業モニタリング(監視)・評価の導入が求められる。なおエジプトでは日本人専門家の協力により、わが国の政策決定プロセスを参考にした新たな国家開発計画策定のための制度づくりが進められている。

 第2に中小企業振興のためのビジネス環境の整備が重要だ。アラブ諸国の若年層の失業率はおおむね20%以上に達しており、特に高学歴層および女性が深刻だ(表参照)。

 中小企業の役割は経済活動と雇用の両面で大きく、主な先進諸国ではGDPの約半分、雇用の約3分の2を担っている。しかしアラブ諸国では大企業が経済活動の主体であり、中小企業による雇用は20〜30%以下にとどまる。代わりに露天商や家内工業など非正規の零細業者が雇用面で中心的役割を担うが、これらの多くは技術水準や生産性が低く労働環境は劣悪だ。

 アラブ諸国の起業率が世界平均を大きく下回っていることも問題だ。経営者への聞き取り調査では起業の障害として、国内外の市場や金融へのアクセス、法制度や税制面でのハードル、政府許認可手続きの不透明性が挙げられた。

 今後若年層を中心に起業を促すには、金融制度の改善、税制面での優遇策、小規模な外資導入のための規制緩和、政府許認可手続きの透明化などが必要だ。なお、アラブ諸国では一般に公的部門への就労を好む傾向にあるといわれるが、エジプトの工学系大学生を対象とした調査では、同様の待遇が確保されれば公的部門でなく民間部門を選好するとの傾向もみられる。アラブ諸国でも若者の職業選択は待遇次第といえる。

 第3に地域格差是正のための農村開発だ。アラブ諸国では地方部の貧困率は都市部の2〜3倍にのぼる。「アラブの春」に続く動きが10年末にチュニジアの貧しい農村から始まったことと無関係ではない。北アフリカでは農家の大半は小規模家族経営で、灌漑(かんがい)効率が低いことも影響し、チュニジア、モロッコの穀物生産性は世界平均の半分以下だ。これではGDPの10〜15%、雇用の20〜40%を担う農業が地方経済活性化の役割を担うのは難しい。

 地域格差是正には、農業生産性と農家の所得水準の向上が不可欠だ。エジプトやモロッコでは、農業向け与信比率が極端に低いことからも明らかなように農業金融が未発達で、近代化推進の阻害要因となっている。農産物の販売に際しては仲介業者に頼らざるを得ず、販売価格が不当に低く抑えられる傾向にある。

 この対策としては、小規模農家を対象とした灌漑の整備や技術の普及、農業金融制度の拡充、市場アクセスの確保、高収益作物や新たな技術導入に向けた農業協同組合の創設などが必要であろう。

 気候変動リスクへの対応も必要だ。農村の振興については、モロッコが進める農業開発計画「緑のモロッコ計画」が他のアラブ諸国でも参考となる。同計画は、官民連携の大規模経営による農業近代化と政府による小規模農家支援の2本柱で進められており、日本も支援を予定している。

 第4に教育の質の向上だ。若年層の失業問題は、イスラム過激派への流出を防ぎ社会不安を解消するという観点からも重要だ。それには労働市場の需要を拡大するだけでなく、供給サイドの質的な向上も必要となる。教育環境の改善とも密接に関係している。

 アラブ諸国は教育分野にGDPの5%以上の資源を配分しており、「アラブの春」前にはほとんどの国で初等教育就学率は90%を超え世界的にみても高水準にあった。しかし「アラブの春」後の紛争の影響で、現在は中東地域には未就学児童が2100万人もいるといわれている。短期的にはこの解決が急務だ。

 一方、中長期的な課題としては教育の質の改善が不可欠だ。アラブ諸国では初等教育課程の56%、若年層の48%の読み書き・数学が基準レベルに達していない。背景として教師の資質の問題や欠勤率の高さ、親や地域社会の関心の薄さなどが指摘される。カリキュラムや指導方法の向上、親や地域社会の積極的関与、教育現場の透明性向上、学校経営の改善が求められる。

 また労働市場で重要な要素となる規律やチームワークに関連して、アラブ諸国では近年、掃除や行事、部活動などの特別活動を重視した日本の小中学校教育制度に対する関心が高まっている。エジプトではこの分野でも日本の協力が求められている。

 中東・北アフリカ地域で日本は、欧米諸国のような「過去」のしがらみがなく、各国から厚い信頼を得てきた。同地域の平和と安定は国際社会にとって最重要課題である。同地域の「インクルーシブな成長」に対して、日本はさらなる貢献が期待されている。

ポイント
○政府予算配分や公共投資の透明性高めよ
○起業促進へ政府許認可手続きの見直しを
○地域格差是正へ農業生産性向上が不可欠

 Hafez Ghanem 57年生まれ。カリフォルニア大経済学博士。ブルッキングス研究所上級研究員を兼務

 やまなか・しんいち 61年生まれ。ロンドン大経済学修士

[日経新聞2月12日朝刊P.11]

 

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