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ドナルド・トランプ共和党大統領候補。当初その人気は一時的なものと見られていたが……。アメリカで何が起きているのか?〔photo〕gettyimages
トランプ旋風が止まらない!? アメリカでいま何が起きているのか 2016大統領選「異変の構図」
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/47496
2016年01月25日(月) 渡辺将人 現代ビジネス
文/渡辺将人(北海道大学)
■予想を大きく裏切る事態
「トランプは指名は取れない。一時のブーム。2012年のミシェル・バックマンのように消えるはず」
2015年夏頃、筆者が面会した元オバマ陣営幹部は、こう豪語していた。また、共和党幹部も「トランプには草の根組織がない」と切り捨てていた。発言のトーンに差はあれど、共和党、民主党問わず、アメリカの政治インサイダーに共通していたのは、トランプ人気は一過性という見解だった。
しかし、彼ら政治インサイダーの顔つきは秋以降、またたくまに険しくなって行った。
大統領選挙のキックオフとなるアイオワ党員集会(2月1日)を目前にした今、トランプ人気は衰えていない。アイオワ地元紙「デモインレジスター」の年明けの同州世論調査では22%と2位になったものの、テッド・クルーズ(25%)と僅差で支持率首位を争っている。
アメリカに何が起きているのか。
* * *
2016年大統領選の現時点での「異変」をひと言で表せば、「本来は第3党候補的な人物が、2大政党の候補として支持を集めている」という点にある。
たしかに、イスラム教徒の入国禁止やヒスパニック系移民への厳しい措置など、ドナルド・トランプの歯に衣着せぬ放言に注目が集まっている。しかし、トランプのような型破りで過激な人物は、過去のアメリカの選挙を振り返れば、必ずしも珍しい存在ではなかった。
アラバマ州知事だったジョージ・ウォーレスは「今も人種隔離を、あすも人種隔離を、永久に人種隔離を」と叫ぶ人種隔離主義者だった。1968年の大統領選挙では、公民権運動を支持し始めた民主党を離脱し、アメリカ独立党の第3政党候補となった。
1992年と1996年の大統領選挙に共和党から出て、後に独立系を標榜するようになったパット・ブキャナンも爆弾発言男として知られる。反ユダヤ主義をにおわせるかのような危険な発言で批判されてきた。何度も大統領選挙に出馬したリバタリアン(自由至上主義者)のロン・ポールは、連邦準備制度の廃止や大麻合法化まで主張している(今回は息子のランド・ポールが立候補)。
ただ、いずれも2大政党内で大きな支持を得ることのない第3党的な候補だ。こうした人物が2大政党から出馬しても、党内で首位の座は奪えない。トランプも本来はそうした典型的な第3党的人物である。
■トランプの確信犯的な「前科」
日本のメディアで脚光を浴びるのは初めてだが、トランプの大統領選挙への色気は1988年に遡る。2000年には改革党という第3政党から実際に短期間出馬した。連日テレビに出演して、視聴率を獲得した。その度にトランプの不動産事業の宣伝にもなった。2004年、2012年にも「出馬するかも」騒ぎがあった。
「俺は大統領選挙に出馬を考えているんだ」という意志を見せて、メディアに露出し尽くした挙げ句、出なかったり、あるいは出ても途中で離脱することを繰り返してきた、ある種の確信犯的な「前科者」なのである。
選挙を趣味にしている金持ちの道楽か会社の宣伝目的、というのがアメリカ政界やメディアでの過去のトランプ観で、今回の2016年の出馬でも、当初は政治の玄人筋は誰も真面目に相手にしなかった。
しかし、トランプは今回、共和党の候補として立候補する道を選んだ。ここが「異変」なのだ。これに過剰反応したのは、共和党主流派のエスタブリッシュメントである。
アメリカは2大政党制だ。第3候補が出ると、その候補がどちらか片方の票を奪い、もう1つのほうが漁父の利を得るパターンが定式化してきた。
1992年には富豪のロス・ペローが出馬。同じテキサスを地盤にする副大統領だったジョージ・H・W・ブッシュの票を共和党支持者から奪い、19%近くを獲得。民主党のクリントンは過半数以下の43%の得票で勝利してしまった。
2000年には消費者活動家のラフル・ネーダーが緑の党から出馬。民主支持層の若年層やリベラル派の票を吸い取り、副大統領アル・ゴアが敗北。息子ブッシュ政権誕生の原因となった。
■共和党のトランプ取り込み作戦
このトラウマ的な経緯は、両党と有権者のマインドに多大な影響を与えている。共和党は第3候補を保守側から出さないことを2016年のホワイトハウス奪還作戦の第1目標に据えた。
トランプが第3候補として出れば、共和党を害する。そこでトランプが「こんな窮屈な共和党なんか」と暴れて飛び出さないように配慮した。
トランプに激しい攻撃や苛めをせずに、優しくして取り込んでおく戦略を採用した。討論会でも平等に扱い、トランプをあえてのけ者にする行為も控えた。
トランプは医療保険改革を支持したり、保護貿易的であったり、むしろ民主党白人ブルーカラー層に受ける素地があり、アメリカ的な意味で本当に「保守」なのかは疑問符が付くのだが、その点をほじくることも当初は控えられた。
共和党主流派には、さらにあるトラウマがあったからだ。
初期のティーパーティ運動を主導したロン・ポールが、2008年大統領選でイラク戦争に反対を掲げ、ネオコンとブッシュ大統領批判を強めたため、同年の共和党大会からは閉め出された。すると立ち入り禁止にされたことで、余計にポール支持運動が激化し、共和党改革運動に転化した。
ポール支持者は別の「もう1つの」党大会を正式な共和党大会と同じ都市で開催。息子ブッシュ路線を受け継ぐマケインの落選運動に火がついた。漁父の利を得たのはオバマだった。
2012年にも共和党大会本番で、代議員の一部がミット・ロムニーではなくポールに投票する「反乱」があった。共和党エスタブリッシュメントは、こうした内乱が起こるたびに、党内がまとまっていることをメディア向けに演出するのに躍起だった。
「共和党を内部から崩壊させる危険人物を封じ込めるべし。トランプのロス・ペロー化、ロン・ポール化を阻止する」
これが共和党の第1の狙いだった。しかし、封じ込めようとして党内に抱え込んでいるうちに、トランプはランド・ポール支持層のリバタリアンなども味方につけ、党内の世論調査で首位に躍り出てしまった。大きな誤算だったと共和党関係者はうなだれている。
■民主党も同じジレンマに
民主党側も事情は同じだ。社会民主主義者を自称するバーニー・サンダースがヒラリー・クリントンに肉薄している。
バーニー・サンダース民主党大統領候補〔photo〕gettyimages
サンダースは自らを「民主党員」とは明確に名乗ったことがない。連邦議会上院での区分も民主党寄りながら「インデペンデント」という独立会派だ。本来ならばネーダーと同じように第3候補として出るような「一匹狼」の男である。
その思想はアメリカの平均的な民主党リベラル派と比べてもかなり極端な左寄りであり、ある意味ではアナキズムに近い色彩も皆無ではない。そのため、民主党リベラル派であれば概ね賛成している銃規制にも反対している。
民主党から出馬することすら許されない存在だが、2000年のネーダー現象で落選したゴアの亡霊が漂う民主党では、リベラル側から第3候補を出さないことが至上命題となり、サンダースを受け入れた。だからこそヒラリーはサンダースと距離をとり、誰が正統派の「民主党」なのかを強調して牽制してきた。
しかし、若い有権者がサンダース運動に飛びついた。彼らは古い意味での「民主党」ではないものを試したがっている。しかも、オバマよりもっとリベラルな存在を。
■合い言葉は「革命」
2015年夏にサンダース陣営に密着した筆者は、多い日で1日に3回も同じサンダースの演説を聞かされたが、サンダースのほとばしるエネルギーには驚かされた。大きな手で力強い握手をする。いつ寝ているのかという元気ぶりで、演説中も水も飲まずに怒鳴り続ける。
支持者の熱狂ぶりはロックコンサートのようで、あるサンダース集会ではお揃いの「革命」Tシャツを来た夫婦が、演説中に抱きしめ合ったまま感極まって泣き出した。
筆者には既視感があった。2008年のオバマ選挙とも少し違う。むしろ、2012年に密着したロン・ポール陣営の支持者とそっくりの空気なのだ。「革命 Revolution」をスローガンにしたキャンペーンにしても、若者が高齢候補者を支持している構図もそっくりだ。
サンダースの事務所はヒッピーの集会場のような空気に包まれている。Tシャツ姿の中年男性がハーモニカとギターを演奏する横で、星条旗のバンダナをした女性が太鼓を叩く。
事務所の壁には「革命に参加せよ(Join The Revolution)」と掲げられ、インフラ再建、気候変動、労働者共同体設立、貿易組合運動育成、最低賃金引き上げ、男女平等賃金、アメリカ人労働者のための通商政策(TPP反対)、公立大無料化、反ウォール街、医療保険、税制改革などを主要政策と謳う。
一にも二にも、反エスタブリッシュメント、反格差で、筋は通っている。そのためには、中国もスケープゴートになる。「アメリカ企業は国内に投資すべきで、中国に投資すべきではない」「中国の受刑者数より、今やアメリカの受刑者数が上回った」など、適宜中国批判を滲ませる。
ちなみに日本の左派とアメリカのリベラルは似て非なるものだが、大きな違いの1つに中国への姿勢がある。アメリカの筋金入りの対中強硬派は、親自由貿易で現実的な共和党ではなく、実は民主党リベラル派に多い。人権派、環境派、保護貿易派による対中強硬路線はなかなか根深い。
■党内「内戦」のゆくえ
筆者は2015年8月の現地調査中にアイオワ州のカーニバル「ステート・フェア」で、遊説中のトランプにも出くわしたが、ゴルフカートで移動しながら人々に愛想を振りまいていた。苦手の握手にも慣れてきたようだった。トランプは数々の奇癖で有名だが、潔癖性で知られる。
ある共和党幹部は「トランプは外に長くいない。いったんすぐ最寄りのトランプタワーに帰る」と言う。自社のヘリコプターで移動するのもそのためだ。
諸説あるのだが、トランプタワー以外、あるいはトランプが許容するホテルなどの一部の施設以外で、化粧室に行くのを拒んでいるのではないかとの説がある。セキュリティ目的ではなく、潔癖なので自分以外の人間が使用するトレイを共有したくないのではないかと。
悪い冗談のような噂だが、それが真実味を帯びてしまうのがトランプらしい。これではトランプタワーがない国には大統領として外遊にも行けないことになるが、いっそ訪問先にトランプタワーを作ってしまえばいいとトランプなら言うのだろう。
既存のワシントンの利権にまみれた政治家、あるいは職業政治家に飽き飽きしているものの、第3党候補は結局は勝てないし、へたをすれば自分の支持政党を傷つける……。
そんな積み重なるフラストレーションを感じていた有権者にとって、第3党的候補があえて民主党、共和党内で立候補するという展開は、適度な現実感(2大政党内で出馬)とアウトサイダー感(実は第3軸候補)の絶妙のマッチングを満たしたのである。
票の流出抑止とトレードオフに、党内「内戦」を抱え込んだ2016年選挙の2大政党。エスタブリッシュメント系候補はどう巻き返すのか。次回以降検討する。
渡辺将人(わたなべ まさひと)
1975年東京生まれ。北海道大学大学院准教授。シカゴ大学大学院国際関係論修士課程修了。早稲田大学大学院政治学研究科にて博士(政治学)取得。ジャニス・シャコウスキー米下院議員事務所、ヒラリー・クリントン上院選本部を経て、テレビ東京入社。「ワールドビジネスサテライト」、政治部記者として総理官邸・外務省担当、野党キャップ。コロンビア大学、ジョージワシントン大学客員研究員を経て現職。『見えないアメリカ』(講談社現代新書)、『現代アメリカ選挙の変貌』(名古屋大学出版会)、『アメリカ西漸史』(東洋書林)など著書訳書多数。
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