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[グローバルオピニオン]空洞化する米欧同盟 米ユーラシア・グループ社長 イアン・ブレマー氏
第2次大戦の終結以来、米国と欧州の関係は国際安全保障と世界経済の安定に不可欠だった。現在この同盟は1941年以来最も弱体化し、世界的な存在意義も薄れている。ユーラシア・グループは弱まる米欧同盟を2016年最大の政治リスクと考える。
これは「異なる国々の台頭」――中国、インド、ブラジル、ロシア、トルコなどさまざまな政治・経済的価値観を代表する新興国の影響力が拡大していること――の当然の結果という側面もある。またイラクとアフガニスタンにおける長期の戦争によって、米国民は海外で新たなコストやリスクを引き受ける意志をなくした。こうした変化が米欧同盟にくさびを打ち込んだ。
欧州は深刻な課題を数多く抱え、注意がそれてしまっている。欧州は分裂し、脆弱で臆病になっている。その結果、欧州各国は米国ではなく、ほかの政府に頼ることで問題に対処しようとしている。
英国は21世紀も経済大国にとどまる方法を模索する中、欧州連合(EU)における同国の将来が不確かなこともあって、中国のご機嫌取りをする経済的動機を持つ。英国は米国の反対を押し切って中国主導のアジアインフラ投資銀行(AIIB)に参加した。ロンドンを中国人民元の国際化の中心地にするため、中国の人権問題、台湾や南シナ海の安全保障、香港の民主主義さえもさほど気にかけない。
フランスにはロシアに目を向ける安全保障上の動機がある。ロシアはシリアのアサド大統領を支援している。これによって過激派組織「イスラム国」(IS)が壊滅し、欧州への難民流入に歯止めがかかることをフランスは期待する。最近のパリ同時テロの後、フランスは歴史上初めて、北大西洋条約機構(NATO)ではなくEUに集団的自衛権の行使を求めた。NATOに頼ればロシアとの積極的な協力はできなかっただろう。
ドイツにはトルコと協力する政治的動機がある。メルケル首相は難民の波が洪水にならない限り、難民への門戸開放政策は機能することを理解している。トルコが欧州に押し寄せる難民の門番の役割を果たしていることから、メルケル首相はトルコのEU加盟交渉を再開し、トルコ国民の欧州へのビザなし渡航を検討すると提案した。トルコのエルドアン大統領が政敵に嫌がらせをし、ジャーナリストを収監しているにもかかわらずだ。
これらの政策が賢明かどうかは別にして、米国と欧州の伝統的な価値観を反映していないのは確かだ。
米国と欧州の分裂が今年最も明確に露呈するのはウクライナとシリアになりそうだ。2つの危機に高みの見物を決め込むことができる米国は原則に固執し、ウクライナがプーチン大統領の影から逃れるまでロシアへの制裁を続け、シリアのアサド大統領は退陣すべきだと主張するだろう。
一方、両国の影響をまともに受ける欧州は現実路線をとるとみられる。これは、EUが年内にロシアへの制裁を緩和し、シリアでは一度に一つの敵(IS)とだけ戦う公算が大きいことを意味する。
米国と欧州は、中国との間よりもはるかに多くの共通点を持つが、米欧同盟の空洞化はまた、そのことが今後重要でなくなることを意味する。経済的現実が政治的原則を踏みにじるだろう。さまざまな欠陥や限界はあっても、民主主義、表現の自由、法の支配の推進に寄与してきた米欧同盟にとっては損失だ。
Ian Bremmer 世界の政治リスク分析に定評。ユーラシア・グループは米調査会社。著書に「スーパーパワー――Gゼロ時代のアメリカの選択」など。46歳。
[日経新聞1月18日朝刊P.6]
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