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対立深まるサウジ・イラン
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投稿者 あっしら 日時 2016 年 1 月 20 日 02:01:41: Mo7ApAlflbQ6s gqCCwYK1guc
 


[ニュース複眼]対立深まるサウジ・イラン

 宗教指導者の処刑などをきっかけに、イスラム教スンニ派の王室が実権を握るサウジアラビアとシーア派の大国イランの対立が深まっている。中東の二大国が広げた混乱はシリア内戦の収拾を遠ざけるとともに、シリアを地盤とする過激派組織「イスラム国」(IS=Islamic State)の活動を利しかねない。不安を鎮めるカギはあるのか。


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宗派戦争 誘発の可能性 明治大特任教授 山内昌之氏

 サウジアラビアがイスラム教シーア派の指導者ら47人を処刑し、イランとの国交断絶を表明したことで、中東全域での軍事衝突の危険性が高まった。サウジはイランとの正面衝突につながりかねない「パンドラの箱」を開けてしまった。それぞれスンニ派、シーア派の盟主である両国が正面から対決すれば、宗派戦争を誘発しかねない。

 通常の場合、国交断絶は大使の召還などの手続きを経て実施する。今回はサウジが一気に断交まで進めたことに、米国やイランは驚いた。次の手順と考えられるのは最後通牒(つうちょう)、ひいては戦争だからだ。

 ただサウジは「戦争する意志を固めたわけではない」ともにおわせており、西部にあるイスラム教の聖地メッカとメディナへの巡礼について引き続きイラン人を受け入れると表明した。サウジがイランとまだ「正面からことを構える」と決めてはいないメッセージとも読める。

 今回のサウジとイランの対立には、サウジの米国に対する警告の意味合いもある。米国がイランに急接近する一方、湾岸最大の同盟国であるサウジを軽視したと憤っている。サウジはこれ以上寛容ではいられず、バランスを回復せよとのメッセージを送ったのだろう。

 いくつもの国が絡む「中東複合危機」が進行している。大きな要素はシリア問題だ。イラクからISが侵入したり、それに対してイランが兵力を送り込んだりすることで外部勢力の絡んだ実質的な「戦争」に発展している。さらにロシアの介入で米欧とロシアが向かい合う「第2次冷戦」の様相を呈している。ロシアはシリアへの軍事顧問団の派遣にとどまらず、今では臆面もなく陸・海・空の兵力でアサド政権を支援している。

 「中東複合危機」が進行するなかで、さらにサウジとイランの対立がスンニ派対シーア派の宗派戦争に発展するとどうなるか。想定できる最悪のシナリオは「第3次世界大戦」の勃発につながる。こうなれば欧米やロシアも巻き込まれる。ホルムズ海峡が封鎖されれば、世界中のエネルギー・金融市場や景気動向を直撃しかねない。

 「中東複合危機」の収拾はきわめて難しいだろう。異質かつ異次元の問題が併存し、全てを解決するのは不可能だと思う。米国ができることは限られている。軍事力の担保なしに中東地域で安全保障を確保することはありえないが、米国は同地域での兵力展開に消極的だ。当面の仲介はサウジ、イラン両国に強いパイプを持つロシアに頼るしかないのではないか。

(聞き手は寺井浩介)

 やまうち・まさゆき 中東・イスラム地域研究と国際関係史の分野で日本を代表する歴史学者。2012年から現職、東大名誉教授も兼ねる。68歳。
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オバマ政権、不信招いた 米ヘリテージ財団上級研究員 ジェームズ・フィリップス氏

 イランの核問題を打開するのが名目だったとはいえ、米国のオバマ政権がこれまで敵対してきたイランに接近したのは、中東地域での米軍をできるだけ削減したいという思惑があったのだろう。しかし、こうした考え方はスンニ派の流れをくむISや他のスンニ派のテロ組織との戦いを巡り、シーア派の大国イランと協力できるはずという希望的な観測に基づく甘えだ。

 その誤解は、米軍がイラクから撤退し、スンニ派を除外したうえでシーア派寄りの政権が誕生した後、イラクでISが伸長したことからもわかる。

 イランはISの掃討に欠かせない存在というより、ISの問題の一部分だと認識している。一連の米側の行動が、スンニ派の盟主を自任してきたサウジアラビア側に、米国は地域の安定を理由にサウジや他の湾岸諸国との関係を犠牲にしてまでイランとの協力の道を選んだという疑いを持たせてしまった。

 オバマ政権は一貫して同盟国の国益を保護するよりも、敵対してきた国とかかわることに高い優先順位を置いているとみられる。イスラエルやサウジが抱く不平はこの点にある。オバマ政権はサウジの信頼を完全に失ってしまった。エジプトもいまだに信用していない。そしてオバマ政権の無知が、イランに対するサウジのこれまで以上の攻撃的な姿勢を生んだ。

 サウジは中国との関係を改善する方法を探るかもしれない。ロシアとの関係でも同様に模索するだろう。内戦が続くシリアに介入するロシアは、サウジにとっては問題を大きくする存在だからだ。サウジと中ロとの関係改善は、それほど遠い将来のことではないとみている。

 オバマ政権のイランへの接近は、意図せざる結果として、ロシアに中東で多くの機会を与えてしまった。政権がロシアとの関係の見直しをしようとしていることも恐ろしい。ロシアは米国との約束の多くを守ってこなかったからだ。

 次期米政権は同盟国との関係の再構築を最優先の課題として取り組むべきだ。特にサウジやイスラエル、ヨルダンとの修復だ。次期大統領選で共和党候補が勝利すると、最優先に据える可能性は高まるかもしれない。民主党の本命候補、ヒラリー・クリントン前国務長官が大統領に選ばれても、希望は持てる。

 クリントン氏はオバマ政権の1期目で国務長官に就き、多くの失敗をした。彼女は自らの経験から学べる。次期米政権と中東との関係が、オバマ政権よりも悪化するとは考えにくい。

(聞き手はワシントン=吉野直也)

 James Phillips 米タフツ大フレッチャー・スクールで修士号。中東や国際テロ情勢の専門家。ヘリテージ財団は米保守系の有力シンクタンク。63歳。
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サウジ、反発読み誤る カイロ大教授 ムスタファ・サイード氏

 サウジアラビアの指導部は今回、シーア派指導者の処刑によって生じるイランの強い反発を予想せず、サウジが意図しない形で緊張が高まったと見ている。

 サウジが1月上旬に処刑した47人のうち43人はスンニ派の過激派組織「アルカイダ」に関係しているとされる。シーア派の宗教指導者ニムル師ら4人は、この43人と同列に扱われて処刑されたのであり、サウジが意図的にイランを挑発したとは思えない。

 対立の根は深く、収束させるのは難しい。米国やロシアによる仲介外交は奏功しないだろう。イランはバーレーンやイラク、レバノンなどにいるシーア派住民を事実上代表しており、外交的な立場も強い。サウジとの関係をすんなりと改善するとは思えない。

 一部で「第5次中東戦争」といわれるような直接の戦争に突入することはない。イラン、サウジ両国はともに内部に強硬派を抱えているものの、指導部は戦争になれば国家に危機が訪れることを理解している。足元の原油価格の低迷で両国の経済情勢は厳しく、戦争ができるような状況ではない。

 米ロはシリアの政権移行期間にアサド大統領が(暫定の統治者として)とどまることで合意するかもしれないが、サウジが受け入れるのは難しくなった。

 「ダーイシュ」(ISの別称)の壊滅を急ぐべきである半面、米欧もアラブ諸国も地上部隊をシリアに送れない。当面のシリア情勢はトルコがカギを握っている。国境管理を厳格にして戦闘員や資金、密輸原油の摘発など、細かい取り組みを続けるしかない。

(聞き手はカイロ=押野真也)

 79年ジュネーブ大高等国際問題研究所で博士課程を修了。中東政治や国際関係論などが専門。カイロ・アメリカン大学の教授も兼務。69歳。
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背景に地域覇権争い 英セント・アンドルーズ大教授 アリ・アンサーリ氏

 サウジアラビアとイランの対立が軍事行動に発展する兆しは今のところないが、サウジの強硬な姿勢は1980年代のイラン・イラク戦争のときよりも危機が深刻化するリスクを示している。

 最大の懸念は地域の混乱を助長することだ。内戦が続くシリアやイエメンではサウジとイランがそれぞれの宗派に属する勢力を支援しており、解決は一段と遠のく。ISなど過激派組織も勢力を拡大する余地が生まれる。サウジの動向が原油価格をさらに不安定にする恐れもある。

 サウジとイランの対立の原因をイスラム教スンニ派とシーア派の「宗教対立」に帰結させるのは間違っている。スンニ派とシーア派が平和に共存してきた歴史はいくらでもある。一方でサウジは米国が主導した2003年のイラク戦争で、イラクではシーア派が政権を握り、イランとの関係が強くなったことにずっといらだっていた。核問題を巡る合意を受け、イランが急速に国際社会に復帰しつつあることへの危機感も強い。地域・民族の覇権を含めた非常に多層的な争いが背景にある。

 中東情勢に唯一、関与できる力を持っているのは米国だ。これまでよりも長期的で、非軍事の分野も含めた包括的な戦略を作る必要がある。過去の介入はせいぜい2〜3年の期間で軍事介入し、作戦終了後の影響まで緻密に考慮したものではなく、結果的にさらなる危機を生み出した。米国が中東への興味を失いつつあるのは明らかだが、放置すれば、中東でのロシアの影響力の拡大を招き、さらに事態を複雑化させる恐れがある。(聞き手はロンドン=小滝麻理子)

 Ali Ansari 専門は歴史学。イランをはじめとして中東のイスラム諸国の国家の発展や、米英との関係などに関する著書多数。48歳。
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[アンカー]米外交弱さ露呈 中東に力の空白

 イランが激怒するのは目に見えているのに、なぜサウジアラビアは強硬姿勢なのか。両国に自制は働くのか。米欧ロの仲介努力は有効か。中東情勢を巡り浮かぶ主要な疑問に識者の見方は分かれるが、ほぼ一致するのはオバマ政権が率いる米外交の弱さだ。

 中東・北アフリカにも力の空白は生じている。「アラブの春」で独裁政権が倒れた国は軒並み再建に苦しみ、大国エジプトの存在感も中東和平の仲介役を果たしたころに比べればかすんでいる。混乱を和らげるための外交力を巡り原油の大半を中東地域から調達している日本も無関心ではいられない。
(押野真也)

[日経新聞1月14日朝刊P.9]

 

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