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独の戦争責任追及 「ドイツ国民はナチの被害者」と位置付け
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20151228-00000014-pseven-int
SAPIO2016年1月号
安保法制に反対するなど従来の指標では左派とみなされる思想的位置に立つ井上達夫氏。しかし、「憲法九条削除」を唱えるなどその言説は従来の左派とは全く異なる。井上氏は本来のリベラリズムの立場から左派、リベラル派の欺瞞を徹底的に批判。その言葉は非常に説得力がある。
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左派やリベラル派は長年、「ドイツが自らの戦争責任を誠実に追及してきたのに対し、日本は不誠実だ」と喧伝してきた。だが、それは作られた神話にすぎない。
戦争責任の追及において、実はドイツはその主体も対象も限定している。主体はあくまでもドイツ国民全体ではなくナチであり、むしろドイツ国民はナチの被害者だと位置づけている。そして、責任の対象はユダヤ人に対する大量虐殺に限定し、ポーランドを始めとする周辺国に対する侵略一般について謝罪してきたわけではないのだ。
1970年、ポーランドのワルシャワを訪れた西ドイツ(当時)のブラント首相は、第2次世界大戦中の1943年にワルシャワ・ゲットー(ユダヤ人が強制的に住まわされた居住区)で起こったナチに対する蜂起の犠牲者たちの慰霊碑に跪いて黙祷した。1985年には、ワイツゼッカー大統領がドイツ連邦議会で行った演説で「過去に目を閉ざす者は現在にも盲目になる」という有名な言葉を述べた。
いずれも日本では、左派、リベラル派によって「ドイツの良心」として語られてきた。だが、同じワルシャワで一般のポーランド人による蜂起も起こっているが、ブラントはその場所には行っていない。戦争責任の対象を、あくまでもホロコーストに限定していることの象徴である。ワイツゼッカーの演説にも同様の限界がある。
他に「国としての誠意」の見本として出されるのが、第2次世界大戦中に強制収容した日系アメリカ人に対するアメリカの謝罪である。レーガン大統領時代の1988年、連邦議会が国を代表して謝罪し、現存者1人当たり2万ドルの損害賠償を行い、1992年にはブッシュ大統領も謝罪した。
だが、それは自国民に対するものだ。アメリカは、ベトナム戦争でのソンミ村虐殺事件や数多くの奇形児出産を惹起した枯葉作戦について謝罪していないどころか、南ベトナム時代の対米債務の返済を統一後のベトナムに要求したのである。
【プロフィール】井上達夫(いのうえたつお):1954年大阪府生まれ。東京大学法学部卒業。東京大学大学院法学政治学研究科教授。主な著書に『リベラルのことは嫌いでも、リベラリズムは嫌いにならないでください 井上達夫の法哲学入門』(毎日新聞出版)など。
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