4. 2015年12月09日 07:39:10
: jXbiWWJBCA
: zikAgAsyVVk[105]
ザッカーバーグの寄付は偽善なのか2015年12月9日(水)堀田 佳男 (Newscom/アフロ) 世界最多のユーザー数を誇るSNS、フェイスブックのマーク・ザッカーバーグCEO(最高経営責任者)が12月1日、世界に向けて2つの報告をした。
1つは長女マキシマちゃんが誕生したこと。2つめは、現在の価値が450億ドル(約5兆5000億円)といわれるフェイスブック保有株の99%を今後(期間を言及せず)、慈善事業に寄付すると発表したことだ。資産の99%は巨額である。ビリオネアといえども、その寛大さに全世界から賛辞が寄せられた。 ニューヨーク・タイムズ紙がツイッターに載せた“つぶやき”をいくつかご紹介したい。 「億万長者はたくさんいるが、彼と同じことをできる人はいない」 「しばらくフェイスブックはやめていたけど再開します」 「愛娘の誕生が人生観を変えたのですね。素晴らしい」 ただし否定的な声もある。多額の寄付行為を手放しでほめ称える人ばかりではない。 「キャピタルゲイン課税(有価証券の譲渡所得にかかる税金)から逃げる手立てを見つけたってことだよね。慈善事業? 笑わせるぜ」 「寄付する先が自分の財団というのがいただけない」 「そのカネがイスラム国の資金にならないことを祈るだけだ」 これまでに多額の寄付の実績 否定的なつぶやきの裏には羨望や嫉妬があるようにも思えるが、税金対策の意味合いがあることは間違いないだろう。ただ同時に、今回の慈善活動が表面的な偽善行為にすぎないのかと言えば、そうと断言することもできない。 税金対策と慈善行為のどちらかという議論ではなく、熟考して出した、両面を兼ね備えた決断と受け取れる。というのも、発表のタイミングを娘の誕生に合わせているからだ。 妻で医師のプリシラ・チャン氏が娘に宛てた公開書簡からは、母親ならではの思いが読み取れる。一部を抜粋してご紹介したい。 「親であれば誰もが、子どもには今よりも素晴らしい世界で育ってほしいと願います。そうした世界を作るためにできる限りのことをしたいです。親として、そして次の世代への責任として」 この文章のあとに、夫婦が所有するフェイスブック株の99%を寄付するという下りが続く。子どもに対する両親の思いに嘘はないだろう。1%を手元に残したとしても日本円で約550億円である。一生困らない金額だ。 さらに、少し調べるとザッカーバーグ氏は過去5年ほどの間に多額の寄付をしていたことが分かった。 ビル・ゲイツ氏への憧れ 同氏は2010年、「ギビング・プレッジ(寄付宣言)」に署名し、資産の半分を慈善活動に寄付すると公表した。ギビング・プレッジは、マイクロソフトの創設者ビル・ゲイツ氏と世界的な投資家ウォーレン・バフェット氏が同年に共同で立ち上げた寄付活動だ。両氏は世界中のビリオネアに対し、資産の半分を社会貢献活動に寄付するように呼びかけた。ザッカーバーグ氏もこれに賛同したのだ。 ザッカーバーグ氏の行為を「兆円単位の資産があれば当然のこと」と考える人もいるが、ビリオネアであっても寄付に消極的な人は少なくない。むしろ自らの力で積み上げた資産であるからこそ手放すことに躊躇する人もいる。 ギビング・プレッジへの賛同者は15年7月時点で世界中に140人。140人中110人が米国人だ。米社会は宗教的な理由や優遇税制のため寄付に寛大であると言われる。アジア人は10人だけで、その中に日本人はいない。 ザッカーバーグ氏は10年、ニュージャージー州の公立学校に1億ドル(約122億円)を寄付。12年には4億9800万ドル(約600億円)をカリフォルニア州の「シリコンバレー・コミュニティ財団」に寄付している。 さらに「スタートアップ・エデュケーション」という教育関連の非営利団体を起ち上げたり、「エデュケーション・スーパーハイウェイ」という非営利団体に2300万ドル(約28億円)の寄付を行った。またサンフランシスコの公立病院に7500万ドル(約92億円)を寄付してもいる。 こうした慈善活動を行うようになった背景には、ザッカーバーグ氏が憧れているビル・ゲイツ氏の影響がある。ゲイツ氏が始めた「ゲイツ財団」はやはり教育と医療に多額の寄付を行っている。 ニューヨーク在住のシステム・エンジニアでライターでもあるデイビッド・アウバック氏は米誌でこう分析する。「子どもができて、教育や医療の分野に資産を生かしたいと考えるようになったのは妥当でしょう。ただ、ゲイツ氏とザッカーバーグ氏は米国で広がる社会格差の是正や、富の再分配には大きな関心を払っていません。それは政治家の役割と割り切っているようです」。 税制対策の面があるのは否定できない ここまでは、ザッカーバーグ氏の寄付行為に対する肯定的な見方を述べてきた。ただし、多額の寄付の背景に、税制対策があることは否定できない。 ザッカーバーグ氏による寄付のほとんどは、ザッカ―バーグ氏と妻チャン氏が設立した「チャン・ザッカーバーグ・イニシアチブ」という財団を通して行う。 誰しもがこの財団を慈善活動を行う非営利団体と思うが、実は合同会社(LLC)という形態の企業体である。日本でも06年に新会社法が施行されて以来、頻繁に起ち上げられている営利企業だ。 ザッカーバーグ夫妻は今後、慈善事業に寄付するだけではなく、利益追求型の事業に投資していくと思われる。さらに政治活動に資金を割くこともできる。 慈善活動をすることによって、資産から生まれる配当や利息への課税が控除される条項もある。寄付に対する税額控除は複雑で、寄付をする団体や目的などによって控除額が違ってくる。このあたりは有能な税理士とぬかりなく計画を練っているはずだ。 未来への投資 さまざまな観点から今回のザッカーバーグ氏の発表を眺め、思うところがある。「衣食足りて礼節を知る」とはよく言ったもので、ザッカーバーグ氏は節税対策を視野に入れながら、未来に投資しようとしているのではないか。 同氏はすでに5兆円超の個人資産をもち、欲しい物を好きなだけ買える経済環境に身を置いて久しい。プライベートビーチが付いた別荘もハワイ州で購入した。 しかしハワイ州をすべて買いたいとの欲求があっても、安全保障上の理由から真珠湾を含めた米軍基地を連邦政府から買うことはできないだろう。カネがあれば何でも買え、解決できると考えるのはたぶん小金持ちで、本当の大金持ちは世界にはカネで買えないものが多すぎると悟るのである。 個々の人間が身につける教育や教養はカネでは買えない。金銭でできることは、学校を造り、よりよい教育システムを構築していくことだけだ。3カ国語を話せるようになりたいと思っても、カネだけでは身につかない。日々の地道な努力なくして語学は身につかない。 医療分野でも同じである。カネで健康は買えない。公衆衛生や医療研究などに資金を割くことはできても、カネで人間の健康を直接買うわけにはいかない。 カネの限界が見えたことで、自身のやれることに尽力して世界を少しでも前へ進めるという姿勢が寄付につながっているように思えるのだ。 冒頭でご紹介したニューヨーク・タイムズ紙の“つぶやき”の中に興味深いものがあった。「(大統領候補の)ドナルド・トランプだったら資産の99%の寄付などあり得ない。(ザッカーバーグ氏は)やはり凄い決断をした」。 読者の皆さんはどうお考えになるだろうか。 このコラムについて アメリカのイマを読む 日中関係、北朝鮮問題、TPP、沖縄の基地問題…。アジア太平洋地域の関係が複雑になっていく中で、同盟国である米国は今、何を考えているのか。25年にわたって米国に滞在してきた著者が、米国の実情、本音に鋭く迫る。 http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/246942/120800012/ |