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TPPの地政学的意義 日本、米中融合に影響力を
「2つの経済圏」避けよ
F・バーグステン ピーターソン国際経済研究所シニア・フェロー
環太平洋経済連携協定(TPP)は、経済的にも地政学的にも世界史上最も重要な貿易協定である。世界第1と第3の経済大国が参加し、全参加国の国内総生産(GDP)は世界経済の40%に達する。TPP実現で参加国の所得は3千億ドル押し上げられる見通しだ。これは2007年のドル価値による試算であり、TPPが数年以内に完全実施された場合、現在のドル価値ではもっと増えるだろう。
さらに、アジア太平洋経済協力会議(APEC)21カ国・地域全体に及ぶアジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)に拡大する可能性もある。その際には中国、インドを含めこの地域の事実上すべての国が参加することになろう。欧州連合(EU)は50年以上かけて巨大地域連合に発展を遂げてきたが、発足当初の欧州経済共同体の加盟国は6カ国にすぎず、規模も小さかった。
TPPには12カ国が参加しているが、大局的には米国と日本の間の自由貿易協定(FTA)と言って差し支えない。TPPが実現する経済的便益の約60%は、両国によるものだ。どちらの国もすでに他の参加国の多くとFTAを結んでいるが、日米間のFTAは成立していない。TPP成立には、参加国GDP合計の85%超を占める少なくとも6カ国が批准手続きを終えることが条件となっており、日米両国の批准が欠かせない。
日米間の2国間FTAは大いに望ましいとしても、両国の国内政策を考えれば成立の可能性は低かったが、TPPという地域協定の下で初めて可能になった。両国の積極的な協力が12カ国による交渉の大筋合意として実を結んだ。
TPPで最大の恩恵を受けるのは間違いなく日本だ。筆者らのモデルによれば、25年までに日本の貿易は年間1400億ドル、GDPは1千億ドル以上増える見通しだ。絶対額でこれだけ増える国はほかにない。比率でみても、日本より伸びが大きいのは経済規模の小さいベトナムとマレーシアだけだ。日本の伸びは米国の2.5〜5倍と予想される。今後さらに多くの国がTPPに参加すれば、恩恵は一段と大きくなろう。実際、インドネシアや韓国など数カ国がすでに参加を希望している。
途方もない数字だが、日本がTPPで期待できる潜在的な利益をなお下回っていることは確実だ。というのも、投資や構造変化の恩恵が数字には反映されないからだ。1980年代から90年代にかけて日本は米国をはじめ多くの国から市場開放と経済改革の勧告を受けたにもかかわらず、それをおおむね拒絶した。これが一因となり、その後20年にわたり経済は低迷、なお新しい経済モデルを模索中だ。
安倍晋三首相が、日本に必要な改革のきっかけをTPPに期待したのは正しい。日本がグローバルサプライチェーン(供給網)に加わる能力があることを示せば、日本の投資環境は劇的に好転しよう。
日本は、為替に関する付帯条項からも恩恵を受けるだろう。米議会が採択した「交渉目標」案に応えるもので、参加国による為替操作の防止を主目的とする。為替操作は貿易の自由化と公平を損なわせかねない。日本はこれまで中国や韓国の為替介入による自国通貨安誘導で不利益を被ってきたが、両国とも将来TPPに参加する可能性がある。
そうした為替操作を阻止し、必要とあらば対抗措置を講じるために、TPP参加国が閣僚フォーラムを設けることが考えられる。日本は米国と協調し、量的緩和を含む国内金融政策の実行は為替操作には当たらず、国際的にも完全に認められているとの広範なコンセンサス(合意)を確かなものにできるだろう。
TPPの地政学的な意義は経済以上に重要だ。TPPにより、米国と東アジアは初めて拘束力のある正式の協定で結ばれることになる。大西洋両岸の緊密な結び付きは世界の平和と繁栄の維持に重要な役割を果たしてきた。今回、その太平洋版が始まるのだ。オバマ大統領は09年11月の東京での演説で「アジア重視」を打ち出しており、TPPはこの政策の柱となる。アジアにおける米国の経済的関与を再活性化するこの政策は、日本にとっても極めて重要な意味を持つ。日米同盟の一段の強化にもつながるだろう。
こうした地政学的な結び付きは、第2ステージで期待通り中国をはじめとするアジア諸国が協定に参加すれば、一段と重みを増すはずだ。
同時に、第1ステージの参加国が定まったことで、参加しなかった中国などアジア諸国は建設的な課題を突き付けられたことになる。中国は年間約350億ドル相当の貿易をTPPに奪われるだろう。他のAPEC加盟国がTPPに参加し、中国が不参加の場合には、損失は1千億ドルを上回る見通しだ。こうした「競争自由化」圧力がかかれば、中国は貿易政策や関連する国内政策を軌道修正し、将来には重要な包括的地域協定に参加する条件が整うだろう。
中国がTPPに参加しない場合、アジア太平洋地域が大きく2つの経済圏に分割されるという重大な地政学的リスクが生じる。その場合、TPPには米国が含まれ中国は含まれず、もう一つのおそらくは東アジア地域包括的経済連携(RCEP)を中心とする経済圏には、中国が含まれ米国は含まれないという事態になる。2つの経済圏は大幅に異なる形態をとると考えられ、重複する加盟国があるとしてもなお、両者の間の緊張が高まり、安全保障上の不安が膨らむことが懸念される。
従ってこの地域のすべての国、とりわけ日本は、最終的な地域統合に向けて協力すべきである。アジア太平洋地域が完全に統合されたときに初めて、20年までにAPEC域内の貿易と投資を自由化する「ボゴール目標」(94年採択)が、経済面でも安全保障面でも達成されることになる。TPPによりボゴール目標の半分は達成したが、残り半分を達成するためにはTPPを拡大するか、包括的なFTAAPを発足させる必要がある。
そうした努力が実を結べば日本は政治的にも経済的にも大きな利益を得る。アジア太平洋地域が2分割された場合、日本はTPPを介して米国とFTAを結ぶと同時に、全く別のFTAを、RCEP経由もしくは日中韓FTAの形で中国と結ぶことになる。両者の条件が大幅に異なることは確実であり、これではどちらに対しても不公平だ。
仮に日本が、両方に加盟する国(例えば韓国)と2通りのFTAを結んだら、商業的にも紛らわしいし、悪くすれば政治問題につながりかねない。対照的に、米中両国が参加する包括的な地域協定が発足すれば、日本およびアジア太平洋地域の安全保障に暗い影を落としかねない米中間の相互不信が克服され、真の意味でのパートナーシップが育まれると期待できる。
米中に次ぐ経済大国である日本は、地域協定の行方に大きな影響を及ぼすことが可能だ。現在米国内の議論では、中国をTPPに迎え入れて地域の平和と繁栄に建設的な貢献をしてほしいと考える一派と、中国を敵視して協定から排除しようとする一派に二分されている。こうした中で、日米同盟を結ぶ日本には、米国に影響力を行使することが期待される。中国か米国かの二者択一を避けることが日本の利益にもかなうことは明らかだ。協調的な融合を推進するたゆまぬ努力が望まれる。
ポイント
○TPPで最も経済的恩恵受けるのは日本
○米国と東アジア間で初の拘束力ある協定
○中国取り込めないと安全保障上の懸念に
Fred Bergsten 41年生まれ。タフツ大フレッチャー・スクール博士。元米財務次官補
[日経新聞11月16日朝刊P.23]
- 米批准手続きが焦点に:TPPが流産しても「日米FTA」(合意内容)は有効:米国はTPPそのものに固執はしていない あっしら 2015/11/23 04:12:09
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