4. 2015年10月27日 14:39:12
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英国“中国製原子炉導入”の衝撃と背後にあるTPPへの焦り【第402回】 2015年10月27日 真壁昭夫 [信州大学教授]英国が中国製原子炉の導入で合意 TPPから外れた両国の思惑が合致 英国と中国が急接近。背景にある事情とは…? 10月21日、中国の習近平国家主席は英国のキャメロン首相と会談し、同国南東部で計画している原子力発電所に、中国製の原子炉を導入することで合意した。中国製の原子炉の導入は先進国では初めてであり、多くの専門家から驚きを持って受け止められた。
当該原発プロジェクト企業には、中国広核集団(CGN)が66.5%を出資することになっており、原子炉の建設及びその後の運営までのほとんどを中国企業が担うことになる。 それに対しては英国内から、「安全性に疑問がある」「国の根幹を担う事業分野を中国企業に任せてよいのか」などの批判的な声が上がっている。 今回の合意の背景には、海外からの投資資金を使って国内経済の活性化を図りたい英国のキャメロン政権の思惑と、世界のインフラ投資を狙う中国の戦略が上手くマッチしたことがある。 中国は国内に大きな過剰生産能力を抱えていることもあり、鉄鋼やセメントなどの基礎資材を海外に輸出して、国内経済を下支えすることが必要になっている。そのためには、世界のインフラ投資を着実に掴んでおきたいはずだ。 一方、TPPの基本合意によって、環太平洋の12ヵ国が関税率の引き下げやビジネスルールの統一に動き始めた。TPPから取り残された中国としては、同様にTPPから外れている欧州諸国に近づいて、対TPPで相応のポジションを確保することが必要になる。 その意味では、中国の意図は明確だ。見逃せないポイントは、英国やドイツなど欧州の主要国が、それを歓迎するスタンスを取っていることだ。 今後、中国をめぐる情勢は一段と複雑化するだろう。わが国としても、世界情勢の変化に敏感に対応できる体制を作っておくことが必要だ。 4兆元の景気対策が残した過剰供給能力と “TPP vs.一帯一路”の対立構造 リーマンショック後、世界経済は崖から突き落とされるように落ち込んだ。それまでの中国経済は輸出を主なエンジンとして高成長していたこともあり、同国にとって世界経済の落ち込みは重大な痛手になった。 それに対して当時の胡錦濤政権は、4兆元の大規模な経済対策を実行して景気を下支えした。その景気対策によって、中国経済はリーマンショックの痛手を持ちこたえた。 しかし、大規模な景気対策の副作用として生産設備が急速に拡大したこともあり、現在では国内に過剰供給能力が残ってしまった。特に鉄鋼やセメントなどの基礎資材分野でその傾向が顕著になっている。 中国政府は、余った基礎資材を海外のインフラ投資に売り込むことを考えた。それが、“一帯一路=新シルクロード経済圏構想”だ。そしてお金のない新興国には、資金を貸し付けるためにAIIB=アジアインフラ投資銀行を設立した。 一方、日米を中心に環太平洋12ヵ国は、自由貿易などを標榜するTPPの基本合意にこぎつけている。TPPは、日米を中心とする中国包囲網のような格好になっている。 TPPの基本合意について、中国の経済専門家の友人に「中国政府はTPPの基本合意をどう見ているのか」と尋ねてみた。彼は間髪を入れず、「政府は、TPPでのけ者になってしまうと焦っているはずだ」と答えてくれた。 その焦りが、最近の欧州諸国に対する積極外交の展開に繋がっている。欧州諸国と蜜月を演出することで、中国自身がTPPの包囲網とは異なる方向に向かっていることをアピールしたいのだろう。 経済的メリットを狙い 中国との連携を深める欧州諸国 習主席の英国訪問に際して、英国が示した厚遇は、中国と欧州諸国との関係強化を見せつけるにはとても好都合だった。 今回、習主席は、多額の商取引契約という手土産を英国にもたらす準備を怠らなかった。また、かつて英国が、中国政府と対立関係にあるチベットの指導者=ダライ・ラマと接触したことで、一時、中国との関係が悪化した経験から、英国政府が中国に対する姿勢を和らげたことを上手く使った。 その結果が、バッキンガム宮殿での宿泊や大規模な晩餐会、さらには原子力発電プロジェクトへの中国企業の参加となった。習主席としては、今回の英国訪問は、恐らく、当初の期待以上の成果をもたらしていることだろう。 また英国は、同じアングロサクソン系の国として米国の最も重要な同盟国の一つであり、欠かすことのできないパートナーだ。その英国が、習主席の訪英で、原子力発電所のプロジェクトにまで中国企業の参加を容認した。 米国にとっては、今年3月の英国のAIIB参加表明以来の驚きだったはずだ。米国のシンクタンクの友人は、「AIIBの時も英国は米国にほとんど事前に説明しなかった。今回も、米国政府にとっては寝耳に水だった可能性がある」と指摘していた。 英国以外にも、欧州圏の盟主であるドイツは以前から中国と親密な関係を築いており、11月にもメルケル首相が中国訪問を行う予定になっている。VWやシーメンスなど有力企業を抱えるドイツにとって、同国は最も有望な市場の一つになっている。 成熟型の社会である欧州諸国にとって、中国市場に対する期待の高さは同様だ。ドイツに限らずフランスやイタリアなどにとっても、同国が大事な“お客さん”であることに変わりはない。 しかも、欧州諸国は地理的に中国から遠く離れており、領土問題を直接抱えることもない。欧州諸国としては、これからも経済的なメリットをしたたかに享受する姿勢を続けることだろう。 低下する米国のプレゼンス わが国は中国にどう臨むべきか 欧州諸国の政府が経済的なメリットを取るスタンスを鮮明化する一方、当該国の世論の中には、「中国国内の人権問題を無視すべきではない」との指摘が多い。英国でも、「習主席の手土産で英国が中国の軍門に下った」と批判する声もある。 また、中国と領土問題を抱えるアジア諸国の中には、明確に同国と距離を置く関係を取る国も少なくない。特に、南シナ海で、岩礁を埋め立てて自国領土を主張する中国のスタンスは、近隣諸国の脅威となっている。 本来であれば、強力な軍事力を持つ米国のプレゼンスによって、中国の強硬なスタンスが抑えられるべきだったかもしれない。 しかし、中東やアフガニスタンの問題にかなりのエネルギーを投入していることもあり、南シナ海での米国のプレゼンスが低下していた。中国としては、そうした事情を巧みに利用したと言える。 それに加えて、オバマ政権が一時、アジア戦略を軽視したとの見方もある。それは、かつてオバマ大統領がAPEC会議を欠席したことからも分かる。当時、アジア諸国の中から、「米国は中国の脅威の対峙者ではなくなった」との懸念が出た。 今までの中国は、特定の国が圧力に屈したと見ると、嵩にかかってさらに大きな圧力をかけてきた。同国に対して仮に一歩でも譲ると、最終的に多くを容認させられることになる。それでは、わが国として国益を守ることはできない。 わが国は中国に対して、是々非々のスタンスで臨むことが重要だ。非は非として毅然とした態度を保つことが必要である。闇雲に喧嘩を売ることはないが、正しいことを正しいとして明確な態度表明をすればよい。 今、中国は経済力を背景に発言力を強めている。しかし、中国自身が抱える人口構成や不良債権などの問題を考えると、いずれ、どこかの段階でさらなる成長鈍化は避けられない。バックボーンである経済力に陰りが見え始めると、欧州諸国との蜜月を維持することは難しくなる。そうなると、今のような強硬な姿勢を続けられなくなるはずだ。 http://diamond.jp/articles/print/80598
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