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(回答先: [FT]ギリシャ総選挙、チプラス氏の「裏切り」が影響:覚悟から逃げいいとこ取りを狙う判断では支配層とその走狗に弄ばれる 投稿者 あっしら 日時 2015 年 9 月 16 日 16:08:16)
財政危機のギリシャ、国民性は
「怠け者」先入観にすぎず
駐日ギリシャ大使 ルカス・カラツォリス氏
金融面でもっと支援してほしいけれど、厳しい緊縮策は突っぱねる。財政危機を巡るギリシャの姿勢に「努力もせず甘えてばかり」と反感を抱いた人も多いだろう。一方で日本から遠く離れた地中海を望む国の実像は十分に伝わっていない。ルカス・カラツォリス駐日ギリシャ大使とギリシャの歴史や文化に詳しい村田奈々子東大特任講師に聞いた。
――ギリシャ人として、財政危機が起こった原因は何だと考えていますか。
「2001年の通貨ユーロ加入がきっかけだ。ギリシャの政府や企業は突然、欧州のほかの国から低コストでお金を借りられるようになった。(ドイツなどの)金融機関が高い収益を求めて、南欧諸国に投融資を増やしたからだ。様々な金融商品が編み出され、大量のお金がギリシャに流れ込んだことで、経済が過熱してしまった」
「高齢化の問題が同時並行で進んだことも悪影響を及ぼした。仕事を辞めて年金暮らしを選ぶ人が相次いだ。医療費も膨らんだ。政府は国民に年金や医療費を支払うため、外国から大量のお金を借りる必要が出てきてしまった」
――財政危機の背景として「ギリシャ人が怠け者で、税金をきちんと納めないからだ」との見方があります。
「ギリシャ人が怠け者というのはメディアがつくり出した先入観だ。例えば、主要産業である観光に携わる人たちは非常に働き者だ。観光シーズンは1年のうち半年間しかなく、この間にしっかり稼がないと残りの半年を暮らせない。世界各国を旅したが、観光などサービス業でギリシャ人ほど献身的で効率的に働く国民は見たことがない」
「徴税の仕組みに問題がある点は認める。ギリシャは多くの離島があるうえ、自営業者や小さな企業が多い。徴税の仕組みが全国に行き渡っていない。納税者の口座を押さえたり、営業免許を取り上げたりするなど脱税を防ぐ強制力も乏しい。本来納められるべき金額の税金が政府に納められているとはいえない」
――アテネで話を聞くと、強硬派のドイツを悪者扱いするギリシャ人が目立ちます。
「経済規模で欧州最大のドイツが一部のギリシャメディアにスケープゴートに使われているだけで悲しいことだ。友人のドイツ人は最近、ギリシャに遊びに来たとき国籍を隠したという。もちろん後で知られても何の嫌がらせも受けなかった。ドイツ人はリゾート地などギリシャの不動産を多く買っている。そんなドイツ人を多くのギリシャ人は歓迎しているし、敵意や憎しみは持っていない」
――欧州文明の発祥地であるギリシャは、欧州各国から甘やかされてきたとの意見も耳にします。
「特別扱いを受けてきたとは思わない。確かに各国の学校ではギリシャの文化遺産や哲学の偉大さを教わる。欧州の中でギリシャが特別な意味を持つのは確かだ。だが実際はポルトガルなどよりも厳しい緊縮策を突きつけられた。給与や年金の削減も大きく、国民はとても厳しく不安定な生活を強いられている」
「ギリシャがユーロに入った背景に欧州連合(EU)が結束を示したかった事情もある。(ユーロ圏各国は)ギリシャを仲間に入れることで経済だけでなく、地政学、文化などあらゆる観点で自分たちの利益になると考えた」
――不安定なギリシャ政治にも厳しい目が向けられています。
「市民が議論を尽くすのはギリシャ人の遺伝子だ。ほぼ毎日、様々な『アゴラ(ギリシャ語で集会広場)』で政治談議を重ねている。自分の意見が言える状況は健全だ。ギリシャ人は小さいころから常に議論し、どの意見が優れているか判断できるよう家庭や学校で訓練される。議論を尽くせば、いまの財政危機を乗り越えられる新鮮なアイデアが生まれてくるはずだ」
「過去の二大政党に問題があったことは確かだ。いずれもギリシャが抱える問題に具体的な解決策を示してこなかった。そこで解決策を提案したチプラス氏が率いる急進左派連合(SYRIZA)が、国民の支持を獲得した。国民一人ひとりが自分の給与や年金が減らされる政策に抵抗するのはある意味自然だ。この国は抜本的な改革が必要だということを多くのギリシャ人は頭で分かっている」
――日本に駐在してみてギリシャ人と似ている点は。
「同じ島国に暮らす国民としての精神性だ。物事をとても慎重に考える。(理想ではなく)実践的な答えを見つけ出す。家族の絆が強い。伝統を重んじ、地方を大切にしているところも同じだ。一方で政府債務の問題を巡り状況は全く違う。日本は(国債発行などで)お金の調達に困っていない。ギリシャは(EUなどから支援を受ける以外に)選択肢がない」
(聞き手は鳳山太成)
Loukas Karatsolis 外交官としてオランダやイタリアなど欧州各国で勤務。15年春から現職。アジア駐在は初めて。53歳。
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国を信用せず、時に利用
東京大学特任講師 村田奈々子氏
――著書などでギリシャは「負け犬の歴史」だとの見方を示していますね。
「ギリシャというと、どうしても古代のイメージがあるが、今の国家の歴史は1830年にオスマン帝国から独立した時に始まった。それも1923年までは英仏ロの保護下に置かれていた。欧州の大国にとって今も昔もギリシャは地政学的に重要だし、自分たちの文明の発祥地という思いも強く、手放せない。第2次世界大戦後もギリシャは黙っていたら共産主義国になっていたはずだ。結局、英国がギリシャを手放せず、共産軍を潰していった」
「ギリシャは利用され、自分で歩くチャンスを奪われてきた。だからギリシャ人は国に信用を置かない。今、国が破産状態になってもギリシャ人が一丸となる姿勢を見せないのは『国がなくても生きていける』という思いがあるからだ。ただ、国に寄生して使えるものは使ってやれというずうずうしい強さもある」
――そんな国民性が放漫財政を招いたと。
「政治がよくなかった。81年以降ずっと二大政党が続いてきた。国民は、数年待てばどちらかの政党から恩恵が回ってくる状況だった。自分の利益に直結するから選挙に行く。政治家は票が欲しいから脱税も許す。汚職、汚職の連続だった。欧州共同体(EC)への加盟で入ってきたお金を構造改革や民営化に使わず、ばらまいた。破綻に向かうのは当たり前だ」
「2001年にユーロを導入し、04年にはアテネ五輪が開かれた。そこからバブルが膨らみ、ベンツもルイ・ヴィトンもどんどん入ってきた。私も06〜08年ギリシャに住んだが、コーヒーが1杯で2千円したりした。みんなおかしいと思っていた。欧州連合(EU)だってわかっていたはずだ。統計なんてごまかしてるだろうと。いいときは目をつぶっている。EUも」
――国は破産状態なのに、15年には反緊縮を訴えるチプラス政権が誕生しました。チプラス氏への評価は。
「最初は学生運動上がりのやんちゃ坊主かと思っていたが、意外と策士かなと。6月末のEUとの協議で国民投票に打って出たのは良かった。いつも外国のせいにするのがギリシャの国民性だ。それを自分たちで決めさせることで、文句を言わせないようにした。ギリシャ語でノーを意味する『オヒ(OXI)』に投票しろというのもうまいやり方だ。第2次大戦でイタリアがギリシャに無条件降伏を迫った時も、当時の首相は『オヒ』を掲げて戦った。ギリシャ人にとって特別な言葉で、自尊心をくすぐった」
――国民投票を経てEUの支援は続く半面、ギリシャには緊縮策が迫られています。勝者はどちらですか。
「緊縮一辺倒への疑問を世界に広めたという意味では、ギリシャの勝ちだろう。フランスの経済学者トマ・ピケティ氏など名だたる人たちも声を上げ始めた。このままでいいのか、EUは普通の人の幸せのためにあるはずではなかったのか、と根源的な議論を巻き起こした」
「ただ、ギリシャ人が背負う借金は変わってない。そこはEUが結論を避けている。ギリシャを許せば他の国も許せ、となるからだ。EUが直面する初めての事態で、ギリシャ人は自分たちがモルモットにされていると感じている。無機質なカネのために、血が通う自分たちが犠牲にされていると思っている」
――国民に信を問う総選挙が20日に迫っています。
「総選挙ではチプラス氏が勝つと思う。ほかにいない。ただ、ギリシャ人も疲れてきている。未来をギリシャが決める権限がなく、今のままでは主権国家とは言ってもEUの植民地のようだ」
――ギリシャ人は怠け者だと思いますか。
「ギリシャの外交官に聞いたら10人中9人はコネだと。まじめにやる人が損する国ではある。観光資源が豊かなわりに宣伝もうまくない。もっと宣伝すれば観光客はさらに呼び込めるはずだ。ただ日本人は自分たちをまじめと思っているかもしれないが、日本だって借金はすごい。ギリシャ人を悪くは言えない」
「ギリシャは気候がいいからゆっくりとしている。厳格といわれるドイツ人がギリシャに来るのはそんなゆったりした空気を感じたいからだろう。文化や考え方、経済の調子の違う国が一緒になるのがEUだったはずなのにな」
(聞き手は福山絵里子)
むらた・ななこ 東大卒。ニューヨーク大学大学院博士課程修了。ギリシャの歴史が専門で現地にも滞在した。14年から現職。46歳。
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<聞き手から>人ごとにせず反面教師に
「“ギリシャ神話”は信じないでほしい」。EUとの金融支援を巡る交渉が熱を帯びていた7月のアテネで、あるギリシャ人に忠告された。有名なギリシャ神話を指しているのではない。怠惰や甘えなど一般に広まったギリシャ人の印象は、現実に即していないという意味だ。カラツォリス氏は国の広報係も担う大使の立場からギリシャ側の言い分を一つ一つ力説した。
こうした背景には村田氏が指摘するように周辺国に翻弄され続けてきた複雑な歴史があるのだろう。いまの主権国家に至るまで、自ら決定権を握る機会が乏しかった。過去の為政者に主体性が欠けていたという問題点にはカラツォリス氏も同意する。
2人の見解に触れ、財政危機が起きた原因をギリシャという国や国民の特異性とみなし、ひとごとで片付けるのはどうかと感じた。はるかに重い公的債務を抱え、2020年の東京五輪を巡り混乱する日本。五輪バブルで窮地に陥ったギリシャは反面教師になりうる。
(鳳山太成)
[日経新聞9月13日朝刊P.11]
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