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2010年8月、ロシアの首都モスクワのマネージュ広場。この年モスクワは、山火事によって発生した有害なスモッグに覆われ、ロシア西部の猛暑による死者は5万5000人にのぼった。(IVAN SEKRETAREV, ASSOIATED PRESS)
死の熱波、2100年には人類の4分の3が脅威に直面
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20170622-00010001-nknatiogeo-env
ナショナル ジオグラフィック日本版 6/22(木) 7:30配信
■温室効果ガスを削減せずに放置した場合の最悪のシナリオ
現在、世界の30%の人々が、死に至る恐れのある暑さに年間20日以上襲われていることが、新たな研究によってわかった。こういった熱波は気候変動によって大きく広がっている。それはまるで山火事が広がるかのようだ。
6月19日に気候変動に関する専門誌「Nature Climate Change」に掲載された分析によると、二酸化炭素などの温室効果ガスの排出を大幅に削減しない限り、2100年には最大で世界の4分の3の人々が熱波による死の脅威に直面することになる。温室効果ガスの削減に成功したとしても、2人に1人はその熱波の中で少なくとも20日を過ごさなければならない。
論文の筆頭著者である米ハワイ大学マノア校のカミロ・モラ氏は、「死者の出る熱波はありふれたものになっている。なぜ社会としてこの危機に関心を向けることがないのか、理解できない」と記す。「2003年に発生したヨーロッパの熱波では、約7万人が死亡した。これは、9・11の死者数の20倍以上にあたる」
危険な熱波は人々が意識している以上に頻繁に発生している。その数は、死者を伴うものだけでも毎年世界中で60件以上だ。たとえば、2010年のモスクワでは少なくとも1万人が死亡しており、1995年のシカゴでは熱波の影響で700人が死亡している。
2017年もすでに熱波による犠牲者が出始めている。53.5℃という記録的な暑さに襲われたインドやパキスタンでは、2週間で20人を超える人が死亡した。米国でも、すでに暑さによる死者が複数名出ている。
■熱波による犠牲者
モラ氏と多数の国の研究者や学生からなるチームは、3万件以上の資料を調査し、暑さに起因する死者が出た都市や地域について、1949件の事例を集めた。死者を伴う熱波は、ニューヨーク市、ワシントンD.C.、ロサンゼルス、シカゴ、トロント、ロンドン、北京、東京、シドニー、サンパウロでも記録されている。
最も危険なのは、高温湿潤な熱帯地域に住む人々だ。このような場所では、温度や湿度の平均がわずかに上がるだけで、死につながる危険が生じる。しかしモラ氏によると、平均気温が30℃を下回る穏やかな地域であっても、湿度が高くなれば死者が出ることもあるという。
医学史を専門とする米ウィスコンシン大学マディソン校のリチャード・ケラー教授は、米国の暑さによる死者数はトルネードなどの他の異常気象による死者数より10倍多いという。
2003年のヨーロッパ熱波に関する本を執筆したケラー教授は、不意に熱波に襲われるのは、暑くなるのは夏だと思いこんでいるからだという。
人間の体温は37〜38℃ほどに保たれており、体温がそれ以上になると、熱がある状態になる。気温が上がった場合、体は汗をかいて体温を下げようとする。
体温が40℃に近づくと、重要な細胞組織が壊れ始める。40℃を超えると、即座に治療を要する非常に危険な状態になる。
温度と湿度を組み合わせた指標である熱指数が40℃に達すると、体を冷やそうとしない限り、体温は徐々に気温に近づいてゆく。
暑さの影響を最も受けやすいのは、子どもや高齢者、とりわけ過度の貧困や社会的に孤立した状況にある人々だ。ケラー教授によると、2003年のヨーロッパ熱波によるフランスでの死者1万5000人のうち、大半は75歳以上の高齢者で、その多くが一人暮らしだったという。
ケラー教授は、「熱波による死者の増加の背景には、格差の拡大がある」と述べている。
■南の途上国を襲う熱波
ケラー教授によると、インド、パキスタンなどの途上国では、かつて暑さは大きな問題ではなかった。しかし、気候変動によってその深刻さは増しており、今では身近な問題となっている。
近年のインドでは、数千人もの人々が熱波による犠牲になっている。学術誌「Science Advances」に掲載された別の論文によると、インドで100人以上が犠牲になった熱波の数は、1960年から2009年の間で2.5倍に増加した。この論文の共著者であるカリフォルニア大学アーバイン校のスティーブン・デービス教授は、気候変動の影響である可能性が高いとしている。
とはいえ、インドの平均気温はここ50年間で0.5℃しか上昇していない。世界の他の地域と比べれば、ゆるやかな上昇だ。
地表の気温の計測からわかっているのは、地球の温度は産業革命前から1℃上昇していることだ。しかし、地球全体の気温が同じように上がっているわけではない。北極の気温は、平均2.5℃上昇している。米国本土よりも広い北極海の大半で、2016年11月の気温は通常よりなんと20℃も高かった。
熱帯地方では、平均気温が少し上昇しただけでも大きな影響を受けることになる。デービス教授は、特に影響を受けやすいのは、貧困に苦しむ人々だとしており、「シカゴの人々は暑さを避けることができるが、インドの貧しい人々はそういうわけにはいかない」と述べている。
気温の調査から、米国の都市の92%で夏季の気温が1970年に比べて上昇していることがわかっている。米国の気候調査機関クライメート・セントラルがまとめたデータによると、最も大きな影響が現れているのは、テキサス州や、ロッキー山脈とシエラネバダ山脈に挟まれた地域にある都市だ。夏の平均気温は、ウィスコンシン州ミルウォーキーで1.34℃、テキサス州ダラスで1.6℃、ユタ州ソルトレークシティで2.1℃上昇している。
デービス教授は、「これが実際に起きている気候変動だ」という。死者を伴う熱波が年間60回発生しているのも、驚くには値しない。気温の上昇によって、住み慣れた土地を離れて移住する人々も増えている。
「我々は環境に対してあまりに無関心すぎるため、未来の選択肢を失いつつある」。ハワイ大学のモラ氏はそう書いている。「熱波に対する有効な選択肢はもう残されていない。すでに世界中でたくさんの人々が熱波によって命を落としている」
文=Stephen Leahy/訳=鈴木和博
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