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危機管理最前線 from リスク対策.com
【第28回】 2017年2月22日 リスク対策.com
高層ビルで大地震に遭遇!外に避難するか、とどまるか
現代の高層ビルディングは震度7程度の地震には耐え得る設計となっているが、高い建物ほど揺れは大きく長時間続く。大地震に遭遇したとき、あなたは冷静に行動できるだろうか(※写真はイメージです)
大地震が起これば高い建物ほど揺れは大きく長時間続く。一般に現代の高層ビルディングは震度7程度の地震には耐えうるとされているが、耐震性が十分保証されていたとしても、私たちがパニックに陥らずに安全かつ冷静に行動できるだろうか。今回は、高層オフィスビルで大きな地震に襲われたとき、冷静に判断し、手際よく行動するにはどうすればいいか、BCP(事業継続計画)策定支援アドバイザーの昆正和氏が緊急対応時の3つのポイントを解説する。(「リスク対策.com」の連載企画・昆正和の『これなら作れる! 緊急行動の成否を分けるERP策定講座』の「揺れてこまるのはビルも心もいっしょです」[2017年2月2日]掲載の記事を転載したものです)
大地震発生!高層ビルの
オフィスは大混乱
午後3時過ぎ、33階にあるオフィスにて。コーヒー片手にメールをチェックしていると、ふと目まいのような感覚に襲われる。あれ…?と思うと間もなく、とつぜん「ゴーッ」という音が建物全体を包み込み、オフィスが大きく揺れ出す。地震だ。スチール製の棚やファイルキャビネットがギシギシと音を立て、机、椅子その他ありとあらゆるモノが揺さぶられ、あるいは軋みながらすべり出す。
オフィスにいた社員たちは、とにかく動かないものにしがみつこうと必死だが、なすすべがない。固定されていない備品類の多くが積み木を突き崩したようにガラガラと崩れ落ち、書類は次々と棚から落ちてカーペット一面に散らばっていく。ノートパソコンやプリンタはケーブルや電気コードを引きちぎって床に落ちて破損、複合機は勝手にあちこち移動し、壁にぶつかりパーティションや観葉植物をなぎ倒す。机にしがみつく者、壁に背中を擦りつけて座り込む者、うずくまる者いろいろ。まるで荒波にもまれる船の中にいるみたいだ。
しばらく続いた大きな揺れがやっとおさまった直後、ビルの危機管理センターから避難指示のアナウンスが入る。6基あるエレベータはすべて停止。非常灯のみが点灯しているうす暗い廊下から非常階段を伝って1階まで降りなければならない。
みんな青ざめた顔とおぼつかない足取りで避難を始める。メガネやコンタクトレンズをなくしてうまく歩けず進行の妨げになる者、俺のスマホがない!と通路に立ち止まってひんしゅくを買う者。各階から多くの人が狭い非常階段目がけてなだれ込む。階段の上から下から「押すな押すな!」「慌てるな、ゆっくり降りろ!」「エレベータに大勢人が閉じ込められているらしいぞ!」と、さまざまな声が飛び交う。そうした避難の混乱に追い打ちをかけるように、時おりゴーッと余震が襲う。もう生きた心地がしない…。
危機の察知
最初の3分間を生き延びるには…
以上は、高層オフィスビルを例に、地震発生時の状況を描いたものです。大地震が起これば高い建物ほど揺れは大きく長時間続きます。一般に現代の高層ビルディングは震度7程度の地震には耐えうるとされています。
しかしたとえ建物の耐震性が十分保証されていたとしても、そのことと私たちがパニックに陥らずに安全かつ冷静に行動できるかどうかとは何の関係もありません。みなさんは、大きな地震に見舞われたとき、冷静に判断し、手際よく行動する自信はありますか?
例によって、ここでは緊急対応の3つの要素の一つ、危機の「察知」を考えてみましょう。地震が発生したとき、あなたがどこにいて何をしているかはその時になってみないとわかりません。おまけに私たちがとっさに身を守るためにとれる行動には限界があります。したがって、まずはどこで何をしていようとも、身を守るための最低限の行動パターンを決めておくことが地震ERPのコツです。地震発生直後の3分間を考えてみましょう。例えば次のように。
・机やテーブルがあればその下に潜り込み、揺れが収まるのを待つ
・火気や窓、背の高い棚や備品、機械装置のそばには近づかない
・「緊急地震速報」→ただちに作業・操作の手を止め、安全な姿勢をとる
・揺れが次第に強くなる→頭を守り、外へ避難(落下・転倒物に注意)
・外にいる時→速やかに広いスペースに避難。建物、電柱等には近寄らない
・車を運転中→車を道路の左側に止め、キーをつけたまま車外に出て避難
ただし、高所での作業や精密機器の操作、有害物質の処理など、業務環境そのものに日常的にリスクが付きまとう場合は、それらに即した安全確保手順が必要となります。3番目のように、大地震では「緊急地震速報」が役立つこともあります(ただし直下型や震源に近い場合は機能しない)。地震波(S波)到達までの数十秒の間に身の安全を確保するためにできることは何か、話し合っておきましょう。
危機の伝達
避難するかとどまるかの呼びかけ判断
次に危機の「伝達」について考えてみましょう。地震における「伝達」という場合、出張中の社長にオフィスが地震被害を受けたことを報告するとか、エスカレーション(より上位の人・チームに被災状況を伝え、対応を要請する)のことを想像する方が多いのではないでしょうか。
確かにこれらも伝達に含まれますが、どちらかと言えば「危機への対処」の一環としてとらえるのが自然でしょう。ここでは時系列的にもっと手前の「避難の呼びかけ」に焦点を当ててみます。避難に関しては、ERPと連携させるツールとして「避難計画」が必要なことは前に述べたとおりです。しっかりした避難計画があれば、それに従えばよいだけの話ですが、単純に"地震が起こったから即避難せよ"とは言えない場合があるのです。
地震は火災のようなローカルな災害とは異なり、揺れが始まったら直ちに外に避難した方がよい場合、その場にとどまって机の下などにもぐり込んだ方がよい場合など状況によってさまざまです。一つの建物に数千人が滞在する高層オフィスビルなどでは、全員一斉避難を呼びかけると非常階段などではかえって危険なこともあります。
また、高層ビルに限ったことではありませんが、ビルの建っている場所によって外への避難を優先するかオフィス内にとどまるかを振り分ける必要がある。沿岸部の街で津波が予想される場合は、建物の上階に避難するでしょうし、1階や2階の室内や廊下で天井や壁からミシミシ音がして不気味さを感じるなら、多少の危険を冒してでも急いで外に出るよう呼びかけた方がよい場合もあります。
自社ビルや自社工場をお持ちの会社では、このあたり、ある程度一貫性ある手順を組み立てることができるでしょう。冒頭の例のように、テナントビルに入居している場合には、ビル運営会社の危機対応(各階の整然とした避難誘導体制ができているかどうかなど)を含めて、前もって確認しておくことが必要です。
危機への対応
人的被害対応と物的被害の確認を急げ
地震ERPにおける「危機への対応」は、地震発生直後の人的、物的な被害の確認とそれに伴う暫定対応までを指します。重要業務の継続や復旧に向けた段取りまでは踏み込みません。ポイントは次のとおり。
・負傷者対応
・安否確認
・緊急点検と周辺調査
・次にとるべき行動を関係者に指示
「負傷者対応」「安否確認」「緊急点検」は、一連の緊急時行動としてあらかじめ各担当者の脳裏にインプットされていなければなりません。この3要素について逐一指示されなければ動けないようでは困りますので、定期的に訓練でカバーしてください。
「安否確認」は、「避難計画」と同レベルで独立した書式で作成しておきましょう。地震に限らず他の災害の時でも使えるからです。また安否確認の手順と複数の伝達手段を持つことについての規定もお忘れなく。
「緊急点検」については、建物や被災現場の安全を確認した上で、頻発する余震に注意し、いつでも避難できる態勢をとりながら作業に当たらなければなりません。安全な装備(ヘルメット、軍手、安全靴など)を身に付けること、万一のことを考えて二人一組で点検に当たることなども規定してください。
緊急点検に付随する「周辺調査」とは、公共インフラ等(公共交通機関や道路状況など)の確認を指します。最後の「次にとるべき行動を関係者に指示」とは、従業員の安否や被害状況の報告を受けて、どのような指示を出すのか、ということ。一般従業員は帰宅してよい、緊急時対策メンバーは残りなさい、帰宅できない社員がいたら非常時備蓄から食料と毛布を支給しなさい(帰宅困難者をケアせよ)といったことです。
昆 正和/BCP策定支援アドバイザー。主に中小企業のBCP策定指導や研修、講演活動を行っている。近著に『今のままでは命と会社を守れない! あなたが作る等身大のBCP』、『山で正しく道に迷う本』(以上日刊工業新聞社)の他、『リーダーのためのレジリエンス11の鉄則』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)がある。ブログ:「昆正和のBCPブログ」
http://diamond.jp/articles/-/118775
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