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今こそ振り返りたい関東大震災の「予知」論争
「ホラ吹き」呼ばわりされ、無視された今村明恒の警告
2016.9.1(木) 藤 和彦
イタリア中部地震、死者18人に
強い地震に見舞われたイタリア・アマトリーチェで、がれきの上に座る被災者ら(2016年8月24日撮影)。(c)AFP/FILIPPO MONTEFORTE〔AFPBB News〕
8月24日、イタリアとミャンマーでマグニチュード6クラスの地震が相次ぎ発生した。
午前3時36分(現地時間)、イタリア中部のペルージャ県ノルチャの南東約10キロメートルを震源とするマグニチュード6.2の地震が発生。震源の深さが約4キロメートルと浅かったため、就寝していた多くの住民が倒壊した建物の下敷きとなった。地震による死者数は29日までに292人に達し、余震の回数は1800回を超えた。
またミャンマーでは午後4時4分(現地時間)、最大の都市ヤンゴンの北西約500キロメートルを震源とするマグニチュード6.8の地震が発生し(震源の深さは約84キロメートル)、世界的な仏教遺跡のパガンが大きな被害を受けた。
2つの地震は8000キロメートル以上離れた場所で起きたものだが、地震の規模は似ている。2つの地震に関連はあるのだろうか? プレートテクトニクス理論(プレート説)に代わる「熱移送説」という理論に基づいて地震発生メカニズムの解明を試みている角田史雄埼玉大学名誉教授に尋ねてみた。
熱エネルギーの到達が噴火・地震を起こす
角田氏のコメントを紹介する前に熱移送説について説明しておこう。
熱移送説の中で主役を務めるのは「熱エネルギー」の伝達である。その熱エネルギーは、地球の地核(特に外核)からスーパープリューム(高温の熱の通り道)を通って地球表層に運ばれ、その先々で火山・地震活動を起こす。
火山の場合、熱エネルギーが伝わると熱のたまり場が高温化し、そこにある岩石が溶けてマグマと火山ガスが生まれると、そのガス圧で噴火が起きる(「マグマ」とは約1000度に溶けた地下の岩石のことであり、この高温溶融物が地表へ噴出したのが「溶岩」である)。
地震の場合は、硬いが脆い岩層の地下岩盤が熱エネルギーによる膨張で割れることにより発生する。つまり熱エネルギーが通ることにより断層が活断層になるのである。
角田氏によれば、南太平洋(ニュージーランドからソロモン諸島にかけての海域)と東アフリカの2カ所から、地震や火山の噴火を引き起こす大本の熱エネルギーが地球表層に出てくるという。日本の地震や火山噴火に関係があるのは南太平洋のほうである。
南太平洋から出てきた熱エネルギーは、西側に移動しインドネシアに到達すると3つのルートに分かれて北上する。3つのルートとは、(1)スマトラ島から中国につながるルート(SCルート)、(2)マリアナ諸島から日本につながるルート(MJルート)、(3)フィリピンから台湾を経由して日本につながるルート(PJルート)、である。
角田氏はさらに「噴火と地震の発生場所はほぼ変わらない」と指摘する。環太平洋火山・地震帯が約10億年も不変であることが示す通り、地球の中で高温化する場所や岩盤が割れやすい箇所はほとんど変わらない。そのため、熱エネルギーが移送されることによって生じる火山の噴火地点や地震が起こる場所は不動だという。
角田氏は、「熱エネルギーは1年に100キロメートル以上の速さで移動する」のでインドネシアやフィリピンで地震や火山の噴火が起きた場合、その何年後に日本で地震や火山の噴火が起きるかがある程度予測できるとしている。
イタリア、ミャンマーの次はどこか
今回のイタリアの地震について、角田氏は次のように解説する。
「イタリアの地震の大本の熱エネルギーは南太平洋ではなく、東アフリカのスーパープリュームに端を発している。表層に運ばれた熱エネルギーは中東地域を経由して地中海に達するため、イタリア半島では定期的に地震が発生する。今後数年以内にトルコで地震が発生する可能性がある」
イタリアでは2009年4月の地震(マグニチュード6.3)で今回の震災地の近隣の都市ラクイラで295人が死亡した。古くは1915年に同じ地域で発生したマグニチュード6.7の地震によって約3万2000人が犠牲となったと言われている。
ミャンマーの地震については、「SCルートによって運ばれた熱エネルギーによって起きた地震だ。今後1〜2年以内に中国雲南地方で地震が起こる可能性が高い」としている。
角田氏は2007年5月にミャンマーで地震が起きた際、埼玉大学の学生に対し「熱エネルギーに余力があれば、中国の四川あたりで地震が起きる」と予言していた(2008年5月にマグニチュード8.0の四川大地震が発生した)。
2017〜18年に伊豆・相模で巨大地震の可能性
大きな被害を出したイタリアの地震について、日本では「防災文化の欠如」を指摘し「日本ではこのようなことは起こらない」とする論調が強いようだ。だが、はたして日本は大丈夫だろうか。
4月14日に発生した熊本地震の余震活動は依然として活発であり、8月20日に震度1以上の有感地震が2000回に達している。7月26日、鹿児島県の桜島で約3年ぶりに火口縁上5000メートルに達する爆発的な噴火が発生、7月30日に鹿児島県・諏訪之瀬島の御岳でも噴火が発生するなど熱エネルギーの移送が続いている。
九州地域の地下構造を熟知する角田氏は「当該地域に熱がたまっているため、数年以内に別の場所(大分県別府地域と長崎県雲仙地域をつなぐライン上)で大きな地震が発生する可能性がある」と懸念している。
東日本地域では7月に茨城県や千葉県東方沖でマグニチュード4〜5クラス、8月20日前後に三陸沖でマグニチュード5〜6クラスの地震が群発している。東京大学地震研究所の「首都圏大地震は30年以内に70%の確率で起こる。死者2万人。帰宅困難者は900万人」の予測が影響したのだろうか、8月1日、気象庁の大誤報(東京湾付近を震源とする最大マグニチュード9.1、4都県で震度7の地震が予想されるとした緊急地震速報)に多くの首都圏の住民が肝を冷やした。
東日本の地震について角田氏は「熱エネルギーが日本海溝に沿って北上しているのだろうが、直ちに心配する必要はない」としている。
しかし、伊豆・相模地域は別である。
前述のMJルートにある小笠原諸島の西之島(東京の南約1000キロメートルに位置する)の海底火山が噴火し、2014年10月に八丈島(東京の南約287キロメートルに位置する)東方沖でマグニチュード5.9の地震が発生した。
角田氏は「この熱エネルギーが2017年から2018年にかけて伊豆・相模地域に到達し、マグニチュード6以上の地震が発生する」と予測している。
関東大震災の予知を「ホラ吹き」扱いされた学者
伊豆・相模地域の巨大地震と言えば、93年前の今日(1923年9月1日)、相模湾を震源として発生した関東大震災(マグニチュード7.9)である。
7月21日、筆者は角田氏とともに『次の「震度7」はどこか!』(PHP出版)という書籍を緊急出版した。想定震源地域にある伊東市のご出身である政治評論家の森田実氏に「伊豆・伊東の人々にこの情報を伝えていただきたい」と思い、拙書を贈呈した。
森田氏は、学生時代の恩師である清水幾太郎氏(1907〜1988年、社会学者)から関東大震災の体験を何度も聞き、地震について長年研究されてきた。その森田氏から、「プレート説で説明できない地震が頻発している。熊本地震は代表的なものである。私は日本の地震学界の主流となっているプレート説について疑問を持っていた。今大切なことは、プレート説への過度のこだわりを捨て、『熱移送説』を謙虚に学ぶことだ。角田史雄埼玉大学名誉教授が関東大震災の時の今村明恒助教授に二重写しになっている」という非常に有り難いコメントをいただいた(8月9日付日刊建設工業新聞に掲載された「建設放談」より)。
森田氏が言及している今村助教授とは一体どんな人物だろうか。
今村氏は1870年鹿児島県生まれ、1891年に現在の東京大学理学部物理学科に進学し、大学院では地震学講座に入り、そのまま助教授となった。今村氏は震災予防調査会(1892年に設立された文部省所管の地震に関する研究機関)がまとめた過去の地震の記録から関東地方では周期的に大地震が起こると予想するようになった。
1905年、「今後50年以内に東京で大地震が発生する(震源地は相模湾)ことを警告し、震災対策の重要性を訴える」内容の論文を雑誌「太陽」に掲載すると、新聞にセンセーショナルに取り上げられて社会問題となってしまった。上司である大森房吉 東京大学地震学研究室教授らから「世情を動揺させる浮説」として攻撃され、世間から「ホラ吹きの今村」と中傷される。だが1923年に関東大震災が発生すると、関東大震災を予知した研究者として「地震の神様」と呼ばれるようになった。
一方、関東大震災が発生するまで日本の地震学界を主導していた大森氏は今村氏より2歳年上で、28歳の時に震災予防調査会の幹事という大役を任されるとともに、1898年に世界初の連続記録可能な地震計(大森式地震計)を開発するなど「日本地震学の父」と呼ばれていた。
今村氏の論文を読んだ大森氏は、相模湾を震源とする地震が発生することや震災対策の必要性には理解を示していたが、社会に混乱を起こすことを恐れ、今村氏の論文を「根拠のない説」として退けた。
1923年、汎太平洋学術会議に出席していた大森氏は、出張先の豪州で地震計の針の動きから関東大震災の発生を知った。帰国すると自らの過ちを認めて国民に謝罪し、震災予防調査会の幹事などを今村助教授に譲ったという。
直下型地震への抜本的対策を
国内の学界では地震学者と認知されていない角田氏だが、海外での評価は高まる一方である。海外の学術誌(「New Concepts in Global Tectonics」電子版)に「熱移送説に基づく熊本地震とその解釈」というタイトルの論文を掲載したところ、通常の3倍以上のアクセス(約30万)があり、サイトはあまりのアクセスのために一時「遮断」の措置をとったという。
地震のメカニズムついてはさまざまな理論や研究があるが、いまだに正確な予測ができていないのが現状だ。だが、どれだけ用心してもしすぎることはない。国を挙げて一刻も早く直下型地震に関する抜本的対策を講ずるべきである。
角田氏はマントルトモグラフィーという最先端の技術を用いて地球内部の温度分布を測定したデータを基に、熱移送説の理論を築き上げた。日本の地震関係者は関東大震災後の大森氏にならい、熱移送説を謙虚に研究することが喫緊の課題であろう。
(参考文献)『関東大震災を予知した二人の男 ─大森房吉と今村明恒』(上山明博著、産経新聞出版)
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/47746
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