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注意!猛暑最高記録「41℃越え」が迫っている
「5年トレンド」で平均気温は上昇傾向
吉野 正敏 :筑波大学名誉教授 2016年7月1日
今年の猛暑は、どこまで暑くなるのだろうか(写真:aijiro / PIXTA)
今夏は九州などで集中豪雨が相次ぐ一方、関東では取水制限が実施されるなど、梅雨明け前から先を読みにくい展開となっている。温暖化を背景として、夏場に猛暑と天候不順が並存する傾向が高まっている中、2013年に高知県で観測された国内最高気温41℃の更新はあり得るのだろうか?
この点について、国内外の気象研究歴が長く、現在も寄稿を続けている吉野正敏・筑波大学名誉教授(88)に、2回に分けて寄稿してもらった。吉野氏は気象が人間の健康に与える影響を研究する学問「バイオクリマ(生気候)」の権威でもある。
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気象庁は6月10日の監視速報で、2014年夏から8シーズン続いたエルニーニョ現象が2016年春に終息したとみられる、と発表した。これを受けて今夏にラニーニャ現象が発生する見込みだとしている。
前回ラニーニャ現象が発生した2010年の夏に、日本列島は異常気象と猛暑に立て続けに襲われた。温暖化が着実に進行する中、今夏は果たしてどうなるのだろうか? 日本の天気の先行きについては、気象業務法の規定があるため個人が公に断言はできないのだが、可能な限り考察してみる。
35℃以上の「猛暑日」が身近に
本題に入る前に用語の説明などしておくと、最高気温が25℃以上の日を夏日、30℃以上だと真夏日とする定義は、すでに日本では広く使われている。そして猛暑日とは、最高気温が35℃以上の日を指す。
さらに超高温期とは、猛暑日が7日以上続くか、あるいは、38℃以上の気温を記録した日が4日以上連続した期間のことだ。ただ、途中に35℃以下の日が1日ないしは2日あって連続しない場合でも、猛暑日が14日以上、あるいは、38℃以上が6日以上あれば、超高温期とみなされる。
この定義は、インドや中近東などに関してはよく話題となるが、日本ではあまり馴染みがなかったかもしれない。少なくともこれまでは。
暑いとか、涼しいとかいう感覚は、上記の定義から言うと気温の絶対値を基本としている。しかし、テレビなどの気象情報で明らかなように平年との比較″によっても捉えられる。
では平年値とは何か? これは過去30年の算術平均値だ。世界気象機関(WMO)加盟各国の取り決めに従い、日本などでは現在、公式には1981〜2010年の30年平均の値を平年値としている。研究目的などであれば、1986〜2015年の30年平均などを計算して使っても差し支えない。
どうして30年なのか。理由は幾つかある。統計学的に見て標準偏差が比較的小さくなる最少の年数なのに加え、世界に展開されている気象観測所の総数や地域的な偏り、人間ひとりの現役年数などをもとに、30年と定められているのだ。国の歴史や政治・経済事情、人間の一生など、自然科学以外の要素が背景になっているのだ。
かつてスイスのジュネーブにあるWMO本部で、30年を基準とすべきかどうかを論じる委員会に出席していた筆者は、奇異に感じた。だが、考えてみれば、暑さや涼しさは結局のところ、人間の一生の間の経験、環境体験に基づく主観的な感覚だ。言い換えれば、たとえば40℃といっても、受け取めかたは地域や個人、職業などによって差があるわけだ。
「5年トレンド」で見ると平均気温は上昇傾向
さて、ここからが本題だ。過去のデータに基づいて、今夏に関する「傾向と対策」を筆者なりに考えてみる。
気象庁の資料に基づいて筆者が集計
まず日本を北日本、東日本、西日本、沖縄・奄美の4つに区分、各地区の6〜8月の平均気温が平年と比べ、どの程度高かったかを調べてみた。その上で、1976〜2015年を5年単位で区切り、該当する気温の差が生じた地区の数と発生した年の数を掛け合わせた数字を一覧表にすると、わかることがある。
たとえば「1」は、該当する平均気温差を記録した地区が、その5年間のうち1年だけ、1地域だけあったことを指す。理論的な最大値は20(4地区すべてで該当する気温差が5年連続で発生した場合)になる。昨年までの40年間で、統計値は、ほぼ増加の一途を示している。温暖化が進んでいることは、疑う余地がない事実なのだ。
こうした中で、平均気温が平年よりも1.5℃以上高かった列の統計値を見ると、1996〜2000年は1だったが、次の5年間は0だった。続く2006〜2010年は3で、続いて2015年までの5年間は再び0となった。
このパターンが続くとすれば、今年以降の5年間は大きな値が出て、夏場の平均気温が平年を大きく上回る可能性が高い。
また、夏場に発生した異常気象を年別に挙げると、以下のようになる。
(1)早い梅雨明け、または空梅雨・干ばつ・降水量の減少。1990年代に2回、最近では2008年に起こった。
(2)北太平洋高気圧の強化または北への偏り。2002年、2004年、2006年、2007年、2010年に発生しており、最も多い事例だ。
(3)オホーツク海高気圧の発達、または北日本の低温。逆に発生例は少なく、1996年と2008年。
(4)残暑の厳しさ。20世紀末から頻度が増しており、2000年、2002年、2009年、2010年に続き、ここ数年でもよく発生している。
(5)にわか雨・雷雨・集中豪雨。特に今世紀に入ってから顕著になった。洪水などの災害に結びつくことがあるため注意を要する。
「波状攻撃」だった2010年の夏
特に2010年は、高温期間の波状攻撃を受けた形となった。何であれ攻撃が1回限りであれば、いったん切り抜ければ何とか持ちこたえられるが、2度3度と繰り返されれば当然、ダメージは大きくなる。また、この年の6〜8月の平均気温は、記録が残る1998年以来の高さだった。日本全国の11地点で猛暑日数の記録を更新した。
2010年の夏を時系列で振り返ってみた。6月21〜25日に猛暑。7月1〜5日は猛暑と集中豪雨。11〜15日に集中豪雨。21〜25日に猛暑。8月6〜10日に猛暑。8月中旬は各地で最高気温を更新するとともに、台風による大雨。21〜25日には峠を越え、26〜31日にやや弱まった。しかし、9月1〜5日にピークが再来するとともに、強烈な台風にも見舞われた。
このように6月下旬に小さな第一波が来て、7月の上旬と中旬にも小さい波がきた後、8月の中、下旬に大波が押し寄せた。
2010年8月17日に熱波のピークが来た際に観測された気温は37〜38℃に達した。東京都の練馬と三重県桑名で38.2℃を記録。次いで、岐阜県多治見で38.1℃、群馬県館林で37.8℃、福岡県佐久間で37.7℃、岐阜県美濃で37.5℃、山梨県甲府、埼玉県熊谷、神奈川県海老名で37.4℃となった。
2015年の夏の全国的な平均気温は2010年ほど高くはなかった。しかし、地点によっては記録が更新され、8月5日に館林で39.8℃、福島県の福島で38.9℃を、それぞれ観測している。東京の都心は6日連続で猛暑日となり、1875年の観測開始以来の最長記録となった。
地球の温暖化が進めば、日本の南西部では年間で夏日が約40日増え、真夏日は20日以上、猛暑日は5日以上増えるだろう、とのシミュレーション結果を、国立環境研究所地球環境研究センターがかつて発表した。それが近年では、現実味を帯びてきた。
日本の最高気温の記録は2013年8月12日に高知県の江川崎で観測された41.0℃だが、温暖化をバックに、この記録が更新される日は、遠くないのかもしれない。
その候補となり得るのは「猛暑の横綱クラス」ともいうべき地域だ。中央日本の太平洋側の海から少し離れた平野部、山梨県や岐阜県の、太平洋側から山一つ越えた内陸部などである。また、西日本では盆地に高温がでやすい。なお、このような地域性に加え、都心部のヒートアイランド効果があって市街地の中心部は高温になりやすく、生活者への影響は大きい。
なお、2010年に限らず、近年の猛暑は大雨を伴う。熱波と熱波の間に来ることが多いが、ほぼ同じ時期に併発することもある。いずれにせよ、気温の上昇だけでなく、大雨や豪雨についても同時に対策を立てておかねばならない。
この盛夏の雨は、「梅雨の戻り」「もどり梅雨」などと呼ばれて注目されてはいるが、詳しい研究がない。あえて海外に例を求めれば、朝鮮半島のチャグマ(盛夏の雨季)がこれに相当する現象ではなかろうかと思う。いずれにせよ、この盛夏の雨季が真夏日の増加、猛暑・酷暑の強化によって活発化するであろうということは、われわれにとって非常な関心事だ。
「暑さ」に関する消費者心理は単純ではない
人間の生活や消費行動は猛暑によってどのような影響を受けるのだろうか。先にヒートアイランドにふれたが、以下で、まとめて考察しておく。
まず熱中症だが、これについては研究も多く、新聞・雑誌・テレビなどでよく取り上げられているので具体的には深入りせず、現在の問題点をあげたい。まず、スマホ時代に入って、熱中症や紫外線対策に関する個人レベルでの情報伝達が非常に浸透した。
しかし、高齢化社会においてはIT社会に取り残される人が多くなるため、独り暮らしの高齢者への対応・対策を立てる必要がある。また、日本で公表され、情報や研究結果にあげられている数字はあくまで「救急車で搬送された人数」である。海外と比較する場合、この点に留意の必要がある。
次に、経済面での影響。2010年7〜8月のコンビニエンスストアの売上高は前年同期比で0.9%増だった。しかし、8月を7月と比較すると、来店者数が9.2%増えたにもかかわらず、総購入金額は1.9%減少したため客単価(客1人当たりの購入額)は落ち込んだ。
居酒屋やパブも似た傾向を示した。同年6〜8月の客数は前年同期から1.1%増加したが、客単価は2.3%減少している。コンビニと同様、店内に入ると涼しいからと推察できないわけではないが、消費者心理はそう単純ではないようだ。
商品のうち、直接冷たさが得られるアイスクリームが好評なのは当然だが、度が過ぎて品薄となり、8月6日にホームページで謝罪した例もある。先述のように2010年の猛署のピークは8月中旬だったので、その1週間以上も前の出来事であり、生産・在庫の予測の難しさを浮き彫りにした。
2010年6〜8月のビール系の国内出荷量は、第三のビールが前年同期と比較して8.0%増、一般的なビールが0.2%増だった。都会のビル屋上にあるビアガーデンの売上高は10〜20%増と推定されている。
医薬品・化粧品などドラッグストア関係の個人消費は、猛暑が始まるとすぐに影響がでる。同じく2010年6〜8月の販売額の前年同期比を見ると、汗拭きは44%増、入浴剤20%増、ボディローション4倍、制汗剤30〜33%増、日焼け止めクリーム52%増、清涼寝具(枕・布団など)は約50%増だった。
高齢化でレジャー関連のリスクも
レジャー関連では海水浴やプール、川辺のキャンプなどがあるが、特に都市内や都市周辺で増加傾向が強い。2010年6〜8月の東京よみうりランド(東京稲城市)のプール客は前年同期比28%増、東京サマーランド(あきる野市)では30%増だった。登山者数も増加した。高齢者による登山の増加の背景もあり、猛暑の年には夏季の山岳気象や、それに対処する装備に関する啓蒙が必要であろう。
高速道路では自動車が渋滞に巻き込まれ、クーラーをいれたままだと燃料切れになるケースが多発する。また道路の表面が異常な高温になり、タイヤがパンクしやすくなる。こうした背景から、2010年夏の事故件数は前年比4.9倍となり、自動車関連費の支出も増えた。
第一生命経済研究所によると、7〜9月の東京・大阪では気温が1℃平年より高くなると、個人消費が4333億円押し上げられ、国内総生産(GDP)換算で0.3%増の効果があるという。ただ、重要な点は、この1℃分の効果が猛暑でも冷夏でもあてはまるのかどうかだ。
以上、2010年並みの異常気象や猛暑が今夏到来する可能性を考え、参考になりそうな個人消費の統計などをピックアップしてみた。次回は海外の動向と、バイオクリマに基づいた猛暑への心構えについて述べたい。
http://toyokeizai.net/articles/-/124189
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