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「虫歯になったら治らない」は間違っていた!
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20160212-00046036-jbpressz-sctch
JBpress 2月12日(金)6時5分配信
食べものを美味しく食べるには、歯の機能が健全でなければならない。そのために食後こまめに歯磨きをするが、それでも虫歯になってしまう人はいる。健康診断などで「要治療」を宣告され、歯医者で歯を削られる。
ところが、こうした当たり前のような歯のケアには、じつは誤解も多く潜んでいるらしいのだ。たいていの人が歯のケアの仕方は小学校で習っただろう。だが、研究の進歩で常識が覆されることはよくあること。歯のケアに対する考え方は昔と変わっていてもおかしくない。
そこで今回は“食と歯”についての常識が、本当に正しいのかを知るべく、歯科医に話を聞くことにした。応じてくれたのは、埼玉県志木市で「ヒロキ歯科診療所」を開業する西野博喜氏。歯科学の最新の研究成果などに詳しく、その知識を患者の歯の治療や予防に役立ててきた。日本顎咬学会の指導医であり、また日本歯内療法学会の専門医でもある。
前篇では、西野氏に虫歯のしくみを聞いたうえで、虫歯は自然に治るのかという疑問に答えてもらう。後篇では、歯の治療や、日々の歯のケアの“正しい方法”について聞くことにしたい。
■ 甘いものを食べると虫歯になる理由
――虫歯はどのようにして生じるのでしょうか。
西野博喜氏(以下、敬称略) 虫歯には、直接的な原因と間接的な原因があります。
直接的なものは口の中の常在菌です。そもそも常在菌は、外から入ってくる害のある菌が入ってこないように先に定着しているもの。人との共存共栄の関係をもっているのです。
しかし、常在菌には、自分の体から“接着剤”を出すミュータンス菌のようなものもあり、歯の表面に付いて「プラーク」という菌の集合体をつくっていきます。菌は単体でいるときは大したことありませんが、プラークになるとバリアを張るようになります。バリアの内側で菌はさらに増えていきます。
そうした菌たちが酸をつくって、歯の成分であるカルシウムやリンなどの物質を溶かし出すのです。歯からカルシウムやリンが溶け出る現象を「脱灰」といいます。一般に、虫歯とはこの脱灰の現象を指します。
菌が酸をつくるには、材料がなければなりません。材料となるものが食べものに含まれる糖質です。糖質が、虫歯の間接的な原因ということです。糖質は、砂糖のほか、ごはんやパンなどの炭水化物にも多く含まれます。
――ダイエットや糖尿病対策で、糖質制限する人もいます。そういう人は虫歯になりにくいということでしょうか。
西野 いいえ。虫歯になるとされる糖質の摂取量はかなり少ないのです。年間20キログラムを超えると虫歯になりやすいという説があります。これは普通に食事をしている人はもちろん、糖質を制限している人でも超えてしまう量です。
――食べもの過多の時代背景も、虫歯と関係しているのですね。
西野 食生活が豊かになれば、当然、糖質の摂取量も増えて、口の中の酸の量も増えますから、虫歯になりやすくなります。
一方で、食生活が豊かになって感染症への抵抗力がつくなどして寿命が伸びました。いまさら虫歯を減らす目的で食生活のレベルを下げるのは無理でしょうから、虫歯が生じないよう別な方法で対応を考えるべきです。
■ 鍵は唾液にあり、虫歯は自然治癒する
――学校で「虫歯になったら悪くなる一方」と教えられた年代の人も多くいます。現在は、どのように考えられているのでしょうか。
西野 「虫歯は自然治癒するもの」と考えられています。
――「自然治癒」とは、どういうことでしょうか。
西野 唾液は酸を中和して口の中をほぼ中性にします。すると歯にカルシウムやリンが再び取り込まれ、同時に虫歯の修復作業も行われます。これを「再石灰化」といいます。虫歯の自然治癒とは、この現象のことをいいます。
甘いものやごはんを食べると、2、3分後には菌が糖質を酸に変え、口の中の酸性度が高くなって歯が溶け出します。しかし、20分から40分ぐらいすると、唾液が酸性を中和していきます。唾液にはカルシウムやリンが含まれていて「再石灰化」が起きるのです。唾液が酸性を中性に戻す力を、「唾液の緩衝能」といいます。
――食事のたびに、脱灰と再石灰化が起きているわけですか。
西野 そうです。朝食で脱灰が起きた後に再石灰化が起き、また昼食で脱灰が起きた後に再石灰化が起き・・・と繰り返します。
けれども“だらだら食い”をしてしまうと、唾液が中性に戻したそばから、また脱灰が起きることになります。脱灰が起きる時間、つまり食べる回数をなるべく減らし、再石灰化が起きている時間をなるべく増やせば、脱灰のダメージが少なくなるわけです。
――食べるタイミングは脱灰や再石灰化に関わってきますか。
西野 睡眠中は唾液の出る量が少なくなり、なかなか中性になりません。だから寝る前に食べると虫歯になりやすくなるのです。
■ 虫歯になったら「即、歯医者」は古い常識?
――口の中で唾液を多く出せるとよさそうですね。
西野 ええ。ただし、唾液の量や緩衝能には個人差があります。自分の唾液の緩衝能は、試験紙によるテストなどで測ることができます。測定を実施している歯科医院で行えます。
――手軽に唾液の緩衝能を強くする方法はないのでしょうか。
西野 キシリトールガムを噛むという方法があります。甘味料は入っているのですが、虫歯の原因にならない糖アルコールという種類ですので大丈夫です。奥歯で噛んでいると唾液が出てきます。唾液の量を増やすことで緩衝能を高めるわけです。フィンランドの学校では給食後、子どもたちにキシリトールガムを噛ませています。
――唾液による再石灰化に頼れば、歯医者に行かなくてもよいのでしょうか。
西野 少なくとも「初期虫歯」と呼ばれる、穴のない虫歯の段階では、歯医者に行く必要はありません。いまは学校でも、初期虫歯であれば歯医者での治療を避け、学校の保健指導で再石灰化を促すことになっています。
かつて、虫歯の診査では、進行度によって「C1、C2、C3、C4」と分類されていました。Cは「虫歯」の意味の「カリエス(Caries)」の頭文字です。「C1」でも歯医者で治療するよう言われていたと思います。
しかし、1995年から判定法が大きく変わり、「CO(シーオー)とC」という分類になったのです。
「CO」は「カリエス・オブザベーション」つまり「観察」のことで、要観察歯とも呼ばれます。これが初期虫歯に該当します。この段階では、歯の表面が白く濁ることがあります。脱灰でカルシウムやリンが抜けると歯の結晶構造が崩れ、光の屈折率が変わるため、透き通らない感じになるわけです。初期虫歯「CO」は、保健指導の対象です。
一方、穴がある虫歯は「C」です。児童は学校で「C」と診断された場合だけ、歯医者で再び診査を受けることになります。
けれども、「穴が空いたら即、歯医者で治療」かというと、私自身はそうは思っていません。それには、いくつかの理由があります。
(後篇へつづく)
漆原 次郎
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