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チョコレートを食べると危険?性的刺激関連物質を含有?
http://biz-journal.jp/2016/02/post_13755.html
2016.02.12 文=中西貴之/宇部興産株式会社 環境安全部製品安全グループ 主席部員 Business Journal
チョコレート(撮影=筆者)
チョコレートほど、膨大なバリエーションを誇り、古くから世界中の人々を魅了している食品も珍しいのではないでしょうか。コンビニエンスストアのお菓子売り場に行くと、ほとんど毎日といっていいほど、美しいパッケージに入った新製品のチョコが並んでいます。
甘いものが大好きな子供たちばかりでなく、当サイト読者のみなさんの中にも、デスクの引き出しや通勤バッグの中にチョコが入っている人は多いのではないでしょうか。そういう筆者も、新製品を見るとつい手に取ってしまい、気がつくと引き出しの中がチョコのパッケージでいっぱいになっています。
■バレンタインデーにチョコを贈るのは向精神作用狙い?
紀元前から、古代メキシコでは食品としてのチョコが知られていました。15世紀のアステカ王国では、チョコは不老長寿の薬とされ、皇帝は毎日数十杯ものチョコを飲んでいたといわれています。
カカオの木を最初に栽培したのも、彼らの祖先のマヤ族でした。この時代のチョコは、すりつぶしたカカオ豆に香辛料が加えられたもので、皇帝など一部の支配層だけが飲める高級な飲み物だったようです。やがて、ヨーロッパにチョコ飲料が広まりましたが、当時は「欲情を呼び起こす危険な飲み物」と考えられ、ヨーロッパの王族は婚約の際の贈り物としていました。
また、近年の分析で、チョコにはフェネチルアミンという化学物質が含まれていることがわかりました。
フェネチルアミンの構造式
フェネチルアミンは「恋愛化学物質」とも呼ばれるもので、人が性的に刺激された時に脳内で分泌され、それをきっかけに心拍数と血圧が上昇します。ただし、食品から摂取されたフェネチルアミンは「血液脳関門」と呼ばれる仕組みによって脳への進入をブロックされてしまうため、チョコを食べることによって脳内のフェネチルアミンを増やすことはできません。
とはいえ、バレンタインデーにチョコを贈る習慣が始まった20世紀前半は、まだチョコに「恋愛化学物質」が含まれていることは発見されていなかったことを考えると、この不思議な関連性には驚かされます。
■日本のバレンタインデー定着は70年代?
ふと思い立ち、歳時記におけるバレンタインデーの登場を調べてみました。歳時記とは、俳諧で季語を分類して解説や例句をつけた書物のことです。俳人・高橋悦男氏の研究によると、歳時記にバレンタインデーを詠った俳句が例句として初めて収載されたのは1971年のようです。
時代は高度経済成長が終わりを告げ、第一次オイルショックを迎える直前の頃。当時の小中高生の関心を集めたことが、バレンタインデーの定着につながったようです。なお、前述の句は以下のようなものです。
「ヴァレンタインデー学僧の眉澄むに遭ふ きくの」
自由奔放な生涯を送った明治生まれの女流俳人・稲垣きくのは、常に燃え上がるような恋をし続けた自分と、世俗を離れた学生の清らかな目を対比させてこの句を詠みました。
■チョコの絶妙な口溶けの秘密
さて、話は化学に戻りますが、「物質の三態」というものをご存じでしょうか。水は0度に冷やすと固体の氷になり、100度に温めると気体の水蒸気になります。このように、あらゆる物質は温度が上昇するにつれて固体から液体、そして気体へと変化します。
この固体、液体、気体の3つの状態が、物質の三態です。チョコについて物質の三態を調べてみると、非常に絶妙な温度で変化することがわかります。
物質の三態……チョコレートの場合(作成=筆者)
チョコと同じ植物油脂食品の代表のバターと比べると、違いがわかりやすいでしょう。実は、室温のバターは、化学的にはすでに溶けた状態にあります。ただ、放置していてもドロドロと流れ出さないのは、20%ほど残る固体部分が骨格の役割を果たし、液体部分をからめ取っているからです。一方、キャラメルは温度が変化しても、それだけでは簡単に溶けません。
しかし、チョコは室温ではしっかりと固いのに、ちょうど口の中の温度付近で急激に液体に変化します。その他の食品にはない、この独特の変化が、チョコのまろやかな口溶けを実現し、老若男女を魅了する食感を生み出すのです。
ただし、市販のチョコを溶かして型で固めた経験のある人はご存じの通り、この絶妙な口溶けをつくり出すのは簡単ではありません。溶けたチョコを固める方法がポイントで、コツは温度と時間の調節にあるようです。そのため、チョコの製造会社では自動で温度をコントロールする装置なども導入されていますが、古代メキシコで誕生した飲み物は2000年の時を超えて、意外なほどハイテクで管理される食べ物に進化しているのです。
(文=中西貴之/宇部興産株式会社 環境安全部製品安全グループ 主席部員)
【参考資料】
『食べ物はこうして血となり肉となる〜ちょっと意外な体の中の食物動態〜』(技術評論社/中西貴之)
http://urx2.nu/s2l6
『早稲田社会科学総合研究 第5巻第1号(2004年7月)「季語になった外来語」』
https://dspace.wul.waseda.ac.jp/dspace/bitstream/2065/10037/1/40101_5_1.pdf
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