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マクロ経済から見た AIIB支持論の落とし穴
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20150519-00010001-wedge-int
Wedge 5月19日(火)12時10分配信
米コロンビア大学教授でノーベル経済学賞受賞者のスティグリッツが、4月13日付Project Syndicateのサイトで、アジアインフラ投資銀行(AIIB)について、援助の流れを多国間化し貯蓄と投資をグローバルな規模で仲介する試みであると評価し、米国による反対を非難しています。
すなわち、AIIBの設立と、多くの国の政府によるそれに対する支持の決定は、IMF・世銀も含め、普遍的に祝福すべきことと思われるが、奇妙なことに、裕福な欧州の国々の参加は米当局者の怒りを触発した。
米国のAIIBへの反対は、経済的優先順位をアジアに置いていると述べていることと矛盾する。
中国が証明する通り、インフラ投資は大いに経済発展に貢献する。AIIBは、人、モノ、アイデアを自由に流入させ、投資を行き渡らせる効果を、アジアの他の地域にももたらすであろう。オバマ政権は貿易の価値を支持しているが、途上国では関税よりもインフラの欠如が遥かに深刻な障壁である。
AIIBのような基金には、さらに重要なグローバルなメリットがある。現在、世界は総需要の不足に悩まされている。
ベン・バーナンキは、FRB議長時代に、この問題を誤って「世界的貯蓄過剰」と言ったが、膨大なインフラ需要のある世界では、問題は、貯蓄過剰や投資機会の欠如ではなく、金融システムが貯蓄と投資をグローバルな規模で仲介できていないことである。それゆえ、AIIBは、グローバルな総需要に対し、ささやかながら大いに必要な後押しをし得る。
我々は、資金の流れを多国間化しようとする、中国のイニシアチブを歓迎すべきである。それは、第二次大戦後、それまで圧倒的に米国から来ていた経済発展資金を世銀の設立により多国間化した、米国の政策の模倣である。
昨年7月に設立されたBRICS銀行を含む、援助の流れを多国間化する新たな試みは、同様に、グローバルな発展に大きく寄与しよう。数年前、アジ開銀は競争的多様主義の価値を擁護したが、AIIBは、その考え方を開発金融において試す機会を提供する。
米国のAIIBへの反対は、1990年代末期の「新宮沢構想」への反対に似ている。当時も今も、多極化が進む世界において、米国はG1であり続けたがっている。資金の欠如と、危機対応についての誤った考えへの米国の固執が相俟って、景気停滞を必要以上に深く長いものにさせてしまった。
インフラ政策が他の政策領域よりも、イデオロギーと特別な利益の影響を遥かに受けないことを考えれば、米国のAIIBへの反対は、ますます理解し難い。さらに、インフラ投資における環境、社会保護の必要性は、多国間の枠組みにおいてこそ、より効果的に議論されることができよう。
英仏伊独、その他AIIBへの参加を決定した国々は祝福されるべきである。欧州とアジアの他の国々が参加することで、インフラ改善の助けとなり、中国と同様、アジアの他の地域の生活水準を上げ得ると期待される、と論じています。
出典:Joseph E. Stiglitz,‘Asia’s Multilateralism’(Project Syndicate, April 13, 2015)
http://www.project-syndicate.org/commentary/china-aiib-us-opposition-by-joseph-e--stiglitz-2015-04
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AIIBを専らマクロ経済問題の視点から論じた論説です。
米国のAIIB反対に対するスティグリッツの批判のうち、米国が反対しているのは、米国が多極化が進む世界において、G1であり続けたがっているからであるという点は一理あります。中国は今や世界第二の経済大国であり、それが世界経済のガバナンスに反映されてしかるべきです。しかし、米国は、例えばIMFで中国により大きな議決権を与えることに反対しています。もっとも、反対したのは米政府ではなく米議会です。米国は世界経済に占める中国の地位に見合った役割を中国に認めるべきですが、世界経済の現実を直視しようとしないのは米議会なのかも知れません。
AIIBがアジアの膨大な投資需要にささやかながら貢献するものであるという点は、その通りです。スティグリッツは、現在の世界経済の問題は、金融システムが世界的に過剰な貯蓄と過小な投資を仲介できていないことであると言い、その点AIIBは重要な役割を果たすと言っています。ただ、世界的な貯蓄過剰の中心は民間資金であり、AIIBが扱うのは公的資金です。AIIBが世界的貯蓄過剰の軽減にささやかながら貢献するというのはどうでしょうか。スティグリッツはノーベル賞を受賞した経済学者ですが、疑問を呈さざるを得ません。
スティグリッツの論は、中国が専ら経済的観点からAIIBを創設すると言っているに等しいですが、やはり、中国によるAIIB創設の政治的意図が考察されなければなりません。中国の意図が、アジア地域での影響力の増大を目指していることは間違いありません。AIIBの創設自体、中国の影響力の増大を意味しますが、今後中国がさらに影響力を増すようにAIIBを運営しようとするか、注視しなければなりません。AIIBを専ら経済問題として捉える、スティグリッツの論は、片手落ちと言えるでしょう。
岡崎研究所
- 岡崎研究所の民間資金と公的資金に関する短慮:欧州諸国も参加の国際金融機関発行の債券には民間資金が集まる あっしら 2015/5/19 17:33:14
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