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出光の昭和シェル買収報道は経産省の謀略?財務体質悪化の懸念で、実現は困難か
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20150206-00010000-bjournal-bus_all
Business Journal 2月6日(金)6時1分配信
暮れも押し迫った昨年の12月22日、週明けの株式市場は熱気に包まれていた。原油安で低迷していた石油関連株が、軒並み急騰したからだ。
昭和シェル石油(以下、昭和シェル)が前週末比28%高と急伸、約7年ぶりの高値をつけたのをはじめ、出光興産(以下、出光)は一時5%高まで買われ、2.5%高で取引を終えた。その他の大手石油株にも買いが広がり、業種別日経平均株価で石油は全36業種の中で値上がり率首位になった。
この石油関連株の急騰は、前週末の20日未明に流れた日本経済新聞の「出光が昭和シェルを買収」というニュースが火種だった。業界再編加速で石油元売り会社の収益環境が改善するとの期待から、投資マネーが一気に株式市場に流入したのだ。
2013年度の出光の売上高は約5兆円で、業界トップのJXホールディングス(JX日鉱日石エネルギーの持ち株会社、以下JX)の12.4兆円とは倍以上の開きがある。また、業界3位のコスモ石油の3.5兆円、同4位の東燃ゼネラル石油の3.2兆円とは大きな差がない。このため、出光はいわば「相対的2位」の状態だ。3位以下に経営統合や合併などの動きがあれば、すぐに3位に転落する不安定な立場である。
だが、5位の昭和シェルを買収すれば、単純合算で売上高は約8兆円となり、「絶対的2位」となる。JXとの売上高の差も約4.4兆円に縮まり、「業界2強」が固まる。
このため、外資系証券会社アナリストは「買収が成功すれば、石油業界の過当競争が沈静化する」と分析し、期待を寄せる。国内の大手証券会社アナリストも「仮に石油業界がJXと出光・昭和シェルの2強に再編されれば、両社でガソリン販売のシェア64%を占めることになる。寡占化すれば需給調整がしやすくなり、ガソリン価格が安定するので、業界全体の収益環境も改善する」と語る。
買収のニュースがこういった期待を集める一方、当の出光は買収交渉の事実は認めたものの沈黙したままで、昭和シェルも同様だ。このため、憶測が憶測を呼ぶ状態で年が明け、1月半ばを過ぎても「石油業界再編、最終章へ」の期待感や希望的観測だけが独り歩きしている。
だが、業界関係者への取材を進めていくと、その背景には経済産業省の情報操作が見え隠れする。業界内には「日経新聞の速報は経産省のリーク」との声もある。出光は昭和シェルを買収すれば一気に財務体質の悪化を招くこともあり、本気度が疑われている。業界の一部で「官製再編」ともいわれているこの買収交渉は、はたして経産省のシナリオ通りに進むのだろうか。
●設備過剰に悩む石油業界
まず、昨年12月22日以降の各メディアの報道を集約すると、概要は次の通りだ。
出光は15年度前半をめどに昭和シェルに対して株式公開買い付け(TOB)を実施し、子会社化する。買収総額は5000億円規模の見通しだ。両社は2月中にも基本合意書を交わし、公正取引委員会の審査などを経て、出光がTOBを実施する。昭和シェルの筆頭株主であるロイヤル・ダッチ・シェル(以下、ロイヤル)もTOBに応じる意向だ。
この買収交渉にはいくつもの背景がからみ合っており、整理すると4つに大別できる。
まずは業績低迷だ。石油製品は国内需要の減少に加え、地球温暖化対策の影響で「脱石油」の動きも進んでいる。このため、石油元売り大手5社の業績は伸び悩み、海外市場開拓、電力・ガス参入をはじめとするエネルギー事業多角化などの成長戦略を描くのが体力的に困難になっている。
石油元売り大手は、製油所閉鎖などで昨年3月末までに総供給能力を08年比で約20%削減したが、設備過剰解消にはほど遠い。このため、経産省は昨年7月末、16年度末までにさらに10%の供給能力削減を石油元売り大手各社に課すなど、設備過剰の解消を迫っている。
出光にとって、これ以上の供給能力削減は成長エンジンと位置付けている海外事業への投資力低下につながる。そこで、昭和シェルを買収すれば供給能力が日量100万バレル規模となり、原油調達の価格交渉力が高まるほか、ガソリンや基礎化学原料などをより効率的に生産できるようになる。
こうした状況判断が、出光を昭和シェル買収に向かわせたと見られている。
ふたつ目は、昭和シェル株の約35%を保有する石油メジャー(石油系巨大企業複合体)2位、ロイヤルのリストラ策だ。業界関係者は「石油メジャーの大半は上流権益の開発を事業の中心に据えており、事業コストのかかる下流分野のリストラを始めている」と指摘する。今回の昭和シェルTOB同意も、ロイヤルのリストラ策がからんでいるというのだ。
ロイヤルは昨年1月、14〜15年の2年間で150億ドルの資産売却方針を明らかにした。そして、昨年だけでオーストラリアの製油所とガソリンスタンド網、イタリアの石油製品販売事業など下流分野の資産売却を決定した。同社が下流分野の資産売却を急いだのは、原油価格の急落を見越してのことだった。国際指標である「北海ブレント」の価格は昨年6月以降50%弱下落し、1バレル当たり60ドル台で低迷、業績の重荷になっている。
前出の関係者は「需要減少が明白な日本市場の魅力は、とっくに薄れている。ロイヤルにとって日本市場は今や投資の対象ではなく、投資回収の対象だ。昭和シェル株売却のタイミングを計っていたところへ出光が名乗りを上げた。ロイヤルにとっては渡りに船だったに違いない」と推測する。
●業界再編の圧力を強める経産省
3つ目は、経産省の業界再編に対する意欲だ。昨年7月、石油元売り各社の本社オフィスは一様に緊張に包まれていた。その日、経産省が「10月までに原油処理能力の具体的な削減案を示してほしい」と、各社に圧力をかけたからだ。その目的は「産業競争力強化法第50条」による石油業界再編の加速だった。
石油業界は10年に旧新日本石油と旧ジャパンエナジーの経営統合でJX日鉱日石エネルギーが誕生して以来、本格的な再編が滞っている。しびれを切らした経産省は、昨年1月に施行したばかりの同法を持ち出し、業界再編へ圧力をかけたわけだ。
当初は「これまで、すでに08年比で20%も供給能力を削減している。これ以上の削減は競争力の低下を招く」(大手石油元売り関係者)と経産省の要請に渋っていたが、結局各社は昨年10月末にそれぞれ削減計画を提出した。
それによると、JXは全国に7カ所ある製油所の一部を縮小もしくは閉鎖する。出光は、千葉製油所で日量5万バレル分を削減する。コスモ石油と東燃ゼネラル石油は、千葉県にある互いの製油所をひとつに統合する。昭和シェルは、国内3カ所の製油所のうち1カ所の供給能力を削減するようだ。
「わが国の製油所はアジア諸国に比べて規模が小さく、国際競争力が劣っている。このまま、需要が縮小する国内市場で石油元売り各社が競争を続ければ企業体力が消耗し、共倒れ倒産の恐れもある。そうなれば石油精製という基幹産業が空洞化し、エネルギー安全保障が揺らぎかねない。そうした最悪の事態を避けるためには業界再編を促し、国際競争力のある石油元売りを育てなければならない」というのが経産省の言い分だ。
前出の業界関係者は「こうした経産省の政策を出光が先取りしたのが、4つ目の背景だ。今回の買収交渉について、経産省の高官が『業界再編の選択肢のひとつ』とコメントし、内心小躍りしていたのもうなずける」と指摘する。
●買収強行で出光の成長戦略が吹き飛ぶ可能性も
しかし、出光には昭和シェルを買収して「業界2強」にのし上がることを手放しで喜べない複雑な事情がある。それは買収交渉の事実を認めながら、それ以上の発表を拒んでいる事実からもうかがえる。
ひとつ目の事情は、買収の相乗効果が見えないことだ。前出の国内大手証券会社アナリストは「買収が実現すれば、売上高が首位のJXに肉薄する。さらに昭和シェルの製油所は生産効率がよく、利益率が高い軽油や灯油の割合が多いので、出光の競争力が高まる」と評価する。
しかし、出光と昭和シェルの製油所は地理的な重複がない。このため、生産効率化を図るための製油所統廃合の余地がなく、買収=競争力強化にはつながらない。逆に、設備過剰が深刻化する恐れさえある。
もうひとつの事情は、買収による財務体質の悪化だ。出光はメインバンクの三井住友銀行から買収資金借り入れのめどをつけたと報じられている。しかし総額5000億円規模と見積もられている買収額と昭和シェルの負債を借入金で賄えば、すでに1兆819億円(14年3月末現在)に達している有利子負債が2兆円近くまで膨れ上がるのは必定だ。
一方、同社が13年に発表した中期経営計画(13〜15年度)の投資総額は4500億円で、そのうち3400億円を成長のための戦略投資に充てている。具体的にはベトナムでの製油所建設、インドネシアの石炭会社への出資、ノルウェー沖の原油開発事業などだ。
だが「昭和シェルを買収すれば、有利子負債の膨張で財務体質が急激に悪化する。そうなると、もう成長に向けた戦略投資どころではなくなる」(前出の業界関係者)のだ。
経営統合で規模拡大を図ったJXも、10年の統合以来3期連続で経常減益に陥るなど苦しんでいる。国内需要減少の中で買収に踏み切っても、即座に成長の展望を開けないのが、今の石油業界の厳しい現実だ。
石油業界担当の証券アナリストは「出光が昭和シェルの買収を進めるためには、いくつもの困難な課題を解決する必要がある。解決の見通しが立たなければ、買収断念の可能性も十分にある」と指摘する。
唯一の独立系和製メジャーとして、出光はこれまで数々の難関をくぐり抜けてきた。今回はどうだろうか。「その成否こそ、明日の我が身」と、業界関係者の多くが固唾を呑んで見守っている。
田沢良彦/経済ジャーナリスト
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