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サウジのサルマン国王は強気の姿勢を崩さないが〔PHOTO〕gettyimages
暴落の可能性大 サウジ政府ファンドが叩き売る「赤信号銘柄」 「世界経済大異変」に備えよ
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/47532
2016年01月28日(木) 週刊現代 :現代ビジネス
■原油は「10ドル割れ」もある
サウジアラビアとイランの国交断絶騒動。中東有事が起きると原油の供給が滞る懸念が高まり、原油価格は上昇するというのがこれまでの常識だったが、今回はそれが崩れた。原油価格下落が止まらないのである。
「いま原油価格が下がり続けているのは、とにかく世界的に需要がないからです。そのため、供給が滞る心配が出ても原油価格上昇につながらないのです。
バルチック海運指数という指標は高いほど世界的に物流が活発なことを示しますが、現在はこの指数がリーマン・ショック時の値を下回っている。バルチック指数の動きはそのまま世界の実体経済の景気状況を表し、それに原油価格は連動する。
世界的に不況でモノが動かないので、原油価格も上がるわけがないというのが実態です」(シグマキャピタルのチーフエコノミスト田代秀敏氏)
世界平和研究所主任研究員の藤和彦氏は、「原油価格は10ドル割れしてもおかしくない」と言う。
「供給過剰の状態が続く限り原油価格は下がっていくので、20ドルまで下がるのは時間の問題です。原油価格が30ドルを切ったことで採算割れし、採掘できずにフリーズしてしまっているシェール関連企業も急増している。
今年4月にこうした企業への与信枠の見直しが行われる見込みで、原油20ドルでは銀行貸し出しができないとなった時に、ジャンク債市場でパニックが起こる可能性がある。それが引き金となって金融危機を招けば、原油価格はさらに暴落するので、10ドル割れもあり得る」
そんな逆オイルショックが巻き起これば、日本も対岸の火事ではない。
「JXホールディングスや出光興産などの石油企業は大幅な評価損を強いられるし、プラント開発の受注も激減するので日揮やIHIなどの業績も直撃する。
意外に思われるかもしれないが、自動車メーカーにも打撃です。というのも、日本車はアメリカで売っていますが、原油安になると日本勢が得意とするエコカーが売れなくなる。トヨタの新型プリウスなどはアメリカで売れなくなる可能性が出てくる」(ちばぎん証券顧問の安藤富士男氏)
それだけではない。
実はサウジアラビアなどの産油国は、豊富な原油収入を元手に政府系ファンドを組成し、巨額を日本株に投じてきた。
が、原油価格の下落にともない、その投資マネーを引き戻す動きに出始めており、これが日本株を直撃しているのだ。
「昨年8月下旬以降に日本株は大荒れとなりましたが、これはオイルマネーの売りが大きな要因でした。オイルマネーは世界の運用資産の1割を占めるほど巨大なので、このマネーの巻き戻しが起こると株価は一気に冷え込んでしまう」(経済アナリストの中原圭介氏)
サウジアラビアの政府系ファンドが実際にどのような日本株に投資しているかを本誌が調べた結果が、上の表である。
大手企業から知る人ぞ知る中小型株まで、よくぞここまで見ているなと感心させられる。そこまで日本株に熱心に投資してきたことがうかがえるが、スルガ銀行、パイオニア、マツダなどはすでに投資額を大きく減らして大株主から名前が消えており、オイルマネーの引き揚げが始まっていることがうかがえる。
「サウジアラビアは原油安で、財政赤字拡大が深刻化しているのです。サウジは100兆円近い政府系ファンドを運用していますが、これを取り崩さなければ財政が回らない状況。IMF(国際通貨基金)は、あと5年でこの政府系ファンドも底を突くと警告しているほどです」(ミョウジョウ・アセット・マネジメント代表の菊池真氏)
原油価格がさらに下がることを見越せば、今後はイオンモール、サイバーエージェント、丸井グループなども叩き売りの対象になる可能性が高い。これらは値下がりリスクのある「赤信号銘柄」といえるわけだ。
実はノルウェーの政府系ファンドも株式投資を圧縮する方針を示している。ノルウェーの政府系ファンドは1500以上の日本株に投資しているので、それらも「危険銘柄化」することになる。
「一方で、アブダビなどの政府系ファンドはトレーディングで原油安の穴を埋めようと、積極的な投資を仕掛けようとしている。彼らは日経平均先物を使って短期的な仕掛けをする傾向が強いため、これは日本株にとって乱高下要因となりかねない」(マーケットアナリストの豊島逸夫氏)
日本株は当面、オイルマネーに翻弄されることになりそうだ。
■不動産は都心でも下がり始める
「中東などのオイルファンドはこれまで日本の不動産に多く投資してきたが、これを売り始めている。都心部の不動産はオイルマネーと中国人による爆買いで買い支えられてきた面が大きいが、中国人の買いも萎んできたため、市況に頭打ち感がただよってきた。不動産の急落リスクが出てきたといえる」(海外投資家の情勢に詳しい株式評論家の渡辺久芳氏)
不動産業界はいま、「施工費の影響もあり、都心部を中心に高騰状態。マンションも一般的なサラリーマン世帯が購入できないほどの市況になっている」(不動産経済研究所主任研究員の松田忠司氏)。銀行の不動産向け融資も急増してまさに'80年代のバブルさながらだが、そんな「宴」にも終幕が見えてきた。
「首都圏マンションの平均販売価格が24年ぶりに6000万円を超えてバブル並みだと話題ですが、これは一部の高額物件が売れたのがデータに出てきただけ。不動産市場の実態は、大都市と地方、富裕層と一般市民などの格差が急拡大している。
しかも、マンションで過熱しているのは国内外の富裕層が中心になって購入する都心や湾岸エリアなどだけで、郊外や地方は実需が価格上昇についていけず、供給も少ない。賃貸住宅も相続税の節税目的で乱立しており、供給過剰感が強く、空き家増加のリスクが高まっている」(ニッセイ基礎研究所不動産研究部長の松村徹氏)
そこへきて海外勢の投資マネーも引き始めているのだから、ただ事ではない。今後はオフィスや商業施設も危ない—。
「オフィス物件は好調だと言われているが、都心の一部の大型オフィスだけ。それも既存テナントが建て替えられるため、別のオフィスに移転しているだけで、実需は弱い。今後は東京五輪に向けて大型ビルの開発ラッシュですが、実需がこの水準だと、大型オフィスの空室問題が浮上してくる可能性すらある。商業ビルも郊外部を中心に荒廃が進んできて、お客が来ないショッピングモールが出てきた」(オラガ総研代表の牧野知弘氏)
丸の内も湾岸エリアも郊外のショッピングゾーンも、すべてが一気に冷え込む不動産不況がもうすぐ始まる。早く売らないと間に合わない。
「週刊現代」2016年1月30号より
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